著者
金子 由芳 香川 孝三 駿河 輝和 角松 生史 川嶋 四郎 四本 健二 栗田 誠 草野 芳郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1990年代より活発化した援助機関によるアジア諸国への法整備支援においては、それぞれが持ち込む制度が当該国の法体系と不整合を来たし、またドナー相互の調整を欠いたまま無秩序に展開されるなど、アジアの法発展を歪める問題が浮上している。本研究では、体系自立的で予測可能性をもたらす法整備の方向性を探って、日本からアジア諸国への法整備支援の具体的実例を対象に、司法改革や土地法などの主要分野毎に研究班を組み、制度と現実の相互作用による法整備支援のプロセスを観察・評価した。方法的には、一方で実定的制度の正確な比較法的理解を深め、他方で制度が現実の法社会動態に及ぼす影響を観察する実証的手法を組み合わせた。このような検討を通じて、アジアの立法過程が有力ドナーの持ち込む新自由主義的な立法モデルに翻弄され、深刻な社会経済的影響をもたらしており、日本支援が対立に苦しむ事実、いっぽうで訴訟・和解といった司法過程による規範修正の兆しが皆無でなく、日本支援はこの側面で一定の支援成果を挙げつつあることが見出された。このような日本支援の成果は、日本自らの過去の法政策や司法観の変遷を内省する機会を与えるとともに、日本の近代化過程の制度経験をアジア諸国の問題解決に役立てるチャンスを示唆している。
著者
角松 生史 小田中 直樹 桑原 勇進 小玉 重夫 佐々木 弘通 進藤 兵 都築 幸恵 長谷川 貴彦 藤川 久昭 山本 顕治 横田 光平 世取山 洋介 DIMITRI Vanoverbeke 内野 美穂
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

1990年代後半以降のわが国の統治システムの構造的変容(「構造改革型」統治システム)を対象として、社会構成主義的方法を共通の立脚点とした学際的共同研究を行った。各年度毎に研究キーワードを設定して(2009年度「参加」、2010年度「責任」、2011年度「関係」)シンポジウム・共同研究会を開催した。「まちづくり」と市民参加、説明責任、教育基本法改正、歴史的記憶、裁判員制度、子どもの権利といったトピックについて、構造改革型統治システムのマクロ的・ミクロ的諸相が社会構成主義的観点から分析された。
著者
角松 生史
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3/4, pp.139-159, 2010-03-10

都市空間は, 「多数の人々の諸活動と居住と生活の『場』」であるにもかかわらず, その法的理解にあっては, 被規制者の財産権と「公益」的規制という二面的な関係が視野の中心に置かれている. これに対して都市計画を「当該地域の空間形成に関する権限と利害についての, 地権者相互, あるいは地権者と非地権者住民との間における, 調整・分配ルール」とみなす立場からは, 被規制地権者以外の当該空間に対するステークホルダーの利害をどのように法的に構成し, 実体法的・訴訟法的にどのような位置づけを与えるかが, 理論的課題となってくる. 本稿は, 上のような問題意識を念頭に置きつつ, 行政事件訴訟法10条1項の主張制限「自己の法律上の利益に関係のない違法」に関する解釈論を分析したものである. 同条については, 行政処分の名宛人と第三者とを区別し, 前者は公益に関わる要件も主張できるが, 後者は個別的利益を保護し原告適格の基礎となる根拠規定違反に限り主張できるとする立場が裁判例上有力である. 他方, 近時の学説は, 名宛人-第三者のかかる二元論を相対化し, 第三者に対しても, 「公益上の理由による受忍」という構成をとることが可能な場合があることを指摘する. 都市空間に関わるステークホルダーの立場を法的に構成していく上で, この発想は有益である.
著者
角松 生史
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「情報処理システムとしての行政」という観点からの都市法の現代的展開に関する分析を目指し、都市空間についての意味/情報の産出/処理過程の行政法的位置づけに重点を置いた。(1)「生成途上の規範意識」:論文「景観保護と司法判断」(矢作弘/小泉秀樹編『成長主義を超えて』所収)において、(i)「審美的判断の主観性」(ii)地域空間の意味の「物語性」などについて論じた。(2)「開かれた社会における財産権」:論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」では、地域空間形成に関する調整・分配ルール」を「権利配分」の動態的具体化過程と捉え、段階モデルによる考察を試みた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」では、「土地所有権=財貨秩序」と「人格秩序」の協働を捉える視点を強調した。財産権のイノベーション的役割を指摘するカール・ハインツ・ラデーア論文を翻訳公表した。(3)「都市空間管理の制度設計」:論文「景観保護と司法判断」および論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」において、利害関係者の情報構造の観点から現行土地利用規制制度を分析した。コース論文の読み直しの上に立って、「事前確定型規制」の過度の重視を批判し、「まちづくりアセスメント」「協議型まちづくり」の重要性を主張した。論文「条例制定の法的課題と政策法務」では、「規範抵触論」的思考枠組を前提として法律と条例の関係を再検討し、自治体の認知的・試行的先導性を活かした創造的まちづくりのための制度設計にも触れた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」「都市計画の司法統制」判例評釈「騒音問題と都市計画事業の適法性-小田急訴訟上告審本案判決」において、都市空間に関わる行政争訟の制度設計を検討した。(4)「都市空間における『公共性』」:このサブ・テーマを直接に論じた公表業績はなかったが、現在住民参加に関する論文を執筆中であり、研究を継続する(論文"Recent Development of Decentralization, Deregulation and Citizens' Participation in Japanese City Planning Law"において既に簡単に触れた)。