著者
細井 裕司 西村 忠己 下倉 良太
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.217-225, 2020-08-30 (Released:2020-09-09)
参考文献数
18

要旨: 2004年に細井は「耳軟骨に音声情報を含む振動を与えると, 気導や骨導と同程度に音声情報が明瞭に内耳に伝えられること」を発見し, この第3の音伝達経路を「軟骨伝導 (Cartilage conduction) 」と命名した。また, この現象から導き出される応用製品 (電話機, 補聴器など) について記載した。2017年には世界初の軟骨伝導補聴器が発売され, 骨導補聴器に対する優越性から骨導補聴器に代わって国内外に普及が始まっている。
著者
細井 裕司 添田 喜治 西村 忠己 下倉 良太 松井 淑恵 中川 誠司 高木 悠哉
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我々人間の聴覚では 20 kHz 以上の超音波領域の音は聞こえないが、超音波振動として骨導に与えると音知覚が得られる(骨導超音波)。さらにこの骨導超音波は、音が全く聞こえない最重度難聴者でも聴取可能である。この現象を利用し、我々は最重度難聴者に音知覚を与える骨導超音波補聴器の開発を行っている。本研究では(1)未だ知られていない超音波聴覚メカニズムの解明、(2)骨導超音波補聴器の実用化研究という二つの課題に取り組んできた。そしてその研究成果から、骨導超音波の末梢の知覚器官は蝸牛の基底回転に存在すること、またそれは変調された可聴音ではなく超音波自体を聴取していること、その際外有毛細胞が関与している可能性は低いことなど、聴覚路上の末梢・中枢での超音波聴覚メカニズムが明らかになってきた。また語音で変調した骨導超音波のプロソディ(抑揚)が弁別可能であること、リハビリテーションによって言葉の聞き取りが改善されることなどの実用化研究も大きく進展した。
著者
西村 忠己
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

骨導超音波知覚を解明するために、同様に周波数の高い高周波気導可聴音の知覚と比較検討することが重要であると思われる。その理由として骨導超音波が知覚できるのは、骨伝導のため、内耳に達したときに生体の非線形性により可聴音が生じるため聞こえているのではないかという説があるからである。本年度の検討では骨導超音波の聴取閾値を気導音の聴取閾値との相関関係を聴力正常者及び難聴者で求めた。仮に特定の周波数の可聴音が生じているとすると、骨導超音波の聴取閾値はその可聴音の聴取閾値と強い相関を示すはずである。つまり非線形性により高周波可聴音が生じているとするとその聴取閾値と強い相関関係を認めると推測される。実際に測定を行うと、骨導超音波の聴取閾値は高周波可聴音の聴取閾値と強い相関関係を示さず、また相関係数は、ピッチが明らかに低い低周波数の可聴音との相関係数よりも低い値を示した。このことから骨導超音波の知覚はピッチが高周波可聴音と似ているにもかかわらず、その知覚メカニズムは異なることが示された。また補聴システムに関する検討では、言語音を変調する方式についてAMとFM変調の優位性について脳磁図を用いて検討した。その結果AM変調と比較してFM変調の方が周波数弁別能の点について劣ることがわかった。しかしある程度の弁別が可能であることからFM変調を補助的に使用していくことが可能であると思われた。なお骨導超音波の臨床応用に関しては難聴者においても一定の効果が認められたが、症例数の問題や骨導超音波補聴器そのものが試行錯誤の段階であることも有りその効果の定量は困難であった。
著者
中川 誠司 添田 喜治 西村 忠己 細井 裕司 大塚 明香 今田 俊明 クール パトリシア N. メロツォフ アンドリュー N.
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

