著者
吉田 敏弘 石井 英也 松村 祝男 吉田 敏弘 林 和生 小野寺 淳 小倉 眞 松村 祝男 小倉 眞 古田 悦造 林 和生 野間 晴雄 小野寺 淳 松尾 容孝 原田 洋一郎
出版者
国学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

文化財保護法や景観法に基づく文化的景観の保全事業実施にあたり、保全対象となる文化的景観の選定にあたっては、文化的景観のAuthenticityを学術的・客観的に評価する必要がある。本研究では、「一関本寺の農村景観」と「遊子水荷浦の段畑」を主たる事例として、景観の価値評価を試行し、次のような5つのステップから成る基礎調査が有効であると判断した。(1)明治初期地籍図などに記録された伝統的景観の特質の解明、(2)伝統的景観(地籍図)と現景観との精密な比較、(3)近代以降の景観変化の過程とメカニズムの解明(土地利用パターンや作物、地割など)、(4)伝統的な景観要素残存の背景を地域の社会・経済・文化的側面から考察、(5)現景観の活用可能性の考察と保全の方向性の提示。なお、上記の作業をヴィジュアルに活用するため、GISの導入と時系列統合マップの構築が有効であることも確認した
著者
松尾 容孝
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.32-32, 2010

1.研究の目的日本最大の民有林業地帯であった奈良県吉野地方の川上村、その拡大地天川村、新興地(限界地)野迫川村を対象地に、現代における林業の衰退・縮小に伴う再編、山村地域の動態を検討した。2.林業の衰退(1)潜在的対応策 林業の衰退への対応策として、林業経営、複数業種への就業、生産基盤の物理的改善(林道整備、育苗、作業用機械、生態系)、政策的支援などが考えられる(予稿集 図1)。(2)日本林業の衰退と吉野林業の地位1970年代、杉立木代金は、全国平均で1m3あたり約19000円のであったが、2009年には約2500円と七分の一の価格に下がっている。需要材積も減少している。また、吉野材の杉は、2005年頃まで都道府県別で上位3番目ぐらいまでに位置する高級材であったが、2008年には9位、2009年には19位に下がっている。現代は需要の停滞・縮小期で、立木価格が低下し、通常ではこれまでの植林投資を回収できない。林業地帯は再編・縮小期にあり、流通が規定する傾向がいっそう強くなっている。また、吉野では伐出労賃が高いため、相対的に林業諸条件が厳しく、不振の度が大きくなる。3.吉野林業地帯の再編(1)吉野林業地帯における居住・就業実態の推移と林業への関与の状況天川村と野迫川村のすべての世帯・人口について、1982年と2009年に職業や世帯構成等を調査し、生活・生産における林業への関与の状況を比較検討した。林業への関与は大幅に縮小し、廃村化を肇とする深刻な状況が振興している。野迫川村では、全就業機会事態が非常に限られた状況になっているし、天川村の西部地帯も深刻である。(2)先進地川上村:山林地主、山守、林業関連業者の動向、さぷり育成林業山村としての構造的特色:山守、社会的分業、素材業、市売市場 は、山守の減少や林業関連業種の縮小が振興している。そのようななか、消費ニーズの開拓により既存の構造の脱構築をめざす山守が「さぷり」を立ち上げて活動中である。林業地帯として存続するために、従来の仕組みの一部を山守自身が解体・再編を目指している。(3)拡大地天川村:山守・林業関連業者の動向育成林業による地域の組織化が微弱で、既存の構造の消極的受容にとどまり、ほとんどの山守や地元林業家は、個別に林業外での対応をはかっている。(4)限界地野迫川村 山林地主の構成が中核地や拡大地とは異なる、模倣的成長地であったが、模倣自体が困難な状況にある。森林資源を活用して従来紀伊半島に見られた森林産業が現代的に蘇る状況が皆無ではないが、新たな森林産業による地域形成にも長年を要するため、現在は縮小が進行していると言えよう。4.吉野山村地域の動態(1)日本山村の人口増減パターン日本の山村地域における近代以後の人口の推移には3~4タイプがあり、紀伊半島や東海地方の外帯山村は、明治期以後昭和中期まで増加率が最も高く、逆に1955年前後以降減少率が最も高いタイプ。(2)3か村における住民の職業と居住の動向 持続可能な再生産の閾値を上回る生活様式を築けるのか?住民の居住動向を通じて今後の地域像と現下の問題状況を検討する。詳細は当日に譲るが、次の点が指摘できる。_丸1_村民の二箇所居住が3か村で顕在化している。農業の比重が低く日常的な土地管理を必要としない地域でこの傾向は強い。_丸2_社会的分業は縮小し、生活は単純化している。_丸3_天川村と野迫川村については、30年前と昨年、住民の職業と居住動向の全戸調査を行った。天川村では、資産保有世帯がキャンプ場を営み、資源利用の競合が生じ、一部世帯が個別に再生産を実現している。野迫川村では、就業機会に乏しく、3大字(4集落)以外の廃村化と地域資源の村外資本家による掌握が進行している。_丸4_新たな存在価値と一体性志向がポジティブな地域動態にとって必要である。「さぷり」等の取り組みが新たな生活様式・地域像を構築するか否かは現時点では不明瞭である。_丸5_離村住民の土地所有等や未利用地の増加は、充填した生活空間の形成を阻害する共通の地域問題になっている。教育・保健衛生の水準や知識・技術を用いた行動機会の可能性も今後の農山村の存続にとって重要性を高めよう。
著者
堀 信行 岡 秀一 大山 修一 松尾 容孝 高岡 貞夫
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

最終年度として、研究代表者の堀は、霊山およびそれに関係する聖所にあたる広島湾内の厳島(宮島)の弥山など、自然植生に対する桜と紅葉の植生景観に関する人為的干渉の歴史や、その文化的背景について考察を加えた(この成果の一部は『風景の世界』(二宮書店:2004)に掲載された。このほか聖所を創出する樹としてのスギに注目し、自然植生としてのスギと植林としてのスギに分けて、その全国分布および神社の分布との関係について考察を進めた。このほか沖縄の代表的聖所である斎場御嶽の空間構成については、上述の『風景の世界』に公表した。このほか都市の中の聖所の事例として鎮守の森との関係についても考察を加え、上記出版物に公表した。なおこれまでに調査を行った各地の霊山および関連する聖所に関する全体的な考察は、本研究のおかげで更なる展開が期待され、そのまとめに向かって鋭意努力中である。また岡は、古代から古墳など歴史的なかかわりが深い隠岐諸島の森林植生について、土地利用との関連で人為的干渉の影響について現地調査を行うとともに、考察を行い報告書にまとめた。松尾は霊山の聖域の構造と自然植生の残り方に注目しまとめを行っている。高岡は、東日本を中心に霊山をはじめとする神社仏閣の分布と、GIS(地理情報システム)を活用して自然植生と人為植生との関係を追及し、論文としてまとめを行っている。大山は、琉球弧では食用に供されてきたソテツが、本州では神社仏閣に植栽されていることに注目し、ソテツの樹齢や歴史、逸話などの資料を収集し、日本人の自然観と人為的な営為との関係についてまとめを行っている。本研究が自然植生を見る視座に新たな観点を加えることができたと考えている。問題の深まりと新たな展開を取り入れて、さらなる研究成果を随時出して生きたい。