著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.129-139, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
44
被引用文献数
7 1

本研究では, 近年用いられるようになった「障がい者」表記に注目し, ひらがな及び漢字の表記形態が身体障害者に対する態度に及ぼす影響について, 接触経験との関連から検討することを目的とした。身体障害者に対する態度については, イメージと交流態度の2つの態度次元に着目した。SD法及び交流態度尺度を用いて, 大学生・大学院生348名を対象に調査を行った。その結果, 身体障害者イメージは身体障害学生との交流に対する当惑感を媒介として身体障害学生と交友関係を持つことや自己主張することに対する抵抗感に影響を与えることが示された。そして, ひらがな表記は接触経験者が持つ身体障害者に対する「尊敬」に関わるポジティブなイメージを促進させるが, 接触経験の無い者が持つ尊敬イメージや, 身体障害学生との交流に対する態度の改善には直接影響を及ぼすほどの効果を持たないことがわかった。身体障害学生との交流の改善には「社会的不利」「尊敬」「同情」を検討することが重要であることが本研究から示唆された。特に, 身体障害者に対する「尊敬」のイメージの上昇は, 接触経験の有無にかかわらず, 交流態度の改善に影響を与えることが考えられる。
著者
伊藤 美咲 栗田 季佳 ITO Misaki KURITA Tokika
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.61-67, 2017-03-31

障害児のきょうだいは、健常児の兄弟を持つ子どもにはない特有の悩みを持つことが指摘されている。しかし、国内において、障害児・者のきょうだいであることによる体験や影響に関する研究は少ない。また、きょうだいに関する研究の中でも、健常児の兄弟と障害児のきょうだいを比較している研究はほとんど見当たらない。そこで本研究では、障害児と健常児の兄弟にインタビューを行い、障害児のきょうだいである特有の実態を検討した。インタビューの結果、同胞のことを友達へ話すことへのためらいや、将来に及ぼすきょうだいの影響等が特有の実態として挙がってきた。また、健常児の障害児・きょうだいに対する見方は、「積極的拒絶」「消極的拒絶」「対等」の3種類に分けられた。今後の課題として、環境の大切さ・教育現場での支援の重要性が示唆された。
著者
栗田 季佳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.92-106, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
72

本論文では,過去5年間の『教育心理学研究』に掲載された特別支援教育に関連する論文を中心に,心理学にみられる障害観を考察し,インクルーシブ教育に向けた教育心理学の課題を述べた。特別支援教育をテーマとする近年の教育心理学研究は,(1)アセスメント,(2)困難が生じる心理プロセスの解明,(3)カウンセリング,(4)介入プログラムの実施と効果検証に分類された。心理学研究においては,問題と関連する説明力の高い個人の内的な安定的特性として障害(あるいは特別支援の対象となる特性)を扱っており,実証主義的方法論に基づく個人モデル的な障害観であることが示唆された。障害は心理学における心のモデルや研究方法と関係しており,心理学的な状況や環境に埋め込まれたものであって,特定の個人に由来するわけではないことを指摘した。排除されないインクルーシブ教育において,状況や場に着目する学習理論,研究者の三人称性,研究者自身の差別という課題と向き合う必要性がある。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
102
被引用文献数
5

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.129-139, 2010-06-30
被引用文献数
1

本研究では,近年用いられるようになった「障がい者」表記に注目し,ひらがな及び漢字の表記形態が身体障害者に対する態度に及ぼす影響について,接触経験との関連から検討することを目的とした。身体障害者に対する態度については,イメージと交流態度の2つの態度次元に着目した。SD法及び交流態度尺度を用いて,大学生・大学院生348名を対象に調査を行った。その結果,身体障害者イメージは身体障害学生との交流に対する当惑感を媒介として身体障害学生と交友関係を持つことや自己主張することに対する抵抗感に影響を与えることが示された。そして,ひらがな表記は接触経験者が持つ身体障害者に対する「尊敬」に関わるポジティブなイメージを促進させるが,接触経験の無い者が持つ尊敬イメージや,身体障害学生との交流に対する態度の改善には直接影響を及ぼすほどの効果を持たないことがわかった。身体障害学生との交流の改善には「社会的不利」「尊敬」「同情」を検討することが重要であることが本研究から示唆された。特に,身体障害者に対する「尊敬」のイメージの上昇は,接触経験の有無にかかわらず,交流態度の改善に影響を与えることが考えられる。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.481-492, 2012
被引用文献数
3

障害者に対する態度は両面価値的であるといわれているが、その構造は、明確にはわかっていない。本研究は、障害者に対する両面価値的態度について、態度の現れ方に関する表明次元と、態度の内容に関するステレオタイプ内容次元という2つの視点から検討した。大学生・大学院生30名に対して、潜在的および顕在的な障害者に対する評価、能力ステレオタイプ、人柄ステレオタイプを測定した。その結果、表明次元にかかわらず障害者に対して、ネガティブな能力ステレオタイプ(能力が低い)とポジティブな人柄ステレオタイプ(あたたかい)が存在することがわかった。障害者に対する評価は表明次元によって異なり、顕在的にはニュートラルであったが、潜在的にはネガティブであった。これらの結果は、障害者に対する両面価値的態度が表明次元と内容次元に生じていることを示している。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
栗田 季佳 中野 慎也 荒川 哲郎 名畑 康之 勝谷 紀子 KURITA Tokika NAKANO Shinya ARAKAWA Tetsuro NABATA Yasuyuki KATSUYA Noriko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.149-160, 2016-03-22

本研究は、難聴者への否定的な態度にどのような価値観が関わっているかを探索的に調べた。研究1では、難聴の子を取り巻く周囲の子ども達が変容した学級について、担任教師へインタビューを行った。インタビューより、周囲の子ども達は、難聴の子どもに対する態度だけでなく、自閉症スペクトラム障害の子どもへの態度や、授業での様子など、学級全体の雰囲気が変わっていったことが語られた。担任教師の教育観から、子ども達の中で失敗に対する価値観に変化が生じていたことが推測された。研究2では、直接そのことを調べるため、質問紙調査によって失敗観と他者への態度に関連があるかを調べた。その際、難聴者だけでなく、健常者、吃音者も対象とした。その結果、否定的な失敗観が強い人ほど、他者との交流に対して抵抗感を感じており、その傾向は相手が健常者である場合よりも難聴者や吃音者である場合の方が強かった。これらより、難聴者を含む障害者への偏見や他者への寛容さの問題に対して、自己の価値観と向き合うことが重要であることが示唆された。