15 0 0 0 OA カササギ

著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-30, 2016 (Released:2016-05-28)
参考文献数
97
被引用文献数
2 2

日本産カササギは約400年前に朝鮮半島より,北部九州の限られた地域に移入された.移入当初の保護の下で個体群が定着し,筑紫平野で個体数を増やしたが,大きく分布を広げることはなかった.本格的な分布の拡大と個体数の大きな増加は20世紀後半から始まり,特に最近の30年間に際立っている.本論文では,日本産カササギの生態と生活史の諸特徴に関する知見を整理し,個体数と分布の変遷に関与した諸要因について考察した. 本種は雑食性で,状況に応じて人工物も利用するという可塑的な営巣場所選好特性を持ち,産卵数が多いという,侵入地への定着後に急速に個体数を増加させる可能性のある生態,生活史特性を持つ.一方,形態的には飛翔力に恵まれず,出生地近辺への定住性が高いという,通常は長距離分散と縁のない特性を持つ.最近まで分布が急激に拡大しなかったのは,丘陵地の森林が障壁となったためであり,環境改変による障壁の消失が最近の分布拡大を引き起こしたと考えられる. 最近の分布域の拡大と個体数増加は,生息環境の都市化と本種の都市環境への適応がもたらしたと考える.本種は農村の集落内の高木に営巣するが,1980年代以降の都市近郊の住宅地開発にともない電柱への営巣が急増し,それとともに都市近郊での営巣数が増加した.しかし,さらに都市化が進んだ地域では1990年代以降に営巣数が減少している.都市中心部での採餌環境の悪化が原因であろうと考えられる. カササギは国内および世界各地で都市への侵入定着,個体数増加の傾向が見られる.このような都市化環境での本種の営巣数を継続記録し,その生態,生活史,社会を明らかにすることにより,鳥類の侵入定着を左右する要因を解明するための新しい知見を提供すると期待できる.
著者
江口 和洋 久保 浩洋
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.32-39, 1992-03-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
18
被引用文献数
6 5

1.史料に基づき,日本におけるカササギの生息の起源について検討した。2.16世紀以前の史料にはカササギに関した具体的な記述はほとんどなく,17世紀以降の史料にはカササギの生息地,生息地域における呼称,習性などの記述が見られる。3.17世紀以降の江戸時代には,カササギは福岡,佐賀両県の有明海沿岸(旧柳川,佐嘉藩領内)で多く目撃されている。4.17世紀前半には,カササギが朝鮮半島より人為的に渡来したとの認識が広まっていた。5.佐嘉藩ではカササギをもたらした人物の名が記録されている。6.佐嘉藩ではカササギは捕獲禁止の対象となり,17世紀に禁止令が何度か発令された。7.史料検討の結果,カササギは17世紀以降に朝鮮半島より旧柳川,佐嘉藩領内へ移植され,藩主の保護策により個体数を増加させたと,推測される。
著者
江口 和洋
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.141-148, 1990-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
11

1982年2月より1985年5月まで熊本県上益城郡矢部町の緑川水系五老ヶ滝川と笹原川流域においてカワガラスの営巣習性についての研究を行った.1)造巣行動は8月から4月までみられ,とくに12月と1月に頻度が高かった.8-10月の造巣行動は初期段階で終息し,12月以降の造巣のみが産卵以上のステージにまで進んだ.2)造巣への雌雄の貢献度はほぼ等しく,両性間での分業は見られなかった.3)発見された53巣のうち,橋(26巣,49%),崖や石垣(13巣,25%)への営巣が多く,ほかに暗渠の中,排水口,岩,滝の裏などに造られていた.人造物への営巣が多かった(64%).橋への営巣は4年間で増加し,崖•石垣の利用は減った.4)2回目繁殖では巣の再利用が多かったが,経年使用は稀であった.営巣場所は毎年繰り返し利用される傾向が強かった.5)営巣場所による繁殖成功率の有意な差はみられなかった.6)繁殖つがい数は1982年の6つがいから1985年には13つがいまで漸増した.7)4年間で潜在的な営巣可能場所は変化しなかったが,河川拡張工事により採餌に好適な平瀬が増えたことが,繁殖個体数の増加をもたらしたものと思われる.
著者
江口 和洋
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-22, 2005 (Released:2007-09-28)
参考文献数
132
被引用文献数
2 1

