著者
小森 規代 藤田 郁代 橋本 律夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.356-363, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
6 2

左中前頭回脚部の限局病変により純粋仮名失書を呈した症例について,単語の音節数とモーラ数,仮名数の対応関係から症状を分析し,同部位の機能について検討した。症例は71 歳の右利き男性で,脳梗塞発症後5 年を経てなお仮名失書を呈した。本症例に仮名表記親密度を統制した仮名単語書取テストと音節数・モーラ数・仮名数の対応を統制した仮名単語書取テスト,モーラ分解テストを実施したところ,仮名表記親密度が低い語の書取が困難で,特に音節数とモーラ数,仮名数が一致しない特殊音節を含む語で誤りが顕著であった。誤りは長音,促音に相当する仮名の脱落と拗音に相当する仮名の置換であり,長音,捉音を含む語ではモーラ分解も困難であった。以上から,本症例の仮名失書は音節のモーラ分解障害および複雑な音韻-仮名変換の障害を特徴とし,左中前頭回脚部は仮名書字過程におけるモーラ分解および音韻を仮名に変換する機能に関係すると考えられた。
著者
橋本 律夫 上地 桃子 湯村 和子 小森 規代 阿部 晶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.837-845, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
26
被引用文献数
3 7

Card placing test(CPT)は我々が開発した新しい視空間・方向感覚検査である.被験者は3 × 3格子の中央に立ち,周囲の格子に置かれた3種類の図形カードの位置を記憶し,自己身体回転なし(CPT-A)または回転後(CPT-B)にカードを再配置する.自己中心的地誌的見当識障害患者ではCPT-AとCPT-Bのいずれも低得点,道順障害患者ではCPT-A得点は正常範囲でCPT-Bが低得点であった.自己中心的地誌的見当識障害患者では自己中心的空間表象そのものに障害があり,道順障害患者では自己中心的空間表象と自己身体方向変化の情報統合に障害があると考えられた.
著者
小川 朋子 田川 朝子 橋本 律夫 加藤 宏之
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.700-703, 2010 (Released:2010-11-04)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

反復性過眠症の38歳女性例を経験した.発症は26歳で,食欲不振と失禁をともなう高度の過眠のエピソードをくりかえした.過眠期に脳波の徐波化をみとめたが,間欠期脳波は正常で,過眠期の髄液オレキシン濃度も正常であった.炭酸リチウムを中止すると過眠期が頻発し,再開にて過眠発作は軽減した.反復性過眠症の治療は確立していないが,本例では炭酸リチウム療法が有効であったため報告する.
著者
川崎 美里 阿部 晶子 橋本 律夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.442-451, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
21

本研究の目的は, 左半側空間無視 (以下, 左 USN) 患者を対象に, 横書き文の改行位置による左無視性失読 (以下, 左 ND) の出現率および眼球運動の差を明らかにすることである。対象は左 USN 患者 5 名と健常者 18 名であった。課題は横書き文章の音読課題を用いた。課題文は改行位置を統制し, 語頭から始まる行 (以下, 語頭条件) と語中から始まる行 (以下, 語中条件) が半数ずつになるようにした。 改行時の左 ND は 5 名中 3 名に認められた。左 USN 患者においては, 左 ND がみられるか否かにかかわらず, return sweep (改行時に行末から行頭に向かうサッケード) の終了位置が行頭よりも右側にとどまった。著明な左 ND がみられた 1 名では, 語中条件よりも語頭条件において行頭文字の読み落としが多く, 語中条件よりも語頭条件の最左停留位置 (視線が最も左方に達した位置) がより右側であった。
著者
橋本 律夫 小森 規代
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.333-346, 2016-12-25 (Released:2017-01-18)
参考文献数
34

変性疾患による失読,失書は2つのタイプにわけられる.一つは,原発性進行性失語症に伴うものであり,いまひとつは非失語性,すなわち純粋失読と孤立性失書である.このことは失語症を来たす脳領域はもとより,それ以外の脳部位(側頭・後頭後部,角回,上頭頂小葉,運動前野を含む)も読字または書字に関係していることを反映している.神経変性疾患における書字,読字能力の評価は臨床的に重要である.その理由は以下のとおりである.(1)失読,失書症状は神経変性疾患の初発症状となり得る.(2)経時的な書字,読字能力評価により病変の進展形式の推測が可能である.(3)変性疾患患者のコミュニケーション能力は原則として病期の進行とともに徐々に限定されたものとなる.したがって,残存する読字と書字能力の評価は,それらの患者においてコミュニケーションを維持する最も有効な方法は何かを検討するのに必須である.本稿では意味性認知症とALS例を呈示し,我々が行っている失読・失書の評価方法を紹介した.また,彼らに認められた失読,失書の病態について考察した.
著者
安藤 喜仁 菱田 良平 橋本 律夫 中野 今治
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.76-81, 2014 (Released:2014-03-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

要旨:症例は67 歳右利き男性.右前脈絡叢動脈閉塞により外側膝状体近傍に限局した脳梗塞が生じ,左同名半盲,左半側空間無視と構成障害,漢字に強い失書を呈した.失語はみられなかった.過去に外側膝状体を中心とした病巣で半側空間無視が出現した報告は少なく,さらに構成障害と失書も合併したものは1 例のみであった.また,いずれの既報告例においても外側膝状体病変に加えて視床や後頭葉などを含む広範な部位に病変が認められており,本例の損傷領域はより限局していた.SPECT 画像で右後頭葉から頭頂葉の一部にかけて広範囲に血流低下が認められたことより,本例の半側空間無視と構成障害は主に右頭頂葉の機能障害に由来し,失書は主として構成障害に基づくものと考えられた.本例の症候は右前脈絡叢動脈領域の梗塞によるものとして非常に興味深いと思われた.
著者
橋本 律夫 上地 桃子 湯村 和子 小森 規代 阿部 晶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.837-845, 2016
被引用文献数
7

<p>Card placing test(CPT)は我々が開発した新しい視空間・方向感覚検査である.被験者は3 × 3格子の中央に立ち,周囲の格子に置かれた3種類の図形カードの位置を記憶し,自己身体回転なし(CPT-A)または回転後(CPT-B)にカードを再配置する.自己中心的地誌的見当識障害患者ではCPT-AとCPT-Bのいずれも低得点,道順障害患者ではCPT-A得点は正常範囲でCPT-Bが低得点であった.自己中心的地誌的見当識障害患者では自己中心的空間表象そのものに障害があり,道順障害患者では自己中心的空間表象と自己身体方向変化の情報統合に障害があると考えられた.</p>
著者
加藤 宏之 橋本 律夫 樋渡 正夫
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

脳卒中後の運動機能回復の機序を解明するために、fMRIと拡散テンソル・トラクトグラフィーによる錐体路の描出の同時計測を行った。脳卒中後の脳機能の再構築は動的であり、片麻痺の回復は運動ネットワークの損傷の程度に応じて、可逆性障害からの回復と、ネットワークの代償、動員、再構築を駆使して最良の運動機能の回復を得るための機構が存在する。この変化は脳卒中発症後の1、2か月以内に見られ、機能回復の臨界期の存在を示唆する。