著者
柳瀬 陽介
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.219-224, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

本稿は,日頃英語で書く経験が乏しい日本語話者が,短期間で英語論文を執筆する方法について解説する。作業手順は,日本語による構想と原稿執筆→AIによる英語翻訳→AIによる文体改善→著者による最終校閲である。一貫している原則は,人間が,AIが不得意としている領域の作業に最善を尽くすことで,最終成果物の質を上げることである。作業の際の留意点は,ストーリー・文体・語法の3つの観点別に説明する。それぞれの強調点は,ストーリーでは戦略的な構想,文体では英語の発想に即した表現法,語法では日本語話者が不得意とする領域である。本稿は総じて,人間とAIが相互補完的に作業を進めることを推奨する。
著者
柳瀬 陽介
出版者
外国語教育メディア学会(LET)関東支部
雑誌
外国語教育メディア学会関東支部研究紀要 (ISSN:24323063)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-18, 2022 (Released:2022-12-24)
参考文献数
20

本稿は、「サイボーグ」「言語ゲーム」「複言語主義」という概念で知性・言語・言語教育についての問い直しを行い、英語教育における機械翻訳の使用について論考する。人間の知性は媒体や道具の使用を不可欠とするので、人間は「生まれながらのサイボーグ」とも呼べる。AIの利用は人間知性の否定にはつながらない。言語は、言語ゲームという具体的な営みで分析するならば、機械翻訳の使用が適した言語ゲームと適さない言語ゲームがあるのが当然である。英語教育を単一言語主義的に考えれば、英語ライティングの中で母語(日本語)を利用する機械翻訳は不適切となるかもしれない。だが英語の使用・学習も、会話といった瞬時的・即興的なものからエッセイ執筆といった長期的・反省的なものまで多様である。さまざまな言語ゲームにおいては、外国語使用・学習者も複言語主義が提唱するように、学習者自身がもつ(母語能力も含めた)あらゆる言語的リソースを使いこなすことが認められるべきだろう。英語教育への機械翻訳導入については、個別的・具体的に考えるべきである。
著者
柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.83-93, 2017-03-31 (Released:2018-06-07)
参考文献数
16

Against the current lionization of objectivity and reproducibility in experimental studies with strong pedagogical implications for practitioners in ELT fields, this study critically examines the two concepts. Objectivity is divided into monothetic and pluralistic. The monothetic is examined from the viewpoints of transcendent and numerical objectivities, and the pluralistic from 'Wirklichkeit' and 'second-order observation.’ I argue that studies with strong pedagogical implications should be based on pluralistic objectivity. I also criticize the pursuit of reproducibility because it results in categorical neglect of specific and transient factors of practical situations and in controlling practitioners from a distance. I argue that complexity and self-reference must be theoretically recognized, instead.

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著者
大津 由紀雄 高野 陽太郎 柳瀬 陽介
出版者
一般社団法人大学英語教育学会
雑誌
JACET全国大会要綱
巻号頁・発行日
vol.39, pp.297-298, 2000-11-01
被引用文献数
1
著者
柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要
巻号頁・発行日
vol.42, pp.51-60, 2012

Studies on reflections and narratives by teachers still need theoretical development. Qualitative studies in applied linguistics have not yet incorporated the conceptual understandings of consciousness and self-reference in particular. This study bases itself on the theories of Luhmann's sociology and of neuroscience, and demonstrates its theoretical validity with empirical data obtained from 14 graduate students majoring in language education. The data confirmed autopoiesis in consciousness and in communication, respectively and that language is the medium that co-evolves with these two. The study also testifies the theoretical importance of self-reference as a theoretical principle in language use in general.
著者
柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.51-60, 2003-06-02 (Released:2017-03-01)

この論文では、理論的検討の後、第二言語コミュニケーション成立を「対話者相互が、安定的に第一の意味に基づく解釈の近似的共有が可能になる程度に、お互いが所定の第二言語を似た話し方で、真理概念に基づいて対話を行うこと」と定義する。この理論的定義は、「第一の意味」概念の明示的な導入において第一言語コミュニケーション定義と異なり、「解釈の近似的共有」を基準とすることにおいて、発話を中心にして考える通俗的コミュニケーション定義と異なり、「真理概念」の重要性を説くことにおいて、従来の言語学的・応用言語学的発想あるいはコードモデル的コミュニケーション観とも異なる。最後にこの定義から導かれる示唆が提示される。
著者
樫葉 みつ子 中川 篤 柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.95-105, 2018-03-31 (Released:2019-04-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

With increasing work-related communicative demands for school teachers, it is imperative that universities provide prospective teachers with learning opportunities to successfully communicate in challenging situations. This paper reports a case study of introducing Tojisha Kenkyu, or a communal exploration by and for persons in challenging situations, to university students before their graduation with the English teacher’s license. Through the four sessions coupled with reflection on an electronic bulletin board, students (re)learned the importance of equality between speakers, self-exposure of negative points, a context with shared metacommunicative values, and reciprocity of communication.
著者
横溝 紳一郎 田尻 悟郎 久保野 雅史 柳瀬 陽介
出版者
西南女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

(1) 第一次調査を受けての理論化、(2) 理論化を受けての第二次調査、(3)第二次調査を受けての再度の理論化という段階を経て、査読付きの学術論文として公刊できるまでの具体的かつ理論的な解明を行う。また日本の実践知を国際的に発信するため国際学会での発表を予定している。
著者
中川 篤 柳瀬 陽介 樫葉 みつ子
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.110-125, 2019-12-31 (Released:2020-03-10)