長期個体群動態研究の拡大と遺伝学的血縁解析手法の導入により,鳥類の協同繁殖の研究はこの30年間ほどで大きく発展し,多くの研究成果が発表されている.現在,協同繁殖が知られている鳥類は350種(全鳥類の3.9%)を超える.協同繁殖の起源と維持に関わる生態的要因と系統の問題,様式の多様性,手伝い行動の利益の問題を中心に最近の研究成果を紹介し,これからの研究を展望した.協同繁殖種は特定の分類群に特によく出現する.種間比較研究は,生活史は協同繁殖が出現する素因となり,生態的要因はそのような分類群内での協同繁殖の出現を促進することを示唆する.一方,系統学的研究は,協同繁殖は祖先的であり,系統学的歴史が協同繁殖の起源や維持を説明する確かな手段であると示唆している.協同繁殖種の配偶様式,群れ内メンバー間の血縁関係,ヘルパーの手伝い行動などのあり方は,従来考えられていたよりも多様であることが明らかになりつつある.群れメンバーはそれぞれ異なる利益を得ていると考えられている.非血縁ヘルパーが以前考えられていたよりも多く,非繁殖ヘルパーは普遍的ではない.ヘルパーの手伝い行動は群れ内で一様ではない.ヘルパーの存在,手伝い行動そのものが繁殖成功の向上に結びつかない例も少なくない.これらの事実は,手伝い行動における直接的利益の重要性を示唆している.ヘルパーが繁殖し,直接的利益を得ていることも稀ではない.これからの研究に不可欠なものは,長期間の個体群動態研究と遺伝学的手法を用いた性判定や血縁判定である.国外の協同繁殖種と近縁な非協同繁殖種の研究も重要である.
著者
江口 和洋 天野 一葉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.3-10, 2008-05-01 (Released:2008-05-21)
参考文献数
32
被引用文献数
5 4

高密度のソウシチョウの巣の存在にともなうウグイスの巣への捕食の増大という間接効果を検証するために,えびの高原(鹿児島県,宮崎県)において,ソウシチョウの巣の除去実験を行った.調査は2002年と2003年の繁殖期に,ソウシチョウの巣を繰り返し除去し,除去を行わない対照区との間で,ウグイスの巣に依存する期間の生存確率を比較した.除去の結果,2002年は巣密度の低くなった除去区では対照区より全期間生存確率は有意に高かった.2003年はウグイスの営巣数が大きく減少したため,ソウシチョウの巣を除去したにもかかわらず両地区の巣密度差が小さく,生存確率に有意差が生じなかった.本研究の結果はソウシチョウの高密度な巣の存在がウグイスの偶発的な捕食の増加を引き起こし,ウグイスの低い繁殖成功をもたらしたことを示唆している.
著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.249-265, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
79
被引用文献数
1 1

鳥類の社会形態は多様な進化を遂げており,種間の変異が非常に大きい.社会行動の個体間,個体群間,近縁種間の変異に注目した多くの研究が,変異に連関した生態的要因を明らかにして来た.現在では,多くの野外研究の蓄積と分子系統学の進展により,多岐の分類群にまたがった系統比較が可能となった.しかし,生態的要因だけでは社会形態の多様性を説明できず,その変異の基盤には生活史要因が関与していることが指摘されるようになった.そのための重要なアプローチとして,異なる分類群レベルを対象とした階層的な系統比較法が適用され,どのような生態的要因,生活史要因,環境要因が社会行動の変異と連関しているかを明らかにしつつある.本論文では,鳥類の配偶様式,つがい外父性,種内托卵,協同繁殖,家族形成などの社会的諸現象の出現の変異に関する比較研究の成果を紹介し,鳥類の社会形態への生活史要因の関与についてまとめた.生活史要因は高次分類群間の変異に関与し,一方,生態的要因や環境要因は低次分類群間の変異に関与している.これは,生活史要因は特定の社会現象や行動の出現の素因を与え,その素因を持つ分類群で実際にそれらの形質が出現するかどうかは生態的要因や環境要因が決定するという,階層的な進化過程の理解である.

