- 著者
-
米田 政明
間野 勉
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.1, pp.79-95, 2011 (Released:2011-07-27)
- 参考文献数
- 109
- 被引用文献数
-
8
日本のクマ類(ツキノワグマとヒグマ)は,その生物学的特性および社会的要請から,狩猟獣の中でも保護管理に特に注意が必要な種である.クマ類の保護管理では,捕獲数管理のため個体数あるいはその動向把握が不可欠であることから,クマ類の個体数推定法に関するレビューを行った.クマ類の個体数調査のため,これまでに,聞き取り調査法などいくつかの方法が適用されてきた.捕獲数は実際の個体数変動よりも,堅果類の豊凶など環境変動による生息地利用の変化および捕獲管理政策の影響を強く受ける.直接観察法は,積雪状態など環境条件が個体発見率に影響する.痕跡調査法は,相対密度や個体群動向把握には利用できても,絶対数推定は困難である.採取した体毛のDNAマーカ個体識別に基づくヘア・トラップ法は,現状ではコスト面での優位性は低いが,高精度の個体数推定を行うには適した方法と考えられる.ツキノワグマを対象とした特定鳥獣保護管理計画を作成している全国17府県のうち6県は,ヘア・トラップ法による個体数推定を行っている.以上のような様々な調査法で行われた21府県におけるツキノワグマ推定生息数と,その府県の捕獲割合から推定したツキノワグマの全国推定個体数は,最小推定数が13,169頭,最大推定数が20,864頭となった.地方自治体(都道府県)および国による継続的な個体数調査によって,この全国の推定個体数の確度を検証しその変化をモニタリングしていく必要がある.費用対効果の観点からは,高精度の個体数調査と簡便な代替法・補完法の組み合わせが提案される.