著者
御影 雅幸 李 奉柱 朴 鐘喜 難波 恒雄
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.336-341, 1991-12-20

「Jad Na Mu Ip」は韓国で淋疾や梅毒の治療薬として用いられる民間薬である. Jad は海松子, Na Mu は木, Ip は葉の意味であるから, その基源は一般にマツ科のPinus koraiensis SIEB. et ZUCC. チョウセンゴヨウの葉であるとされている2)がいまだ確証はない. Pinus 属植物は韓国にはチョウセンゴヨウのほか P. parviflora ヒメコマツ, P. pumila ハイマツ, P. bungeana シロマツ, P. densiflora アカマツ, P. thunbergii クロマツなど形態の類似するものが分布しているので3), 今回「Jad Na Mu Ip」の原植物を知る目的で市場調査を行い, 入手した商品および Pinus 属植物7種の葉を比較組織学的に検討した. その結果, 現在市販されている「Jad Na Mu Ip」はチョウセンゴヨウの葉であることを確証した. なおP. armandi タカネゴヨウは中国に産する種であるが, 形状がチョウセンゴヨウに似ているので参考のため検討した. Pinus 属植物の葉の組織分類学的研究に関しては, 土井ら4)が基本的形態を詳細に報告するとともに変種や雑種を含めた80数種について検索表を提出し, また早田ら5)がチョウセンゴヨウやヒメコマツの組織図を示しているので, 本論文では記載を最小限に止めた. The Korean folk medicine "Jad Na Mu Ip" has been used to cure gonorrhea, syphilis, etc. Though the crude drug has generally been said to be the leaves of Pinus koraiensis SIEB. et ZUCC. of the Pinaceae family, the scientific confirmation has not been made yet. Recent commercial "Jad Na Mu Ip" certainly seems to be the leaves of a Pinus plant. Therefore, to identify the botanical origin of this crude drug, the leaves of seven species of the genus Pinus growing in Korea, Japan and China, including P. koraiensis, were examined anatomically. The result shows the botanical origin of "Jad Na Mu Ip" is P. koraiensis.
著者
難波 恒雄 菊池 徹 御影 雅幸 門田 重利 小松 かつ子 清水 岑夫 富森 毅
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.35-42, 1987-03-20

Cinnamomum verum J. S. PRESL of family Lauraceae is one of the important cultivated medicinal plants in Democratic Socialist Republic of Sri-Lanka. The bark of the tree, "CINNAMOMI VERI CORTEX," KURUNDUPOTU in Singhalese, is known to be a famous spice under the name of Cinnamon. Besides, KURUNDUPOTU is also an Ayurvedic drug used for dyspepsia, flatulence, diarrhoea, dysentery, vomiting, etc. Nowadays, as a spice, Cinnamon is divided commercially into thirteen grades on the bases of differences of the diameter and quantity of Foxing of the Quillings. Among these, we got nine popular grades from the Bureau of Ceylon Standard.To know the qualitical differences of each grade, anatomical and chemical studies of all these were made. Our results showed that higher graded Cinnamon had less mechanical tissues anatomically and contained more essential oils chemically. Moreover, in essential oils, the percentage of cinnamyl acetate was found higher and that of cinnamaldehyde was lower in higher graded ones.スリランカ(Democratic Socialist Republic of Sri-Lanka)における民族医療はアーユルヴェーダ(インド医学)が主流である. スリランカにおいて栽培される代表的なアーユルヴェーダ薬物の一つにKURUNDUPOTU(cinnamon bark の意味のシンハリ名)があり, このものはLauraceaeのCinnamomum verum J. S. PRESL(=C zeylanicum NEES セイロンニッケイ)のコルク層を剥いだ樹皮である. アーユルヴェーダではKURUNDUPOTU は強壮, 健胃, 駆風薬などとして用いられ, また民間的にも頭痛や感冒, 鼻汁, 呼吸器疾患, 下痢などに利用されている2). その産出量は年々増加しており, 大半は香辛料として輸出され, 一部が薬用あるいは料理用に国内で消費されている2). セイロン桂皮についてはすでに太田らにより日本市場品の内部形態3), コロンボおよびスイス市場品とコロンボ近郊などでの栽培品との内部形態による比較研究4)がなされているが, 品質についてはいっさい触れられていない. 現在, セイロン桂皮には商取引上13の等級があり, それらの等級はBureau of Ceylon Standardで規格されている. 等級はAlba, Continental 5 special, Continenta1 5, 同4, 同3, 同2, 同1, Mexican5 special, 同5, 同4, Hamburg 1, 同2, 同3の名称で呼ばれ, これらはQuimng5)の大さやFoxing6)の量で規定されている2). Albaが最高級品とされ, Continentalグループ, Mexicanグループ, Hamburgグループと続くが, Continentalグループの低級品よりはMexicanグループの高級品の方が品質がよいといわれている. これらのグループ名はそれぞれ輸出先国の違いを示しており, Hamburgグループ以外は番号の大きいものが高級品とされている. 今回, 栽培地を調査するとともにこれらの13等級のうち, とくに流通量の多い9等級を入手し, 各等級間の内部形態および精油成分の差異を検討したので報告する. また生薬市場および製薬工場において入手したKURUNDUPOTU等級についても検討した.
著者
難波 恒雄 久保 道徳 谿 忠人 御影 雅幸
出版者
日本生薬学会 = The Japanese Society of Pharmacognosy
雑誌
生薬学雑誌 = The Japanese journal of pharmacognosy (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.111-121, 1970-12-20

