- 著者
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小島 毅
横手 裕
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
この研究プロジェクトは、宋元時代における儒教と道教との関係について概要を提示することをめざして行われた。この目的を果たすため、わたしたちはある儒者による『老子』の注解を取り上げた。その著者林希逸は、宋代において『老子』に注をつけた唯一の道学者である。わたしたちは若い研究者数名と共同でその注釈全文を現代日本語に翻訳した。この作業を進めながら、林希逸が儒者としての視点から『老子』をどう扱ったかについて仔細に検討を加えた。林希逸は、老子が残した文言を内丹の修養のための手引きと見なす学者たちに対して異論を提起している。彼によれば、こうした見方とは対照的に、『老子』は政治的なテクストである。林希逸は老子がしばしば比喩的表現を用いているとする。『老子』に見えるそれらの文章が事実を述べたものとみなしてしまうと、真意を捉えることはできない。儒者として、林希逸はそうした比喩が政治に携わる者たちに深い真理を示唆したものだと解釈する。その点で、彼は道教の教説を天下太平実現のために役立つものとしていた。この態度は朱熹のような道学者たちとは異なるが、道学に属さない他の儒者たちと似た傾向を持っている。林希逸の見解はのちに多くの支持者を得ることとなり、彼の注解は東アジアで何百年間も読み継がれた。わたしたちは注解の詳細な情報を集め、データベースを作成し、日本語に訳した。この成果を活用し、より深い研究をめざして今後ともこのプロジェクトを継続するつもりである。