著者
森下 智陽 波多野 隆介
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.791-798, 1999-12-05
参考文献数
17
被引用文献数
1

メタンはC02の10数倍の温室効果ガスで,発生源,吸収源の特定・見積もりが重要だがダム湖からのメタン発生の研究は少ない。本研究はダム湖および周辺森林土壌のメタンフラックスを測定し年間のメタン動態を見積もった。 厚田村望来ダムと周辺森林で湖面および地表面のメタンフラックスを97年5月〜98年5月まで観測した。湖面からメタンは常に放出し,秋にかけて上昇した(0.022〜0.431 mgCm^<-2> h^<-1>)。湖面の氷がとけた翌年4月に最大値(0.922 mgCm^<-2> h^<-1>)を示した。その変動は湖面水温,湖面の溶存メタン濃度の挙動(γ=0.98)と類似した。以上の結果からダムの年間放出量は0.83 MgCと見積もられた。0.57MgCが放流期の3ヵ月に放出され,そのうち75%の0.43 MgCが湖水の放流に伴う放出であり,残りが湖面からの放出であった。 一方,森林土壌はメタンを常に吸収していたが,吸収フラックスは湖面からの放出フラックスに比べて小さかった。地温の上昇,土壌メタン濃度の低下に伴い,8月で最大0.1mgCm^<-2> h^<-1>を示し,その後低下した。積雪期も吸収が観測され,その総吸収量は年間吸収量の18%に匹敵した。 ダムの集水域の森林面積を考慮すると,放出量より10倍も大きし・年間8.1MgCのメタンが吸収されてし・た。しかし森林の吸収フラックス(1.12 mgCm^<-2> d^<-1>)は,ダム湖からの放出フラックス(4.64 mgCm^<-2> d^<-1>)の1/4と小さく,ダム湖から放出されたメタンは必ずしも近傍の森林へ直接吸収されているわけではないことを意味していた。
著者
当真 要 佐藤 翔平 泉 弥希 Fernandez Fabian G. Stewart J. Ryan 波多野 隆介 西脇 亜也 山田 敏彦
出版者
北農会
雑誌
北農 (ISSN:00183490)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.162-169, 2012-04

北海道苫小牧市のススキ地で地上部乾物生への制限因子を調査した。2008-2010年に窒素, リン, カリ施与の有無でのべ13処理区を設け, 草丈, 葉数, 乾物重と窒素, リン, カリ含量を測定した。乾物重は気温と降水量の高かった2010年に増加し, また処理区間でも差が見られた。乾物重への施肥効果はリン&gt;カリ&gt;窒素であり, 窒素とリンまたはカリの併用効果が大きかった。堆肥施与で増収効果があり, 畜産廃棄物等の有効利用が期待できる。
著者
向井 宏 岸 道郎 波多野 隆介 飯泉 仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

北海道東部厚岸町を中心とした別寒辺牛川・厚岸湖・厚岸湾という一連の水系において、集水域全体における陸から沿岸域への生元素物質の流入、とくに農業(畜産業)生態系から流出する窒素化合物が沿岸の海草藻場やカキ・アサリを中心とした沿岸生産におよぼす影響を以下のような面から研究した。GISによる集水域の利用形態区分。集水域の土地利用形態が河川水質におよぼす影響とその評価。3河川河口部における定常状態での年間出水量および栄養塩濃度の測定。3河川河口部における降雨時の出水量および栄養塩濃度の測定。厚岸湖内における水温、塩分、栄養塩濃度、クロロフィルの毎月観測による窒素の分布と生態系への取り込みの推定。厚岸湖における堆積物の年代測定と有機物堆積速度の推定。厚岸湖における海草による窒素吸収速度の推定。河川における水草による窒素吸収速度の推定。実験によるアサリの物質取り込み量の推定。底生および付着珪藻類のアサリ・カキの餌への貢献の評価。航空写真に基づく厚岸湖アマモ場の歴史的変遷。安定同位体を用いた厚岸湖の食物網の把握。数値シミュレーションによる生態系モデルの構築とその検証。その結果、厚岸湖の生態系の高い生産性は、陸上からの常時の適度な栄養塩の流入と、沿岸域に成立しているアマモ場の高生産性に依存しており、大雨時に供給される大量の栄養塩は、ほとんど沿岸域の生産に寄与していないことが明らかになった。そのような大雨時の一気の流出を抑え、常時の栄養塩を含んだ水の供給に、森林や湿原の存在がきわめて重要であることも示唆された。
著者
寳示戸 雅之 波多野 隆介 村野 健太郎 林 健太郎 神山 和則 荻野 暁史
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

<発生>農業に由来するアンモニア発生量を発生源別にできるだけ正確に見積もり、これを1kmメッシュ地図として示すとともに畑地、水田、草地からの発生量実態を観測した。<実態>国内27地点の大気中アンモニア、アンモニウム塩濃度を観測するとともに、栃木県の集約酪農地帯において湿性沈着、乾性沈着を観測し、地域内発生量からみた「大気を介した窒素循環」の実態を推定した。<影響>北海道標津川流域を対象として河川水の濃度と投入窒素量の解析から、流域に投入された窒素の一部は河川へ流出するものの残りは硝酸態窒素となり、脱窒を介して河川への炭酸イオンを増加させることを推定した。
著者
橋床 泰之 原口 昭 小池 孝良 波多野 隆介 玉井 裕 宮本 敏澄 堀内 淳一 宮本 敏澄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

寒冷地の森林帯では窒素供給源が不明である。この「窒素ミッシングリンク」と呼ばれる「謎」を解明するため,東シベリア・永久凍土帯のグイマツ林床と北欧森林限界帯のスプールス林あるいはカンパ林で現地調査をおこない,土壌が持つ窒素固定能を探った。現地土壌微生物群集は土壌環境を反映した条件下で強いアセチレン還元を示した。16S rDNAを標的としたDGGE菌相解析では,Clostridium属細菌およびDugnella属細菌(γ-Proteobacteria綱)の活動が示唆され,植生によって主要な機能性菌相が大きく異なった。森林限界付近の森林土壌ではアセチレン還元力が小さく,逆に森林のない亜北極ツンドラ土壌で高いことが分かった。森林限界に近い北方林では,生態系全体の物質循環スケールが土壌単生窒素固定細菌による特徴的アセチレン還元能を制御し,ピースや菌根菌を系全体でのより協働的な窒素固定と樹木への効率的窒素供給が行われていることが強く示唆された。