著者
渡邊 哲夫 野口 宗彦 沼野井 憲一 長谷山 聡也 青山 真人
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.123-134, 2015-09-26 (Released:2015-12-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

ブタが他のブタの尾を齧る「尾かじり」は,被害ブタに強いストレスを与え,このブタの生産性を悪化させるので,軽減されなければならない問題行動である。本研究では,安価で簡便な尾かじり被害を軽減する飼養管理技術を検討した。栃木県畜産酪農研究センター芳賀分場において,生後約35〜40日齢から60日齢までのランドレース種とデュロック種の交雑種を使用した。実験1では,特に処理をしない対照区,鉄製・プラスチック製鎖あるいは綿製ロープを提供した環境エンリッチメント(EE)区,1.8%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を給与したNaCl区を設定した。実験2では,飼料の形状が尾かじり被害に及ぼす影響を検討するため,ペレット状の飼料を給与したペレット区,これを顆粒状に砕いて給与したクランブル区を設定した。いずれの実験においても,ブタの尾の被害状況をスコア化し,その経時的変化を観察した。また,唾液を採取し,ストレスの生理的指標であるコルチゾルの濃度を測定した。実験1において,対照区では尾の被害スコアが増加する傾向であったのに対し,EE区では処置開始後には,時間経過に伴うスコア増減はほとんど無く,ほぼ処置前の値を維持していた。一方,NaCl区では尾の被害スコアは塩水給与後に減少した。処置前から処置約2週間後の尾の被害スコアの増加分を区ごとに比較すると,NaCl区では対照区に比べ有意に低かった。また,処置前と処置約2週間後の唾液中コルチゾル濃度を区ごとに比較すると,対照区では増減はなかったが,EE区とNaCl区では処置後に減少する傾向があり,ストレスが軽減されている可能性が示唆された。実験2において,ペレット区では尾の被害が悪化し,この区の尾の被害スコアの増加分はクランブル区に比べ有意に高かった。これらのことから,特に塩水の給与が,尾かじり被害の軽減に有効であるという結果が得られた。
著者
杉田 昭栄 八巻 良和 志賀 徹 居城 幸夫 飯郷 雅之 横須賀 誠 青山 真人
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

果実の成熟にともない糖度含量、軟化さらに果色が増加し、酸度は減少し、収穫時以降は軟化のみ増加し、糖度や果色また酸度は平衡状態となった。この収穫前頃から、カラス等が飛来して果実をつついているのが、観察された。鳥が果実の熟成の時期を見分けることができるのは、嗅覚や視覚の発達が考えられる。そこで、まずはカラスとヒヨドリの嗅覚系の特性を調べた。その結果、脳全体に対する嗅球のしめる割合が極めて小さく、一般には左右独立して存在する嗅球が完全に左右癒合していたことから、カラスとヒヨドリの嗅覚はあまり発達していないことが示唆された。次に視覚系の特性を調べた。カラスの神経節細胞は300万個を超えるとともに、神経節細胞の高密度域が2箇所あったこのことは、視覚が極めて発達していることを示していた。また、網膜周辺に進むにつれ少なくなっていた。視細胞の油球は赤、青、黄、緑、透明のものが見られ、その分布割合は均衡していた。ヒヨドリの神経節細胞の分布傾向はカラスのそれと類似していたが、油球は緑・黄緑系の油球が周囲を占めていた。学習行動によってカラスの各種波長への感受性を調べたところ、短波長に対して最も高い感受性を持っていることが示唆された。さらに、カラスの網膜には、4種類の色覚に関わる錐体オプシンがあり、その内のひとつは紫外線に感受性を有していた。鳥が果実の熟成段階を何で判別しているのか調べるため、熟成段階の異なる果物をカラスに提示し、選択された果実に共通する特徴を調べた。その結果、カラスは果実の熟成段階を判別するために糖度や硬度を手がかりにせず、果実の色、すなわち果皮の光反射を手がかりにしていた。
著者
青山 真人 夏目 悠多 福井 えみ子 小金澤 正昭 杉田 昭栄
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.109-118, 2010