The foliar crude drug so called "Urajirogashi" has been used in Tokushima Pref. as the folk remedy for nephrolithiasis, cholelithiasis and urethral calculi. The effect to dissolve each calculus has been proved pharmacologically and clinically, and the crude drug and their preparations are generally on the present market. The original plant of "Urajirogashi" was considered to be Quercus salicina BLUME. The results of the anatomical studies, however, confirmed that the original plants are Q. myrsinaefolia BLUME and the mixture of both species of Q. salicina and Q. myrsinaefolia besides Q. salicina BLUME. The points to discriminate each species are as follows: A) Q. salicina: Upper epidermis is 1.5〜3 times as thick as lower epidermis, and no idioblast in the part of mesophyll. Palisade ratio is 2.3〜3.7〜5.8. B) Q. myrsinaefolia: Upper epidermis is 3〜5 times as thick as lower epidermis, and idioblast are observed in the part of mesophyll. Palisade ratio is 3.5〜6.7〜10. 5. Further, the key for identification on the anatomical characteres of the leaves from Q. salicina, Q. myrsinaefolia, Q. glauca, Q. acuta, Q. hondae, Q. sessilifolia, Q. gilva, Q. phillyraeoides, Q. mongolia var. grosseserrata, Q. serrata, Q. aliena, Q. dentata, Q. variabilis and Q. acutissima was indicated as Table 4.「序言」ブナ科FagaceaeのウラジロガシQuercus salicina BLUME(=Q. stenophylla MAKINO)は, 本州, 四国, 九州の暖地に自生する常緑高木で, 徳島県地方で「しらかし」および「うらじろがし」と称され, 民間的にその葉や小枝を, 1日30~50g煎剤およびエキス剤として, 胆石症, 腎石症, 尿路結石症など内臓諸結石症の治療薬とされ, 最近では肝臓, 胃腸病, 便秘などにも応用されている日本特有の民間薬である3)4). 近年ウラジロガシの結石溶解作用は薬理学的には, 小国3a), 幸田5)により, 臨床的には近藤ら6), 橋本7)および稲田ら8)により検討され, その有効性が実証された. その後市場に「うらじろがし」, 「裏白柏」と称して出回り, エキス製剤も市販されるようになった. 今回徳島県下で民間的に使用されている「うらじろがし(しらかし)」, および徳島, 香川, 和歌山, 群馬県産の徳島, 大阪, 東京市場品「うらじろがし」の中に同一基源からなるものとは思われない商品が発見されたので, それらの基源を確定する目的でQuercus属植物14種9)の葉との比較組織学的研究を行った.
著者
難波 恒雄 唐 暁軍 小松 かつ子 門田 重利 胡 世林 TANG Xiao-jun 宮代 博継
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

