著者
濱尾 章二 秋葉 亮 棗田 孝晴
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.A23-A29, 2013 (Released:2013-09-02)
参考文献数
21

採食環境が重複するアオサギ Ardea cinerea とダイサギ A. alba について,千葉県の水田で採食行動を観察した.両種はいずれもタニシとドジョウを主に採食しており,競争関係にあると考えられた.採食試行や採食成功の頻度はダイサギがアオサギを上回っていたが,採食した生物量はアオサギの方が多い傾向がみられた.これはダイサギが小さなタニシを採食する割合が高いことから生じていると考えられた.ダイサギは歩きながら頻繁に小さな餌生物を採食し,アオサギは待ち伏せをして少ない機会に大きな餌生物を採食することによって食物をめぐる競争を緩和していると考えられた.
著者
濱尾 章二 那須 義次
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.13-20, 2022-04-22 (Released:2022-05-11)
参考文献数
26

鳥の巣からは多くの昆虫が見いだされ,鳥は昆虫の生息場所(ハビタット)を作り出す生態系エンジニアとしての役割を担っている可能性が考えられている.しかし,そのことを実証する生態学的研究はほとんど行われていない.そこで,シジュウカラParus minor用巣箱を用い3年間の調査と実験を行って,鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出しているか,そして昆虫は鳥の巣を積極的に利用しているかどうかを調べた.調査の結果,初卵日から巣立ちあるいは捕食,放棄が起きるまでの巣の利用期間が長い巣ほどケラチン食の昆虫が発生しやすかった.腐食性の昆虫でも同様の傾向が見られた.これらのことは,羽鞘屑に依存すると考えられているケラチン食の昆虫に加え,広く腐植質を摂食する昆虫にとっても,鳥の営巣が新たな生息場所を作り出していることを示唆する.また,鳥が利用を終えた後直ちに巣材を採集した場合と3週間後に巣材を採集した場合を比較したところ,昆虫の食性によらず,昆虫の発生する割合は処理による差が見られなかった.このことは,昆虫が鳥の営巣中から巣に侵入していることを示唆する.
著者
濱尾 章二
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.51-65, 1992-02-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
35
被引用文献数
16 14

1) 1990,91年の繁殖期に新潟県妙高高原において,190個体(うち成鳥80個体)のウグイスを個体識別して,婚姻形態の解明を目的とした調査を行った. 2) 1991年,118haのセンサス調査区では,踏査の際10-14個体(x=11.7,n=9)のなわばり雄が確認された.同調査区ではシーズン全体で35個体のなわばり雄が確認された,なわばり雄の交代は頻繁に起こっており,なわばりは短期間しか維持されなかった. 3) 他のなわばりにさえずることなく侵入する雄が見られた.詳細に調査した1なわばりでは,20例の侵入が確認され,このうち15例が放浪雄によるものであった. 4) 雄のなわばり内で同時期に複数の巣が発見されることがあり,精密に調査した1なわばりでは,1シーズンに6ないし7雌によって7巣が営まれた. 5) 造巣,抱卵,育雛はすべて雌のみによって行われ,捕食者に対するモビング,巣外育雛を含め,雄は一切の子の世話を行わなかった. 6) 捕食によるものと推定される繁殖失敗が多かった,第2繁殖を含めて,雌は再繁殖の際に雄のなわばりを変える傾向があった. 7) 詳細に調査した1なわばりでは21個体の雌が確認され,雄にとってどの時期でも配偶可能な雌が供給されやすい環境であることが示された. 8) 営巣雌の行動範囲は雄のなわばりに比べてかなり狭く,結果的に雌がなわばり外で行動することは少ないものと考えられた.また,同一なわばりに営巣した雌間の行動圏は重複しており,排他的な行動は見られなかった. 9) なわばり雄と営巣雌間には,求愛以外に接点が観察されなかった.雄のさえずり頻度にも営巣雌のステージと対応した変化は見られず,雌に対する雄の追尾行動も観察されなかった. 10) これらのことから,ウグイスは番い関係がきわめて希薄な一夫多妻の婚姻形態をもつものと考えられた.
著者
濱尾 章二 樋口 正信 神保 宇嗣 前藤 薫 古木 香名
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.37-42, 2016 (Released:2016-05-28)
参考文献数
21
被引用文献数
5

シジュウカラ Parus minor の巣材47営巣分から,巣材のコケ植物と発生する昆虫を調査した.巣材として21種のコケが使われており,特定のコケを選択的に用いる傾向があった.巣材から,同定不能のものを含め7種のガ成虫が発生した.巣立ちが起きた巣でガが発生しやすい傾向があり,一因として雛の羽鞘屑が幼虫の餌となることが考えられた.巣立ち後野外に長期間置いた巣で,ケラチン食のガが発生しやすい傾向があり,巣の使用後にガ成虫が訪れ産卵することが示唆された.さらにガに寄生するハチが見いだされた.シジュウカラの営巣はこれらの昆虫にとって繁殖可能な環境を作り出していることが示された.
著者
濱尾 章二
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.63-69, 2008-03

