著者
小倉 義光 浅井 冨雄 土肥 啓介
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.883-900, 1985 (Released:2007-10-19)
参考文献数
44
被引用文献数
39 55

1982年7月23日,長崎市を中心とする北九州地域をおそった集中豪雨の解析を行った。この豪雨は梅雨前線に沿って発達した中間規模低気圧に伴ったもので,長崎市における5時間の降雨量は412mm に達した。豪雨が発達する前の大気は,対流圏のほぼ全層にわたって非常に湿潤であり,また条件付不安定な成層をしていた。しかしその不安定度は春季米国中西部における巨大雷雨発生前のそれよりはずっと弱く,むしろ熱帯大気の状況に近い。長崎に豪雨が始まる前には,強い降雨バンドが毎時40km の速さで九州北西部を東南東の方向に進行していた。このバンドはそり進行前面にはっきりした先端部を持たず,最も強い降雨域はバンドの中央部にあったという点で,典型的な熱帯性スコールラインとは異った構造をもっていた。このバンドの南西の端が長崎地域に達した頃,バンドに顕著な変化が起った。すなわち,バンドは進行をやめ,長崎地域にその後約5時間停滞し,その結果として豪雨をもたらした。線状をしていた構造も団塊状の構造に変化した。また豪雨が発達した時刻は,南西風の下層ジェット気流に伴って非常に湿潤な空気が流入してきた時刻に一致する。もう一つ重要な事実としては,長崎地域が豪雨におそわれている間に,長崎の西方約300km の海上に新たに雲のクラスターが発生した。このクラスターは発達しながら毎時60km の速さで東方に進行し,やがて長崎地域に豪雨を降らせているクラスターと合併する。これらの事実は長崎地域の豪雨が地形の影響で,ほぼ同じ場所に停滞していたことを示唆する。同じように,梅雨前線に沿って発達した中間規模低気圧に伴って,下層ジェット気流の風上側の沿岸地域で豪雨が起った過去の三,四の例を示した。
著者
浅井 冨雄 柯 史〓 児玉 安正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.675-684, 1998-10-25
被引用文献数
7

1987年の暖候期について東アジア・西太平洋上の雲の日変化を静止気象衛星「ひまわり」3号の赤外放射観測資料を用いて調べた。調査対象領域は北緯50度から南緯20度、東経90度から160度の範囲である。得られた主な結果は以下の通りである。(1)雲量日変化は大きな一日周期変動と小さな半日周期変動から成る。1日周期変動の振幅と位相は陸上と海上で大きく異なるが、半日周期変動の振幅と位相は陸上と海上で類似している。半日周期変動の雲量の極大は、地方時の3時〜5時と15時〜17時にみられる。(2)日周変化の位相の系統的なずれがチベット高原からその東方の中国大陸上でみられる。すなわち、雲量の極大はチベット高原上では夕方に、四川盆地では真夜中に現れる。日周変化の位相の東進速度は北米ロッキー山脈の東方でみられる降水頻度の日周変化のそれに類似している。局地的に誘起される対流活動に加えて、チベット高原で形成する雲クラスターの東進は中国大陸上の雲の日変化を理解するためには考慮されるべきであろう。(3)チベット高原の東方の中国大陸で日周変化の位相の東進は盛夏期に不明瞭になる。これは主に中国大陸で夕方局地的に発達する対流とチベット高原越えの上層偏西風の衰弱によると推測される。
著者
浅井 冨雄 松野 太郎 光田 寧 元田 雄四郎 武田 喬男 菊地 勝弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

(1)1988年度は観測期間を2週間とし、1988年7月6日〜7月19日まで初年度とほぼ同じラジオゾンデ観測網を展開した。本年度は目標(2)にも重点を置いて、レーダー観測網の展開をはかった。即ち、名大・水圏研は福江、北大・理は西彼杵半島北大・低温研は熊本、九大・農は福岡でそれぞれレーダー観測を実施した。2週間の観測期間を通常観測(12時間毎の高層観測と定時レーダー観測)と強化観測(6時間〜3時間毎の高層観測と連続レーダー観測)に分け、研究者代表者の指示によりそれぞれ実施した。観測中前半は梅雨明けの状況となったが、後半には、特に16〜19日にはかなりの豪雨が観測され、目標(2)の研究が可能な観測資料が得られた。現在、各分担者がそれぞれの資料を整理し、解析しつつある。(2)1987年7月の特別強化観測期間中は降水現象は殆ど観測されなかったが、その前後にはかなりの降水が見られるので、7月の1カ月間について総観的解析をその期間の中間規模擾乱に焦点を合わせて行いつつある。7月上旬の降水の特徴と中旬のそれとの間には顕著な差異が見出された。前者は比較的広域に一様な降水、後者は狭い範囲へはの集中豪雨的な特徴を示した。後者については中間規模低気圧とそれに伴うクラウドクラスターと降水系の南側に下層ジェットが見出され、その生成機構が水蒸気凝結潜熱の解放による中間規模低気圧の発達に伴うものであることが示された。(3)数値モデルの研究では(a)特別観測を含む梅雨期間中について微細格子モデルを用いて中間規模低気の予報実験を行い、モデルの改良を試みつつある。(b)現在開発中の積乱雲数値モデルに地形効果を導入して本年度の観測資料等と対比しながら、豪雨生成に関与する対流雲の組織化、移動、停滞などの機構を調べるためにモデルを改良しつつある。
著者
木村 龍治 坪木 和久 中村 晃三 新野 宏 浅井 冨雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本課題の重要な実績として、梅雨期の集中豪雨をもたらしたメソ降水系のリトリ-バルと数値実験を行ないその構造と維持機構を明らかにしたことと、関東平野の豪雨をもたらしたレインバンドの発生機構を明らかにしたことが挙げられる。1988年7月に実施された梅雨末期集中豪雨の特別観測期間中、梅雨前線に伴ったレインバンドが九州を通過し、その内部の風と降水のデータがドップラーレーダーのデュアルモード観測により得られた。このデータにリトリ-バル法を適用することによりレインバンドの熱力学的構造を調べ、維持機構を明らかにした。これにより対流圏中層から入り込む乾燥空気がメソβ降水系を形成維持する上において重要であった。またこの結果を2次元の非静力学モデルを用いて数値実験により検証したところ、この結果を支持する結果が得られた。さらに3次元の数値モデルを用いて降水系を再現し、その詳細な構造を明らかにした。関東平野において発生したメソ降水系のデータ収集とその解析を行なった。1992年4月22日、温帯低気圧の通過に伴い関東平野で細長いメソスケールの降雨帯が発生した。その主な特徴は、弧状の連続した壁雲の急速な発達により降雨帯が形成された点で、他の例に見られるような多くの孤立対流セルの並んだ降雨帯とは異なるものであった。この降雨帯は、それ自身に比べてはるかに広く弱い降雨域の南端に発達したもので、Bluesteinand Jain(1985)の分類では"embedded-areal-type"に属するものであった。最終年度には、メソ降水系の中でも特に梅雨前線に伴うメソβスケールの降水系について、平成8年6月27日から7月12日まで、北緯30度46.8分、東経130度16.4分に位置する鹿児島県三島村硫黄島で観測を行った。この観測期間中には気象研究所、名古屋大学大気水圏科学研究所、九州大学理学部、通信総合研究所など他の研究期間も同時に観測をしており、結果として大規模な観測網を展開したことになった。これらの研究機関の間ではワークショップを開きデータ交換も行なわれた。
著者
浅井 冨雄
出版者
東京大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

