- 著者
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森山 昭雄
江口 亜希
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.136, 2004
この春の地理学会で,中道 (2004)は,瀬戸市海上の森で,地形地質の立場から花崗岩地域と土岐砂礫層地域において森林植生の違いを定量的に調査した結果,花崗岩地域はコナラ・アベマキが優位な生長の良い森林,砂礫層地域はアカマツが優位な生長の良くない森林にはっきりと分かれ,花崗岩地域は砂礫層地域の3倍もの生長量(材積)の差があることを明らかにした.地質(地形)の違いが明瞭に森林植生に表れることは,他の地質でも起こっているのではないかと考え,今回は中・古生層の上に土岐砂礫層を乗せる濃尾平野北東縁丘陵地において,地質(地形)と二次林植生との関係を明らかにするために調査を行なった. 調査地点は,標標高の増大に伴う気温の低下など気候的影響を少なくするため高300m以下の地域で,斜面の方位により地表面での水や熱の配分が変わるその違いをなくすため,地形的位置は南向きの斜面とした.地質としては,土岐砂礫層地域,中・古生層の主としてチャート地域および中・古生層の主として砂岩地域の3地域とした. さらに,1947年撮影の米軍航空写真を判読し,樹木が一様に伐採されて丸刈り状態になっている場所で,それ以降人為的な手入れが行なわれていない森林とした.これは,遷移のスタートが同じ時期である二次林の,その後の生長を比較するためである.また,現地調査により,新しい崩壊がない二次林で,広い範囲を代表する植生地点とする.本研究では斜面の一連の変化と植生との関係を見るため,上部斜面,中間斜面,下部斜面を選定した. 毎木調査は,方形区内の樹高が1.4m以上のすべての木本について,樹木の種類を同定し,個体数,胸高直径,樹高を測定する.高木層・亜高木層・低木層に分類し,樹冠投影図を作成した. 土壌に関しては,土壌断面形態を調べ,A層厚,貫入深,土壌水分量,土壌pHを計測した.調査地点のA層とB層の土壌を持ち帰り土壌中の養分を蒸留水に溶出させこの土壌水をイオンクロマト法(日本ダイオネクス社製)によりイオン分析を行った. 毎木調査を基に森林植生を定量的に分析した結果,地質別に見ると,土岐砂礫層地域がコナラ・アベマキなどの落葉広葉樹の生長が最もよく,チャート地域ではアカマツ・クリが優勢で生長が悪いこと,砂岩地域ではヤマザクラ・アラカシが優勢である.地形別に見ると,下部斜面が最も生長がよく,上部斜面が悪い.生長量の違いは材積の違いからも明らかである.遷移のスタートが同じであるにもかかわらず,植生に違いが生じるのは土壌の影響が大きいと考えられる.土壌は,岩石の風化によって生成されるため,地質によって土壌の養分量が異なる.また,土壌の粒度の違いにより孔隙量,透水性,水分量が異なる.そのため,その土壌条件に耐えられる根を持つ植物が優先的に生長する.その結果,高木層の樹種が異なり,これが低木・亜高木の植生に影響を与え,全体的な樹種の違い,生長量の違いとなったと考えられる.つまり,地質による植生の違いは,土壌養分量の違いだけではなく,土壌の透水性など性質の違い,樹木の根の性質の違いなどによる影響も受けていると考えられる.地形による植生の違いは地質の影響より小さいが,上部斜面と中間・下部斜面では明らかな植生の違いがみられ,斜面位置の違いにより生長量(材積)も異なっている.上部斜面は排水が盛んであるため,水分量が中間・下部斜面に比べて明らかに少ない.そのため,乾燥に強いアカマツが優先的に生長し,上部斜面では中間・下部斜面とは異なった植生になったと考えられる.また,中間・下部斜面は,A層厚,土壌養分量の違いが生じている.砂礫層地域では根を深く張るコナラの生長が良い.根を深く張るため,土壌が厚く,地上部の生長を促進する窒素やマグネシウムが多く含まれる下部斜面で生長がよい.一方,チャート地域では,根を浅く張るリョウブの生長が良いため,土壌養分量が多く, A層が厚い下部斜面の生長がよい.以上のように,地形による植生の違いも,土壌養分量の違いだけでなく,土壌の厚さや根の性質の違いによる影響を受けていると考えられる.