著者
佐藤 衆介 西脇 亜也 大竹 秀男 篠原 久
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.95-104, 1999-03-03 (Released:2017-10-03)
参考文献数
35
被引用文献数
1

岩手県の低投入型放牧酪農家2戸(N牧場、K牧場)の家畜福祉性を、主として乳牛の行動の調査結果に基づき、乳生産や疾病記録を加味して評価した。両牧場とも急傾斜地にあり、面積はN、K牧場とそれぞれ46ha、40haで、改良草地放牧地、野草林間放牧地および採草地からなっていた。N牧場には、加えて採草放牧兼用地があった。両牧場ともまき牛繁殖で、放牧地での自然分娩であった。N牧場では2ヵ月齢までの自然哺乳、K牧場では3ヵ月齢まで人工哺乳であった。両牧場ともに、無施肥による放牧地管理をし、フスマやビートパルプといった農産副産物の他には、濃厚飼料は無給与という低投入型で、牛乳を4,000kg/頭/年程度生産していた。N牧場の乳牛では、全行動レパートリーが出現したが、6月の食草・樹葉摂食行動は1日当たり平均11.0時間となり、それは過去の報告例の上限に近い水準であった。強制離乳子牛1頭に模擬舌遊び行動が観察された他には、異常行動は観察されなかった。K牧場では、人工哺乳のため母子行動は発現できなかった。K牧場での全摂食行動(食草、樹葉摂食、給与飼料摂食)は6月および7月には昼夜を問わず間断的にみられ、それぞれ1日当たり平均52時間および82時間であった。しかし、9月の食草・樹葉摂食時間は2.8時間と極端に短くなり、特にシバヘの依存が急激に低下した。N牧場では1994年の治療回数は2回で、捻挫と子牛の奇形による難産が理由であった。K牧場では1995年には下痢子牛3頭、後産停滞2頭、起立不能症1頭で治療を要した。両牧場とも、ウシの疾病率が低く、さらに異常行動は1頭を除き発現せず、行動レパートリーのほとんどが出現し、各行動時間配分も通常範囲内にあり、行動的にもほぼ正常であり、家畜福祉レベルは平均的な酪農家に比べて高いと判断された。しかし、N牧場では、強制離乳された子牛のストレス性の軽減が、K牧場では晩夏以降の草生の改善が、さらなる家畜福祉性改善に必要であると示唆された。日本家畜管理学会誌、34(3) : 95-104、1999 1998年4月16日受付1999年1月7日受理
著者
渡辺 也恭 西脇 亜也 菅原 和夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.135-139, 1999-07-31
被引用文献数
8

永年人工放牧草地に侵入・優占するミノボロスゲの種子発芽戦略の解明を目的として,その休眠解除条件の検討および草地に生育する他草種との休眠の深さの違いを比較した。ミノボロスゲ種子は,休眠を示し,6カ月間の長期冷湿保存以外の処理では休眠が解除されなかった。長期冷湿処理により後熟したミノボロスゲ種子の休眠解除には,光,変温およびその交互作用が影響し,特に光効果の影響が強かった。光,変温およびその交互作用の3つの影響は,ミヤマカンスゲ,ハルガヤおよびエゾノギシギシの3種でも見られた。しかし,これらの草種は,後熟のために冷湿処理を必要としないこと,変温効果の影響が強いこと,およびミヤマカンスゲを除いて,変温または光単独条件下で休眠解除される種子の多いことがミノボロスゲ種子と異なっていた。ミノポロスゲ種子の休眠解除機構は,他草種の種子と比較して厳しく,それは,草地で裸地検出機構として働き,家畜や作業機械により頻繁に裸地が出現する人工放牧草地での,ミノボロスゲの侵入・優占化の要因の1つになると推測される。
著者
渡辺 也恭 八谷 絢 西脇 亜也
出版者
日本草地学会
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.611-615, 2004 (Released:2011-12-19)

