著者
上原 雅江 佐野 文子 鎗田 響子 亀井 克彦 羽毛田 牧夫 井出 京子 永井 啓子 高山 義浩 西村 和子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.205-209, 2008 (Released:2008-08-09)
参考文献数
21
被引用文献数
6 5

2006年本邦において,タイ人AIDS患者の血液培養よりPenicillium marneffei が分離された.本菌種による感染報告例は本症例が3例目となるが,培養に成功した例はわが国では初めてと考えられる.患者は,41歳,タイ東北部出身の女性で,約10年前に来日.その後もしばしば一時帰国していた.AIDS治療中に発熱のために行った血液培養より,培養初期に白色,やがて暗赤色となる集落が分離され,菌学的および分子生物学的手法によりP. marneffei と同定され,患者はマルネッフェイ型ペニシリウム症と診断された.アムホテリシンBおよびミカファンギンの投薬により患者は回復し,引き続き通院し経過を観察された.分離株をサブロー・ブドウ糖寒天平板培地にて25℃で培養した集落は,初め白色フェルト状で,次第に黄色から黄緑色となり,さらに培地内に深紅色色素を拡散した.分生子頭は散開性で,その先端に分生子の連鎖を形成していた.ブレイン・ハート・インフュージョン寒天斜面培地にて35℃で培養すると,細かい襞のある灰白色膜様集落を形成し,顕微鏡的には短菌糸より構成されていた.なお,本分離株のリボゾームRNA遺伝子internal transcribed spacer領域の配列は,既知株と100%一致し,DDBJにAB298970として登録されている. 臨床検査分野においては,今後HIV感染症の拡散と人々の移動のグローバル化に伴い,病原性輸入真菌症に遭遇する危険性が高まることが予測され,専門機関との連携を含め,初期対応が可能となるような体制作りが必要であると考える.
著者
亀井 克彦 落合 恵理
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.47-51, 2008 (Released:2008-04-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

屋内環境中には多種多様な真菌が生息している。これらの真菌の多くはマイコトキシンを産生するが、マイコトキシンとヒト疾患との関連性については未解明の点が多い。例外としては、近年、Aspergillus fumigatus によって産生されるグリオトキシンがアスペルギルス症の発症に関与していることが明らかにされた例がある。Stachybotrys chartarum は住環境内でも見受けられるほど広範に分布する真菌である。この真菌の吸入によって乳児特発性肺出血が惹起される可能性が報告されているが、その詳細は未だ明らかになってはいない。S. chartarum はトリコテセンのような種々の二次代謝産物を産生することから、我々は本菌の反復吸入がヒトの肺に何らかの影響を与えるものと考えた。S. chartarum を長期間吸入することによる影響を明らかにするために、我々は2週間に3回の頻度で本菌の胞子をマウスに経気管的に反復投与した。その結果、病理組織学的検討によってマウスで肺高血圧が惹起されることが明らかになった。これらのマウスでは肺動脈壁が肥厚し、内腔の狭窄や閉塞が生じていた。さらに、右室圧の上昇も確認された。トリコテセン産生の有無が異なるS. chartarum の株を用いた検討では、トリコテセン産生株を投与した場合で肺高血圧が惹起され、肺動脈病変の形成にはトリコテセンが関与する可能性が示唆された。このことについては今後更なる検討を行う必要がある。
著者
光井 卓 清水 奈保子 田中 雄悟 大路 剛 亀井 克彦 眞庭 謙昌
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.57-61, 2020-01-15 (Released:2020-01-15)
参考文献数
15

