著者
荻原 眞子
出版者
千葉大学ユーラシア言語文化論講座
雑誌
千葉大学ユーラシア言語文化論集 = Journal of Chiba University Eurasian Society (ISSN:21857148)
巻号頁・発行日
no.20, pp.5-14, 2018-12-25

[ABSTRACT] The paper focuses on the different appearances of the soul in the Mongolian epic Geser Khan (edition of Japanese translation by Hiroshi Wakamatsu, 1993.) Geser as well as the multi-headed antagonist takes very many various features of souls by means of transformation, incarnation, creation of "the other self" clone. Usually the souls of the antagonists are hidden in secret that Geser has to find and perish. Here the decisive roles are played by the brides of the hero Geser. At the same time the heroines-brides are the spiritual guardian of Geser, warriors in case of need. It seems that the diversity of soul appearance and female roles are, roughly speaking, common features in the heroic epics of the northern peoples. Consequently it could serve as means for the comparative study of the heroic epics in Eurasia, including the Yukar of the Ainu.
著者
荻原 眞子
出版者
北海道立北方民族博物館
雑誌
北海道立北方民族博物館研究紀要 (ISSN:09183159)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.135-138, 2004

【追悼】アンナ・ヴァシーリエヴナ・スモリャーク先生が昨2003年6月23日に亡くなられた。享年84才。先生は1993年に北海道立北方民族博物館(以下、同館)で開催された第8回北方民族文化シンポジウム「北方針葉樹林帯の人と文化」に出席され、「アムール川流域およびサハリン先住民における民族起源と社会構造に関する諸問題」という報告をされた。もう10年余も前のことになる。爾来、先生は折に触れ、このときの日本での思い出を懐かしがられ、よく口にされていた。筆者がお目にかかった最後は1999年の初夏、モスクワの民族学研究所であった。ちょうど、第3回ロシア人類学・民族学学会と国際シャマニズム会議とが同時に開催され、シャマニズム会議の初日が研究所で行われたときのことである。先生は明るい性格の、おしゃべりのお好きな方で、こと、学問の話になると時と場所におかまいなく次からつぎへどこまでも尽きることなく関心を拡げられた。それは、日本からの国際電話でも同じことで、投げかけられた問題にお答えするには、そのためだけにモスクワヘお訪ねするしかないと思う程である。お教え願いたいこと、お聞きしておきたいことがたくさんあった。今一度、お目にかかれずじまいになったことが、残念で悔やまれる。スモリャーク先生はソヴィエト時代の民族学界を担われた重鎮の一人で、特に、アムール・サハリン地域の民族学では多大の業績を残された。先生の研究者としての学問形成については、モスクワ大学の民族学部においてS.A.トカレフ、M.O.コスヴェン、N.N.チェボクサロフ、M.L.レーヴィン、G.F.デベッツという鉾々たる民族学者や人類学者の教えを受けられ、また、A.P.オクラードニコフの指揮するアムール川沿岸での考古学調査などにも参加されたことを記すに止めよう。フィールドワークは1957年のウリチ、ニヴフの調査にはじまり、60~80年代を通じ調査対象はアムール川地域のナーナイ、オロチ、ウデゲ、サハリンのニヴフ、ウイルタ、さらにはエヴェンキ、カムチャトカのパレオアジア諸族に及んでいる。主著の一つで基盤的な研究であったのはモノグラフ『ウリチー古今の生業、文化および習俗」(1966) であるが、先生の関心はアムール・サハリン地域の歴史民族学にあり、方法としては多岐多様にわたる個別の問題を取りあげ比較検討を重ねながら烏瞰的にこの地域の民族関係を見通し、究極的にはその民族起源を解明することにあったと云って誤りではなかろう。ところで、スモリャーク先生は1993年に来日された折に、ご自分のフィールドワークの成果の一部である写真と録音テープを同館に寄贈された。写其(プリント)167点は同館の尽力により『A.V. スモリャーク氏寄贈資料目録~ニブフ・オロチ・ウリチ・ナーナイ~』として刊行された。この冊子が呼び水となり、2001年には表記の浩瀚な写真集が出版された。先生はこの寄しき因縁をたいへん喜んでおられた。本書には、民族学者としての生涯においてもっとも充実していたと思われる時期にフィールドワーカーの目で撮られた写其の、おそらくは、大部分が収められている。調査期間は通常最低でも3ヶ月であったという[Батьянова 2000: 24] 。本書の一端をここに紹介し、先生への追悼の意を表したいと思う。
著者
佐々木 史郎 小谷 凱宣 荻原 眞子 佐々木 利和 財部 香枝 谷本 晃久 加藤 克 立澤 史郎 佐々木 史郎 出利葉 浩司 池田 透 沖野 慎二
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、北海道内の博物館に収蔵きれている、アイヌ民族資料の所在を確認し、その記録を取るとともに、その資料が収蔵された歴史的な背景を解明することを目的としていた。本研究で調査対象としたのは、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園(北大植物園)、函館市北方民族資料館、松前城資料館である。この3つの博物館が調査の対象とされたのは、資料の収集経緯に関する記録が比較的よく残されていたからである。3年にわたる調査の結果、北大植物園が所蔵する2600点に及ぶアイヌ文化関連の標本資料全点と松前城資料館が所蔵する320点余りの資料の全点について調書が作成され、写真が撮影された。また、函館市北方民族資料館では約700点(総数約2500点の内)の資料について、調書作成、写真撮影を行った。その結果、総計約3500点を超えるアイヌ文化の標本資料の詳しい調書と写真が作成された。本科研での調査研究活動では、標本資料の熟覧、調書作成、写真撮影にとどまらず、当該資料が各博物館に所蔵された経緯や背景も調べられた。植物園の資料の収集には、明治に北海道開拓指導のためにやってきた御雇外国人が関わっていたことから、彼らに関する史料をアメリカの図書館に求めた。調査の過程で、これらの博物館、資料館の資料が、明治から大正にかけての時代に収集されていたことが判明した。それは時代背景が明らかな欧米の博物館に所蔵されているアイヌ資料の収集時期と一致する。本科研の調査により、以上の3つの博物館のアイヌ資料は、すでに数度にわたる科研で調査された欧米の博物館の資料に匹敵するほどの記録と情報を備えることになった。それは、記録がない他の国内の博物館のアイヌ資料の同定、年代決定の参照に使えるとともに、アイヌ文化の振興と研究の将来の発展に大きく寄与することになるだろう。
著者
三浦 佑之 栃木 孝惟 中川 裕 荻原 眞子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

