著者
源馬 均 佐藤 篤彦 千田 金吾 岡野 昌彦 岩田 政敏 安田 和雅 谷口 正実 山崎 晃 立田 良廣 西村 和子
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.710-717, 1991-06-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
24

超音波加湿器による過敏性肺炎の2例を報告した. 両例とも環境誘発試験陽性であり, 同試験後早期のBALは好中球増多を示し, 第1例では病理組織学的にも胞隔内に好中球浸潤が認められた. 第1例では加湿器の水の培養を施行しえなかったが, 皮内反応, 沈降抗体, 吸入試験の成績から Aspergillus fumigatus が起因抗原と考えられた. 第2例では水の培養および沈隆抗体から抗原として Acremonium が疑われた. 従来, 加湿器肺の抗原として好熱性微生物が重視されていたが, 超音波加湿器による本報告例ではその関与を示唆する所見は得られなかったことから, 本症の抗原検索にあたっては加湿器の機構にも留意すべきと考えられた.
著者
上原 雅江 佐野 文子 鎗田 響子 亀井 克彦 羽毛田 牧夫 井出 京子 永井 啓子 高山 義浩 西村 和子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.205-209, 2008 (Released:2008-08-09)
参考文献数
21
被引用文献数
6 5

2006年本邦において,タイ人AIDS患者の血液培養よりPenicillium marneffei が分離された.本菌種による感染報告例は本症例が3例目となるが,培養に成功した例はわが国では初めてと考えられる.患者は,41歳,タイ東北部出身の女性で,約10年前に来日.その後もしばしば一時帰国していた.AIDS治療中に発熱のために行った血液培養より,培養初期に白色,やがて暗赤色となる集落が分離され,菌学的および分子生物学的手法によりP. marneffei と同定され,患者はマルネッフェイ型ペニシリウム症と診断された.アムホテリシンBおよびミカファンギンの投薬により患者は回復し,引き続き通院し経過を観察された.分離株をサブロー・ブドウ糖寒天平板培地にて25℃で培養した集落は,初め白色フェルト状で,次第に黄色から黄緑色となり,さらに培地内に深紅色色素を拡散した.分生子頭は散開性で,その先端に分生子の連鎖を形成していた.ブレイン・ハート・インフュージョン寒天斜面培地にて35℃で培養すると,細かい襞のある灰白色膜様集落を形成し,顕微鏡的には短菌糸より構成されていた.なお,本分離株のリボゾームRNA遺伝子internal transcribed spacer領域の配列は,既知株と100%一致し,DDBJにAB298970として登録されている. 臨床検査分野においては,今後HIV感染症の拡散と人々の移動のグローバル化に伴い,病原性輸入真菌症に遭遇する危険性が高まることが予測され,専門機関との連携を含め,初期対応が可能となるような体制作りが必要であると考える.
著者
西村 和子
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
真菌と真菌症 (ISSN:05830516)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.122-131, 1982-08-20 (Released:2009-12-18)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

病原性黒色酵母 Exophiala jeanselmei, E. gougerotii, E. dermatitidis および E. spinifera の分生子形成法を走査電顕を用いて検索し, Phialophora richardsiae. P. parasitica および P. repens のそれと比較検討した. Exophiala の前3菌種の分生子形成法はほぼ同じで, 分生子形成細胞先端に生じた1ないし数個の小突起より分生子が連続的求基的に産生されていた. 小突起は少しずつ伸びながら分生子を産生し, その壁には分生子が離れる度にレースの縁飾り状の環紋が形成されていた. 菌糸側壁においても同様の機序で分生子が産生され, 環紋が形成されていた. E. spinifera の分生子形成も同様であつたが, 小突起は分生子形成細胞あるいは菌糸側壁に1個ずつ生じ,長く多数の環紋が認められるのが特徴であつた. これら Exophiala の分生子形成法は Phialophora のそれとは明らかに異なつていた. E. jeanselmei, E. gougerotii は共に37℃における発育が抑制され, 生物学的性状においても差は認められなかつた. E. dermatitidis は37℃にて良好に発育し, KNO3資化能が劣つている点で前2菌種と異なつていた. Exophiala 4菌種はウレアーゼ陽性, GC含量は50~60%であつた. 分生子形成法に関する所見および生物学的性状, GC含量の結果から, Exophiala と担子菌酵母との関連性が示唆された.
著者
矢口 貴志 田中 玲子 西村 和子 宇田川 俊一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.51, 2005