大乗仏教(根本思想にインド医学が反映する)が伝播した地域で発達している伝統医学を,医療及び薬物の面から比較し,各地におけるインド医学(アーユルヴェーダ)の展開または対立関係を解明することを通して,北方系東洋医学の個々の特徴を明確にすること,及び調査の過程で現代医療に貢献できる薬物や養生法を見つけ出すことを目的にして現地及び文献調査を行った.具体的には、寺院(漢伝仏教系,蔵伝仏教系)で行われている医療(1a,b),仏教と融合した形で成立しているチベット医学(2)及びモンゴル医学(3)について,寺院,蔵(蒙)医院,製薬所,蔵(蒙)医学院などで聞き取り調査し,また経典中の医薬学部分または文献(4)を調査した.さらに,道家思想の基に発達した中国医学に仏教が影響を及ぼしたか(5)についても検討した.蒐集した薬物は原植物の同定研究及び血糖降下作用,抗HIV作用などの研究に供した(6).結果は次のとおりである.1a.河西走廊:敦煌石窟の医画,出土された医学の衛生予防面の内容(歯磨き,理髪,入浴,気功)に仏教の医学部分の影響が見られた(4〜9世紀の状況).現在の仏教の中心地の五台山,九華山,峨眉山,及び福建省など:漢伝仏教系寺院では善行としての医療活動がわずかに見られた.自己経験として中国医学を学んだ者,中草薬の知識のある者,気功や推拿術を修得した者(先祖代々;師から伝授;出家前に中医師;自身で名医の処方を集めた等)が医療にあたり,精神面を除くと草医師または中医師と変わらなかった.福建省では寺院に付属診療所を設けて中医師や西洋医師を雇っていた.1b.蔵伝仏教系寺院では医方明(医薬学)が重視され,かつては殆どの寺に医薬学院(マンパザサン)と医院があったが、現在残る所はわずかである。青海省の塔爾寺では40名の学僧が医薬学院で『四部医典』,『藍瑠璃』,『晶球本草』などを教科書にしてチベット医学を学び,また医院では40数名/目の患者を100種類の製剤を用いて治療していた.常用生薬は約500種類,その内主要品はインド薬物であった.2.チベット医学は理論面ではインド医学を踏襲するが、薬物の面では独自性があり,西蔵の蔵医院では丸剤が多用され(製剤数200〜350種類),原料生薬500〜700種類の内インド産は20%にすぎず70%が西蔵産,それらは高地性植物の地上部からなるものが多い.一方,青海省蔵医院では散剤が多く,薬浴によるリウマチ,皮膚病の治療に力が入れられていた.生薬は30%を中薬材公司から購入しており,中国化(漢化)が見られた.紅景天,兎耳草,冬虫夏草,蔵茵陳,独一味などが研究対象であった.3.モンゴル医学は外治療法(瀉血,灸,針刺,罨法,振動治療,接骨術)や食餌療法(馬乳酒の利用)に特徴があった,散剤が多用され,原料生薬はチベット生薬と同名であっても基源の異なるものがあった.4.チベット大蔵経丹珠爾の医方明部に収められた『アシュターンガ・フリダヤ・サンヒタ-(医学八分科精粋便覧)』はチベット,モンゴルへのインド医学の伝播に大きな役割を果たしていた.また,大正新脩大蔵経の律蔵の「根本説一切有部毘奈耶薬事」に収載された薬物は、今日でも主要なインド薬物であった.5.『金光明最勝玉経』や『摩訶僧祇律』に見られる「病に4種(風,熱,痰〓及び総集の病)があり,それぞれに101病がある」という概念は,陶弘景校訂の『補闕肘後百一方』,孫思〓著『千金要方』などに見られた.玉〓撰の『外台秘要』ではインドの眼科治療が紹介され,本書収載の処方の約1/3はインドの方剤であるなど,仏教医学は仏教隆盛期(6〜8世紀)には中国医学に影響を与えていた.当時伝来したインド薬物(訶子,鬱金,白豆葱,木香等)は現在でも重要な漢方処方の構成生薬になっている.6.チベット生薬86点,同製剤17点,モンゴル生薬約100点,同製剤50点,道地薬材(中薬,草薬)約200点,薬用資源植物約750点を蒐集し得た.その内チベット生薬sPru-nag,gYcr-ma,Bya-rgod sug-pa,sPang-sposなどの原植物を確証した.活性成分の研究ではSwertia mussotii Franch.の全草(蔵茵〓)のエタノールエキスの血糖降下作用を日本産のSwertia japonica Makinoなどと比較検討し,それらの活性成分がbellidifolinであることを明らかにした.またPhyllanthus emblica L.の果実から逆転写酵素阻害活性を有する化合物putranjivain A(50%阻害濃度3.9μmol/ml)を単離同定した.
著者
難波 恒雄 久保 道徳 御影 雅幸
出版者
日本生薬学会 = The Japanese Society of Pharmacognosy
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.p171-182, 1976-12

