- 著者
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長谷川 信美
西脇 亜也
井戸田 幸子
福田 明
樋口 広芳
園田 立信
- 出版者
- 宮崎大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2003
中国青海省東チベット高原北部と南部の,土地の利用・管理方式と繁殖方式の異なる2つの地域において,ヤクの行動生態とその放牧地植生および生態系物質循環に与える影響を比較研究した。北部は青海省の優良放牧モデル地区で,南部は放牧地の荒廃と砂漠化の進行が懸念されている地域である。野草地の生態系を保全して劣化・砂漠化を防ぎ,ヤクの生産性を維持し,持続的に放牧利用するために必要な基礎的データを得ることを本研究の目的とした。平成15年8月より平成18年8月まで,玉樹蔵族自治州玉樹県で3回,海北蔵族自治州門源回族自治県で4回計7回の調査・実験を行った。成雌ヤクの3日間行動観察と排泄行動記録・排糞量測定,GPS受信機による行動軌跡記録,採食行動調査と採食植物観察,草地植生調査,糞・植物・土壌サンプル採取と成分分析を行った。4年間の研究の結果,南部は北部と比較し,寒季の反芻時間が短く,ヤクの糞排泄成分と量から推定した生態系物質循環量はほぼ1/2と低く,ヤクは嗜好性の低い植物種さえも採食しており,過放牧となっていることが明かとなった。現状のまま放牧を続けていけば,今後植生はさらに劣化し,裸地化・砂漠化することが懸念された。しかし,生態系が良好に保たれているとされていた南部においても,現在行われている暖寒2季輪換放牧方式では,特に暖季放牧地で植生の劣化が起きており,ヤクは繁殖に必要な栄養を十分には摂取できていず,現在の方式に代わる新たな放牧方式を今後検討する必要があることが明らかとなった。