- 著者
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水野 知昭
- 出版者
- 信州大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
エッダ詩の代表作品「巫女の予言」について、生と死および運命を司る,月の古代思想を探った。古ノルド語veroldや古英語woroldその他のゲルマン諸語の同系語は、みなそれぞれ「人間」(古ノルド語verr)と「時代、生涯、世代」(old)から成る複合語であり、単に空間概念としての「世界」(英語world、ドイツ語Welt)を意味するばかりか、「人がある時代を生き、老いて死にゆきながらも次々と世代が生まれ代る領域」をさし、時間概念をも包括していた。生と死、創造と破壊、没落と再生のテーマが脈打っている本詩の根底には、古ゲルマン的な運命観と月の信仰が潜んでいる。別稿にて、同作品が円環詩法の原理に基づき、対応する表現要素が幾つもの同心円を描きつつ、中核の主題を取り巻く構成になっていることを実証した。「異人来訪」という根本テーマがその円環を貫通し、直線的な連鎖となって語りの進展を支配している。印欧神話の三機能体系に対応する「三つの罪を犯す戦士」というG.デュメジルの図式を適用すれば、イェーアト王国(5-6世紀)の戦士ベーオウルフも三つの罪を犯していることが分かるが(水野1999)、王権・戦士・平和(または愛)に係わる三つの罪は、実はこの勇者が討ち果たした三種の水界の怪物たちの所作と特性のなかに反映されていた。また「異人的な勇者」に武器を供与し、殺害を教唆する「賢者たち」の群像に探りを入れた。後者は例えば、王の顧問官ウンフェルス、または最高神オージンの「友」ロキ等であり、王権ないしは神権を維持するための知恵と予言ひいては謀略をも司っている。そしてギリシア・北欧・日本の神話に共通する、「川を渡る神々と勇者たち」の特性を究明した。川の徒渉は一種の「異人の禊ぎ」であり、その後に「求愛」の行動が続くが、その愛の成就を阻む宿敵は必ず血祭り(犠牲または追放)にあげられている。また、ノアの洪水説話を皮切りに、ギリシア・北欧・日本の神話において、洪水の終わりに出現する鴉(烏)の関連モチーフを追究し、うつぼ舟漂流譚と「異人来訪」のテーマを抉出した。