- 著者
-
西村 忠己
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.124, no.5, pp.742-747, 2021-05-20 (Released:2021-06-02)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
-
2
軟骨伝導は気導, 骨導とは異なる特徴を持つ伝導様式で, さまざまな音響機器や医療機器への応用が期待される. 最も進んでいるのが補聴器への応用で, 軟骨伝導補聴器は2017年に実用化された. その大きな特徴は骨導とは異なる振動子とその固定方法にある. さまざまな難聴に対して有効であるが, その効果が最も期待されているのが外耳道閉鎖症などの気導補聴器で対応が難しい難聴に対しての補聴である. 骨導補聴器と比較して装用感, 審美性, 安定性に優れ, さらに手術が不要で, 試聴した多くの症例が装用の継続を希望する. 片側性の外耳道閉鎖症では従来介入が積極的に行われてこなかったが, 既存のデバイスの欠点を解消した軟骨伝導補聴器はこれらの症例に対しても大きな効果が期待できる. 一方軟骨補聴器のフィッティングを行うときはその特性を理解して行う必要がある. 気導, 骨導とは異なるため, 既存の補聴器とは異なるメカニズムでハウリングが生じたり, 振動子の固定方法の違いでその効果が大きく変化する. 正しい知識を持ってフィッティングを行わないと高価なだけで効果が不十分な補聴器となってしまう. 新しい補聴器であるため発売当初はフィッティング環境の整備が不十分であったが, 現在は改善しており, 急速に普及が進んでいる. 海外での普及については, インドネシアではすでに臨床試験が終了し, アメリカでは現在進行中である. そのほかの国でもその準備が進んでいる. 世界中でより多くの難聴者にその恩恵を享受していただくため, 今後も普及活動を継続していく.