著者
那須 文実 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.9-18, 2015 (Released:2015-02-16)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

目的:潰瘍性大腸炎は寛解と再燃をくり返すことから,患者の職場における支援方法を検討する際は,再燃期を念頭に置いて考える必要がある.本研究では,患者が就業にあたり直面している困難さと前向きな気持ちを現在と症状の悪化時で把握することと,前向きな気持ちを維持する要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:就業中あるいは就業経験のある患者を対象に,無記名の自記式質問紙調査を実施した.ここ1週間および仕事をしていて症状の一番強かった時の就業上の困難(17項目)と前向きな気持ち(4項目)は,自作の質問項目を用いて尋ねた.本研究では,ここ1週間を現在,仕事をしていて症状の一番強かった時を悪化時とした. 結果:質問紙は70名から回収された(有効回答率32.0%).患者の平均年齢は43.8歳であった.疾患を発症した時の平均年齢は33.8歳であった.術後の2名を除いて,全員が服薬していた.現在の状況は,53名(75.7%)が寛解期にあり,ほとんどの者(91.4%)は体調管理がうまくいっていた.現在における就業上の困難は,「職場の人たちから病気が理解されない」(41.4%),「昇進や出世が遅れると感じる」(38.6%)など,職場環境に関するものが多かった.悪化時では,体調管理がうまくいかなくなり,通院頻度が多くなるが,上司・同僚に相談する者は少なかった.悪化時における就業上の困難は,「体力的にしんどい」(80.0%),「食事やお酒を断る」(72.9%)など,症状に関するものが多かった.悪化時でも前向きな気持ちが維持できていた者は,業務上の配慮を受けておらず,職場に病気相談相手がいた. 結論:潰瘍性大腸炎患者に対する職場での支援としては,患者が上司・同僚に自分の病気のことを話したり普段から受診したりしやすい,あるいは上司・同僚が病気や仕事について話せる相談者になるといった職場づくりなどが重要であることが示唆された.
著者
向 友代 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2019-018-B, (Released:2020-02-08)
被引用文献数
1

目的:近年がん患者の治療と仕事の両立の問題が注目されている.がん患者の離職は特に診断初期に多いことが問題視されている.本研究は,がん患者の診断初期における就労継続の要因を,事業場・疾病・医療の側面から検討を行うことを目的とした.対象と方法:20~64歳のがん患者で,確定診断後2年以内の被雇用者68名のうち研究の趣旨を説明し同意を得た61名を対象に,面接者の研究目的に沿って決められたデータを収集する構成的面接を行った.調査内容は,属性,業種,会社規模,雇用形態,休暇制度,診断初期の相談相手とその内容,がんの部位と病期,今まで受けた治療方法,身体症状,全身状態の評価指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status(以下,PS),就労継続に必要な診断初期の情報,医療者への就労に関した相談の経験と相談内容,就労に影響した支援の状況であった.休業中を含む就労していなかったものを非継続群,就労を継続していたものを継続群とし,2群間における各要因の出現状況の比較にはχ2検定およびFisherの直接確率法を用いた.統計的有意水準は5%とした.結果:61名中60名(98.4%)が就労継続を希望していた.60名のうち非継続群は15名(25.0%)であり,継続群は45名(85.0%)であった.属性,業種,会社規模,雇用形態は,2群間に有意な差はなかった.診断初期の相談内容についてみると,「病気・治療・症状のこと」は継続群に多く,2群間に有意な差があった.また,「医療費や生活費など経済面のこと」は継続群に少なく,有意な差があった.同僚に病名を伝えている人は継続群に多く,有意な差があった.「試し(慣らし)勤務制度」の希望,がん患者が働くことへの偏見や誤解は継続群に少なく,有意な差があった.継続群に,がんの病期Ⅰ以下が多く,今まで受けた治療として手術が多く,全身状態が良好であるPS0・1が多く,有意な差があった.就労に影響した支援においては,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」「診断直後は仕事のことを考えられない」という回答を得た.考察と結論:がんの診断初期の就労には,がんの病期や全身状態,手術の有無が関連していた.事業場では,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」が職務継続の後押しとなっていた.診断初期は「仕事のことを考えられない」ことがあり,医療者はこの危機的状況を支え,患者自身が就労に関して納得した選択ができるような支援が必要である.
著者
吉田 えり 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B14002, (Released:2014-07-07)
被引用文献数
2 5