本研究の目的は、捕食動物に由来する種々の刺激がヤギに及ぼす忌避効果を、ヤギの生理学的および行動学的反応を解析することによって検討することである。実験1においては、7つの刺激-CDプレイヤーで再生したチェーンソーの運転音(ChS)、イヌの吠え声(DoB)、オオカミの遠吠え(WoH)、ライオンのうなり声(LiG)、トラのうなり声(TiG)、テレビモニターに映したオオカミの映像(WoV)、実物のイヌの毛皮(DoS)-をそれぞれ4頭のメスシバヤギに提示し、その反応を観察した。DoBおよびDoS区において、他の区に比較して血中コルチゾル(Cor)濃度が有意に高く(P<0.01、反復測定分散分析およびTukeyの検定)、30分間の身繕い行動の頻度が有意に少なかった(P<0.1、Friedmanの検定とNemenyiの検定)。他の刺激については、いずれの測定項目においても対照区(提示物なし、音声を出さないCDプレイヤー、映像を映さないテレビモニター)との間に違いはなかった。実験2においては、実験1と同じ4頭のヤギを用いて、ChS、DoB、WoH、LiG、TiG、DoSの6つの刺激の忌避効果を検討した。飼料のすぐ後方にこれらの刺激のいずれかを提示し、それぞれのヤギがこの飼料を摂食するまでに要する時間を測定した。4頭いずれの個体も、DoBおよびDoS区においては30分間の観察時間中に一度も飼料を摂食しなかった。一方、他の刺激においては遅くとも126秒以内には摂食を開始した。各個体においで、実験2における結果と、実験1における結果との間には強い相関が観られた(対血中Cor濃度:r=0.78〜0.94、対身繕い行動の頻度:r=-0.73〜-0.98)。実験3では、メスシバヤギ5頭を用い、実験1と同じ方法でChS、DoB、イヌの置物(DoF)、DoS、段ボール箱で覆ったイヌの毛皮(DSC)の効果を検証した。実験1と同様、DoBおよびDoS区において、有意な血中Cor濃度の増加と身繕い行動の頻度の減少が観られた。DSC区においては5頭中4頭が、顕著な血中Cor濃度の増加あるいは身繕い行動の頻度の減少のいずれかを示した。これらの結果から、本研究で観られたイヌの吠え声、あるいはイヌの毛皮に対する忌避効果は、ヤギがこれらの刺激に強い心理ストレスを持ったことが原因であると示唆された。さらに、視覚的な刺激は、少なくともそれが単独で提示された際には効果が薄いこと、聴覚的な刺激および嗅覚的刺激が強い忌避効果をもたらす可能性が示唆された。
著者
青山 真人 夏目 悠多 福井 えみ子 小金澤 正昭 杉田 昭栄
出版者
Japanese Soceity for Animal Behaviour and Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.109-118, 2010-12-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
34

