著者
進藤 聡彦
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.95-105, 2003-03-31 (Released:2017-04-22)

社会科の歴史領域は暗記科目などと言われることがある。このことから,多くの学習者は機械的な暗記による学習方略を採用していると考えられる。そして,そのような学習方略の採用は,学習項目間の繋がりを欠き,有意味性を感じにくくさせるために,学習者にとっておもしろい学習とはなりにくいと予想される。そこで,調査Iでは歴史学習の好悪と学習方略の関連が調べられた。その結果,歴史の学習が好きだったとする者は嫌いだったとする者に比べて,メタ認知的な学習方略を採用していることが明らかになった。このことは,機械的な暗記による学習方略が歴史の学習を嫌いなものにすることを示唆する。学習者に歴史学習をおもしろいものとして捉えさせるための方法として,知識の構造化による有意味化が有効だと考えられる。そして,構造化のための前提として疑問が生成されることが必要だと推定される。すなわち,断片化された知識の関連についての不十分な知識は,疑問という形で意識される必要があるからである。こうした観点から,調査IIでは疑問の生成を保証するのは理解のモニターや既有知識との関連をつけようとするようなメタ認知に関わる学習方略の採用だとする仮定の下に,疑問の生成能力とメタ認知能力の間の関連が探られた。その結果,疑問の生成能力とメタ認知能力の間に相関関係が確認され,メタ認知的な方略の育成が構造化された知識の前提になり,そのことが知識の構造化による歴史学習の有意味化につながると考察された。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-19, 2005 (Released:2017-10-10)

小学生にとって小数のかけ算の意味を理解することが困難であることは,これまで多くの教師や研究者が報告してきた。そしてその原因としては,小学生がかけ算の意味を同数累加と考えていることが指摘されてきた。われわれは,かけ算についての教師の不適切な理解が児童の困難を引き起こしているのではないかと考えた。研究1では,小学校教師が小数のかけ算の意味をどのように把握しているかを調べた。2つの問題を出題した。1つは,3.2×4.6の計算によって答えを出す文章題を作ることであった。もう1つは,2.7を3.6回足すとはどういうことだろうと考えて分からなくなっている児童に,2.7×3.6の意味を説明するという問題であった。最初の問題では約70パーセントの教師が適切な解答をしたが,第2の問題に関しては16パーセントに留まった。研究IIでは,かけ算の意味を教えるための読み物を作成し,それを用いて教員養成系の学生に教授活動を行った。高い効果が確認されたので,読み物で用いられた教授方針が全体として有効であることが確認された。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.67-76, 2012-12-18 (Released:2017-10-10)

本研究では「徳川幕府は全国の大名から年貢を取っていた」という誤った認識(麻柄,1993)を取り上げる。高校の教科書では,例外として一定期間「上げ米(大名がその石高の1%を徳川家に差し出す)」が行われたことが記述されている。ここで,「○○の期間には××が行われた」(命題a)に接したとき,これを「○○以外の期間には××は行われなかった」という形(命題b)に論理変換できれば,先の誤りは修正される可能性がある。実験1では大学生62名を対象にこの関連を検討したところ,年貢の行方を問う問題(標的問題)での正答者は誤答者より,命題の変換に優れている傾向が示唆された。実験2では大学生34名を対象に,論理変換を援助することにより誤った認識の修正が図られるか否かを検討した。その結果,援助が誤った認識の修正を促進する効果をもつことが確かめられた。知識表象を変形することは操作と呼ばれるが(工藤, 2010),上記の論理変換も操作の1つであり,操作の成否が誤った認識の修正に関わることを示すものとなった。
著者
進藤 聡彦 麻柄 啓一 伏見 陽児
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.162-173, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