目的:男性看護師においては,首尾一貫感覚(Sense of Coherence,SOC),ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにした研究は見当たらない.本研究では,病院に勤務する男性看護師のSOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を明らかにすることを目的とした.対象と方法:男性看護師51名と女性看護師51名を解析対象者とした.女性看護師は,年齢を±1歳で,有する資格を看護師あるいは看護師と保健師で,勤務部署を「内科系病棟」「外科系病棟」「その他の病棟」の3区分で,男性看護師にマッチさせた.調査項目は,属性,SOC,職業性ストレス簡易調査票,勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(Brief Scales for Coping Profile,BSCP)であった.SOCとストレス反応との関連は,心理的あるいは身体的ストレス反応を従属変数として,重回帰分析で検討した.結果:男性看護師の年齢の中央値は27歳で,四分領域は24–30歳であった.臨床経験年数の中央値は4年で,四分領域は2–7年であった.SOCの総得点には,男女間の差が認められなかった.男性の心理的な仕事の負担(質)は女性に比べ少なく,職場環境によるストレスは高かった.ストレス症状では,男性の抑うつ感が強かった.ストレス反応に影響を与える因子では,男性の上司・同僚からの支援度は女性に比べ低かった.BSCPの下位尺度では,男性の「他者への情動発散」と「回避と抑制」は女性に比べ高く,「問題解決のための相談」は低かった.SOCの総得点は男女とも,ストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,ストレス反応の心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に有意な関連を認めた.SOCの下位尺度である処理可能感は,男性においてのみ心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に関連性が認められた.結論:SOCは,性差を認めなかった.抑うつ感は男性の方が強かった.SOCの総得点と心理的ストレス反応・身体的ストレス反応との関連性は男女とも同様の傾向を示したが,SOCの下位尺度の関連性には性差を認めた.
著者
森岡 郁晴 田渕 優奈 高橋 侑子 織田 侑里子 中井 正美 柳瀬 安芸 渡津 千代子
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.115-121, 2011 (Released:2011-02-25)
参考文献数
21
被引用文献数
8 9

Objectives: The purpose of this study was to clarify the contamination of mobile phones shared in hospital wards and its relationship with the consciousness and behavior of nurses about biological cleanliness. Methods: Samples from mobile phones were cultured to detect viable bacteria (n=110) and Staphylococcus aureus (n=54). A questionnaire survey was conducted on 110 nurses carrying mobile phones on the day of sampling. Results: Viable bacteria were detected on 79.1% of the mobile phones, whereas S. aureus was detected on 68.6%. All the nurses were aware of hand washing with water or alcohol after regular work, but 33.6% of the nurses were not conscious of hand washing with water or alcohol after using a mobile phone. There was a significant positive relationship between the frequency of using mobile phones and the number of hand washings with water or alcohol. A significant negative relationship was found between the detection of viable bacteria and the number of hand washings with alcohol. The results of logistic regression analysis showed that the detection of viable bacteria was related significantly with the number of hand washings with alcohol (Odds ratio, 0.350; 95%CI, 0.143–0.857) and that the detection of S. aureus was related significantly with the frequency of using mobile phones (Odds ratio, 0.183; 95%CI, 0.036–0.933). Conclusions: It is important to be conscious of the fact that mobile phones shared in hospital wards are easily contaminated. Because hand washing with water or alcohol prevents the contamination of the mobile phones, nurses should take standard precautions after using mobile phones.
著者
井本 知江 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.295-305, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
26