社会学者のバウマンが指摘する「個人化」の潮流は本来協働的な営みであるはずのコミュニケーションを個人化して考える傾向と連動しているように思われる。しかし,ますます複合的になり,個人で解決困難な問題が増加していく社会においては,多くの人間が協働的に問題への対処を目指すコミュニケーションこそが重要となる。そこで本研究では共同体による問題対処のコミュニケーションについて,精神保健福祉の分野で目覚ましい成果を挙げる当事者研究を題材にして再考した。その際の理論的枠組みは,個人の特性ではなく関係性の特性に注目する関係性文化理論である。再考の結果,当事者研究のコミュニケーションは,特定の関係性を文化として定着させた上でのコミュニケーションであり,その関係性の文化においてコミュニケーションは弱さを力に変えることができることがわかった。
著者
柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.61-70, 2007-04-01 (Released:2017-03-01)

This analysis of plurilingualism proposed by Council of Europe is aimed to provide a better understanding of both the language policy in Europe and the language policy in Japan. This paper clarifies the concept of plurilingualism in terms of (1) its difference from multilingualism, (2) its historical development, and (3) its political and educational nature. This clarification is intended to cast a new light on English Language Education in Japan.
著者
柳瀬 陽介
出版者
日本言語テスト学会
雑誌
日本言語テスト学会研究紀要 (ISSN:2433006X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.77-95, 2008-09-20 (Released:2017-08-07)

この言語コミュニケーション力の三次元的理解は、これまでの言語コミュニケーション力論の議論の蓄積の上に、関連する諸概念を再構成したものである。もちろんただ用語を変えただけというものではなく、(a)読心力の働きの強調、(b)身体力の復活、(c)言語力における「知識」の二義性を明示した、ことが本論考の独自性の主なものである。だが、これらの論点は、これまでの言語コミュニケーション力論からは、まったく欠如していたと考えるのは行きすぎであろう。過去の言語コミュニケーション力論の諸概念と、本論文の概念をやや強引に関連づけたのがAppendix 1である。これらの改良により、本論文の「目的」で述べた、5つの課題は克服されただろうか。(1)の課題は、Bachmannの方略的能力概念よりも、言語の知識がコミュニケーションに使われる際の過程をより理論的に解明することであった。これについては、(a)の読心力の設定により、言語コミュニケーション以前に、コミュニケーションには「心の理論」に代表される他人の心を読むメカニズムが人間には働いており、ことに言語を高度に使ったコミュニケーションにおいては関連性の原理に従って言語使用がされていることを明らかにすることで課題を達成した。(2)の課題は、言語コミュニケーションにおける身体の働きを明示することであったが、これはBachman(1990)がかつて提唱していた「心身協調メカニズム」を「言語的身体力」で復活させただけでなく、「非言語的身体力」を設定することで、これまでの応用言語学が重んじていなかったが、日常生活では痛感されている領域があることを明らかにした。(3)の課題は、言語コミュニケーションの相互作用性を少しでも明らかにすることであったが、これは読心力概念を前面に出すことで、コミュニケーションの特定の相手を具体的に想定しない言語コミュニケーション力論は、コミュニケーションの理論としては不十分であることを示した。だが、これは、個人の中に他者を取り込んだ相互作用性に留まり、未だに個人主義的な発想であるともいえるかもしれない。Hymes(1972)が先駆的に述べていたコミュニケーションの「創発」(emergence)についてもまだ論考されていない。これは今後の課題となるだろう(後述)。(4)の課題は、言語の極にもコミュニケーションの極にも偏らない論考をすることだった。この課題は、読心力と言語力を独立させ直交的に表現し、その二次元平面で、ほとんど読心力だけでも成立するコミュニケーションから、高度に言語力に依拠することによって成立する言語コミュニケーションの変容範囲を理論的に示すことによって克服された。(5)の課題は言語コミュニケーション力の全体像の見通しを得る論考を目指すことであったが、これは全体像を三つの要因(三次元)という簡明な構造図式で説明し、なおかつ、それぞれの次元においてより詳しい説明が展開できる議論を展開したことによって達成されたと考えられる。このように本論文の言語コミュニケーション力の三次元的理解は、これまでの言語コミュニケーション力の展開に基づきながらも新しい独自の貢献を果たすと考える。
著者
樫葉 みつ子 大塚 謙二 坂本 南美 柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.97-106, 2014 (Released:2017-03-01)

Reflective journal writing is to be theoretically clarified more for effective teacher development. This two-year long interview study focused on the effects of written language in four different modes (English/Japanese, private/published) chosen by four Japanese ESL teachers. The four teachers all described their writing as 'conversation', which we interpret as one that is among three differentiated selves: practitioner, author, and reader. The conversation promoted changes in their cognitions and actions. Publication guided the teachers to the more publicly accepted cognitions and actions, whereas private writing promoted the internal conversation at deeper levels. Writing in English provided a more 'object' self-reflection in one teacher, and offered insights in language through the difficulties of translation in another teacher.
著者
柳瀬 陽介
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-10, 2002-09-30

コミュニケーション能力に関して,応用言語学においてはウィドウソンの論を例外として,個人内での意味交渉などの動的過程を説明する理論は形成されなかった。本論は哲学者デイヴィドソンの議論が,ウィドウソンの論を拡充し,第二言語教育に貢献するものであることを示す。デイヴィドソンの事前理論・即事理論の論証は,言い誤り・聞き誤りを多く含む第二言語コミュニケーションをうまく説明する。彼の理論は,特定のコミュニケーション成立からコミュニケーション能力を説明し,原則に基づいた認知的な推論の働きがコミュニケーションに大きく関与していることを明らかにしている点で,コミュニケーション能力論に独自の貢献をなしている。彼の議論は,コミュニケーションは,従来考えられていたように事前理論の共有によって成立するものではないこと,およびコミュニケーションを目指す教育は言語学的意味での「言語」を超えた教育となることを明らかにしている。