- 著者
-
松田 茂樹
- 出版者
- 日本人口学会
- 雑誌
- 人口学研究 (ISSN:03868311)
- 巻号頁・発行日
- pp.2401001, (Released:2023-11-30)
- 参考文献数
- 40
本研究の目的は,未婚者の自分自身にとっての理想子ども数が,彼らの初婚タイミングに影響することを実証的に裏づけることである。日本人の典型的なライフコースでは未婚→結婚→出生の順にライフイベントが発生する。個人が望む子ども数は出生についての研究では用いられてきたが,それが未婚から結婚に至る段階においても影響することは未解明である。使用したデータは,「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)のWave1~11の個票データであり,サンプルサイズは1,725人(8,274人年)である。Wave1時点において20~34歳であった未婚者のサンプルを用いて,初婚イベントを被説明変数,理想子ども数を説明変数とした離散時間ロジスティック回帰分析を実施した。分析の結果,男性ではおおむね理想子ども数が多いほど初婚ハザード率が高く,女性では理想子ども数が1人以上の人は同0人の人よりも初婚ハザード率が高いことが明らかになった。未婚者が考える理想子ども数は,<ただの理想>ではなく,実際に彼らのその後のライフコースに影響を与える要因である。この研究結果からの示唆は,次の3点である。第一に,近年未婚者の望む子ども数は減少しているが,それは若い世代の未婚化をすすめることに寄与していたとみられる。第二に,この結果は,合計特殊出生率の変動を,「結婚行動の変化」と「夫婦の出生行動(子ども数)の変化」がそれぞれ独立の事象かのように要因分解してきた先行研究の結果に対して,従来とは異なる解釈を与える。第三に,少子化対策として有配偶率を上昇させるには,若者の結婚を支援するのみでなく,彼らが子どもを持ちたいと思えるような子育て支援の充実も必要である。