著者
上田紋佳 猪原敬介 塩谷京子# 平山祐一郎 小山内秀和 足立幸子# 服部環
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

企画趣旨 「現在の世代は読書をしているか」。このことについては,教育関係者のみならず,社会全体から強い関心が寄せられてきた。例えば,2012年のPISA調査では,「趣味としての読書をどのくらいしますか。」の項目に対して,「趣味で読書をすることはない」と回答した割合が日本は約44%であり,17か国中の2番目に高いという結果が報告されている(国立教育政策研究所,2010)。一方で,全国学校図書館協議会による児童生徒の読書状況についての調査では,小学生・中学生の読書量は増加傾向,不読率も減少傾向が報告されている(毎日新聞社, 2016)。これら読書についての実態調査から,私たちは「今の若者は本を読まない」「いや,不読率は下がってきている」などと議論するが,その内容は実態調査の結果の解釈に終始してしまい,現場における「読書と教育」の在り方に影響を及ぼすことは少なかったように思われる。実態調査から一歩踏み込み,現場のニーズに答える心理学的研究が,ぜひとも必要である。 そこで本シンポジウムでは,日本における読書研究の増加と質的発展を促すための視点を模索したい。具体的には,読書量の測定方法やその精度の問題,また読書の効果に関するプロセス,読書や読書教育の環境などの観点から掘り下げていく。話題提供の先生方には,学校教育における子どもの読書に関する現状を,実態把握調査や個々の研究データをもとに明らかにし,克服すべき課題を示していただく。指定討論では,足立幸子氏からは国語科教育・読書指導の観点から,服部環氏から教育心理測定の観点からコメントをいただき,建設的な議論のきっかけとしたい。本シンポジウムを通じて,研究者および現場の教員・司書などの教育関係者の間の議論が活発となり,学校教育における読書の在り方について考察を深めたい。話題提供国語科に位置付けられた読書活動の現状-文部科学省の調査から-塩谷京子(関西大学) 現行の小中高等学校の学習指導要領において,国語科は,「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」,「C読むこと」及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の3領域1事項から内容が構成されている。読書は,このうちの 「C読むこと」に位置付けられている。 「C読むこと」の指導では,読む能力を育成するとともに,読書の幅を広げ,読書の習慣を養うことへの配慮の記述がある。例えば平成21年に告示された高等学校学習指導要領の解説国語編では,国語科改訂の要点の一つに「読書活動の充実」があげられている。学校図書館や地域の図書館などと連携し,読書の幅を広げ,読書の習慣を養うなど生涯にわたって読書に親しむ態度を育成することや,情報を使いこなす能力を育成することを重視して改善が図られた。 このように,読書は学校教育において児童生徒に身につけさせる態度や能力の側面から,国語科という教科の中で系統的に扱われている指導事項の一つである。 しかしながら,我が国で50年以上続いている読書に関する調査では,1ヶ月に1冊も本を読んでいない不読者の割合が問題になってきた。小中学校においては,朝読書が取り入れられてきた時期から不読者は徐々に減少傾向にあるものの,高等学校においては,その割合がおよそ50%に及び,長い間大きな変化はない。 読書が学校教育に位置付けられているにも関わらず,不読者があるという現状について,多方面から調査・分析が行われたり,対策が提案されたりしている。 本発表では,毎年実施されている全国学力調査と読書の関係や2016年度に行われた高校生への読書に関する意識調査結果をもとに,学校現場の現状を紹介しながら,今後どのような研究が必要とされているのかを提案し,読書教育推進に貢献したいと考えている。話題提供「読書量」という指標をどう扱うか-大学生の読書状況調査から考えたこと-平山祐一郎(東京家政大学) 大学生が学習を行う上で,不可欠なスキルのひとつとして,「読書」を位置づけることができる。そこで,大学生がどれだけ読書をしているのかを把握しようと試みたところ,読書離れが大きく進行している事実が見出された。しかしながら,読書離れを裏付けるための「読書量」という指標そのものが,多くの検討の余地を残していることが判明した。多くの読書調査では,月当たり,週当たり,一日当たりと時間を区切って,読書時間や読書日数,読書冊数を尋ねている。しかし,あくまでも自己申告(内省報告)であるので,社会的望ましさの影響も含めて,誤差の大きい回答になっていると思われる。そのため,読書に関する行動や読書時間帯,読書動機などの変数と関連付けると,解釈がかなり困難になることが多い。 読者に読書記録をつけてもらい(日誌法),読書量を推定する方法は,読書内容も含めて検討できるため,読書量に関して精度の高い推定ができることが予想されるが,そのコストはかなり大きくなるだろう。「読書量」そのものを検討するならば,そのコストは甘受しなければならないが,多くの調査や研究は「読書量」を利用した研究となっているため,「読書量」把握だけに力を注ぐことはできない。 では,ある程度の誤差を含み込んだ「読書量指標」をどのように扱えばよいのだろうか。また,「ほんの一工夫」することにより,少しでも読書量把握の精度を上げることができるか否かを考えてみる。話題提供データに基づいた知見の必要性-読書が言語力に及ぼす影響についての研究から-猪原敬介(電気通信大学・日本学術振興会) 「読書は児童の言語力を伸ばす」ことは,我が国における多くの教育実践者によって直観的,体験的に信じられている。心理学における科学的方法論に基づいた研究もこのことを概ね支持していることから,結果として,上記の主張と科学的エビデンスとは矛盾していない。しかし,矛盾がなければそれで良いだろうか。 本話題提供では,科学的エビデンスに基づかない「読書は児童の言語力を伸ばす」という主張の限界について議論し,データに基づく読書研究の必要性について考えてみたい。 具体的には,直観的・体験的な信念は,現象の過度な単純化を産み出し,効果的な読書教育につながらないのではないかと問題提起する。例えば,「読書は児童の言語力を伸ばす」というだけの単純なモデル(ある人の頭の中にある読書についての捉え方)では,児童の個人差(言語力や好み)や,その個人差が生み出す読書活動の変化 (読む本の難易度やジャンル)を考慮しないため,「どの児童にどの本を読ませても効果は同じだから,児童がどんな本を読んでいるかには注意を払わない」というような読書教育上の単純化を生み出し,読書教育の効果を小さくしてしまう。 一方で,過度なモデルの複雑化は,そのモデルの利用価値を下げてしまうことも事実である。本話題提供では,研究の背後に「適度な複雑さで,有用なモデル」を仮定する海外の研究について紹介し,まだまだ研究そのものが少ない我が国での研究の指針として提案したい。また,国内の研究事例として,話題提供者らが行った研究についても紹介し,我が国における優れた読書研究の推進に寄与したい。話題提供読書は社会性の向上に寄与するか?-物語読書量とマインドリーディングとの関連の検討-小山内秀和(浜松学院大学) 子どもの読書が推奨される根拠として,言語能力の向上とともに取り上げられることの多いのが,「読書は思いやりといった社会性の発達を促す効果を持つ」という主張である。巷間,そして教育現場などで,こうした指摘を聞くことは多い。しかしながら,読書と社会性との関連について実証データに基づいた議論がされることはあまり多くなく,実践現場の実感として語られることが多いという印象がある。 従来,読書と社会性との関連については,子どもや成人を対象に読書の活動調査を行うなかで,思いやりや積極性などとの関連を見るというかたちで検討されてきた。しかしながら近年,1) 読書のなかでも物語の読書に焦点を当て,2) 社会性のなかでも「他者の心的状態の理解」への効果に注目した研究が行われ,より実証的なデータが報告されるようになっている。こうした研究が可能となったのは,読書活動と社会性のそれぞれを客観的に測定する手法が少しずつ洗練されてきていることが大きい。読書活動についていえばさまざまな読書量推定指標が,社会性については他者の心的状態を推測する能力の個人間差を測定できる課題が,大きく貢献しているといってよいだろう。 本発表では,物語の読書と他者の心的状態を理解する能力である「マインドリーディング」との関連を扱った研究について,海外の研究成果を紹介しつつ,発表者が大学生と小学生を対象に行った研究についても報告する。それによって,読書の効果という教育上きわめて重要なテーマに対して,基礎研究がどのように貢献できるのかを考える一助としたい。引用文献国立教育政策研究所(2010).生きるための知識と技能4−OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2009年調査国際結果報告書 明石書店毎日新聞社(2016).読書世論調査 毎日新聞社
著者
大高 泉 鶴岡 義彦 江口 勇治 藤田 剛志 井田 仁康 服部 環 郡司 賀透 山本 容子 板橋 夏樹 鈴木 宏昭 布施 達治 大嶌 竜午 柳本 高秀 宮本 直樹 泉 直志 芹澤 翔太 石崎 友規 遠藤 優介 花吉 直子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究プロジェクトは、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ等のESD(持続可能性のための教育)としての環境教育の展開を探り、実践、効果の一端を探った。具体的には、ドイツの環境教育の40年間の展開を探り、持続可能性を標榜するドイツの環境教育の動向を解明した。また、ESDとしての環境教育政策やその一般的特質、意義と課題を解明した。さらに、12の事例に基づきイギリスや日本の環境教育の広範な取り組みの特質を解明した。
著者
前田 基成 服部 環 玉井 一 小牧 元
出版者
上田女子短期大学
雑誌
紀要 (ISSN:09114238)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.129-139, 1993-03-31

