著者
木戸 博
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.305-311, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
19

インフルエンザは感染力が強く最も頻度の高い感染症の一つで,乳幼児や高齢者では重症化して死に至ることがある。近年,パンデミックインフルエンザ(H1N1)2009や高病原性鳥インフルエンザの流行が報告され,重症化機序とその対策が注目されている。このような中で,インフルエンザ感染による多臓器不全の原因として,感染が引き起こす代謝破綻と代謝不全になり易い基礎疾患と体質に関する研究が進んでいる。我々は,感染重症化の原因として,「インフルエンザ–サイトカイン–プロテアーゼ」サイクルと「代謝破綻–サイトカイン」サイクルが,サイトカインを接点に共役することで重症化が進むことを明らかにした。さらに代謝破綻機序の解析から,治療標的と治療法の解明が進んだ。さらに坑ウイルス剤による治療は,獲得免疫能を低下させ,翌年の再感染率を増加させる副作用を伴うが,イムノモジュレータ作用を持つマクロライドは,局所と全身の免疫機能を増進して再感染率を低下させた。これらの最新知見の一端を紹介する。
著者
木戸 博 高橋 悦久 澤淵 貴子 IL Indalao
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

インフルエンザ感染重症化は、「インフルエンザ─サイトカイン─プロテアーゼ」サイクルと「サイトカイン─代謝不全」サイクルが共に回転した時に生じる。両サイクルの共通因子のサイトカインの中で、IL-1βが中心的役割を演じ、ミトコンドリアのエネルギー代謝を抑制して細胞機能障害と生体防御機能の低下を引き起こす。これまでの研究から、糖代謝障害修復にPDK4阻害剤が、脂質代謝修復にBezafibrateが有効であることを明らかにした。抗体産生能の低下には、イムノモデュレータ機能を有するマクロライドとR-1乳酸菌が有効であることを見出した。これら薬剤はインフルエンザ感染重症化の治療に有効であった。
著者
木戸 博 Chen Ye 山田 博司 奥村 裕司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.45-53, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

インフルエンザウイルスの生体内増殖に個体由来のトリプシン型プロテアーゼが必須で,ウイルスの感染性発現の決定因子になっている.最近このプロテアーゼ群の解明が進み,気道の分泌型プロテアーゼのトリプターゼクララ,ミニプラスミン,異所性肺トリプシン,膜結合型トリプシン型プロテアーゼ群が相次いで同定された.これらのプロテアーゼはそれぞれ局在を異にするだけでなく,ウイルス亜系によってプロテアーゼとの親和性を異にして,ウイルスの増殖部位と臨床症状を決めている.一方これらのプロテアーゼ群に対する生体由来の阻害物質の粘液プロテアーゼインヒビターや肺サーファクタントが明らかとなり,合わせて個体のウイルス感染感受性を決める重要な因子となっている.小児のインフルエンザ感染では,aspirin,diclophenac sodium服用時のライ症候群や,解熱剤を服用していない患者でも見られる急速な脳浮腫を主症状とする致死性の高いインフルエンザ脳症が社会問題になっている.インフルエンザ脳症発症モデル動物を用いた我々の研究から,このインフルエンザ脳症の原因として,インフルエンザ感染と共に脳血管内皮細胞で急速に増加するミニプラスミンが,血液脳関門の障害と血管内皮細胞でのウイルス増殖に,直接関与していることが明らかとなってきた.さらにミニプラスミンの血管内皮での蓄積を裏付けるミニプラスミンやプラスミンのレセプターが,発症感受性の高い動物の血管内皮で見いだされた.これらのことからインフルエンザ脳症は,発症感受性遺伝子,発症感受性因子の検索に研究の焦点が絞られてきた.本総説では,我々の研究を中心に最近の知見を紹介する.
著者
渋谷 紀子 斉藤 恵美子 苛原 誠 木戸 博
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.530-536, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
20

【背景】胎内感作の意義はいまだ明らかでない.【目的】新生児血中抗原特異的IgEを高感度測定法により測定し,乳児期の感作および食物アレルギー(FA)発症との関係を明らかにすること.【方法】125名の出生コホート研究を行った.新生児血中抗原特異的IgEを高性能蛋白チップにより測定し,6,12か月時に児のプリックテスト(SPT)を,0,1,6,12か月時に保護者へのアンケート調査を行った.【結果】125例の新生児血のうち,84%で何らかの抗原特異的IgEが検出され,約50%で卵白特異的IgEが陽性であった.新生児血中抗原特異的IgEは,SPTやFA発症と相関を認めなかった.妊娠中の鶏卵摂取量と新生児の鶏卵特異的IgEにも関連は認めなかった.生後早期の湿疹は,単変量解析ではSPTおよびFA発症と,多変量解析ではSPTと有意に関連していた.【結論】新生児血中IgEと乳児期の感作およびFA発症には関連が認められなかった.食物アレルギーに関与する感作は出生後に成立することが示唆された.
著者
木戸 博 Chen Ye 山田 博司 奥村 裕司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.45-53, 2003-07-01
被引用文献数
2

