著者
貝塚 爽平 森山 昭雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.85-105, 1969-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
4 7 19

相模川の沖積低地の地形と沖積層を記載し,その形成過程をのべた.研究の方法は,普通の地形・地質調査法と調査ボーリングならびに深井資料の解析によった.この沖積低地には2つの興味ある問題がある.その1つは相模川の河成段丘地形と沖積層と海底地形との関係で,陽原段丘の1時期に海面が現在より100m以上低下し,沖積層基底の不整合面が作られたと結論された.古富士泥流の時期はこれよりおくれる.もう1つの問題は相模川は河口まで礫を運ぶ河川であり,河川も平野も扇状地的勾配をもつのに,平野は自然堤防型で,厚い後背湿地堆積物をもち,日本の海岸に近い普通の河成平野と異なることである.この理由は,海岸に砂州が発達し,とじられた水域に泥の多い沖積層が堆積したことや,下流部の地盤の上昇による河床低下などに主な原因があると推定した.
著者
森山 昭雄 鈴木 毅彦 加古 久訓 中村 俊夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.13, pp.924-939, 2004-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

岐阜県高富低地において,ボーリング資料を用いて推定した地下構造と,1本のオールコア・ボーリング中の広域テフラおよび化石ケイソウ群集の分析から,堆積環境の変遷にっいて考察した.高富低地を構成する高富層(新称)は,下位から高富基底礫層,高富下部泥層,高富軽石質砂層および高富上部泥層に分けられる.上部泥層および下部泥層は湖成堆積物であり,上部泥層からはK-Ah,AT,Aso-4の広域テフラが検出された.高富軽石質砂層からは御岳火山起源の御岳第一浮石層(On-Pm1)および御岳藪原テフラ(On-Yb)などが検出され,高富軽石質砂層は木曽川流域に広く分布する木曽谷層に対比される.テフラの年代から古木曽川は,約100ka頃に美濃加茂付近より関市をまわる流路を通り,当時湖の環境であった本地域に高富軽石質砂層を一時的に流入させたと考えられる.オールコア・ボーリング資料が得られた西深瀬では,約31kaから現在まで泥炭湿地の環境が続いた.また,梅原断層以南の鳥羽川低地には,長良川が最近まで流下していた可能性が高い.
著者
森山 昭雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.67-92, 1987-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
10 7

本稿は,東濃地方と三河山地東部地域に分布する土岐砂礫層と明智礫岩層とが相互に対比されることを明らかにし,当時の古水系とそれらの砂礫層堆積後に生じた地殻変動ならびに地形発達を論じたものである.土岐砂礫層と明智礫岩層は同時期に堆積したものであり,これらの砂礫の供給源が木曽川(付知川)水系であることを論証した。また,従来知られていなかった活断層が三河山地には数多く存在することを明らかにして,その断層地形と断層面を記載した。これらの断層群は東西圧縮応力場で生じた共役の断裂系であり,そのほとんどが土岐面形成後に活動したことを明らかにした.さらに,木曽川・土岐川・矢作川の大規模な流路変遷と水系変化に着目して,断層ブロック運動に先行する大規模な波状変形が起こったことを推論した.
著者
森山 昭雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.243-261, 1983-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

筆者は,まず人工地形を「人間の諸活動が自然の地形に対して直接的にあるいは間接的に作用することによって生じた地形」と定義し,直接的に造られた地形(第一次人工地形)と間接的な影響によって生じた地形(第二次人工地形)とを区別した.第一次の人工地形は,改変前の地形・地質条件,改変主体の性格,改変方法,法的規制等の詳細な分析により成因論的に説明することが可能であることを述べた.その考えに立って,瀬戸市およびその周辺地域に分布する陶土・珪砂採掘鉱山の人工地形について分析した.その結果,本地域の陶土・珪砂採掘に伴う人工地形は,改変主体の零細性に起因する鉱区の狭小性が数多くの巨大な採掘穴を無秩序に分布させたこと,ベンチカット方式と重機械による採掘方法および法的規制によって,ベンチの高さや幅,道路の幅や配置,穴底の沈澱池などの人工地形に著しい規則性をもたらしたことを述べた.また, 1m2当たり改変土量が約35m3にも達する強度の改変は,露天掘鉱山特有の性格であることを強調した.
著者
森山 昭雄 淺井 道広
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.557-573, 1980-09-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