本研究の目的は、捕食動物に由来する種々の刺激がヤギに及ぼす忌避効果を、ヤギの生理学的および行動学的反応を解析することによって検討することである。実験1においては、7つの刺激-CDプレイヤーで再生したチェーンソーの運転音(ChS)、イヌの吠え声(DoB)、オオカミの遠吠え(WoH)、ライオンのうなり声(LiG)、トラのうなり声(TiG)、テレビモニターに映したオオカミの映像(WoV)、実物のイヌの毛皮(DoS)-をそれぞれ4頭のメスシバヤギに提示し、その反応を観察した。DoBおよびDoS区において、他の区に比較して血中コルチゾル(Cor)濃度が有意に高く(P<0.01、反復測定分散分析およびTukeyの検定)、30分間の身繕い行動の頻度が有意に少なかった(P<0.1、Friedmanの検定とNemenyiの検定)。他の刺激については、いずれの測定項目においても対照区(提示物なし、音声を出さないCDプレイヤー、映像を映さないテレビモニター)との間に違いはなかった。実験2においては、実験1と同じ4頭のヤギを用いて、ChS、DoB、WoH、LiG、TiG、DoSの6つの刺激の忌避効果を検討した。飼料のすぐ後方にこれらの刺激のいずれかを提示し、それぞれのヤギがこの飼料を摂食するまでに要する時間を測定した。4頭いずれの個体も、DoBおよびDoS区においては30分間の観察時間中に一度も飼料を摂食しなかった。一方、他の刺激においては遅くとも126秒以内には摂食を開始した。各個体においで、実験2における結果と、実験1における結果との間には強い相関が観られた(対血中Cor濃度:r=0.78〜0.94、対身繕い行動の頻度:r=-0.73〜-0.98)。実験3では、メスシバヤギ5頭を用い、実験1と同じ方法でChS、DoB、イヌの置物(DoF)、DoS、段ボール箱で覆ったイヌの毛皮(DSC)の効果を検証した。実験1と同様、DoBおよびDoS区において、有意な血中Cor濃度の増加と身繕い行動の頻度の減少が観られた。DSC区においては5頭中4頭が、顕著な血中Cor濃度の増加あるいは身繕い行動の頻度の減少のいずれかを示した。これらの結果から、本研究で観られたイヌの吠え声、あるいはイヌの毛皮に対する忌避効果は、ヤギがこれらの刺激に強い心理ストレスを持ったことが原因であると示唆された。さらに、視覚的な刺激は、少なくともそれが単独で提示された際には効果が薄いこと、聴覚的な刺激および嗅覚的刺激が強い忌避効果をもたらす可能性が示唆された。
著者
Bezawork A. BOGALE 青山 真人 杉田 昭栄
出版者
Japanese Soceity for Animal Behaviour and Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.75-83, 2018-06-25 (Released:2018-07-26)
参考文献数
22

ヒトの顔写真を用いた弁別試験を行なうことによって、ハシブトガラスがヒトの表情を識別することが可能であるか否かを検討した。まず、予備試験として、供試したカラスには、一方は「笑顔」、もう一方は「真顔」(無表情)である異なる人物の写真を見せて、「笑顔」を選択させる弁別学習を課した。予備試験をクリアした6羽のカラスについて、予備試験とは異なる人物の「笑顔」と「真顔」の弁別試験を行なった。その結果、6羽中で4羽のカラスについては、「笑顔」である新規な人物を統計学的に有意に高い頻度で選択した。次に、予備試験で見せた人物の写真を用い、同じ表情をした異なる人物の組み合わせを識別する弁別試験を課した。その結果、カラスは、表情にかかわらず、予備試験において報酬を得られた人物を有意に高い頻度で選択した。一方、予備試験で使用した人物について、同一人物の「笑顔」と「真顔」を識別させる試験を行なったところ、いずれのカラスも「笑顔」を有意に高く識別することはできなかった。これらの結果から、ハシブトガラスは異なる人物については「笑顔」を「真顔」と区別でき、新規な人物については「笑顔」を一般化することが可能であることが示唆された。一方、人物の識別能力はその表情によって左右されることはないが、同じ人物において、その表情を識別する能力には乏しいと考えられた。
著者
杉田 昭栄 前田 勇 蕪山 由己人 佐藤 雪太 青山 真人 加藤 和弘 竹田 努
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、カラスの病原体と感染症のキャリアの可能性を探るため保有病原体や飛翔の動態について調べた。多くのカラスが鳥マラリアHaemoproteus属とLeucocytozoon属原虫に感染していた。また、腸内細菌叢は、Caulobacteraceae、Bradyrhizobiaceae、Streptococcaceae、Helicobacteraceae、Leuconostocaceaeであることが分かった。GPSの解析結果、カラスの飛翔速度は時速10~20kmであり、その多くは4~5km圏内で生活していた。また、畜産農家の多い地域では、畜舎から畜舎と移動して採餌していることも分かった。
著者
青山 真人 山崎 真 杉田 昭栄 楠瀬 良
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.J256-J265, 2001-04-25
参考文献数
21
被引用文献数
2

