著者
西別府 元日
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、申請者がこれまでの研究で明らかにしてきた、古代社会の転換期としての「承和期」について、当該期の根本史料である『続日本後紀』の史料学的研究の基盤を確立するとともに、当該期にかかわる後世の史料や出土文字資料などにみえる史料の収集をとおして、古代社会の転換期としての「承和期」の実像を、より豊かにしていくことをめざしたのものである。このような課題を追究するため、(1)『続日本後紀』の諸写本の収集、諸写本間の検討による写本系統の確立と、善本を核にした本文校訂、(2)後世の記録・編纂物・儀式書などにみえる当該期に関係した史料の収集、(3)出土文字資料など9世紀の支配や社会生活にかかわる関係史料の収集をおこなうとともに、(4)『続日本後紀』の記事自体についてもその内容の吟味や事実関係の考察の深化などにつとめた。(1)に関しては、国立公文書館・国会図書館・尊経閣文庫・静嘉堂文庫・京都大学付属図書館・国文学資料館館などで『続日本後紀』写本の調査・複写などを実施し、今後の校合作業や書写系統に関する研究の基盤を確立することにつとめたが、一部機関で写真複写がみとめられず、今後の研究遂行のうえで若干の懸念となっている。(2)と(3)に関しては、収集史資料を整理・作成し研究成果報告書に「『承和期』編年史料集成(稿)」として掲載した。紙数の関係で一部割愛せざるをえない資料群もあったが、基本的な目的は達成できたと考える。今後は、さらに収集範囲を拡大して内容の充実をはかりたい。(4)の「承和期」の実像をより豊かなものにするという点では、後世とりわけ10世紀前半代における承和期を聖代とみる思潮の確認や、承和期における瀬戸内海での海賊問題、駅制・駅路の改編問題、対外関係などの諸事象について内容的な深化をはかることができた。このほか、国分寺と国司執行法会の関係、大宰府における官制の改編や、氏族の自己認識の変化などを現在検討中である。
著者
西別府 元日
出版者
広島史学研究会
雑誌
史学研究 (ISSN:03869342)
巻号頁・発行日
no.212, pp.1-24, 1996-06

This thesis treats of transformation of relationship between Dazaifu (大宰府 Kyushu regional office) officials and Provincial Governor of Saikaido (西海道 ancient name of Kyushu). The author thereby hopes to apply an different method.The Procincial Governors took the responsibility of tax payment to the central government and to receipt of official documents during his tenure. By then the provincial governor was release, and was transforred to another better post.But, the provincial governor of Saikaido stood at a disadvantege in that respect by Dazaifu. And they were imposed duty to rise Dazaifu official's Kugaito (公廨稲 income). In these circumstances, at the middle 9th century, Dazaifu official's order met with disregard by the provincial governor of Saikaido, and Dazaifu could not fullfil its administratie function.For that reason, Dajokan (太政官 the capital government) gave Dazai-no-daini (大宰大弐 the next seat position of Dazaifu) commission to exercise strict control over the provincial governor of Saikaido, and changed Dazaifu officials for the provincial governor of Saikaido. By the drastic measure, Dazaifu retrieved administratie function again.
著者
西別府 元日
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

奈良時代の交通システムの要である駅家制が衰退した平安時代中後期にも、国司による任国内の交通機能が維持されていた。公的な旅行者が朝廷から派遣されると、国司は、任国内の地方豪族や、国司の政務執行機関である国衙に出仕する役人(在庁官人)に、命令を下し、旅行者に食事と宿泊施設の提供(これらを供給という)を命じた。こうしたシステムを駅家雑事という。この駅家雑事を担う人びとは、食事を提供し宿泊をする施設を提供することによって一定の権益を獲得したものと考えられる。その実態については、史料的制約もあって、明確にしがたいが、こうした施設が恒常化することによって「宿」の原初的施設が誕生したと考えられる。
著者
狩野 充徳 岸田 裕之 勝部 眞人 妹尾 好信 高永 茂 伊藤 奈保子 本多 博之 西別府 元日 中山 富廣 有元 伸子 竹広 文明 古瀬 清秀 フンク カロリン 三浦 正幸 久保田 啓一 野島 永 瀬崎 圭二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

多くの伝承・伝説に包まれた世界遺産・厳島は、人間社会の傍らで、人びとの暮らしとともにあった。無文字時代には、原始的宗教の雰囲気を漂わせながら、サヌカイト・安山岩交易の舞台として。有史以後には、佐伯景弘らの創造した伝説を原点に、中世では信仰と瀬戸内海交通・交易の拠点として、近世では信仰と遊興の町として、近代では軍事施設をもつ信仰と観光の町としてあった。そして、それぞれの時代に、多くの伝承・伝説が再生産されていったのである。