自然教育園において,2002〜2007年の間,ラインセンサスや観察では記録されず,捕獲・拾得・保護によってのみ発見された種を報告した。ノスリ・アオバズクは近年記録が少なく,またオオコノハズクは3例目となる希少な記録であった。また,ミゾゴイは今まで記録のない種であるが,今回片方の翼の主として骨格のみの拾得であり,他所から運ばれた可能性もあるため,参考記録にとどめた。観察が困難な夜行性の種や稀に飛来する種の生息を明らかにするためには,捕獲調査や保護・拾得情報の蓄積が重要であると考えられる。
著者
西海 功 山崎 剛史 濱尾 章二 関 伸一 高木 昌興 岩見 恭子 齋藤 武馬 水田 拓
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本列島の島嶼部を中心に分布する陸鳥類の14分類群(19種)について、異所的な集団の種分化と種分類に関する研究をDNA分析、形態学的分析、およびさえずりの音声分析を含む生態学的分析によっておこなった。日本列島の島嶼部を中心とした陸鳥の集団構造や種分化が極めて多様なことが示された。つまり、遺伝的な分析からは、南西諸島の地史を直接に反映した集団構造は陸鳥類では全くみられず、集団の分化のパターンが種によって大きく異なることがわかった。遺伝的に大きく分化している地理的境界線の位置も種によって異なるし、遺伝的分化の程度も分化の年代も種によって大きく異なることが示唆された。また、形態的分化や生態的分化の程度も種によって異なり、それらは必ずしも遺伝的分化の程度と相関しないことが推測された。近縁種の存否がさえずりの進化に影響する、すなわちさえずりの形質置換があったり、人為的環境の改変への適応が行動を通して形態的適応進化を促進したりすることがわかった。また、リュウキュウコノハズクやキビタキなど多数の種で亜種分類の見直しの必要性が示唆され、ウチヤマセンニュウなどいくつかの種では種分類の見直しの必要性が示唆された。今回の研究期間ではっきりと種・亜種分類の見直しの検討が出来たのはメボソムシクイ類とコトラツグミのみであったので、それ以外の見直しは今後の課題として残された。
著者
濱尾 章二
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-7, 1993-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
7
被引用文献数
10 11

ウグイスの雄の個体識別が,さえずりによってどの程度可能であるかを検討した.調査は1990-91年に新潟県妙高高原で行った.2羽の雄のさえずりについて分析したところ,人が聞いて異なるパターンだと思われた場合には明らかに異なるソナグラムが,同じパターンだと思われた場合には互いに大変よく似たソナグラムが得られた.25羽の雄のさえずりの聞こえ方を調べたところ,30のパターンが認められ,各個体が用いるパターンの組合せはほとんどの個体の間で異なっていた.これらのことから,ウグイスではさえずりによる個体識別がある程度可能であろうと思われた.
著者
濱尾 章二 松原 始
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.85-89, 2001

京都府の木津川河川敷にある砂州で,2000年5月3-5日にウグイス <i>Cettia diphone</i> の調査を行った.ノイバラのやぶが発達した部分で4羽の巣立ち雛が発見された.これらの雛は上面がオリーブ褐色,下面がバフ黄色で,頭部に長い綿羽をもち,体には斑点がなく,口ひげもなかった.また,捕獲により性を判定し、標識して個体識別した雌雄のウグイス成鳥が餌を運んでいた.これらのことから,4羽はウグイスの雛であると判定した.雛の測定値や30-50cmしか飛ぶことができないことから,これらの雛は近隣で巣立ったものと考えられた.調査地では,他にも抱卵斑の発達した雌が3羽捕獲された.しかし,巣は発見できなかった.ウグイスは一般に山地のやぶで繁殖する.調査地は低地の砂州であるが,河川管理による洪水の減少によって1970年代後半から植生が発達し始め,現在はノイバラやヤナギ類,サワグルミが侵入している.河川管理による河川敷の林地化が,ウグイスの繁殖場所をつくり出したものと考えられる.この研究は河川生態学術研究会木津川グループ(代表:山岸哲博士)の調査研究の一環として行われた.
著者
濱尾 章二
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-12, 2000-05-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
27
被引用文献数
7 7