拒食型のANに加え,過食型のANおよびBNも評価できる質問紙(EDI)の信頼性・妥当性を検討する目的で,健常な女子高校生・女子大学生,摂食障害患者を対象としてEDIを実施し,次のような結果が得られた。(1)健常者を対象とした結果を因子分析し,6因子50項目を抽出した。それぞれの因子は,情緒的不安定,過食傾向,自己のボディ・イメージ,自尊感情,肥満恐怖・やせ願望,成熟拒否と解釈された。各因子は十分な単一因子性があることが示され,これらにより尺度構成を行った。(2)各尺度の信頼性が,ten Berge & Zegers(1978)の方法による信頼性係数,Cronbachのα係数,再検査法による信頼性係数によって示された。(3)因子分析の結果から,内容的妥当性,因子的妥当性が備わっていると判断されたほか,各摂食障害患者と健常者との比較,および各患者間の比較から,EDIは臨床的に有効であることが示された。
著者
服部 環
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.129-134, 2006 (Released:2006-10-07)
参考文献数
6
被引用文献数
1

General growth mixture modeling (GGMM) was briefly reviewed and its merits for the researchers who aim to conduct a longitudinal study discussed. The GGMM refers to modeling with categorical latent variables that represent subpopulations where population membership is not known but is inferred from the data (Muthén & Muthén, 2004). Latent class growth analysis (LCGA) and growth mixture modeling (GMM), which are submodels of GGMM, were applied to a single data set in this paper to examine development of antisocial behavior in children. Finally, the data analytical package sem developed by Fox (2006) was introduced, and an example for latent growth curve modeling with time invariant predictors described.
著者
三好 一英 服部 環
出版者
筑波大学心理学系
雑誌
筑波大学心理学研究 (ISSN:09158952)
巻号頁・発行日
no.40, pp.1-7, 2010-08-10 (Released:2013-12-24)