著者
竹林 正樹 甲斐 裕子 江口 泰正 西村 司 山口 大輔 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-78, 2022-02-28 (Released:2022-04-16)
参考文献数
22

目的:第29回日本健康教育学会学術大会シンポジウム「わかっていてもなかなか実践しない相手をどう動かす? —身体活動促進へのナッジ—」における発表と討議の内容をまとめることで,今後の身体活動・運動促進支援に資することを目的とする.現状と課題:心理・社会的特性に沿った行動促進手法の1つに「ナッジ」がある.ナッジでの身体活動・運動促進に関する先行研究では,「プロンプティング(例:階段をピアノの鍵盤模様にし,利用時に音が鳴る)」に一定の効果がある可能性が示唆されている.しかし,日本では,ナッジによる身体活動・運動促進に関する先行研究が少なく,特に行動継続に関する見解が十分とは言えない状況にある.知見と実践事例:身体活動・運動促進には,ナッジの枠組みである「FEAST(Fun: 楽しく,Easy: 簡単に,Attractive: 印象的に,Social: 社会的に,Timely: タイムリーに)」とヘルスリテラシー向上を組み合わせた介入が効果的と考えられる.この実践例に,青森県立中央病院が実施する「メディコ・トリム」事業がある.この事業では「笑い」を取り入れた健康教室を行った後,参加者が生活習慣改善を継続した可能性が示唆された.さらなる研究・実践を蓄積していくことにより,継続性のある身体活動・運動促進に関する方略の確立が求められる.
著者
江口 泰正 井上 彰臣 太田 雅規 大和 浩
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.256-270, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
34
被引用文献数
12

目的:忙しい労働者における,運動継続が出来ている人の特性について,特に運動継続の理由・動機に着目して探索的に明らかにし,新たな行動変容アプローチに関する示唆を得ることを目的とした.方法:労働者に対して運動実施状況や運動継続の理由等について質問紙による横断的調査を実施し,1,020名から回収できた.無効なデータ等を除いた最終的な分析数は521名分であった.継続理由の強さを1~5点に得点化し,平均値を運動継続群と非継続群で比較した.また継続理由を因子分析した.結果:労働者における運動継続者の継続理由の上位[推定平均値(SE)]には,体力向上[4.02(0.12)],体型維持[3.98(0.13)]や健康への好影響[3.90(0.12)]など,健康への利益が多かったが,非継続者も上位は同様で,得られる利益について認識していることが明らかになった.次に継続理由の因子として「楽しさ・高揚感」「依存・自尊」「外観・陶酔」「健康利益」「飲食的充足」の5つが抽出された.このうち運動継続者に見られる顕著な特性として「楽しさ・高揚感」の重要性が示唆された.また「飲食的充足」は,非継続者の方が継続者より有意に得点が高かった.結論:労働者における運動継続への動機として「楽しさ・高揚感」が最も重要であることが示唆され,この因子に対する良いフィードバックが継続へのアプローチとして有効となる可能性がある.
著者
金森 悟 坂本 宣明 白田 千佳子 海野 賀央 江口 泰正 山下 奈々 北島 文子 厚美 直孝 小林 宏明 高家 望 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.79-86, 2021-02-28 (Released:2021-03-10)
参考文献数
6

目的:筆者らは,多職種産業保健スタッフの研究会にて「コロナは世界・健康教育・ヘルスプロモーションをどう変えたのか?」というテーマで夏季セミナーを開催した.本報告ではセミナーの開催概要を紹介するとともに,参加者によるセミナーの評価について報告する.方法:2020年9月13日に多職種産業保健スタッフの研究会のコーディネーター12名がセミナーを開催した.参加形態はZoomを用いたオンライン形式とした.全体の構成は第I部に基調講演,第II部は産業保健の現場からの話題提供,第III部は「オンラインの対面型コミュニケーションツールで可能になったことや新たな使い方」についてのグループワークとした.セミナーの評価を行うため,参加者を対象にGoogle formを用いた質問票調査を実施した.結果:参加者は71名,調査への回答者は52名(73.2%)であった.回答者のうち女性が69.2%,年代では40代が34.6%,職業では看護職が53.8%であった.各部について参考になったという者は80.8~96.2%であった.学んだことを今後に活用していこうと思う者は94.2%,全体について満足であった者は96.2%であった.結論:本セミナーでは,新型コロナウイルス流行下での健康教育やヘルスプロモーションの意義や事例,可能性が議論された.参加者のほとんどがセミナーに満足し,本セミナーの開催は意義があった.
著者
江口 泰正 太田 雅規 大和 浩
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.247-253, 2011-09-01

現在,職場における健康保持増進の取り組みとしてもっとも多い内容は,「労働者健康状況調査結果の概況」(厚生労働省2008)によると「健康相談」であるが,2番目に多いのは「職場体操」である.一人でも,あるいは集団でも手軽にできる「体操」は労働者に受け入れられやすく,また継続もしやすいことから,ストレッチングは職場体操としても様々な形で実施されている.しかし,近年その効果に関して否定的な文献も多くなってきた.そこで,総説論文を中心に調査したところ,静的ストレッチング(static stretching)直後における筋パワー系運動(muscle strength/force and isokinetic power)のパフォーマンスはむしろ低下,運動後の筋肉痛の予防にはならないことも明らかにされている.「職場体操」の目的は様々であるが,ストレッチングを職場体操として選択する場合には,その目的に応じたやり方を考慮する必要がある.
著者
新保 みさ 角谷 雄哉 江口 泰正 中山 直子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.246-250, 2015

目的:学会セミナー「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」は,アドボカシーについて学び,学会としてのアドボカシーのあり方を議論するためになされた.本報告では,講演後になされた,「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」に関する総合討論の概要をまとめた.<br>内容:総合討論では,第1部の講演の内容やアドボカシーに関して,総合司会を中心に,講演者と参加者が相互に質問や意見交換を行った.主な話題としてアドボカシーへの原動力,アドボカシーの担い手,学会としてのアドボカシーのあり方に関して議論があった.講演者はこれまで関わってきたグローバル,国,自治体,企業のそれぞれのレベルにおける視点で発言をしていた.討論を通じて,日本でアドボカシーを進めるための課題として,行政機関における人材育成のあり方や大学の役割があげられた.政策を作る側からも学会としてアドボカシーを行う必要性が述べられ,今後の方向性が確認された.<br>結論:講演者と参加者の議論によって,アドボカシーはそれぞれのレベルで推進されているものの,課題があることが分かった.今後,日本健康教育学会としてのアドボカシーを推進するためには,意見を1つにまとめ,議論を重ねていく必要がある.
著者
江口 泰正
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.557-565, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
34

近年、「ヘルスリテラシー」が医療や保健、教育等の分野で注目されてきている。世界的に見ても、ヘルスリテラシーに関する研究が飛躍的に増加している。背景として、2000年に米国における健康政策の指標であるヘルシーピープル2010で解説された影響もある。わが国においても厚生労働省が2015年に発表した「保健医療2035」の中でヘルスリテラシーという言葉が使われている。しかしながら、ヘルスリテラシーについて理解している人はまだ決して十分とは言えない。一方近年、日本人のヘルスリテラシーは欧州と比較して低いとする報告もあり、今後の議論が求められる。ヘルスリテラシーが不十分だと、さまざまな健康課題が増加し、また高めていくことで人々の豊かな生活へ結び付けていくことが可能となる。本稿では、この新しいキーワードとしてのヘルスリテラシーについて、その定義や要素分類、評価法について、そしてヘルスプロモーションや健康教育との関連性等について総説することを目的とした。