著者
本間 之夫 野宮 明 西松 寛明 藤村 哲也 桝永 浩一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、難治性疾患である間質性膀胱炎の病態に上皮由来の各種伝達物質が如何に関与しているかを解明することにあり、そのために、患者の尿と膀胱組織を用いて伝達物質の測定と遺伝子発現の定量を行い、治療後の変化も検討してきた。また、併せて間質性膀胱炎の動物モデルを作成してその排尿生理学的・分子細胞学的な特徴の評価を行ってきた。臨床症例を用いた研究では、尿中マーカーの測定系の条件設定を検討してきた。尿中のNGFCXCL10,TNFSFの測定の至適条件を適宜調整し、間質性膀胱炎に対する治療前後での評価、自覚症状との相関について検討してきた。結果、症状との有意な相関を認めていないのが現状である。膀胱組織を用いた検討では、サンプルの収集と免疫組織染色を行い、データを検討してきた。その結果、間質性膀胱炎の中でも潰瘍の有無でCD11b陽性細胞、VEGF-Aなどに違いを認め、またSjogren症候群に合併した間質性膀胱炎ではCD4ならびにCD8陽性細胞の増加をみとめ、それぞれ病態解明の鍵となることが期待される。動物モデルを用いた研究では、アクロレインを用いた動物モデルの膀胱粘膜組織におけるTRPM8の発現を検討したが、現時点では投与前後でその発現に差を認めていない。また、ケタミン乱用者における間質性膀胱炎様症状を参考に、ケタミンを用いた動物モデルの作成を試みたが、頻尿や潰瘍形成を認めず、現時点では間質性膀胱炎モデルとは言いがたい。今後も、さらに研究を進め、病態解明を目指していく。
著者
福庭 雅洋 本間 之夫 阿曽 佳郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.83, no.9, pp.1410-1416, 1992
被引用文献数
6

30例の前立腺肥大症例に対し, フランステクノメドインターナショナル社製プロスタトロンを用いて経尿道的単回高温度療法を試み, 自覚的症状, 他覚的所見の変化を検討し, その効果を判定した. 治療方法は, 外来通院患者を対象とし, 尿道に挿入した冷却装置付きの20Frのカテーテルから前立腺に対し1,296MHzマイクロ波照射を1時間, 1回のみ施行した. 治療中の最高出力は症例によって異なり, 20~40W (37.5±5.7W: mean±S. D.) であった. 30例全例で有効性を判定した. 効果判定には, 自覚症状, 他覚的所見 (残尿量, 平均尿流量率) をスコア化し, 治療前と治療後8週でスコアを比較した. 自覚症状ではスコアが減少したものは26例 (87.7%), 他覚所見では21例 (70%) であった. 自覚症状, 他覚所見の各スコアを総合した判定では, スコア合計値の減少率が25%以上のものを『有効』とすると, 有効性を24例 (80%) に認めた. 副作用としては, 血尿, 尿意切迫感を全例に認めたが, 重篤なものはなかった. 単回の外来治療で80%の有効率を得たことは, 前立腺肥大症に対する本治療の有用性を示すものである.
著者
髙橋 聡 和田 耕一郎 公文 裕巳 増田 均 鈴木 康之 横山 修 本間 之夫 武田 正之
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.62-65, 2014-04-20 (Released:2015-06-13)
参考文献数
10

NIH慢性前立腺炎問診票は,慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状の程度や治療の評価に用いられる症状スコアである.我が国では,日本泌尿器科学会が公認したNIH慢性前立腺炎問診票日本語版が確立されていないことから,日本泌尿器科学会では(排尿機能・神経泌尿器科)専門部会長の武田正之を委員長としてNIH慢性前立腺炎問診票日本語版作成委員会を立ち上げ検討を行った.検討の結果,過去に発表されたNIH慢性前立腺炎問診票日本語版の案と日本語版International Prostatic Symptom Score(IPSS)から,NIH慢性前立腺炎問診票日本語版を作成した.今後の臨床研究において,このNIH慢性前立腺炎問診票日本語版が活用されることを強く希望する.
著者
松澤 幸正 前川 滋克 西松 寛明 高橋 克敏 新美 文彩 米虫 良允 宮嵜 英世 村田 高史 平野 美和 河村 毅 本間 之夫
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.95-102, 2015-04-20 (Released:2016-04-23)
参考文献数
30
被引用文献数
3