症例は46歳女性.中米を拠点として中南米で勤務している.健診で胸部異常陰影を指摘され,CT検査で右肺下葉に辺縁明瞭な2 cmの小結節が認められた.現地でCTガイド下生検術を施行されるも悪性所見は認めず,抗酸菌,真菌の感染所見も認めなかった.精査目的で帰国後,前医で気管支鏡検査を施行されるも壊死のみで診断がつかず,肺生検目的で当科に紹介となった.胸腔鏡下右下葉部分切除術を施行し,術中迅速検査にて悪性所見は認めず,炎症性肉芽腫の診断であった.検体は黄白色調,凝固壊死を伴った類上皮肉芽腫であり,病理診断では抗酸菌染色は陰性,Grocott染色で類円形,楕円形の酵母様真菌が認められた.術後血清H. capsulatum陽性を確認し,肺ヒストプラズマ症と診断した.免疫正常者であり,無症状であることからIDSAガイドラインに則り,経過観察となった.術後20ヵ月現在,感染の再燃なく経過している.
著者
日野 もえ子 石和田 稔彦 青木 孝浩 岡田 玲緒奈 奥主 朋子 大楠 美佐子 渡邉 哲 亀井 克彦 下条 直樹
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.171-176, 2018

<p>小児がん患者では,真菌感染症が疑われる場合でも,真菌の分離同定はしばしば困難であり臨床経過により診断治療が行われることが多い.2004年1月から2014年12月までに当科で治療を受けた小児血液がん患者6人より分離同定された糸状菌2株,酵母5株に関し,薬剤感受性試験を行い,分離同定することの意義について後方視的に検討した.糸状菌はいずれも耳漏より検出された.1例では好中球抑制期間に外耳炎を繰り返し,<i>Aspergillus terreus</i>が同定された.薬剤感受性試験の結果よりミカファンギン(MCFG),ボリコナゾール(VRCZ)を併用し造血幹細胞移植を行った.酵母はすべてカンジダで,血液より分離同定された.<i>Candida tropicalis</i>分離例は治療開始後にβ-Dグルカンの上昇,脾膿瘍の悪化を認めたが感受性試験にてMCFG感受性良好であることを確認し治療遂行できた.<i>C. parapsilosis</i>,<i>C. glabrata</i>分離例はいずれもMCFG投与下のブレイクスルー感染であった.MCFG感受性良好として知られている<i>C. glabrata</i>に関しては薬剤感受性試験の結果,キャンディン系薬剤に対するMICの上昇が確認された.近年米国でもキャンディン系耐性カンジダが問題となっており,今後小児がん患者においても,治療効果が思わしくない際には薬剤感受試験を行うことが必要だろう.</p>
著者
高橋 英雄 高橋 広志 高橋 容子 鎗田 響子 猪股 智夫 佐野 文子 西村 和子 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.152, 2005

2005 年 9 月 1 日より輸入動物の検疫体制が整う予定であるが,すでに輸入された動物が保菌している病原体は世代を超えて感染が広がっている.今回,国内の動物園で繁殖し飼育されている 5 ヶ月齢のカナダヤマアラシに <I>Arthroderma benhamiae</I> による脱毛が発症した.同居している母個体はカナダ,父個体はアメリカ合衆国から輸入されたもので,無症状であったが,同菌種を保菌していた.分離菌株は当該獣より 4 株,母獣より 5 株,父獣より 2 株分離され,いずれも形態,rRNA 遺伝子の ITS 領域の配列,<I>A. benhamiae</I> Americano-European race との交配成立から同種と同定した.11 株のうち 42℃ で生育可能であった株は母由来 1 株,ITS 領域の配列は母由来 2 種,他は 1 種で GenBank 登録配列とは一致せず,RAPD バンドパターンも複数種確認した.この家族内感染は国内未確認の遺伝子型をした <I>A. benhamiae</I> 複数株によるものであった.なお,同動物園ではふれあい動物園を併設していることから,飼育しているげっ歯目および食虫目動物 33 頭について皮毛を培養したが,本菌種は分離されなかった.<I>A. benhamiae</I> によるヒト感染は命に関わる疾患ではないが,この家族内保菌・感染はすでに輸入された個体が我が国に無い病原体を保持し,それを次世代に伝播している一例である.他の真菌,原虫,細菌,ウイルスによる感染症も同様な状況が推測されるため,人と動物の共通感染症の予防にはすでに輸入された動物にも細心の注意が必要である.
著者
亀井 克彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1620-1622, 2009-12-15