放牧利用人工草地に侵入するハルガヤおよびミノボロスゲの出現と、腐植土層の厚さ、土壌硬度、傾斜角度、土壌水分含量および土壌pHとの関係を判別分析により解析した。また、その被度と土壌pH、土壌全窒素濃度(土壌N)および土壌可給態リン酸濃度(土壌P)との相関分析を行った。ハルガヤの出現は土壌水分含量および傾斜角度と正の、土壌硬度と負の関係にあった。また、その被度が高い地点ほど土壌Nと土壌Pが小さかった。一方、ミノボロスゲの出現は腐植土層の厚さと正の、土壌pHと負の関係にあった。その被度が高い地点ほど土壌pHが低かった。ハルガヤは乾燥ストレスに弱いものの急傾斜地などの低養分条件下で優占が起こりやすいと推察され、その防除には施肥により牧草の競争力を高めることが重要と考えられた。また、ミノボロスゲは富栄養条件下を好み酸性ストレス耐性を持つといえ、その防除のためには土壌酸性の矯正が有効と判断された。
著者
当真 要 佐藤 翔平 泉 弥希 Fernandez Fabian G. Stewart J. Ryan 波多野 隆介 西脇 亜也 山田 敏彦
出版者
北農会
雑誌
北農 (ISSN:00183490)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.162-169, 2012-04

北海道苫小牧市のススキ地で地上部乾物生への制限因子を調査した。2008-2010年に窒素, リン, カリ施与の有無でのべ13処理区を設け, 草丈, 葉数, 乾物重と窒素, リン, カリ含量を測定した。乾物重は気温と降水量の高かった2010年に増加し, また処理区間でも差が見られた。乾物重への施肥効果はリン>カリ>窒素であり, 窒素とリンまたはカリの併用効果が大きかった。堆肥施与で増収効果があり, 畜産廃棄物等の有効利用が期待できる。
著者
長谷川 信美 西脇 亜也 平田 昌彦 井戸田 幸子 飛佐 学 山本 直之 多炭 雅博 木村 李花子 宋 仁徳 李 国梅 SCHNYDER HANS 福田 明 楊 家華 郭 志宏 李 暁琴 張 涵 李 海珠 孫 軍 宋 維茹 ガマ デチン NAQASH J&K Rashid Y KUMAR Ravi AUERSWALD Karl SCHÄUFELE Rudi WENZEL Richard 梶谷 祐介 小田原 峻吾 平川 澄美 松嶺 仁宏 佐野 仁香 長谷川 岳子 坂本 信介 樫村 敦 石井 康之 森田 哲夫
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-11-18

中国とインドにおいて、放牧方式の違いが高山草原生態系へ及ぼす影響について調査を行った。東チベット高原では、暖季放牧地が寒季放牧地よりも植物種数が多く、種数密度と地上部現存量は低かった。土壌成分は、2012年と2004年間に差はなかった。牧畜経営では、ヤクが財産から収入源への位置づけに移行する動きが見られた。また、クチグロナキウサギの生息密度と植生との関係について調査した。インドの遊牧民調査では、伝統的な放牧地利用方法により植生が保全されていることが示された。衛星画像解析では、植生は日射、気温、積雪日数等に左右され、経年的な劣化も示された。ヤク尾毛の同位体元素組成は地域と放牧方式等で異なった。
著者
杉尾 哲 神田 猛 西脇 亜也 森田 哲夫 村上 啓介 伊藤 哲
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

温暖多雨の亜熱帯性気候下にある宮崎県の南半分に位置する宮崎県内の5河川と沖縄県内の5河川を調査対象河川として、工改変による河川環境への影響を定量的に評価し、さらに河川環境の復元を予測する手法について検討した。このうち、宮崎県県最南端に位置する千野川においては治水と環境保全を調和させる川づくりが実施された。そこで本研究では、生態系の生息環境が整った区間における生態系の相互作用の検討と、河川改修が進んだ区間での河川改修による河川環境へのインパクトに対する生態系のレスポンスについての継続的なモニタリングを実施して物理環境と生態環境の両面から定量的に計測し、これらの結果から河川環境システムを総合的に評価することとした。その結果、千野川の旧河道の土壌環境は、高位・低位法面と河床堆積面の中間的な性質を保持していたこと、新河道においては、植生は旧河道の種組成を復元していたが次第に外来種が繁茂する傾向にあること、鳥類は9目23科52種が観察されて千野川が水鳥・水辺の鳥にとって良好な採餌場になりつつあること、小型哺乳類はイタチが捕食の場として利用しうる段階まで復元したこと、ホタルの飛翔はこれまでとほぼ同じ数を保持できていて、ホタルは新河道で生活サイクルを完結させていること、などが確認された。しかし、他の河川を加えて千野川の河川環境を総合的に評価した結果、千野川の新河道は、化学的環境に特徴を持ち、日常的な人間活動によって十分に影響を受けた箇所に分類された。また物理的環境は、深掘れが発生したことによって比較的に良くない状態であることなどが判明した。このことから、河川改修による河川環境へのインパクトを受けた河川での環境の形成には、モニタリングを継続して物理的環境を改善するなどのフォローアップが必要であることが分かった。
著者
佐藤 衆介 西脇 亜也 大竹 秀男 篠原 久
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.95-104, 1999-03-03
被引用文献数
1