骨導(骨伝導)で呈示された超音波であれば,聴覚健常者はもとより,最重度難聴者にも知覚される.この骨導超音波知覚の末梢処理過程には,通常の聴覚とは異なる特異なメカニズムの存在が示唆されるが,その詳細は明らかにされていない.本提案課題では,骨導超音波知覚を利用した重度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波補聴器)の開発に有用な知見の獲得を目指して,骨導超音波知覚メカニズムの全体像の解明に取り組んだ.聴覚末梢機能を反映する各種の生理反応の計測および骨導超音波の頭部内伝搬特性結果に基づき,骨導超音波知覚の末梢~中枢処理モデルを提案した.得られた知見は骨導超音波補聴器の最適化や適用基準の策定に有用である.
著者
西村 忠己
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.742-747, 2021-05-20 (Released:2021-06-02)
参考文献数
17
被引用文献数
2

軟骨伝導は気導, 骨導とは異なる特徴を持つ伝導様式で, さまざまな音響機器や医療機器への応用が期待される. 最も進んでいるのが補聴器への応用で, 軟骨伝導補聴器は2017年に実用化された. その大きな特徴は骨導とは異なる振動子とその固定方法にある. さまざまな難聴に対して有効であるが, その効果が最も期待されているのが外耳道閉鎖症などの気導補聴器で対応が難しい難聴に対しての補聴である. 骨導補聴器と比較して装用感, 審美性, 安定性に優れ, さらに手術が不要で, 試聴した多くの症例が装用の継続を希望する. 片側性の外耳道閉鎖症では従来介入が積極的に行われてこなかったが, 既存のデバイスの欠点を解消した軟骨伝導補聴器はこれらの症例に対しても大きな効果が期待できる. 一方軟骨補聴器のフィッティングを行うときはその特性を理解して行う必要がある. 気導, 骨導とは異なるため, 既存の補聴器とは異なるメカニズムでハウリングが生じたり, 振動子の固定方法の違いでその効果が大きく変化する. 正しい知識を持ってフィッティングを行わないと高価なだけで効果が不十分な補聴器となってしまう. 新しい補聴器であるため発売当初はフィッティング環境の整備が不十分であったが, 現在は改善しており, 急速に普及が進んでいる. 海外での普及については, インドネシアではすでに臨床試験が終了し, アメリカでは現在進行中である. そのほかの国でもその準備が進んでいる. 世界中でより多くの難聴者にその恩恵を享受していただくため, 今後も普及活動を継続していく.
著者
西村 忠己 細井 裕司 森本 千裕 赤坂 咲恵 岡安 唯 山下 哲範 山中 敏彰 北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1522-1527, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

軟骨伝導補聴器は耳軟骨の振動を介して音を伝える軟骨伝導を用いた新しい種類の補聴器で2017年11月に発売となった. 既存の補聴器で対応が難しい外耳道閉鎖症などの症例に対しても非常に効果があり, 補聴手段の新しい選択肢になる. 取扱医療機関は増加しているが全国的な認知度は必ずしも高くはない. 全国の難聴者がその恩恵を受けることができるように普及を進めていくため, 当院にフィッティング希望で2019年2月までに受診した59例の難聴者が, どこで軟骨伝導補聴器の情報を知り受診に至ったかについて調査した. 当院外来通院中の6例を除き, 受診契機となった情報源 (受診契機) が判別できたのは45例であった. 受診契機は医師, メディア (インターネット・TV), 患者会, 家族・友人, 学校の先生, 補聴器販売店に分類し3カ月ごとの経時的な変化を調べた. また病態別に3群に分類し経時的な変化についても評価した. その結果全体では患者会が最も多く約3分の1を占めていた. 経時的な変化では販売開始当初の1年間は医師の例は少なかったが, 直近の3カ月では大幅に増加していた. 補聴器販売店は販売開始当初半年間だけであった. 今回の結果から医療機関での認知度は上昇傾向にあると思われた. 補聴器販売店に対しては再度情報を提供する必要があると思われた. 成人の症例が少なく, 成人の外耳道閉鎖症例に対するアプローチが今後の課題であると考えられた.