- 著者
-
阿部 輝夫
- 出版者
- 順天堂医学会
- 雑誌
- 順天堂医学 (ISSN:00226769)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.1, pp.55-61, 2006-03-31 (Released:2014-11-12)
- 参考文献数
- 7
この10年間に, 日本の性同一性障害を取り巻く環境は大きく変化した. 1997年に日本精神神経学会が性同一性障害 (GID) の診断と治療のためのガイドラインを策定し, 1998年には日本最初の公に認められた性別適合手術が行われた. そして, 2003年に新たな法律が制定され, 性別適合手術 (SRS) が終了しており, 一定の条件が整っていれば戸籍の性別変更が可能となった. この結果, それまで自己判断でホルモン療法や外科的手術を受けていた人達も, 性別を変更する目的で, そのために必要な精神科医2名からの診断書を得るため受診するようになった. この当事者達のニードの激しい増加を受けて, 各地の大学病院などでも対応の準備が始まっているが, その数はまだまだ十分な状況とは言えない.
ここでは, 約1500例のGIDの自験例を基に, まずGIDに関する基本的概念を述べる. つまり, primary GIDとsecondary GIDの違い, 同性愛とGIDの概念の相違, および今後の問題などについて. そして, 実地医家がGIDの診断と治療を進めて行くうえでの留意点について述べたいと思う.
・Diamondら曰く, 「GIDは自分で診断でき, 治療法を選択できる唯一の疾患である」と.
・GIDと同性愛は, 概念が異なる.
・MTFが男性を好きになるのはあたりまえの〈指向〉であり, 〈嗜好〉でもなければ〈志向〉でもない.
・『ガイドライン』への不一致例も, それまでの治療を再評価し, 再構築することができる.
・特例法の成立により, 条件が整えば戸籍の性別が変更できる.