著者
木村 邦博
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-41, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
23

本稿の目的は,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史との双方にとって,どのような「学説研究」が実り多いものと考えられるかについて,論じることである.より具体的には,具体的な社会現象に対する「問い」を主題とした学説研究を実践することこそが,社会学・社会学史それぞれの分野における研究の発展を促すものであることを主張する.まず,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史とを峻別する必要があることを述べるだけでなく,このふたつの違いをできるだけ明快な形で定式化する.その上で,社会現象の科学的探求としての社会学がどのような目標と方法をもつべきものであるかを,具体例を挙げつつ論じる.さらに,相対的剥奪に関するレイモン・ブードンの研究を模範例として取り上げ,そこにおいてブードンがとった研究戦略を検討することで,「問い」を主題とした学説研究の重要性を示すことにしたい.最後に,「問い」とそれに対応した仮説を主題とした学説研究が,学者(学派)・言説(主張)・概念・メタ理論を主題にした場合と比較して,科学としての社会学においては先行研究のレビューとして有効かつ不可欠なものであると同時に,社会学史の分野でも社会学的な営みを魅力的なものとして描くことにつながるものであると主張する.
著者
木村 邦博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.39-54, 1994-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1

「オルソン問題」と「資源動員論」との理論的な関係を明らかにすることによって、社会運動・集合行為の研究における合理的選択アプローチと政治社会学的アプローチとの結節点を探る。Mancur Olsonが『集合行為論』(1965)の中で扱った主題は、集合財供給に対する集団規模の効果、行為者間の異質性の効果、選択的誘因の効果、の3点に要約される。この3つの主題に対する資源動員論からの批判と合理的選択アプローチによるフォーマライゼーションの試みとをレビューする。集団規模の効果に関しては、合理的選択アプローチから導き出された理論的帰結を、資源動員論において取り上げられてきた社会運動の事例と照らし合わせることが課題である。また資源動員論では、選択的誘因の効果や行為者間の異質性の効果の考察にあたっては、複数集合財・複数集団の存在が想定され集団間での対立・協力関係が視野に収められている。このような視点を共有した数理モデルを用いて、資源動員論によるOlson批判の理論的検討を行うことも、重要な課題である。
著者
木村 邦博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.107-126, 1998-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2

階層意識としての不公平感の形成過程に関して、自己利益正当化仮説と客観的公正判断仮説という2つの仮説を構築する。階層的地位のうち学歴に注目することにより、客観的公正判断仮説の下位類型の中でも教育による啓蒙効果に関する仮説に焦点を合わせる。自己利益正当化仮説・啓蒙効果仮説のそれぞれから、学歴、学歴社会イメージ、社会に対する全般的不公平感の三者間の関連に関する予想を導き出す。予想に適合的な傾向が観察されるかどうか、高校生とその両親を対象とした社会調査で得られたデータを用い、クロス集計結果のグラフ表示により検討する(交互作用効果に関するパラメタを条件付き効果の形で表現したロジット・モデルも適用する)。自己利益正当化仮説から導出した予想を支持する傾向が見られたのは、高校生の父親においてのみである。啓蒙効果仮説から導出した予想を支持する傾向は、高校生の母親において観察される。
著者
木村 邦博
出版者
The Japanese Association of Sociology of Law
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.45, pp.92-96,334, 1993

Students of "law and economics" adopt the rational choice approach. The approach contributes to giving an explanation of unintended consequences which result from aggregation of individuals' rational decisions or behaviors under the constraint of the law. However, it fails to explain why and how the law itself is established. Game theoretical models which formulate the problem of pollution caused by the use of metal-studded tires exemplify the possibility and the limit of the approach.
著者
木村 邦博
出版者
The Tohoku Sociological Society
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-41, 2009

本稿の目的は,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史との双方にとって,どのような「学説研究」が実り多いものと考えられるかについて,論じることである.より具体的には,具体的な社会現象に対する「問い」を主題とした学説研究を実践することこそが,社会学・社会学史それぞれの分野における研究の発展を促すものであることを主張する.まず,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史とを峻別する必要があることを述べるだけでなく,このふたつの違いをできるだけ明快な形で定式化する.その上で,社会現象の科学的探求としての社会学がどのような目標と方法をもつべきものであるかを,具体例を挙げつつ論じる.さらに,相対的剥奪に関するレイモン・ブードンの研究を模範例として取り上げ,そこにおいてブードンがとった研究戦略を検討することで,「問い」を主題とした学説研究の重要性を示すことにしたい.最後に,「問い」とそれに対応した仮説を主題とした学説研究が,学者(学派)・言説(主張)・概念・メタ理論を主題にした場合と比較して,科学としての社会学においては先行研究のレビューとして有効かつ不可欠なものであると同時に,社会学史の分野でも社会学的な営みを魅力的なものとして描くことにつながるものであると主張する.
著者
篠木 幹子 木村 邦博
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.49-70, 2007 (Released:2007-08-03)
参考文献数
53
被引用文献数
1