(目的) 副腎出血は保存的に経過観察できるものから致死的なものまで様々である一方,治療の基準や方法は明確に確立されていない.今回我々は自験例および文献例にて副腎出血の治療法,そしてその適応について検討する. (対象と方法) 2004年11月から2013年9月までに東京大学医学部附属病院および同愛記念病院に来院した副腎出血6例と医中誌にて検索し得た57例について後向きに調査した. (結果) 今回の自験例6例と既報告57例の計63例において,悪性腫瘍の転移による副腎出血は重篤化する可能性が高い傾向があった.治療では保存的治療が13例(23%),TAEを行ったのが5例(8%),緊急手術が3例(5%)であり,残りの症例は状態が安定した後に診断を兼ねて待機的に副腎摘除術を施行していた.また,Hb 10 g/dl以下かつ血腫径が10 cm以上の症例は5例あり,そのうち1例を除いて,緊急止血術が行われた. (結論) 悪性腫瘍の副腎転移による出血,Hb 10 g/dl以下かつ血腫径が10 cmを超えるものは緊急で止血術を考慮すべきであり,止血術後も再出血や全身状態の悪化を起こす可能性があり厳重な観察を要すると考えられた.治療法としては,手術と比べ侵襲も少ないことからTAEを第一選択とすることが勧められる.
著者
本間 之夫 塚本 泰司 安田 耕作 大園 誠一郎 吉田 正貴 進士 恵美
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.669-680, 2002-09-20
被引用文献数
10 27

(目的)International Prostate Symptom Score (IPSS) と BPH Impact Index(BII)の日本語訳の言語的妥当性を検討する.(方法)IPSSとBIIの日本語訳の作成を多段階の手法で行った.順翻訳の作成は,5名の泌尿器科医師と2名の翻訳者と1名の看護師が,各自で行った翻訳と日本の排尿障害臨床ガイドラインにある翻訳を討議して行った.これを2名の米語を母国語とする翻訳者によって逆翻訳し,原著者と討議した.あわせて20名の前立腺肥大症患者を対象に詳しい個人面接を行った.(結果)原作者からはおおむね同意が得られたが,大きな問題点が2つよせられた.それは,IPSSの質問文すべてにあるhow oftenが日本語訳にはない点,および,QOL indexの回答肢の日本語訳をより感情的な表現とすべきとする点であった.前者については,質問票の始めに回答は頻度で考える旨の説明文を置くことで合意が得られた.後者については,88名の患者で追加調査を行い,いくつかの選択肢についてはその訳をより感情的なものにして合意に達した.(結論)IPSSとBIIの日本語訳について言語的な妥当性を検討し,妥当と思われる日本語訳を作成した.
著者
松島 常 本間 之夫 阿曽 佳郎 西村 洋司 高梨 利一郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.47-51, 1991-01-20

1107例の胃癌のうち乳頭型,類肉腫型等の特殊型を除外した主として胞巣型と診断された92例の腎細胞癌の組織構築像を分析し,構造異型度に基づき,主として管腔形成の程度,細胞巣の大きさから3群に分類し,予後規定因子としての可能性について検討した。I群は,明らかな管腔形成を認めるか,嚢胞状変化の目立つ組織像が主体をしめる場合とし,III群は,管腔形成を認めず,細胞の充実性の増生像が主である場合とし,II群は,この中問の組織像で,小胞巣 もしくは索状の増生を呈する場合とした。各群の生存曲線を,Kaplan-Meier法により検討すると,I,II,III群の順に予後が不良となり,各群の10年生存率は,I群88±7.8%,II群39±8.8%,III群0%となった。また,各群の核異型度構成は,III群でG3症例の比率が高い傾向が見られたが,I,II群問に有意差はなく,T stage,V浸潤の有無に関してはI〜III群問に有意差が認められなかった。以上より,本研究で提示した組織構築型に基づいた胞巣型腎癌の構造異型度分類は,予後予測因子として,臨床的に有用なパラメーターとなると判断された。