1. 昭和57年7月23日から25日にかけて、九州北西部を中心に、総降水量600mmを越す大雨が降った。とりわけ、23日19時から22時までの3時間に長崎では約300mmに達する降水量が記録され、多数の死者を含む大災害がもたらされた。本年度は3年計画の最終年度にあたるので、これまでの研究をさらに進め、特に、長崎豪雨に直接あるいは間接的に関与したと考えられる二つの異なったスケールの気象擾乱に注目し、それらの動態を解析し、長崎豪雨との関連について考察した。2. 中間規模(〜1000km)低気圧 東シナ海上をやや発達しながら東進し、23日にその中心が対馬海峡西部に達した低気圧は水平規模が1000kmの背の低い所謂中間規模低気圧であった。この低気圧は23日に中心気圧が最低となり、東進速度は著しく減じた。その構造は通常の発達しつつある温帯低気圧のそれとは異なり、弱い熱帯低気圧の特徴を備えていた。低気圧下層前面で南西からの暖湿気流の流入が顕著で、九州は豪雨の起こりやすい状況下にあった。さらに、長崎県付近は下層で南西風が卓越するとき地形的に収東域、したがって上昇気流域となり易いことがアメダス気象資料を用いて示された。3. 中規模(〜100km)擾乱 23日午後、上記の低気圧中心から南東に延びる温暖前線上を北北東から南南西に通るバンド状のレーダーエコー(強い降雨帯)が南東進した。このエコーの水平規模は〜100kmであり、所謂中規模擾乱に相当する。地上気象観測資料からバンド状中規模擾乱は北九州に上陸後エコーパターンは崩れるがほぼ時速30kmで南東進しつつ衰弱する。4. 長崎豪雨の機構 中間規模低気圧により長崎県付近に豪雨発生のための好条件が形成され、そこを直通したバンド状中規模擾乱がtriggerとなって自励的メカニズムを有する積乱雲が長崎付近に次々と発現しその結果豪雨となったと推論された。
著者
浅井 冨雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学環境リモートセンシング研究センター年報
巻号頁・発行日
vol.3, 1998-11

気象学は最近の数十年問にその対象領域が拡大すると共にそれぞれその内容は多様化し著しく進展した。したがって,気象学のどのテーマをとりあげても興味深い今昔物語ができあがる。今回は私の最終講義でもあるので,私自身がこれまで深くかかわり,かつ時宜を得た冬季日本の豪雪に関する研究を歴史的に概観し,特に気象レーダーや気象衛尾によるリモートセンシング技術の果たした役割を強調する。日本は温帯に位置するにもかかわらず世界でも有数の豪雪地帯である。この特徴を(1)豪雪の源である水蒸気がどのようにして大気中へ大量に供給され貯蔵されるのか,(2)貯蔵された大量の水蒸気がどのようにして降雪として解放されるのか。降雪の舞台。背景。(3)降雪がどのようにしてある特定の場所・時間に集中するのか。降雪の局所集中化などの3点に整理して解説する。最後に,局地豪雪の最近の研究成果と話題,すなわち,冬季日本海上に発現する中規模低気圧について,その実態と発生・発達のメカニズムについて論じる。その要点は次の通りである。中規模低気圧の発生には大気下層における水平収束が不可欠であり,日本海西部の収束帯は朝鮮半島北部にある山岳によって形成される。さらに中規模低気圧の形成には海面からの顕熱と潜熱のフラックスが不可欠で,顕熱補給は大気下層を加熱し,対流圏下層を不安定化することで対流を活発にする。収束帯では中規模上昇気流と活発な対流があり,温められた下層の大気は水蒸気と共に対流と中規模の上昇流で上層に運ばれ潜熱の解放と共に対流圏中層を温める。これがひるがえって上昇流に地下水涵養が行われることを明らかにした。