In Kimura and Shinoki (2007), after criticizing Diekmann and Preisendörfer's (1998; 2003) argument on the cognitive strategies to harmonize the discrepancy between attitudes and behaviors, we constructed a two-stage model of decision-making (rational choice) and justification (cognitive dissonance reduction) in a potential “social dilemma” situation, focusing on the problem of recycling. We deduced several propositions from our model and translated some of them into falsifiable predictions. In this paper, we analyze data from a social survey conducted in Sendai, Japan, in order to test these predictions: (1) On average, contributors' estimate of others' contribution is greater than non-contributors' estimate of others' contribution (the “false consensus effect”); (2) The proportion of the contributors who think that their marginal contribution plays a significant role in the well-functioning of the recycling system is greater than that of the non-contributors who think that their marginal contribution plays a significant role in the well-functioning of the recycling system; (3) On average, the normative consciousness concerning environmental problems is stronger among contributors than among non-contributors. We find that our predictions are almost supported. We also conduct a “critical experiment” in the natural settings on the mechanisms for the false consensus effect. The result reveals that our model is better than the selective exposure hypothesis in explaining it. We examine some possible objections to our model in order to consider what kind of research we need and to clarify the policy implication of our model.
著者
原 純輔 秋永 雄一 片瀬 一男 木村 邦博 神林 博史
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

これまでの研究の過程で、社会調査データアーカイブに関する整備体制と利用実態の国際比較を通して、わが国の現状を検討するという課題が、浮上してきた。そこで、世界最初の国勢調査実施国であり、データの整備と公開が進んでいるアイスランド国立大学およびアイスランド国立博物館における聴取調査を実施した(秋永雄一・原純輔)。また、昨年度に引き続き、社会調査データアーカイブについてのケルン大学社会調査データ・アーカイヴ、マンハイム社会科学方法論研究所での再調査(木村邦博・秋永雄一)を実施するとともに、ケルン大学におけるセミナーに参加した。この結果についても研究会で検討を行った。その結果、「公共財」としての社会調査データという理念が、両国に共通に存在しており、わが国との大きな違いとなっていることが明らかになった。また、過去2年間の実績をふまえて、SSM調査(報告者・片瀬一男。以下同様)、国民性調査(海野道郎)、生活時間調査(三矢恵子)、青少年の性行動全国調査(原純輔)、宮城県高校生調査(神林博史)に対象を絞り、調査の概要・成果に加えて、とくにデータの保存およびデータの公開・利用可能性に焦点をあてながら研究会における再検討を行った。その結果、企画者側の調査データの公開に関する姿勢は多様であるが、とりわけ社会的評価の高い調査では、データのとりかたに独特の工夫がされていることが多く、他の研究者がそれを利用することには相当の困難が伴うことを、具体的に明らかにした。以上の成果は、現在報告論文集としてとりまとめ中である。
著者
片瀬 一男 秋永 雄一 古賀 正義 木村 邦博
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

2003年11月から12月にかけて「教育と社会に対する高校生の意識:第5次調査」を実施した。そして、このデータをもとに分析を行い、2005年3月に報告書を作成した。報告書では、次のようなテーマをもとに、分析を行った。1.第1に、高校生の進路志望(教育・職業アスピレーション)や教育達成など教育をめぐる高校生の意識や実態をとりあげ、それがどのような要因に規定されているのか分析した。この分析においては、高校生の出身階層となる親の地位が、彼らの進路志望や教育達成に与える影響、さらには父母の結婚類型が子どもに及ぼす影響などが明らかになった。またフリーターの問題も、進路意識や規範意識(校則意識)との関連で扱った。くわえて、「アノミー型アスピレーション」という現代の高校生に特有の進路志望のあり方についても、それが形成されるメカニズムが明らかなった。2.第2に、高校生が現代社会をどのように認知し、また評価しているのかについて検討を加えた。ここでは、不公平感や学歴社会イメージ、性別役割意識といった高校生の社会意識が、家族や学校においてどのように形成されているのか分析を行った。3.第3に、この17年間の宮城県の高校教育の変容についても触れた。そして、いくつかの高校を事例として選んで、いわゆる「進路多様高」の成立経過や、仙台における女子教育の変容について時系列的な分析を行った。