岩手県の低投入型放牧酪農家2戸(N牧場、K牧場)の家畜福祉性を、主として乳牛の行動の調査結果に基づき、乳生産や疾病記録を加味して評価した。両牧場とも急傾斜地にあり、面積はN、K牧場とそれぞれ46ha、40haで、改良草地放牧地、野草林間放牧地および採草地からなっていた。N牧場には、加えて採草放牧兼用地があった。両牧場ともまき牛繁殖で、放牧地での自然分娩であった。N牧場では2ヵ月齢までの自然哺乳、K牧場では3ヵ月齢まで人工哺乳であった。両牧場ともに、無施肥による放牧地管理をし、フスマやビートパルプといった農産副産物の他には、濃厚飼料は無給与という低投入型で、牛乳を4,000kg/頭/年程度生産していた。N牧場の乳牛では、全行動レパートリーが出現したが、6月の食草・樹葉摂食行動は1日当たり平均11.0時間となり、それは過去の報告例の上限に近い水準であった。強制離乳子牛1頭に模擬舌遊び行動が観察された他には、異常行動は観察されなかった。K牧場では、人工哺乳のため母子行動は発現できなかった。K牧場での全摂食行動(食草、樹葉摂食、給与飼料摂食)は6月および7月には昼夜を問わず間断的にみられ、それぞれ1日当たり平均52時間および82時間であった。しかし、9月の食草・樹葉摂食時間は2.8時間と極端に短くなり、特にシバヘの依存が急激に低下した。N牧場では1994年の治療回数は2回で、捻挫と子牛の奇形による難産が理由であった。K牧場では1995年には下痢子牛3頭、後産停滞2頭、起立不能症1頭で治療を要した。両牧場とも、ウシの疾病率が低く、さらに異常行動は1頭を除き発現せず、行動レパートリーのほとんどが出現し、各行動時間配分も通常範囲内にあり、行動的にもほぼ正常であり、家畜福祉レベルは平均的な酪農家に比べて高いと判断された。しかし、N牧場では、強制離乳された子牛のストレス性の軽減が、K牧場では晩夏以降の草生の改善が、さらなる家畜福祉性改善に必要であると示唆された。日本家畜管理学会誌、34(3) : 95-104、1999 1998年4月16日受付1999年1月7日受理
著者
長谷川 信美 西脇 亜也 井戸田 幸子 福田 明 樋口 広芳 園田 立信
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

中国青海省東チベット高原北部と南部の,土地の利用・管理方式と繁殖方式の異なる2つの地域において,ヤクの行動生態とその放牧地植生および生態系物質循環に与える影響を比較研究した。北部は青海省の優良放牧モデル地区で,南部は放牧地の荒廃と砂漠化の進行が懸念されている地域である。野草地の生態系を保全して劣化・砂漠化を防ぎ,ヤクの生産性を維持し,持続的に放牧利用するために必要な基礎的データを得ることを本研究の目的とした。平成15年8月より平成18年8月まで,玉樹蔵族自治州玉樹県で3回,海北蔵族自治州門源回族自治県で4回計7回の調査・実験を行った。成雌ヤクの3日間行動観察と排泄行動記録・排糞量測定,GPS受信機による行動軌跡記録,採食行動調査と採食植物観察,草地植生調査,糞・植物・土壌サンプル採取と成分分析を行った。4年間の研究の結果,南部は北部と比較し,寒季の反芻時間が短く,ヤクの糞排泄成分と量から推定した生態系物質循環量はほぼ1/2と低く,ヤクは嗜好性の低い植物種さえも採食しており,過放牧となっていることが明かとなった。現状のまま放牧を続けていけば,今後植生はさらに劣化し,裸地化・砂漠化することが懸念された。しかし,生態系が良好に保たれているとされていた南部においても,現在行われている暖寒2季輪換放牧方式では,特に暖季放牧地で植生の劣化が起きており,ヤクは繁殖に必要な栄養を十分には摂取できていず,現在の方式に代わる新たな放牧方式を今後検討する必要があることが明らかとなった。