著者
磯村 拓哉
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.71-85, 2018-09-05 (Released:2018-10-31)
参考文献数
69
被引用文献数
4

本稿はFristonの自由エネルギー原理(free-energy principle)をわかりやすく解説することを目的とする.まず自由エネルギー原理を導入する理念や妥当性を簡潔に述べる.次に,自由エネルギー原理により説明可能な事象として,基本となる知覚および行動について述べる.簡単に言うと,自由エネルギー原理とは生物が従うとされる法則であり「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し続けている」と定めている.この原理から外界の認識のモデルとして,予測符号化(predictive coding)と呼ばれる情報表現形式が導出され,「推論・学習とは,予測誤差を最小化するように神経活動・シナプス結合を更新することである」と説明できる.また,行動の生成についても同一の原理から導出可能であり,「行動は,周囲の環境を予測しやすい状態に変化させ自分の好みの入力を得るために起きる」と説明できる.これは能動的推論(active inference)と呼ばれている.最後に,外界の推論の拡張である,他者の思考の推論について議論する.
著者
磯村 拓哉
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.71-85, 2018

<p>本稿はFristonの自由エネルギー原理(free-energy principle)をわかりやすく解説することを目的とする.まず自由エネルギー原理を導入する理念や妥当性を簡潔に述べる.次に,自由エネルギー原理により説明可能な事象として,基本となる知覚および行動について述べる.簡単に言うと,自由エネルギー原理とは生物が従うとされる法則であり「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し続けている」と定めている.この原理から外界の認識のモデルとして,予測符号化(predictive coding)と呼ばれる情報表現形式が導出され,「推論・学習とは,予測誤差を最小化するように神経活動・シナプス結合を更新することである」と説明できる.また,行動の生成についても同一の原理から導出可能であり,「行動は,周囲の環境を予測しやすい状態に変化させ自分の好みの入力を得るために起きる」と説明できる.これは能動的推論(active inference)と呼ばれている.最後に,外界の推論の拡張である,他者の思考の推論について議論する.</p>
著者
高橋 宏知 磯村 拓哉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では,①物理リザバー推論を実現できる閉ループ実験系を構築し,②実験データに基づき,脳組織の自由エネルギーの計算方法を確立したうえで,③脳組織の推論能力を増強する方法論を探求する.独創的な実験研究と理論研究を両論とし,リザバー計算と自由エネルギー原理を有機的に連携すれば,脳のエンパワーメント技術,ニューロモルフィック計算,次世代AIの開発などの波及効果を期待できる.
著者
磯村 拓哉
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、我々が近年開発したリバースエンジニアリング手法に基づき、様々な生物種の神経活動データを統一的に説明・予測可能な普遍的な生成モデル「基盤脳モデル」を創出する。この基盤脳モデルは自由エネルギー原理に従う脳型人工知能であり、原理的には、様々なタスク下の神経活動や行動を予測できると期待される。予測が可能であるかをテストすることで自由エネルギー原理や能動的推論の妥当性の検証を行い、予測と行動の統一理論の構築を目指す。
著者
藤井 健太朗 磯村 拓哉 村田 真悟
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2G5OS21e04, 2023 (Released:2023-07-10)

人間のように未学習の環境であったとしても適切に知覚し、目標を達成するための適応的な行動生成が可能な知能ロボットの実現が期待されている。人間の脳の計算原理である自由エネルギー原理に基づく能動的推論に深層学習を導入した深層能動的推論によって、シミュレーション環境におけるトイプロブレムの解決は示されているが、実ロボットに応用した例はない。そこで本研究は、実ロボットによる行動生成のための深層能動的推論フレームワークを提案する。提案フレームワークは世界モデル、行動モデル、期待自由エネルギーモデルから構成される。世界モデルは対照変分自由エネルギーの最小化に基づき学習を行うことで環境の適切な知覚が可能になる。行動モデルは、期待自由エネルギーモデルによって推定される対照期待自由エネルギーの最小化に基づいた模倣学習を行うことで、目標を達成するための適応的な行動生成が可能になる。評価実験として、実ロボットによるリーチングタスクを、学習済み・未学習の環境で行なった。実験の結果、提案フレームワークはどちらの環境においても適切に知覚し、目標を達成するための適応的な行動生成が実現可能であることが確認された。
著者
磯村 拓哉 銅谷 賢治 小松 三佐子 蝦名 鉄平
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

脳の計算原理を解明し人工知能に実装することは自然科学最大のフロンティアである。脳はどのように外界の生成モデルを獲得し予測や行動を実現しているのだろうか?本領域の目的は、最先端の計測技術を用いて様々な動物の脳から神経細胞の活動を高精度・大規模に取得し、データから生成モデルをリバースエンジニアリングすることで、脳の統一理論を構築・検証し、その神経基盤を解明することである。そのために神経科学と情報工学の融合領域を創成する。