スエヒロタケ(Schizophyllum commune)は文字通りキノコ(真正担子菌)の一種である.キノコは真菌の仲間であるが,ヒトに感染あるいは定着するキノコは大変少ない.これまでにスエヒロタケやCoprinus cinereus(和名:ヒトヨタケ)など数種類が知られているに過ぎず1),大部分の症例はスエヒロタケによって占められている.スエヒロタケは決して珍しいキノコではなく,全国各地の朽ち木などで頻繁に見ることができる(図1)が,わが国では食用には用いない. 本菌による感染は,わが国では大部分がアレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis;ABPM)であり,拡張した気管支内に本菌が定着して,Ⅰ型あるいはⅢ型のアレルギー反応により気管支粘液栓子(図2)を形成したり,無気肺,好酸球性肺炎,気管支喘息などを引き起こす(図3).気管支喘息の合併はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA)に比べると比較的少ない.欧米ではアレルギー性副鼻腔真菌症(allergic fungal rhinosinusitis;AFRS)の報告が多く2),また稀に侵襲性の感染を起こすこともある3).組織内の本菌の菌糸はアスペルギルス症に酷似しており,鑑別は容易でない(図4).本菌によるABPMは1989年に初めて報告されて以来4),急速に増加し,数多く報告されており5),臨床検査において遭遇する機会も多くなってきた.
著者
高橋 英雄 植田 啓一 宮原 弘和 渡辺 紗綾 内田 詮三 鎗田 響子 村田 佳輝 板野 栄子 高山 明子 西田 和紀 猪股 智夫 矢口 貴志 佐野 文子 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.34, 2007

水族館飼育下イルカのnon-<I>albicans Candida</I> spp.保菌が健康管理および観客への安全上問題となっているので、飼育されているイルカ20頭の呼気と飼育プール水の病原性酵母叢を昨年8月および本年2月に調査した。さらに飼育関係者24名の口腔内と観客席空中浮遊菌の病原性酵母叢の調査を本年2月に行った。保菌イルカは14頭 (70%)、分離株は<I>C. albicans</I>、<I>C. tropicalis</I>、<I>C. glabrata</I>で、1頭を除き2回の調査とも保有菌種は同一で、大多数の株はアゾール薬に耐性傾向を示した。また、4個体は1呼気あたり数十から数百の病原性酵母を噴出していた。飼育プール水の検査では8箇所中5ヵ所から<I>C. albicans</I>および<I>Candida</I> spp. など、飼育関係者の口腔からは24名中5名から<I>C. albicans</I>および<I>Candida</I> spp. などが分離され、一部にアゾール薬に耐性傾向を示す株も含まれていた。観客席空中からは<I>Candida</I> spp.など数株の酵母が分離された。しかし、病原性酵母を噴出しているイルカの呼気が観客に直接かかるような状況はなく、実際に観客席空中からイルカとの共通菌種が分離されなかったため、イルカショーで発生するエアロゾルによる観客への影響は少ないと思われる。一方、イルカ、飼育環境、飼育関係者との間では<I>C. albicans</I>が共通して分離されていたので、現在,遺伝子パターンの解析を進めている。また、イルカの真菌保有の有無は健康状態の指標となりうると思われた。
著者
佐野 文子 伊藤 桂子 宮治 誠 香本 頴利 小川 浩也 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第49回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.124, 2005 (Released:2005-09-07)