これまでに調べられた多くの河川堆積物は, -2~0φの粒径がヒストグラムの谷となるのに対して,矢作川河床堆積物はおよそ-2φおよび0φの付近にピークが現われる.その原因について,粒径別に礫種・鉱物種の構成比を調べ,さらに流域の大半を占める花醐岩類の造岩鉱物とその風化マサの粒度組成を調べた結果,次の結論を得た.すなわち, -2φおよび0φ付近にピークを持つB・C集団は,それぞれ伊那川・小原岩体の粗粒花歯岩と武節・下山岩体の細粒花歯岩類の造岩鉱物およびその風化マサの粒度組成と密接な関係があり,両岩体の岩石が流送過程で破砕・分解されて鉱物粒子となり,それに風化マサが加わって河床で混合したものであると解した.
著者
森山 昭雄 江口 亜希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.136, 2004

この春の地理学会で,中道 (2004)は,瀬戸市海上の森で,地形地質の立場から花崗岩地域と土岐砂礫層地域において森林植生の違いを定量的に調査した結果,花崗岩地域はコナラ・アベマキが優位な生長の良い森林,砂礫層地域はアカマツが優位な生長の良くない森林にはっきりと分かれ,花崗岩地域は砂礫層地域の3倍もの生長量(材積)の差があることを明らかにした.地質(地形)の違いが明瞭に森林植生に表れることは,他の地質でも起こっているのではないかと考え,今回は中・古生層の上に土岐砂礫層を乗せる濃尾平野北東縁丘陵地において,地質(地形)と二次林植生との関係を明らかにするために調査を行なった. 調査地点は,標標高の増大に伴う気温の低下など気候的影響を少なくするため高300m以下の地域で,斜面の方位により地表面での水や熱の配分が変わるその違いをなくすため,地形的位置は南向きの斜面とした.地質としては,土岐砂礫層地域,中・古生層の主としてチャート地域および中・古生層の主として砂岩地域の3地域とした. さらに,1947年撮影の米軍航空写真を判読し,樹木が一様に伐採されて丸刈り状態になっている場所で,それ以降人為的な手入れが行なわれていない森林とした.これは,遷移のスタートが同じ時期である二次林の,その後の生長を比較するためである.また,現地調査により,新しい崩壊がない二次林で,広い範囲を代表する植生地点とする.本研究では斜面の一連の変化と植生との関係を見るため,上部斜面,中間斜面,下部斜面を選定した. 毎木調査は,方形区内の樹高が1.4m以上のすべての木本について,樹木の種類を同定し,個体数,胸高直径,樹高を測定する.高木層・亜高木層・低木層に分類し,樹冠投影図を作成した. 土壌に関しては,土壌断面形態を調べ,A層厚,貫入深,土壌水分量,土壌pHを計測した.調査地点のA層とB層の土壌を持ち帰り土壌中の養分を蒸留水に溶出させこの土壌水をイオンクロマト法(日本ダイオネクス社製)によりイオン分析を行った. 毎木調査を基に森林植生を定量的に分析した結果,地質別に見ると,土岐砂礫層地域がコナラ・アベマキなどの落葉広葉樹の生長が最もよく,チャート地域ではアカマツ・クリが優勢で生長が悪いこと,砂岩地域ではヤマザクラ・アラカシが優勢である.地形別に見ると,下部斜面が最も生長がよく,上部斜面が悪い.生長量の違いは材積の違いからも明らかである.遷移のスタートが同じであるにもかかわらず,植生に違いが生じるのは土壌の影響が大きいと考えられる.土壌は,岩石の風化によって生成されるため,地質によって土壌の養分量が異なる.また,土壌の粒度の違いにより孔隙量,透水性,水分量が異なる.そのため,その土壌条件に耐えられる根を持つ植物が優先的に生長する.その結果,高木層の樹種が異なり,これが低木・亜高木の植生に影響を与え,全体的な樹種の違い,生長量の違いとなったと考えられる.つまり,地質による植生の違いは,土壌養分量の違いだけではなく,土壌の透水性など性質の違い,樹木の根の性質の違いなどによる影響も受けていると考えられる.地形による植生の違いは地質の影響より小さいが,上部斜面と中間・下部斜面では明らかな植生の違いがみられ,斜面位置の違いにより生長量(材積)も異なっている.上部斜面は排水が盛んであるため,水分量が中間・下部斜面に比べて明らかに少ない.そのため,乾燥に強いアカマツが優先的に生長し,上部斜面では中間・下部斜面とは異なった植生になったと考えられる.また,中間・下部斜面は,A層厚,土壌養分量の違いが生じている.砂礫層地域では根を深く張るコナラの生長が良い.根を深く張るため,土壌が厚く,地上部の生長を促進する窒素やマグネシウムが多く含まれる下部斜面で生長がよい.一方,チャート地域では,根を浅く張るリョウブの生長が良いため,土壌養分量が多く, A層が厚い下部斜面の生長がよい.以上のように,地形による植生の違いも,土壌養分量の違いだけでなく,土壌の厚さや根の性質の違いによる影響を受けていると考えられる.
著者
森山 昭雄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.7-41, 2000
参考文献数
14
被引用文献数
9