これまで学習者の誤概念を修正するために, 反証例を用いる方法と用いない方法の2つのタイプの教授法が提案されてきた。しかし, これらの方法はそれぞれに短所を持つ。本研究ではこれら2つの教授法を組み合わせた新しい方法を提案した。それは以下の方法であった。まず, 誤概念を適用した場合には正しい解決ができない問題を提示する。続いて誤概念を持っていても解決可能な類似の問題を提示する。その問題での正しい解決に基づいて, 学習者に正しいルールを把握させ, さらにそのルールを一連の類似問題に対して適用できるようにするというものである。この方法と従来の2つの方法が誤概念の修正に及ぼす効果を検討した。76名の大学生が3群のいずれかに割り当てられた。被験者の多くは, 真空は物を吸い寄せるという誤概念を持っていた。実験の結果, 今回提案した方法は他の2つの方法より次の3点で優れていることが明らかとなった。まず, 学習者の誤概念を最も効果的に修正できた。また, 自分の知識が変化したという意識を学習者に持たせやすかった。さらに学習者の興味を喚起した。今回提案した方法は誤概念の修正に効果的であることが明らかとなった。この方法は「融合法」と名づけられた。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-19, 2005-06

小学生にとって小数のかけ算の意味を理解することが困難であることは,これまで多くの教師や研究者が報告してきた。そしてその原因としては,小学生がかけ算の意味を同数累加と考えていることが指摘されてきた。われわれは,かけ算についての教師の不適切な理解が児童の困難を引き起こしているのではないかと考えた。研究1では,小学校教師が小数のかけ算の意味をどのように把握しているかを調べた。2つの問題を出題した。1つは,3.2×4.6の計算によって答えを出す文章題を作ることであった。もう1つは,2.7を3.6回足すとはどういうことだろうと考えて分からなくなっている児童に,2.7×3.6の意味を説明するという問題であった。最初の問題では約70パーセントの教師が適切な解答をしたが,第2の問題に関しては16パーセントに留まった。研究IIでは,かけ算の意味を教えるための読み物を作成し,それを用いて教員養成系の学生に教授活動を行った。高い効果が確認されたので,読み物で用いられた教授方針が全体として有効であることが確認された。
著者
進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.57-69, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿では,この1年間に公表された教授・学習に関する論文を学校実践との関連の観点から論評した。また,10年前と比較した最近の研究の特徴を明らかにしようとした。教授・学習研究を概観したところ,それらは2つのタイプに分類できるものであった。1つは教科の特定の単元に関わる教授方略を開発しようとするものであり,もう1つは教育実践に関わる一般的な要因や,それらの要因間の関係を特定しようとするものであった。10年前との比較では,いくつかの研究テーマが変化していた。例えば,協同学習や自己調整学習に関する研究が増えていた。そして研究者が教育実践の場に直接関与する臨床的な研究が増加していた。最後にいかに研究が行われるべきかに関して,筆者の考えが述べられた。
著者
進藤 聡彦
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.95-105, 2003

社会科の歴史領域は暗記科目などと言われることがある。このことから,多くの学習者は機械的な暗記による学習方略を採用していると考えられる。そして,そのような学習方略の採用は,学習項目間の繋がりを欠き,有意味性を感じにくくさせるために,学習者にとっておもしろい学習とはなりにくいと予想される。そこで,調査Iでは歴史学習の好悪と学習方略の関連が調べられた。その結果,歴史の学習が好きだったとする者は嫌いだったとする者に比べて,メタ認知的な学習方略を採用していることが明らかになった。このことは,機械的な暗記による学習方略が歴史の学習を嫌いなものにすることを示唆する。学習者に歴史学習をおもしろいものとして捉えさせるための方法として,知識の構造化による有意味化が有効だと考えられる。そして,構造化のための前提として疑問が生成されることが必要だと推定される。すなわち,断片化された知識の関連についての不十分な知識は,疑問という形で意識される必要があるからである。こうした観点から,調査IIでは疑問の生成を保証するのは理解のモニターや既有知識との関連をつけようとするようなメタ認知に関わる学習方略の採用だとする仮定の下に,疑問の生成能力とメタ認知能力の間の関連が探られた。その結果,疑問の生成能力とメタ認知能力の間に相関関係が確認され,メタ認知的な方略の育成が構造化された知識の前提になり,そのことが知識の構造化による歴史学習の有意味化につながると考察された。
著者
進藤 聡彦
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.57-64, 1993-03-31 (Released:2017-04-22)

