- 著者
-
橋本 律夫
小森 規代
- 出版者
- 日本神経心理学会
- 雑誌
- 神経心理学 (ISSN:09111085)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.4, pp.333-346, 2016-12-25 (Released:2017-01-18)
- 参考文献数
- 34
変性疾患による失読,失書は2つのタイプにわけられる.一つは,原発性進行性失語症に伴うものであり,いまひとつは非失語性,すなわち純粋失読と孤立性失書である.このことは失語症を来たす脳領域はもとより,それ以外の脳部位(側頭・後頭後部,角回,上頭頂小葉,運動前野を含む)も読字または書字に関係していることを反映している.神経変性疾患における書字,読字能力の評価は臨床的に重要である.その理由は以下のとおりである.(1)失読,失書症状は神経変性疾患の初発症状となり得る.(2)経時的な書字,読字能力評価により病変の進展形式の推測が可能である.(3)変性疾患患者のコミュニケーション能力は原則として病期の進行とともに徐々に限定されたものとなる.したがって,残存する読字と書字能力の評価は,それらの患者においてコミュニケーションを維持する最も有効な方法は何かを検討するのに必須である.本稿では意味性認知症とALS例を呈示し,我々が行っている失読・失書の評価方法を紹介した.また,彼らに認められた失読,失書の病態について考察した.