- 著者
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川畑 幸夫
藤戸 誠
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.2, pp.37-44, 1951
本報文は,單に實用的見地から,台風接近の際に起る海面の上昇量と,最高水位の時刻を手輕に豫報せんとするもので,第5圖に示す如く,上昇量は大體其の季節の標準氣壓と台風の経路中の最低氣壓の差に比例し,同時に又台風が最も接近した時刻の距岸距離に逆比例する.それらを推定することにより豫報は量的に可成り正確に出來る.最高水位の時刻は本文中の表に示す如く,其の港で最低氣壓が起るときと殆んど同時と考えてよい.尤も距岸距離が著しく近く,γ→0の場合には,單に圖からは上昇量が無限大となることになるが,丁度うまい場合の資料がまだないのでよくわからない.最高水位の時刻は外洋に面した港では上述の如くなるが,大阪灣,東京灣等の如く灣口の狭い灣の奥では最低氣壓の起時より10數時間早いこともあり,おそいこともある.<br>災害の面から見ると,暴風に伴う風浪が亦極めて大切なものであるが,このような短周期の波を自記せしめる測器は現在まだないので,やむを得ず檢潮儀り記録を資料とした.このため上の結果には風浪が一切除外されている.換言すれば風津浪の高さの最低限を與えてあることになり,實際には,いつでも第5圖の高さ以上の波が押寄せるわけである.<br>台風又は低氣壓に伴う海面の上昇量は,台風が洋上遙が遠方にある場合,或はそれらの中心示度が弱い場合には主として靜水力學的吸上げの影響として量的に殆んど完全に説明せられ,風の影響は全く認められない.ビユ〓フォ〓ト階級4以下の風が何日間吹き續いても影響は殆んどない.台風が接近し風力がビユーフォート階級5以上になると風による吹寄せは急速に増大し,遂に吸上げの効果を遙かに上廻るようになる.最高水位の場合の風向は第4圖に示した.<br>然しながら長週期の海面の昇降に關しては,之等の台風の場合と違ひ,風の影響は決して無視出來ないものゝようであり,これについては別途に報告したい.