On evaluating teaching-learning processes, it is effective that learners' recognition and teaching materials are able to be expressed one-dimensionally by using the ruleg system. Especially ru, a constituent of the ruleg system, is a key concept in considering the reformation of erroneous criteria. Ru is a learner's judgement criterion and it is erroneous and autogenetic in its characteristic. In the first section, the characteristics of various kinds of ru's are explained with some concrete examples. In the second section, the instructional strategies of reforming ru's are discussed from a point of view of the presentation sequences of focus instances. Two different presentation sequences are taken up. One is what shift from focus instances learners misjudge as exceptions to these they can recognize as correct instances. Another is what is in the reverse order. The effectiveness of the instructional strategy, which take the grounds of learners' ru's into consideration, are also discussed in this section. In the third section, it is described that learners are not aware of the attributes in themselves or the value of attributes which they use as foundation of their judgements on ru's. This thing occasionally causes learners the formation of a kind of ru's, which they apply the correct rule only to a limited extent. The instructional strategy, which makeslearners form the instances they misjudged as the exceptions for themselves and verify them, brings effects on reforming this sort of ru's.
著者
守屋 誠司 加藤 卓 進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3-4, pp.211-219, 2016 (Released:2020-04-21)

割合問題解法のツールとしてのボックス図(乗除数量関係図)の効果を調査した。これは従来の2本数直線表現に比べて,「基になる割合である1」,「基になる量」,「比べられる量」,「比べられる量の割合」の4つの関係が,視覚的に明示できる特徴をもつ。このボックス図を用いて,割合を未習の5年生2名に対して5時間の教授介入を行った。その結果,ボックス図自体の使用は比較的容易であり,それを用いることで割合の文章題にも正しく立式できるようになることが示唆された。さらに,全国学力・学習状況調査問題の算数B問題として出題された正答率が著しく低い問題にも,正答することができた。
著者
進藤 聡彦 中込 裕理
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2007 (Released:2017-10-10)

小学校5年生の算数では,図形の性質として多角形の内角の和が取り上げられる。本稿では,この内容の発展的な学習として,星形十角形の内角の和を求める過程を取り上げた授業実践を報告し,その内容が発展的な学習に適っているか否かについて検討した。その際,180°以上の内角(以下,優角)をもつ図形について,児童はそれらを内角と認めない適用範囲の縮小過剰型の誤概念をもつことが予想された。この点について事前調査を行ったところ,予想を支持する結果が得られた。この誤概念を利用すると同時に,優角をもつ内角をそれとして認めせさることに焦点を当て,授業実践と結果の分析を行った。その結果,既習の内角の和を手掛かりに優角も内角であることに納得する傾向が明らかになった。また,誤概念が学習を興味・関心のあるものにすると同時に,その修正は図形の外延の拡大にも資することが示された。こうした結果から,星形十角形の内角の和を求める過程を取り上げた学習は,図形の性質の学習に関する発展的な学習として適っていることが示唆された。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.267-278, 2015
被引用文献数
3

事例と共にルールを教授しても, 学習者がルール情報に着目せず, 事例情報のみからの帰納学習が行われる場合がある。このことを指摘した工藤(2013)は, その原因として事例情報が与えられたことによってルール表象の形成が不十分になることを示唆した。しかし, これまでなぜルール表象の形成が不十分になるかについては解明されていない。そこで本研究では, この点の解明を目指した。研究Iでは42名の大学生が, 研究IIでは87名の大学生が対象となった。「銅は電気を通す」という事例情報とともに「金属は電気を通す」というルール情報を与えて実験を行った結果, 以下の点が明らかとなった。「一般・個別」という知識の枠組みを不十分にしか持っていない学習者は, 与えられた2つの情報から「金属の銅は電気を通す」のようなイメージを形成していることが示唆された。すなわちルール情報中の「金属」という概念名辞が単に「銅」に係る修飾語としてイメージされてしまう。その結果, ルール表象が形成されないこと, また, さらにその結果, 当該のルールを後続の問題に対して適用できなくなることを示唆する結果を得た。本研究では概念名辞がその抽象性を失い単に事例の修飾語として位置づけられる現象を概念名辞の「まくら言葉化」と表現した。