1 0 0 0 OA 紙碑

著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.193-194, 2016 (Released:2016-11-22)
著者
河野 かつら 天野 一葉 江口 和洋
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.59-61, 2000-07-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
8
被引用文献数
2

ソウシチョウ Leiothrix lutea において12の形質を計測し、DNA性判定技術を用いて、(1)雌雄の形態的性差を明らかにし、(2)これらの形態的性差への性淘汰の関与について考察した。ソウシチョウのオスではメスよりも体サイズが大きく、翼の赤•黄色の斑、上尾筒先端の白帯も有意に大きかった。これらの形態的形質をもとに正準判別関数Z=0.091×(最大翼艮)+0.236×(翼の赤い斑の長さ)+0.967×(上尾筒先端の白帯幅)-10.606によって高い率で形態的形質から雌雄を判別することができた。また、形態的性差に寄与していた翼の色斑は翼長と独立で変動係数が非常に大きいことから、性淘汰に関与していることが示唆され、色斑の変動係数はオスよりもメスで大きかったことから、方向性淘汰にさらされている可能性があると思われる。
著者
江口 和洋 武石 全慈 永田 尚志 逸見 泰久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
生態誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.107-113, 1992
参考文献数
17
被引用文献数
1

A research on the altitudinal distribution of forest birds was conducted on the Yakushima Island, south-western Japan, in winter, 1983. Three types of the assemblages of dominant bird species were recognized in respective plant formations from the coastal area to the mountain top : Hypsipetes amaurotis, Zosterops japonica and Parus varius in an evergreen broad-leaved forest (40-900 m) and in a Cryptomeria forest with evergreen broad-leaved trees (900-1200 m), Z. japonica, P. ater, Troglodytes troglodytes and P. varius in a Cryptomeria forest with deciduous trees (1200-1555 m), and Z. japonica, Turdus naumani and Emberiza cioides in a mosaic of a scrub of Pseudosasa and Cryptomeria forest (1555 m-1886 m). Overall, of the thirty-two species recorded, twenty-two were residents and ten were winter visitors. Of the seven dominant residents, three species shifted downward, one shifted upward, and three did not shift from their breeding sites. Winter visitors were characterized by many seed or fruit eaters, or ground-foraging insectivores and no canopy-foraging insectivores, which is in contrast to summer visitors. Winter visitors mainly invaded the Cryptomeria forest with deciduous trees or shrub in a forest edge, the habitats being liable to a great seasonal change.
著者
池田 啓 江口 和洋 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-48, 1979-03-30
被引用文献数
10

Pattern of habitat utilization, home range and food habits of a raccoon dog are studied in a small islet, Takashima, western Kyushu. The home range and the number of individuals in the area are established by means of a bait-marking method which is a new technique developed in this study taking notice of the peculiar behaviour or the raccoon dog to defecate its feces daily on a definite fecal pile site. The size of home range estimated by the method ranged from 1.1 to 4.3 ha (2.8 ha av.) and the total number of individuals in this islet was 8.6-16.1,0.46-0.86 per ha in density. The individual home ranges overlapped closely to each in four seasons. The small population size and high population density in this islet are explained by the confined circumstances of habitat in the one hand and by the specific modes of life of the raccoon dog, that they can live together in a small area with cooperative utilization of the habitat on the other.
著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.p141-148, 1990-03
著者
上田 恵介 江口 和洋 西海 功 高木 昌興 高須 夫悟 濱尾 章二 濱尾 章二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オーストラリア・ダーウィンにおいてアカメテリカッコウとその2種の宿主の調査を実施した。その結果、寄生者のヒナを宿主のハシブトセンニョムシクイとマングローブセンニョムシクイが積極的に排除するという事実が世界ではじめて明らかになった。ヒナ排除の事実はこれまでの托卵鳥研究で報告されたことはない。アカメテリカッコウはもともとハシブトセンニョムシクイを主要宿主として、ヒナ擬態を進化させたものであろうが、近年、マングローブセンニョムシクイにも寄生をはじめたものと考えられる。