2005年愛知万博の会場予定地,海上の森を特徴づける湿地生態系の成因を明らかにするために,河川の河床縦断形の測量と豊水期と渇水期の河川流量・水質を計測する水文地形学的な調査を行った.その結果,砂礫層地域では,砂礫層中に挟まれるシルト層・粘土層が河床縦断形の遷急点を形成し,比流量が大きく,そこから湧出する地下水によって湿地が形成されていることが明らかとなった.本地域の地質構造は,地殻変動によって緩やかに西方に傾く構造となっている.基盤の花崗岩類と砂礫層が接触する基底面および砂礫層に挟まれるシルト層も西方に傾斜しており,流域を越えて西方に向かう大規模な地下水流動が推定された.花崗岩地域では,断層が地下水流動の水みちとなっている可能性が高いことを指摘した.万博関連の環境影響評価調査は,個々の調査自身はハイレベルであるが,その解釈と評価は恣意的であり,間違った結論を導き出している.特に,湿地生態系に大きな影響があると思われる深層地下水に関しては,調査もされていないことは基本的に問題であることを指摘した.
著者
森山 昭雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.723-744, 1994-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
4

西三河平野南部に広がる碧海面とそれを構成する碧海層は,リス氷期からヴュルム氷期前半までのデルタ性の厚い堆積物からなる.本地域は,その時期の海水準変動や古環境の変遷を明らかにしうる日本で数少ないフィールドの1つである.筆者は,碧海層の多数のボーリング資料に基づく解析により,その堆積構造と地下層序を明らかにし,化石ケイソウ群集とFeS、含有量の分析,ESR年代測定を実施し,以下の結論を得た. 1) 碧海層は,最大70mに達する厚さをもち,下位から基底礫層,下部層,中部層,上部層に分けられる.その下位には,濃尾平野の海部累層に対比される油ケ淵層が存在する.碧海層上部層の海進堆積物から採取された貝化石のESR年代は,8~9万年前の値が得られた. 2) 碧海層基底礫層は,リス氷期の低海面期、(酸素同位体比ステージ6) に堆積した碧海層の基底の砂礫層であり,上流に広がる三好層に対比される.下部層はリス氷期から最終間氷期(5e)に起こった急激な海進期の海成堆積物と考えられ,5eの高海面期に挙母面が形成された。中部層は,5dから5cの海進期に堆積したものである.上部層は5bから5aにかけての海進期に堆積したものであり,碧海面は5aの時期に形成されたと考えられる.