著者
杉山 昌広 西岡 純 藤原 正智
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.577-598, 2011-07-31

気候工学(ジオエンジニアリング)は「人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変」である.緩和策・適応策の代替にはならないが,温室効果ガス排出削減がなかなか進まない中,地球温暖化が危険な水準に達してしまうリスクを踏まえ,昨今,気候工学は欧米を中心に注目を浴びている.IPCCの第5次評価報告書でもレビューの対象となった.気候工学は,太陽放射管理(SRM)と二酸化炭素除去(CDR)の二つに大別される.SRMは太陽入射光を減らすことで気温を低下させる.CDRは二酸化炭素のシンクを促進するか工学的回収をして地球温暖化の原因を除去する.例えば海洋に鉄を散布し光合成を促進させる手法が提案されている.数ある気候工学で最も注目されているのはSRMの一つである成層圏へのエアロゾル注入である.火山噴火後の気温低下が示すように物理的な裏づけがあるが,降水の地理的パターンを変えるなど副作用も懸念されている.成層圏エアロゾル注入を主な対象とする気候工学モデル相互比較実験GeoMIPも立ち上がった.地球温暖化対策とはいえ,気候を直接改変する考えには,さまざまな社会的な課題がある.気候工学は一国が実施すると地球全体の気候に影響がでるため,何らかの国際枠組を必要とする.短期的には自然環境での実験についてのガイドラインが不可欠であり,国際的な議論がはじまっている.
著者
木田 新一郎 栗原 晴子 大林 由美子 川合 美千代 近藤 能子 西岡 純
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.87-104, 2021
被引用文献数
4

<p>沿岸域において,今後10 年程度の期間で取り組むべき研究の方向性と意義,そしてその遂行に必要な研究基盤について論じた。沿岸域は外洋域と陸域を結びつける,フィルターかつリアクターとしての役割をもつ海域であると同時に,人間社会に身近であり,多様で生産性豊かな海域である。沿岸域の物質循環を理解し,将来にわたってその豊かな生態系を維持していくためには,物理・化学・生物が分野横断的に連結し,組織立ったプロセス研究を進める必要がある。変化の時空間規模が小さい沿岸域の現象を把握するには,観測データが依然として不足している。しかし,これまでの長期モニタリングデータに加えて新たな観測機器の開発,衛星観測の高解像度化,ドローンの登場によって状況は大きく前進しつつある。この現状をふまえて,今後必要と考える研究基盤と数値モデルの展望を議論した。</p>
著者
江淵 直人 中塚 武 西岡 純 三寺 史夫 大島 慶一郎 中村 知裕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

オホーツク海および北西北太平洋親潮域の高い海洋生物生産性を支えている物質循環のメカニズムを,海洋中層(400~800m)の循環と鉄の輸送過程に注目して,現場観測と数値モデルによる研究を行った.その結果,オホーツク海北西大陸棚起源の鉄分が,海氷の生成とともに作られるオホーツク海中層水によって移送され,千島海峡で広い深度層に分配された後,西部北太平洋に送り出されている様子が定量的に明らかとなった.
著者
西岡 純
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.19-36, 2006-01-05

サイズ分画測定法を用いて外洋海域における鉄の存在状態を研究した。その結果, 従来"溶存態"と定義されてきた画分中にはコロイド状鉄が含まれており, 海水中の植物プランクトンによる鉄の利用過程や地球化学的鉄の循環を理解するために重要な画分であることを示した。また, 国際共同プロジェクトとして, 北太平洋亜寒帯域の西部および東部で現場鉄散布実験を行ない, 大気から供給される鉄が他海域より多いと考えられる西部海域においても, 鉄の不足が生物生産を制限する要因であることを明らかにした。さらに, 西部海域が鉄制限海域になるプロセスとして, 供給された鉄が, 速やかに植物プランクトンが利用しづらい形態に変化してしまうことが重要であることを示した。海洋における鉄の生物地球化学的な研究は, 自然海域における生物生産の諸過程を理解するためには欠かせない分野と成りつつある。本稿では, 著者がこれまでに展開してきた, 海水中の鉄の存在状態と鉄が生物生産に果たす役割に関する研究の一部を紹介した。
著者
西岡 純
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、冬季に砕氷船を用いた観測を実施し、得られたオホーツク海の海氷サンプルの化学分析を実施した。海氷中には高い濃度で大陸棚由来の鉄分が取り込まれており、オホーツク海の海氷が鉄など微量栄養物質を移送するのに大きな役割を果たしている事が示された。海氷が融解する際には、海洋表層の主要栄養塩は希釈されるが、鉄分は付加される傾向にある事が明らかとなった。本研究の結果から、海氷の広がりは、極域・亜極域の栄養物質の循環に大きな影響を与え、春季の生物生産の質や量を変化させている事が示された。
著者
安田 一郎 羽角 博康 小松 幸生 西岡 純 渡辺 豊 中塚 武 伊藤 幸彦 建部 洋晶 勝又 勝郎 中村 知裕 広江 豊 長船 哲史 田中 祐希 池谷 透 西川 悠 友定 彰
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

千島列島やアリューシャン列島海峡域において、中深層に及ぶ通常の数千倍の乱流鉛直混合の存在を、観測によって実証した。この大きな潮汐鉛直混合は、鉄や栄養塩等の物質循環を通じて、親潮など北太平洋亜寒帯海域の海洋生態系に大きな影響を与える。さらにその潮汐混合が18.6年周期で変動することによって生じる海洋変動が、日本東方海面水温とアリューシャン低気圧等の大気海洋相互作用を通じて増幅し、太平洋規模の気候・海洋の約20年変動に影響することが、観測・モデルの両面から明らかとなった。