著者
稲垣 耕作 嶋 正利
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-10, 2000-11-18

アトムからビットへの革命という視点から, 情報パラダイムに幾つか検討すべき側面を付け加える。本論文の立場は, アトムとビットは単に対立概念でも無関係概念でもなく, その間の密接な関係を見出すことが情報パラダイムに大きな重要性を付け加えるとのものである。われわれの理論研究は, 物質保存則と計算万能性が自己増殖性によって橋渡しされるとのもので, 物質パラダイムと情報パラダイムにおける根本概念が生命科学でつながれるとの物質・情報・生命の三角形を構成する。このような理論は自然科学パラダイムの情報・生命シフトを予感させるとともに, 従来の物質の物理学で体系化しきれない自然の学を示唆する。ただ情報パラダイムは物質パラダイムの測度でとらえきれない問題を含み, そのような数理が経済や著作権問題を含めた今後の広範な社会の諸問題に影響していくものと思われる。
著者
稲垣 耕作
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.95, pp.39-45, 1997-09-26
被引用文献数
3

著者は,複雑適応系におけるいわゆるカオスの縁で創発が起るには,計算万能性が必要条件であることを,Kauffmanのランダムネットワークで証明した.その結果,計算万能性が物理学で説明できない自然法則である可能性が生れ,物理学を中心とする自然科学に科学革命が起る可能性さえあろう.本論文では著者が提唱する創発仮説について更に幾つか考察を加え,情報物理学という概念を提案する.計算万能性がカオスの縁の十分条件でないことの考察は,NOT素子の最小個数の問題およびセルラーオートマトンの問題を含む.「カオス的ネットワークは安定なネットワークより真に能力が高い」ことが証明される.The proof that computational universality is a necessary condition for the emergence at the edge of chaos gave the possibility that computational universality is a kind of natural law but cannot be explained in physics. This results might bring a scientific revolution of natural science in which physics had been the central science. In this paper, the emergence hypotheis is investigated from new viewpoints, and the concept of information physics is proposed. The study on the fact that computational universality is not a sufficient condition for the emergence at the edge of chaos includes a problem of the minimum number of NOT gates and the investigation of cellular automata. This paper gives a proof that "Chaotic networks are more powerful than stable networks."
著者
稲垣 耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.25-32, 1996-11-01
被引用文献数
7

著者が提案した参加型メディアという概念を精密化して, コミュニティウェア(communityware)という概念を提案する。この概念を用いることにより, 情報通信ネットワークにかかわるさまざまな問題に対して, 新たな論拠を示すことができる。ここでは, 反社会的なメディア, 情報の安全性, プライバシー, マスメディアの役割などに関する議論を行う。
著者
稲垣 耕作 嶋 正利 上田 〓亮
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.6-13, 2002-10-20
被引用文献数
3

漢字認識技術は,4半世紀にわたって,正解率99.9%の壁を破れずに停滞してきた。本論文はその困難な壁を破り始めたことを告げる最初の論文である。本論文では,パターン認識技術を複雑系進化という観点から見直すという立場からの考え方を述べる。半導体集積回路の集積度はMooreの法則のいう18ヵ月に2倍の向上を続けてきたが,現在はさらなる機能上のイノベーションを必要とする段階にさしかかっていると思われる。高度なパターン認識と人工知能技術によって,言語情報処理など実世界における情報文化に一層近い機能をコンピュータに付与することが1つの道であろう。我々の実験システムは印刷漢字を対象として,現在,基礎実験段階では単一フォントで99.999%以上の認識率を達成している。
著者
片岡 俊彦 遠藤 勝義 井上 晴行 稲垣 耕司 森 勇藏 広瀬 喜久治 高田 和政
出版者
公益社団法人精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.1122-1126, 1994

The probe of this scanning near-field optical microscope (SNOM) is a dielectric sphere of 500 nm in diameter on a transparent substrate. The probe sphere is illuminated by evanescent wave which is formed by the incidence of He-Ne laser with the wave length of 632.8 nm from the inside of the substrate on the condition of total reflection. The light from the probe is collected by a conventional microscope through the substrate. The detected light intensity changes remarkably when a sample is brought in a near-field around the probe. The variation of detected light intensity in the near-field depends on refractive index of sample; the smaller real part of refractive index of sample, the more remarkable increase of detected light intensity. This result is explained by using an electric dipole model for the electromagnetic interaction between probe and sample. The vertical resolution of about 1 nm and lateral resolution of less than 20 nm are obtained for the developed microscope by measuring a standard specimen which is prepared by vacuum evaporation of metal.
著者
稲垣 耕 盆子原 康博 近藤 孝広 池 美慧 濵畑 貴之
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.84, no.862, pp.18-00004, 2018 (Released:2018-06-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

