著者
徳永 章二 飯田 隆雄 古江 増隆
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.135-145, 2005-05-25

油症患者は「油症診断基準」により診断・認定されてきた.これまでに1800人以上が油症患者と認定された.1968年刊行の最初の基準は油症の症状・徴候に基づいていたが,1973,1976,1981年の改訂により,血液中のポリ塩化ビフェニール(PCB)とポリ塩化クアターフェニール(PCQ)の性状及び濃度が基準に加わった.しかし,ダイオキシン類の1群であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)は油症患者の血液中の総毒性等量(TEQ)のうち最も大きな割合を占める事が示されているにもかかわらず,血液中ダイオキシン類濃度の測定が困難なため,これまで診断基準に入れられていなかった.近年,5gという少量の血液サンプルから高い妥当性と再現性でもってダイオキシン類濃度を測定できる方法が開発された.この改良された方法により,全国油症患者追跡検診受診者から得られた多数の血液サンプルでダイオキシン濃度を定型作業として測定する事ができるようになった.この論文では,全国油症患者追跡検診受診者と一般人口の血液中ダイオキシン濃度を統計学的に解析することで考案された,血液中ダイオキシン濃度を用いた油症の新しい診断基準を提案する.これは血液中ダイオキシン濃度をもとに油症患者を識別しようとする最初の試みである.
著者
徳永 章二
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.7, pp.333-342, 2001-07-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11
被引用文献数
2

この総説では平均への回帰,multilevel model,ポアソン回帰について解説した。同じ対象者を2回測定すると,「平均への回帰」という問題が起こる。これは,2回目以降の測定値は1回目の測定値より平均値に近い傾向がある,という現象である。例えば,1回目の検査値が高値だった対象者だけを選んで臨床試験や経過観察を行うと,その後の介入に何ら医学的効果がなくても,2回目の測定時には検査値の低下が観察される。この現象の起こる統計学的要因を説明するとともに,平均への回帰によるバイアスに影響されない統計解析の方法として共分散分析を解説した。繰り返し測定で得られたデータの解析にはmultilevel modelが有効である。複数の治療法の効果をある測定値に注目して比較する場合,この統計学的方法を適用することによって,治療法による測定値の差,測定値の時間的変化,測定値の時間的変化の治療法による違い,等に分解でき,それらが統計学的に意味のある差なのかを検定することが可能となる。目的変数が来院人数や患者発生数といったeventの発生数である場合,通常の直線回帰は適用できない。この場合の統計解析にはポアソン回帰が適切である。ここではポアソン回帰を発生率の解析に使う方法を解説した。医学データの解析では注目している発生数を解析する際に,しばしば観察時間を考慮に入れる必要があるからである。最後に統計解析パッケージ・ソフトウェアを簡単に紹介した。
著者
長谷川 伸作 井上 仁 陶山 昭彦 徳永 章二
出版者
独立行政法人 科学技術振興機構 情報事業本部
雑誌
情報科学技術研究集会予稿集 第40回情報科学技術研究集会予稿集
巻号頁・発行日
pp.A62, 2003 (Released:2003-11-14)
参考文献数
14

感染症の流行周期、流行パターンには様々な環境要因が影響を及ぼすと考えられる。感染症発生動向調査1981年からの22年間データの時系列解析により、都道府県別感染症の流行周期特性を明らかにした。また流行の周期特性に影響を及ぼすと考えられる要因について検討した。流行周期解析の結果、感染症それぞれの固有の、また地域特有の流行周期、流行パターンが示された。水痘は通年発生で、季節的流行を示した。風疹は1年の他に5年周期の大流行を示し、流行性耳下腺炎は通年発生で4年周期、麻疹は1,3,7年周期、数年毎の大流行と季節変動を反映した1年周期の極小波を示した。流行周期に影響を及ぼす要因の検討から、水痘、風疹、手足口病などの流行周期特性は温量指数·寒さの指数に大きく影響を受け、麻疹、流行性耳下腺炎では人の接触度合いとの関連が顕著であることが示された。
著者
廣田 良夫 田中 隆 徳永 章二 清原 千香子 山下 昭美 伊達 ちぐさ
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高齢者を対象にインフルエンザワクチンの有効性等を研究した。1997〜1998年のシーズンは流行規模が小さかったため、antibody efficacyの算出を行なった。ワクチン接種後ワクチン株A/武漢(H3N2)に対するHI価≧1:256では、≦1:128に比べてインフルエンザ様疾患(ILI)の発病リスクが0.14に低下した(antibody efficacy:86%)。接種前HI価≦1:128の者が接種後≧1:256に上昇する割合は71%であり(achievement rate)、これらの積(0.86×0.71)からvaccine efficacyは61%と算出された。1998〜1999年のシーズンは流行規模がある程度大きかったので、直接vaccine efficacyを算出することができた。発熱38℃以上のILIについてはウクチン接種の相対危険(RR)は0.74〜0.79、発熱39℃以上のILIについてはRRが0.50〜0.54、ILI発病者(38℃以上)における死亡についてはRRが0.43であった。1999〜2000年のシーズンは、流行を認めなかったので、老人保健施設の入所者を対象に、2回接種による追加免疫の効果を検討した。その結果、追加免疫による良好な抗体獲得は認めなかった。また、同施設の職員を対象に抗体応答を調べたところ、健常成人では追加免疫を行なわずとも、1回接種で抗体獲得は比較的良好である、との結果を得た。また日常生活動作(ADL)が低い者では発病リスクが6倍を超えた。接種後48時間以内に現れた有害事象は、38.0℃以上の発熱を呈した者が0.8〜2%、注射部位の腫れを呈した者が3.2〜4%であった。