"Xia-ku-cao (夏枯草)" is one of the Chinese crude drugs used mainly as a diuretic. While in Japan, the same drug called "Ka-go-so" has been used as a folk remedy for gonorrhea, bruises and etc. Regarding the origin of "Xia-ka-cao," it was reported by Su et al. (1958) that those from continental China was originated in the fruited spica of Prunella vulgaris L. of Labiatae. It was, however, stipulated for the spica of Prunella vulgaris L. subsp. asiatica HARA in J. P. IX (1976). According to our survey of respective markets in Taiwan, Japan and Korea, most of the materials collected in the markets were seemed to be originated in Prunella plants, while some from Korea, were seemed to be Thesium plant of Santalaceae as reported by Ishidoya (1934). Furthermore from many descriptions and figures in various herbals (Ben-cdo-shil "Xia-ka-cao" is regarded to be originated in Prunella plants as shown Plate 1. To clarify the respective origin of five kinds of "Xia-ku-cad' from continental China, Taiwan, Japan and Korea, pharmacognostical studies were made in comparing them with Prunella vulgaris L. distributed mainly in Europe, P. vulgaris L. subsp. asiatica HARA in East Asia, P. prunelliformis MAKINO in Japan and Thesium chinense TURCZ. in Asia. By the present studies, it was clarified that all of "Xia-ka-cao" originated in Prunella plants were P. vulgaris subsp. asiatica, and the materials from continental China were consisted of spica only, while those from other countries were whole plants body of that plant, and some from Korea originated in Thesium chinense.
著者
小松 かつ子 伊藤 親 劉 王萍 難波 恒雄
出版者
日本生薬学会
雑誌
Natural medicines = 生薬學雜誌 (ISSN:13403443)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.137-147, 1995
参考文献数
33
被引用文献数
1

The Chinese crude drugs "Huajiao (花椒)" and "Jiaomu (椒目)," and the Japanese crude drug "Sansho (山椒)" are derived from mature fruit of genus Zanthoxylum plants of the Rutaceae family. "Huajiao" and "Sansho," are prepared from the pericarp, and used as an aromatic stomachic and "Jiaomu," is from the seed, and used as a diuretic. A market survey of these crude drugs in China and Japan, showed that there are samples of apparently different external morphologies, suggesting that there are samples of different botanical origins. To clarify the original plants of such crude drugs, a pharmacognostical study was made. This paper deals with the origins of "Sansho" in the Japanese market. Comparative anatomical studies were performed mainly on the pericarps and seeds of Z. piperitum, two kinds of Z. piperitum f. inerme (Asakura-zansho and Budo-zansho), Z. armatum var. subtrifoliatum, Fagara mantchurica, F. ailanthoides by optical and scanning electron microscopy, which showed that they could be distinguished from each other by the following characteristics: in the pericarp, the length of equatorial circumference, thickness of pericarps and endocarps, diameters of oil sacs, micro figure of cuticle and the number of epidermal cells over oil sacs on surface view; in the seed, the diameters of epidermal cells on surface view, the rate of inner sclereid layers in the outer seed coat, etc. The commercial samples examined were identified as a mixture of slightly immature pericarps of Budo-zansho and Asakura-zansho in a ratio of 9 : 1 or 6 : 4, a mixture of slightly immature pericarps of Z. piperitum, Budo-zansho and Asakura-zansho in a ratio of 8 : 1 : 1, or mature pericarps of Z. piperitum only.
著者
布目 慎勇 難波 恒雄
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-45, 1984-03-20

A description on the crude drug, "Diding" (地丁), appeared in Tai-Ping-Sheng-Hui-Fang (太平聖恵方) of the ancient chinese herbal literature (Song dynasty). Since then, a variety of plants have been used as "Diding" and their botanical sources of "Diding"s are uncertain in the literatures published before Zhi-Wu-ming-Shi-Tu-Cao (植物名実図考). In the modern literatures 50 or more species (28 genus of 14 families) are described as the botanical sources of "Diding"s. They were Viola spp. (Violaceae), Amblytropis spp. (Leguminosae), Corydalis spp. (Papaveraceae) and Polygala spp. (Polygalaceae). "Zihuadiding" (紫花地丁), "Diding"s with violet flowers, described in Ben-Cao-Gang-Mu and Ben-Cao-Yuan-Shi (本草原始) seems to be derived from Amblytropis spp. In Zhi-Wu-Ming-Shi-Tu-Cao, four "Zihuadiding"s are described. One of them is the "Zihuadiding" as cited from Ben-Cao-Gang-Mu. Others seem to be Viola spp., Polygala spp. and Scutellaria spp. (Labiatae).