多くの民族や地域において、口承文芸が衰亡に瀕し忘れられようとしている現在、一方では、国家的、民族的なアイデンティティ発揚のために英雄叙事詩が見直されている場合もあり、英雄叙事詩を学際的に考察することは緊要の課題である。しかも、ユーラシア大陸の西の果てから日本列島に至るまでのさまざまな民族に語り継がれてきた英雄叙事詩を考えることは、単に口承文芸研究という狭い領域にとどまらず、それぞれの民族や地域の言語・文化・歴史・生活の総体を見通すことだという点において重要であり、今回の共同研究「叙事詩の学際的研究」によって、我々は多くの知見を得ることができた。4年間にわたる研究期間に、我々は、20回以上の研究発表を行い、さまざまな議論を交わすことができた。そこで取り上げられた地域(あるいは民族)は、カザフ・ロシア・モンゴル・シベリア・中国東北部・アイヌ・日本など、ユーラシア全域を覆っていると言っても過言ではない。そして、その議論の中で、叙事詩や口承文芸の様式や表現について、多くの時間を割いて議論をくり返したのは当然であるが、その他にも、語り方や語り手、伴奏楽器の有無、その継承の仕方、語ることと書くことなどについても意見交換を行うことで、それぞれの地域や民族における差異と共通性について、多くの有益な成果を得ることができたのである。もちろん、今回の共同研究だけで、ユーラシアの叙事詩や口承文芸のすべてを理解したとは言えないが、興味深い研究発表と長時間の質疑を通して、我々が、今後の研究の大きな足掛かりを手に入れたのは間違いないことである。その成果の一端は、報告書『叙事詩の学際的研究』に収めた研究論文5篇と、口承資料の翻刻4篇に示されているが、今後も、その成果を踏まえて叙事詩研究を深めて行きたいと考えている。