インフルエンザウイルスの生体内増殖に個体由来のトリプシン型プロテアーゼが必須で,ウイルスの感染性発現の決定因子になっている.最近このプロテアーゼ群の解明が進み,気道の分泌型プロテアーゼのトリプターゼクララ,ミニプラスミン,異所性肺トリプシン,膜結合型トリプシン型プロテアーゼ群が相次いで同定された.これらのプロテアーゼはそれぞれ局在を異にするだけでなく,ウイルス亜系によってプロテアーゼとの親和性を異にして,ウイルスの増殖部位と臨床症状を決めている.一方これらのプロテアーゼ群に対する生体由来の阻害物質の粘液プロテアーゼインヒビターや肺サーファクタントが明らかとなり,合わせて個体のウイルス感染感受性を決める重要な因子となっている.小児のインフルエンザ感染では,aspirin,diclophenac sodium服用時のライ症候群や,解熱剤を服用していない患者でも見られる急速な脳浮腫を主症状とする致死性の高いインフルエンザ脳症が社会問題になっている.インフルエンザ脳症発症モデル動物を用いた我々の研究から,このインフルエンザ脳症の原因として,インフルエンザ感染と共に脳血管内皮細胞で急速に増加するミニプラスミンが,血液脳関門の障害と血管内皮細胞でのウイルス増殖に,直接関与していることが明らかとなってきた.さらにミニプラスミンの血管内皮での蓄積を裏付けるミニプラスミンやプラスミンのレセプターが,発症感受性の高い動物の血管内皮で見いだされた.これらのことからインフルエンザ脳症は,発症感受性遺伝子,発症感受性因子の検索に研究の焦点が絞られてきた.本総説では,我々の研究を中心に最近の知見を紹介する.<br>
著者
木戸 博 粕谷 英樹
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.337-344, 2001-05-01
被引用文献数
13

通常発話の声質を表す日常表現語について研究を進めている。自然音声の聴取実験を通して, 同じ音声を複数の他者が評価した値から, 声質表現語の抽出を行った。了解性の高い25語の声質表現語を評価項目として, 性別や年齢を考慮した被験者90名を対象に, 吟味した男声18例を評価させる聴取実験を行った。実験結果を統計分析した上で,反意語を調べたところ, 声質表現語は男女被験者とも同じ6対の表現語対と反意語を持たない一つの表現語に凝縮できた。また, 聴取印象の因子として, 音色因子に対応する3因子を抽出した。以上の結果は, 自己評価法で得られた155名の自己評価値に基づく結果と同質であり, 得られた表現語対は, 声質表現語として一般性を持つものと判断できる。
著者
木戸 博 LE Quang Trong LE QUANG Trong
出版者
徳島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

インフルエンザ脳症は我が国の小児で発症頻度が高く、急速な脳浮腫を伴って高い致死性と重症な後遺症を残す事から、大きな社会的問題になっている。しかしなぜ日本人に多いのか、なぜ小児に多いのか、など基本的疑問に対する解答はいまだ明らかにされておらず、発症感受性因子、発症機序、治療法の解明が望まれている。さらにインフルエンザ脳症の前駆症状として痙攣、異常行動の問題も解決しなければならない。このような背景の基に、モデル動物を使ったインフルエンザ感染による脳浮腫の発症機序の解析を進めてきた。具体的には、ミトコンドリアの脂肪酸代謝酵素の障害を誘発したり、カルニチンや脂肪酸トランスポーターを欠失したモデル動物では、インフルエンザ感染を契機にミトコンドリアでのATP産生が低下すると、脳の血管内皮細胞と神経細胞のトリプシンが異常に増加して、血液-脳関門を形成するタイトジャンクションの崩壊と、激しい脳浮腫を導くことを明らかにした。これらの事実から、さらにインフルエンザ感染で誘導されるトリプシンの誘導の抑制剤を検討した。その結果、脳のトリプシンには3種報告されているが、これらの転写調節部位にはAP-1,NF-κB結合部位がある事から、これらの転写阻害剤を検討したところ、いずれの転写阻害剤もインフルエンザ感染で誘導されるトリプシンの転写を抑制している事、トリプシンの誘導抑制により生存率の著しい改善が明確になった。