一夫多妻を目指すオスにおいて,第2メスを誘引する行動が第1メスのメイトガードに影響するかどうかを,コヨシキリを材料にして1997年に埼玉県で調べた。メスの受精可能期にはその後の時期よりも,オスがメスの5m以内にいる時間が長く,またオスーメス間の距離も近かった。オスはメスの動きを追尾したが,メスはオスを追尾しなかった。オスによるなわばり侵入は,独身オスのなわばりよりも営巣メスがいるなわばりに対してよく起きていた。ある侵入オスは,つがいオスがいない時にそのなわばりの受精可能なメスに求愛した。これらのことはつがい外受精の起こる可能性を示唆している。オスの中には,つがいメスの産卵期にさえずりを再開して一夫多妻を目指すものがいたが,この場合さえずりを再開するとメイトガードをしなかった。さえずりを再開した3羽のオスのうち2羽は,初卵産下日にメイトガードをやめ,明らかに受精可能なメスが防衛されない状態に置かれた。これに対して,さえずりを再開せず一夫一妻のつがい関係を維持した3羽のオスは,受精可能期を通してメスをガードした。第2メスの誘引をはかることは,第1メスのメイトガードを制限する要因になっていると思われる。
著者
濱尾 章二 宮下 友美 萩原 信介 森 貴久
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.139-147, 2010-10-20 (Released:2010-11-08)
参考文献数
28
被引用文献数
1 7

東京都心の隔離された緑地である国立科学博物館附属自然教育園において,冬季に捕獲した鳥の糞に含まれる種子を分析した.また,種子を排泄した鳥種の口角幅と採食されていた果実の直径を計測し,比較した.8種の鳥の糞から9種の植物種子が見出された.特に,ヒヨドリHypsipetes amaurotis,ツグミTurdus naumanni,メジロZosterops japonicusが93%の種子を排泄していた.これら3種は生息個体数も多かったことから,重要な種子散布者になっていると考えられた.種子は1種を除き,調査地内に見られる植物のものであったことから,調査地内外での種子の移動は少ないものと考えられた.鳥は口角幅より小さな果実を採食している場合もあれば,大きな果実を採食している場合もあった.ルリビタキ Tarsiger cyanurus,メジロ,アオジEmberiza spodocephalaでは,口角幅の最大値よりも果実直径の最小値の方が大きなイイギリIdesia polycarpaを採食していた.口角幅を超える大きさの果実を採食していたのは,結実期を過ぎていたことや都市緑地であることから,果実の選択が制約を受けていたためである可能性がある.
著者
濱尾 章二 Veluz Maria J. S. 西海 功
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.17-26, 2006-03

日本のウグイス(Cettia diphone cantans)とフィリピンのウグイス(C. seebohmi)について、体サイズ測定値と翼の形を比較した。日本のウグイスでは雄が雌よりも明らかに人きく、雌雄のサイズ分布が重複しなかった。フィリピンの雄は日本の雄よりも小さく、雌は日本の雌と同じかやや大きかった(Table 1)。このことは、性的なサイズ二型が日本で顕著であることを示している。日本のウグイスは発達した一夫多妻の婚姻システムをもつが、フィリピンのウグイスは一夫一妻か、あまり発達していない一夫多妻の可能性が考えられる。翼の形では、フィリピンのウグイスは最も長い初列風切羽が翼の内側(体に近い側)にあり、翼差(最も長い初列風切と次列風切の長さの差;Fig.3)も小さく、日本のウグイスに比べて丸みのある翼をもっていた(Table 2)。丸みのある翼は渡りなどの長距離飛行には適さないが、素早く急角度で飛び立つことを可能にすると言われている。季節的な移動を行う日本のウグイスがとがった形の翼をもつのに対し、フィリピンのウグイスが丸い翼をもつのは、渡りをせず、よく茂ったやぶに棲むことに適応したものと考えられる。この研究は、国立科学博物館の「西太平洋の島弧の自然史科学的総合研究」の一環として行われたものである。
著者
上田 恵介 江口 和洋 西海 功 高木 昌興 高須 夫悟 濱尾 章二 濱尾 章二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オーストラリア・ダーウィンにおいてアカメテリカッコウとその2種の宿主の調査を実施した。その結果、寄生者のヒナを宿主のハシブトセンニョムシクイとマングローブセンニョムシクイが積極的に排除するという事実が世界ではじめて明らかになった。ヒナ排除の事実はこれまでの托卵鳥研究で報告されたことはない。アカメテリカッコウはもともとハシブトセンニョムシクイを主要宿主として、ヒナ擬態を進化させたものであろうが、近年、マングローブセンニョムシクイにも寄生をはじめたものと考えられる。
著者
濱尾 章二
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.71-76, 2008-03

2006年8月20〜25日に東欧,ブルガリアにおいて渡り時期の鳥相を調査したところ,13目35科129種が観察された.タカ目・チドリ目・スズメ目で多くの種が記録されたこと,多数のモモイロペリカンPelecanus onocrotalus・ヨーロッパコウノトリCiconia ciconiaが記録されたことは,当地が秋季の渡りの重要なコース上の中継地であることを示唆する.この調査は(財)科学博物館後援会の寄付金による補助を得て行われた.