2004 年,de Hoog 等が ITS 領域の系統解析で <I>Fonsecaea</I> 属を <I>F. pedrosoi</I> と新規提唱の <I>F. monophora</I> に分け,伝統的な分類における <I>F. pedrosoi</I> と <I>F. compacta</I> とは一致しないと報告した.そこで,当センター保存の臨床および食品由来の <I>Fonsecaea</I> 属に含まれる菌株について ITS 領域の塩基配列を決定し,既存のデータと合わせ系統解析を実施した.その結果,2 つの主要なグループに分かれ,日本産の分離菌は <I>F. monophora</I> と同じグループに類別された.このグループは,<I>F. pedrosoi</I>,<I>F. compacta</I> の代表株とは系統的にはっきりした違いを示し,de Hoog 等の" B タイプ",Tanabe 等の ITS-RFLP 解析による"タイプ 2 "にほぼ一致した.さらにこのグループは 2 つのサブグループに分かれ,その 1 つに日本産の菌株がすべて含まれ,もう一方のグループに南米由来の株が含まれていた.この結果は,日本産の <I>F. pedrosoi</I> が de Hoog らが示した <I>F. monophora</I> であることを示唆している.しかし,ITS 領域のみの結果から断定することは控えて,さらに複数の遺伝子解析の実施結果から判断したいと考える.
著者
高橋 英雄 高橋 広志 高橋 容子 鎗田 響子 猪股 智夫 佐野 文子 西村 和子 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.152, 2005

2005 年 9 月 1 日より輸入動物の検疫体制が整う予定であるが,すでに輸入された動物が保菌している病原体は世代を超えて感染が広がっている.今回,国内の動物園で繁殖し飼育されている 5 ヶ月齢のカナダヤマアラシに <I>Arthroderma benhamiae</I> による脱毛が発症した.同居している母個体はカナダ,父個体はアメリカ合衆国から輸入されたもので,無症状であったが,同菌種を保菌していた.分離菌株は当該獣より 4 株,母獣より 5 株,父獣より 2 株分離され,いずれも形態,rRNA 遺伝子の ITS 領域の配列,<I>A. benhamiae</I> Americano-European race との交配成立から同種と同定した.11 株のうち 42℃ で生育可能であった株は母由来 1 株,ITS 領域の配列は母由来 2 種,他は 1 種で GenBank 登録配列とは一致せず,RAPD バンドパターンも複数種確認した.この家族内感染は国内未確認の遺伝子型をした <I>A. benhamiae</I> 複数株によるものであった.なお,同動物園ではふれあい動物園を併設していることから,飼育しているげっ歯目および食虫目動物 33 頭について皮毛を培養したが,本菌種は分離されなかった.<I>A. benhamiae</I> によるヒト感染は命に関わる疾患ではないが,この家族内保菌・感染はすでに輸入された個体が我が国に無い病原体を保持し,それを次世代に伝播している一例である.他の真菌,原虫,細菌,ウイルスによる感染症も同様な状況が推測されるため,人と動物の共通感染症の予防にはすでに輸入された動物にも細心の注意が必要である.
著者
西村 和子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.385-391, 1994-11-15 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

コロンビア,ベネズエラ,ブラジルおよび中国において採集された土壌,腐植植物より病原性黒色真菌の分離が試みられた結果,南米3ヶ国の試料よりFonsecaea pedrosoi, Exophiala spp., Cladosporium trichoidesが少数,E. spiniferaとPhialophora verrucosaが相当数分離された.ベネズエラのC.carrioniiによるクロモミコーシス多発地帯ファルコン州からは特徴的にC.carrioniiが腐植植物から分離された.中国の試料はC.carrionii感染の多発地帯である山東省で収集されたが,本菌種は分離されなかった.しかしながら,F.pedrosoiが少数,P.verrucosaが多数,両アメリカ大陸以外では初めてE.spiniferaが,また新たな病原性黒色真菌としてVeronaea botryosaが相当数分離された.一方,日本の浴室環境にはもっぱらExophiala属菌が分布していた.