目的 特定健康診査(以下,健診)の受診行動に健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシー(以下,HL),ソーシャル・キャピタル(以下,SC)が関連しているのかを保険者別に検討し,今後の受診勧奨を含めた保健活動のあり方について示唆を得ることを目的とした。方法 受診者とは過去2年間に1回以上健診を受診した者,未受診者とは過去2年間に1回も健診を受診していない者とした。対象者は40~74歳の男女1,048人とし,郵送による無記名の自記式質問紙法で行った。健康増進ライフスタイルの把握には日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(以下,HPLPⅡ)を,HLの把握には14-item Health Literacy Scaleを,SCの把握には埴淵らの6項目を用いた。保険者別(国民健康保険:国保,被用者保険:社保)に健診受診の有無と属性,HPLPⅡ, HL, SCとの関連について検討した。分析には属性・SCにはχ2検定を,HPLPⅡにはt検定を,HLにはMann-WhitneyのU検定を用いた。結果 有効回答率は男性34.4%,女性39.6%で,健診受診者の割合は国保の男性68.8%,女性79.4%,社保の男性91.7%,女性72.6%であった。国保の男性は同居の配偶者がいない者がいる者に比べて受診割合が有意に低く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの身体活動得点が有意に低かった。社保の男性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの栄養得点が有意に高く,SCの近所付き合いの程度が有意に高く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの健康の意識得点が有意に低かった。結論 健診の受診行動には,国保の男性を除いて,健康増進ライフスタイル,SCが関連していた。健診受診勧奨を含めた保健活動のあり方として,国保の男性の場合,配偶者や家族,親戚,近隣者などからの勧奨が健診受診に有効であること,女性の場合,日常生活に身体活動を取り入れることが健康への関心を高め,健診受診に繋がること,社保の男性の場合,健診結果を食生活の改善に活かせる工夫が必要であること,女性の場合,健康意識を高める支援が必要であることが示唆された。
著者
森岡 郁晴 和泉 有里奈 井上 雅 岡田 佳奈子 坂口 佳穂 宮井 那津季
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.146-152, 2014

Objectives: The purpose of this study was to clarify the effect of stone spa bathing (Ganban-yoku) and hot-spring bathing on brachial-ankle pulse wave velocity (baPWV) in healthy, late middle-aged females. Methods: The subjects were 13 females (mean age, 47.3 years). The skin and tympanic temperatures, blood pressure, and baPWV were measured before and after stone spa bathing and hot-spring bathing. For the stone spa bathing, the subjects lay down three times for approximately 10 min each time over warm stone beds. Results: Although body weight showed no change after the hot-spring bathing, it significantly increased after the stone spa bathing. The increase was significantly related to the amount of water intake. The skin and tympanic temperatures increased to a smaller degree after the stone spa bathing than after the hot-spring bathing. The diastolic blood pressure decreased to a smaller degree after the stone spa bathing. BaPWV showed no significant change after bathing both in the stone spa and in the hot-spring. The results of multiple regression analysis showed that the factors significantly related to the change in baPWV after the stone spa bathing were the changes in skin and tympanic temperatures and habit of smoking, and that after the hot-spring bathing was the change in skin temperature. Conclusions: The results suggest that, compared with the hot-spring bathing, stone spa bathing causes less strain on the body. The stone spa bathing and hot-spring bathing showed no marked effect on baPWV. However, there is a possibility that the stone spa bathing may be used as a load for investigating arterial stiffness.
著者
林 千景 前馬 理恵 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.107-115, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
30