抗真菌活性をもつ漢方生薬としてオウバク末,キキョウ根末,センキュウ末,クレンピ末,オウゴン末を含む 17 種の漢方生薬配合薬(新中森獣医散®,中森製薬株式会社,宮崎県)は元来動物の消化器疾患の治療を目的とする薬剤であったが,粉末を当量の水とまぜてペースト状にし,Trichophyton verrucosum に感染しているウシの皮膚に連日 4 日間塗布したところ著効し,治療開始後 15 日以内に鱗屑の脱落を観察,1 ヶ月後には発毛し,治癒したという報告がある.そこで今回,人獣共通真菌症原因菌に対するこの配合薬の in vitro での抗真菌作用を調べた.配合薬のエキスは濃い褐色のため液体培地による希釈法が応用できないため,平板培地における集落の直径を測定する方法で検討した.配合薬 0.1,0.3,1.0,3.0,10.0%(V/W)の割合で添加した 1/10 サブロー平板培地に皮膚糸状菌 6 菌種 9 株,日和見真菌症原因菌 7 菌種 9 株を 1 点平板中央に接種して,25℃ もしくは 35℃ で 2 ないし 6 週間培養し,集落の直径を薬剤無添加培地と比較した結果,T. verrucosum, T. mentagrophytes,T. rubrum, T. tonsurans, Microsporum canis, Histoplasma capsulatum, Cryptococcus neoformans, Malassezia pachydermatis には 0.3-1.0% 濃度で発育抑制もしくは発育阻止効果を認めた.一方,Candida albicans, Alternaria alternata, Schizophillum commune, T, mentagrophytes var. erinacei および M. gypseum では 3-10% 薬剤添加培地での発育抑制効果を認めたが,Aspergillus fumigatus には効果を示さなかった.本配合薬は T. verrucosum に対する発育抑制ならびに阻止効果は大であり,外用薬としてウシの皮膚糸状菌症に有効であることが in vitro での活性からも証明できた.また多くの人獣共通真菌症原因菌種にも有効であった.
著者
小豆畑 康児 川名 秀忠 東 守洋 東 和彦 若新 英史 大矢 佳寛 佐野 文子 亀井 克彦 張ケ谷 健一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第49回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.176, 2005 (Released:2005-09-07)

症例は 70 歳の米国人男性。来日前から中耳炎と難聴があり、来日後は咳、発熱が続いていた。某院に通院、その後、入院していたが、症状が悪化し、千葉大学医学部付属病院に転院した。血尿・蛋白尿が出現し、C-ANCA も陽性だったことから Wegener 肉芽腫症の診断がなされ Cyclophosphamide 及びステロイドによる治療が行われた。治療開始から約一ヵ月後、胸水の出現とその増加があり、上肺野には斑状影を認めた。胸水培養より特定できない真菌が検出されたため、千葉大学真菌医学研究センターにおいて精査したところ、血清抗体価、PCR、DNA シークエンスなどから Coccidioides immitis と判明した。これに対し、抗真菌薬による治療を行ったが、肺症状の悪化と低酸素血症が続いた。その後、全身状態も悪化し、胸水の出現から約一ヶ月半で死亡した。千葉大学において病理解剖が実施され、検索の結果、肺・肝臓・脾臓に内生胞子を充満したコクシジオイデスの球状体が見られた。
著者
渡辺 哲 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.103-104, 2013 (Released:2013-06-11)
参考文献数
4
著者
亀井 克彦 落合 恵理
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.47-51, 2008-01-31
被引用文献数
1

屋内環境中には多種多様な真菌が生息している。これらの真菌の多くはマイコトキシンを産生するが、マイコトキシンとヒト疾患との関連性については未解明の点が多い。例外としては、近年、<i>Aspergillus fumigatus</i> によって産生されるグリオトキシンがアスペルギルス症の発症に関与していることが明らかにされた例がある。<i>Stachybotrys chartarum</i> は住環境内でも見受けられるほど広範に分布する真菌である。この真菌の吸入によって乳児特発性肺出血が惹起される可能性が報告されているが、その詳細は未だ明らかになってはいない。<i>S. chartarum</i> はトリコテセンのような種々の二次代謝産物を産生することから、我々は本菌の反復吸入がヒトの肺に何らかの影響を与えるものと考えた。<i>S. chartarum</i> を長期間吸入することによる影響を明らかにするために、我々は2週間に3回の頻度で本菌の胞子をマウスに経気管的に反復投与した。その結果、病理組織学的検討によってマウスで肺高血圧が惹起されることが明らかになった。これらのマウスでは肺動脈壁が肥厚し、内腔の狭窄や閉塞が生じていた。さらに、右室圧の上昇も確認された。トリコテセン産生の有無が異なる<i>S. chartarum</i> の株を用いた検討では、トリコテセン産生株を投与した場合で肺高血圧が惹起され、肺動脈病変の形成にはトリコテセンが関与する可能性が示唆された。このことについては今後更なる検討を行う必要がある。