- 著者
-
渡部 麻衣子
- 出版者
- 科学技術社会論学会
- 雑誌
- 科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, pp.96-105, 2021-05-20 (Released:2022-05-21)
- 参考文献数
- 35
本稿では,英国における「医療・医学の女性化 feminization of medicine」をめぐる議論と対策の現状をまとめる.英国では2000 年初頭から,医師に占める女性の割合が男性を上回りつつある状況が,医学界の危機として「 医療・医学の女性化」という言葉を用いて論じられるようになった.2004 年,王立内科医協会の女性代表は,女性医師の増加は,特に激務を必要とする領域で医療の供給不足を招くと同時に,医師の社会的地位の低下を招く,すなわち「女性化は医学界を弱体化させる」と主張した.しかしこの主張は即座に批判され,医師,医学研究者の労働環境の改善を求める主張へとつながった.そして現在,同時期に発展した,学術領域におけるジェンダー均衡化を目指す施策の一環として,医学教育・研究における女性の地位向上を目指す取り組みが行われている.英国における「医療・医学の女性化」の事例は,「女性化」が,「弱体化」ではなく「変化」を促す起点となり,専門家集団が変容する過程を表す.