目的 住民の健康づくりには,個人への保健指導だけでなく,住民組織と協働した活動が有効とされ,住民組織である健康推進員(以下,推進員)の活動が注目されている。本研究は,現在活動している推進員(以下,現推進員),過去に推進員を経験した者(以下,既推進員),推進員を経験したことのない者(以下,非推進員)によるヘルスリテラシー,ソーシャルキャピタル,健康行動の特徴を明らかにし,推進員の育成について検討する資料を得ることを目的とした。方法 A町の現推進員87人,2009年4月~2015年3月の間に推進員を経験した既推進員158人,非推進員299人に,郵送による無記名自記式質問紙調査を行った。現推進員54人(有効回答率62.1%),既推進員69人(43.7%),非推進員136人(45.5%)から回答を得た。調査内容は,属性,現推進員および既推進員の活動状況,主観的健康観,健診(検診)の受診の有無,ヘルスリテラシー,ソーシャルキャピタル,健康行動等について質問した。結果 ヘルスリテラシー得点,ソーシャルキャピタル得点,健康行動得点のいずれの得点も現推進員,既推進員,非推進員間に有意な差は認められなかった。現推進員は,活動を「行政が企画する行事の手伝い」と感じている者が多かった。現推進員は地域の人々への働きかけと,主観的健康観で「健康」と感じている者が既推進員および非推進員に比べて有意に多かった。結論 推進員の育成にあたっては,推進員活動を主体的に取り組めるように支援することが必要である。
著者
森岡 郁晴 和泉 有里奈 井上 雅 岡田 佳奈子 坂口 佳穂 宮井 那津季
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.146-152, 2014 (Released:2014-05-24)
参考文献数
28

Objectives: The purpose of this study was to clarify the effect of stone spa bathing (Ganban-yoku) and hot-spring bathing on brachial-ankle pulse wave velocity (baPWV) in healthy, late middle-aged females. Methods: The subjects were 13 females (mean age, 47.3 years). The skin and tympanic temperatures, blood pressure, and baPWV were measured before and after stone spa bathing and hot-spring bathing. For the stone spa bathing, the subjects lay down three times for approximately 10 min each time over warm stone beds. Results: Although body weight showed no change after the hot-spring bathing, it significantly increased after the stone spa bathing. The increase was significantly related to the amount of water intake. The skin and tympanic temperatures increased to a smaller degree after the stone spa bathing than after the hot-spring bathing. The diastolic blood pressure decreased to a smaller degree after the stone spa bathing. BaPWV showed no significant change after bathing both in the stone spa and in the hot-spring. The results of multiple regression analysis showed that the factors significantly related to the change in baPWV after the stone spa bathing were the changes in skin and tympanic temperatures and habit of smoking, and that after the hot-spring bathing was the change in skin temperature. Conclusions: The results suggest that, compared with the hot-spring bathing, stone spa bathing causes less strain on the body. The stone spa bathing and hot-spring bathing showed no marked effect on baPWV. However, there is a possibility that the stone spa bathing may be used as a load for investigating arterial stiffness.
著者
宮下 和久 吉益 光一 森岡 郁晴 福元 仁 竹村 重輝 宮井 信行 坂口 俊二 寺田 和史
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、(1)高濃度人工炭酸浴による下肢の末梢循環促進効果をもたらす条件(温度,CO_2濃度)を淡水温水をコントロールとして検証し、(2)その上で、高濃度人工炭酸浴による下肢痛の改善効果を検証した。最終的に介護施設および家庭における高濃度炭酸浴による下肢痛改善のためのQOL評価を行ない、介護予防のエビデンスに基づく健康事業としての位置づけを試みた。有症者を含めた介護施設入所者で検討した結果、皮膚温は浸漬前後で両群とも上昇していたが、群間の差は見出せなかった。ただ1.5ヶ月の長期間でSF-8の「全体的健康感」が、刺激群で高い傾向があったことは評価できると考える。疼痛に対する効果としては、同意・協力が得られた下肢疼痛の有症者が少なく、統計学的な評価が出来なかったが、個人内では炭酸水浸漬群、淡水浸漬群ともに浸漬の前後で低下していた。レーザー血流画像化装置で末梢循環促進効果を検討すると、足背皮膚血流変化量は浸漬後に対照と比較して有意に高値であった。高齢者でも高濃度人工炭酸温水浴による血管拡張による症状改善効果が期待できた。