In household refrigerators, the rotational speed of a reciprocating compressor can be appropriately adjusted according to the temperature inside of the refrigerator. The lower rotational speed reduces the power consumption of the compressor. However, several natural frequencies of the compressor exist in the low rotation region, and besides, the unbalance force arising from the piston motion acts on the internal drive unit. Thereby the vibrations of the compressor are likely to be larger due to the resonance in the low rotation region. In this study, a method for supporting the drive unit inside the shell, which is called “the self-standing support” is newly proposed in order to reduce the vibration of the compressor drastically. In the proposed method, a spherical support element is utilized instead of coil springs to support the drive unit. And the drive unit can maintain a stable self-standing state by acting restoring moment due to the gravity while it is directly placed on the shell. The natural frequencies of the compressor can be greatly reduced by decreasing the support stiffness for the drive unit in comparison with the support method using coil springs. Furthermore, in designing the drive unit, the application point of the exciting force is matched with the center of percussion to the contact point on the spherical support. As a consequence, the periodic restraining force acting on the contact point can be minimized. By these two features, it is possible to considerably reduce the vibration transmission from the drive unit to the shell. In the present study, a simplified model for a reciprocating compressor is treated, and the effectiveness of the self-standing support is investigated analytically and experimentally.
著者
稲垣 耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-17, 2005-10-31
被引用文献数
1

意思決定の基礎理論は,一方で民主主義社会の根本原理にかかわるものとして,社会科学理論の大テーマとなってきた。また他方では,アルゴリズム的な知能の機械化の根幹をなす問題として,近年の必要が増していると思われる。本論文ではこの問題をArrowの一般不可能性定理を参照しつつ,機械知能のゲーム理論的研究の一環として分析する。囚人のジレンマ,ムカデのゲーム,投票のパラドックスなど,知的で合理的な判断が望ましくない解を与える実例が含まれる。限定合理性が完全合理性を生まないだけでなく,根本的に完全合理性が成り立たない。類似のパラドックスはパターン認識や人工知能分野において頻繁に出現する。今後の人工知能型情報処理機器や知能ロボットなどの開発に関連して,情報文化学的にこの種の問題意識を明確にもつ必要があることを指摘し,知能の不完全性のテーゼを提唱する。
著者
山内 和人 山村 和也 佐野 泰久 稲垣 耕司 三村 秀和 森 勇藏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

本年度(平成18年4月〜平成18年7月)の研究実績1 走査型蛍光X線顕微鏡システムの構築これまで開発を進めてきた、ナノ集光システムの後段に、既存のXYステージと蛍光X線ディテクターを装着させ、走査型の蛍光X線顕微鏡システムを構築した。XYステージには、0.01μm分解能のステージを用いた。蛍光X線ディテクターからの波形分布を、各ポイントで取得可能なシステムとし、複数の元素マップを取得することを可能とした。SPring-8のBL29XULにおいて、テストパターンによるシステムの動作確認と、細胞内の元素分布の観察を行った。テストパターンはFIB (Focused Ion Beam)により作製した。顕微鏡システムの空間分解能のテストを行った結果、30nmの分解能でテストバターンに書かれていた文字を画像化することができた。細胞観察では、細胞内の核やミトコンドリアの観察において、同時に複数の元素分布を可視化することに成功した。2 ブロジェクション顕微鏡システムの予備検討ブロジェクション型顕微鏡システムとしては、将来的な発展性を考慮すると、近年注目をあびているX線回折顕微鏡の導入が不可欠であり、検討を開始した。本手法は、X線の透過強度分布から、集光点近傍のサンプル内の電子分布を求めるものであり、原理的にナノメートルの空間分解能を持つ顕微鏡手法として有力である。今年度は、位相回復法と呼ばれる数学的手法に基づくブログラムを開発した。そして、ミラー集光光学系においても、透過強度分布からサンブルの電子構造を求めることが可能であることがわかった。
著者
稲垣 耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.3-10, 1997-09
被引用文献数
3

本論文では文明の歴史をネットワークの歴史と重ね合わせる立場から, 文明のネットワーク史観を提案する。現代文明や歴史上の文明を見ると, それらはまさにネットワークによって支えられており, 新たなネットワークが生まれるところに, 新文明が誕生してきたものと考えられる。特に情報ネットワークは一種の複雑系とみなすべきであり, 今後はその創発現象を重視すべきである。また世界情報基盤構想や, 知のネットワークとしての宗教に注目することにより, ネットワークを進化させる普遍思想について本論文では検討する。地球規模の文明の目指すべき方向には, 相互の文化や文明を尊重しつつ, 日本や東洋からも独自の思想を発信し, 文化による平和を希求することが重要であり, 情報ネットワークにおける創発的な方法での文明の進化が求められていることを考察する。
著者
稲垣 耕作
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.76-81, 1999-02-15
被引用文献数
5

複雑適応系の分野では カオスの縁という概念が広く知られている. カオスの縁は離散的な性質をもつ系で発見されていて 著者の知る限りでは純粋な連続系では発見されていない. 本論文ではWolframのセルラーオートマトンモデルにおいて カオスの縁が離散性と密接な関係をもつ概念であり セルのとる状態数およびセルの近傍サイズのいずれが増えても カオスの縁の出現する割合が漸近的にOに近づくという証明を与える. 生命を情報という観点から見るとき 複雑適応系の分野では 生命の自己組織化現象とカオスの縁との密接な関係を推測されることが多い. この立場の下では 本証明は生命現象の根源にディジタル性が関与していることの理論的根拠となる可能性をもつ. 証明では カオスの縁の増殖的性質よりも 成長停止性が本質的な役割を果す.The edge of chaos is a well-known concept in the field of complex adaptive systems (CASs). As far as the author know, the edge of chaos is observed in systems which have some discrete characteristics, and has not been discovered in purely continuous systems. In this paper, based on the cellular automaton model proposed by S. Wolfram, it is proved that the occurrence probability of the edge of chaos asymptoticaly approaches 0 with the increase of either the number of states or the neighborhood size. CAS researchers who pay attention to information aspects of biological life, suppose that the edge of chaos has some close relation to self-organizing processes in living organisms. The proof presented here would contribute to such a theory that biological life utilizes digital phenomena. The proof shows that growth temination, rather than self-reproduction, is an essential property at the edge of chaos.
著者
稲垣 耕作
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.81, no.9, pp.1230-1237, 1998-09-25
被引用文献数
12

Kauffmanがランダムネットワークの解析で発見した平方根の法則性は, 複雑適応系の分野で代表的な仮説の一つである.本論文ではそれを知能の分野とも統合し, 漸化形の超指数法則とした創発仮説を提案する.パターン認識やニューラルネットワーク, 分子生物学分野のデータなどで, この仮説が成り立つ可能性を検討する.またKauffmanのランダムネットワークにおいて秩序が発生するためには, 計算万能性が必要条件であることを証明する.本論文で述べる基本万能性は, 従来の物理学で説明できず情報学によって説明できる自然法則というべきものであり, その本質は非線形性とネガティブフィードバックであると解釈できる.カオスの縁における計算万能性の存在は有名な予想であり, 本論文はKauffmanモデルにおいてそれを証明したことになる.
著者
稲垣 耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.53-61, 1997-09
被引用文献数
4

著者は複雑系の分野で創発仮説を提唱している。創発仮説における超指数法則は自然界のみならず, 社会における自己組織化と進化, 産業分野における技術革新や収穫逓増則などにおいても隠された法則となっている可能性がある。本論文では著者が1980年代半ばから提案してきたコンピュータの30年周期説を取り上げ, この説が超指数法則を元にして提案されたものであることを述べるとともに, いくつかの側面からその妥当性を検討する。コンピュータの30年周期説に基づけば, 21世紀初頭にはコンピュータは更に一段の進化を遂げる可能性がある。また情報ネットワークというコミュニティウェアにおける新文化の発生を含めた創発現象が今後の興味ある問題であると考える。