馬術愛好家や職業として日頃ウマに接している人達はウマの表情からその情動をどの程度推察できるか,また,彼らはウマの顔のどの部位を手がかりとしてその情動を判断しているのかを調査した.調査は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況を推察し,さらに顔のどの部位を手がかりとしてその判断を下したかを答えるアンケート形式で行った.その結果,日頃ウマに接している人達143名の平均点は53.5点(全問正解の場合100点)であり,ウマに接する機会が少ない人達111名の平均点(39.4点)よりも有意に高かった.このことから,日頃ウマに接している人達は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況をある程度推察できるものと考えられた.ウマに接している人達が,状況を推察する際に手がかりとしてもっとも多く観察していたのは耳であり,さらに,高い正解率(55点以上)であったグループは正解率の低いグループ(55点未満)と比較して,耳を観察した回数が有意に多かった.これまでの文献から,耳はウマの感情がもっとも顕著に現れる部位とされているが,日頃ウマに接している人達は経験からそのことを知っていることが示された.しかしながら,異なる状況下であっても,ウマの耳の向きや角度が類似していたり,ほとんど同じである場合もあり,耳のみからでは正確な判断が難しい状況があることも示された.その場合には耳に注目すると同時に,他の部位やそのウマに関わっている他のウマの表情など,別の手がかりをあわせて指標とし,総合的に判断することが有効であると考えられた.
著者
野澤–竹田 努 閻 美芳 小寺 祐二 青山 真人 西尾 孝佳 小笠原 勝
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.129-139, 2020

<p>地域住民の雑草管理能力が過疎高齢化に伴い低下するなかで,一般市町村道から交通量の多い広域農道や土地改良事業で設置された農業用水路の畦畔に至るまで,地域自治体の雑草管理に関する負担がますます増加する傾向にある。また,イノシシなどの鳥獣害が中山間地域を中心に問題になっている。そこで,地方行政担当者が雑草や鳥獣害に対してどのような問題意識を有し,いかに対処しているのかを明らかにする目的で,栃木県全域の市町を対象としたアンケートを実施した。2018年7月にアンケート調査票を,栃木県内の全25市町の雑草と鳥獣害対策に関連する137部署に返信用封筒と共に郵送し,回答を83部署から得た。集計は複数回答の場合も単純に加算し評価した。また,回答した市町の部署を生活系部署,土木系部署,農業系部署に分けて,部署間における問題意識の共通性を解析した。これらの結果から,雑草と鳥獣害対策において,殆どの市町が人員,予算不足および土地の権利に関する問題を抱えており,限られた予算の中での問題解決には生活系部署を中核にした部署連携が有効であることが示唆された。</p>
著者
A. K. M. Humayun KOBER 青山 真人 塚原 直樹 杉田 昭栄
出版者
Japanese Soceity for Animal Behaviour and Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.97-103, 2011-09-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
26

トラック輸送およびその際に使用する運搬用ケージのタイプが、ニワトリ(Gallus domesticus)の副腎に及ぼす生理学的および生化学的影響について検討した。2010年12月から翌年2月の間、12羽の成オスニワトリを、C1、T1およびT2の3つの実験区に分けた。C1区においては、通常飼育に用いていたのと同じ金網ケージ(95×60×70cm)にニワトリを2羽入れ、輸送を施さなかった。T1区においては、前述した通常飼育用の金網ケージをトラックの荷台に積載し、2〜3羽を同時に30分間輸送した。T2区では現場でニワトリの輸送の際に用いている小型のプラスチックケージ(68×48×20cm)に3羽を入れ、30分間輸送した。輸送終了直後の血中コルチコステロン(CORT)濃度をラジオイムノアッセイで、副腎組織中のチロシン水酸化酵素(TH)およびリン酸化THの発現量をウエスタンブロット法で測定した。その結果、ケージのタイプに関わらず、輸送をした区(T1,T2区)はC1区と比較して血中CORT濃度が有意に高く(P<0.05)、輸送がニワトリにとってストレスとなることが示唆された。T2区の血中CORT濃度はT1のそれと比較して若干高かったが、T1とT2区の間に有意差はなかった。THの発現量に対するリン酸化THの発現量の割合は、3つの実験区いずれの間にも有意差はみられなかった。これらの結果より、30分間の輸送はニワトリにとってストレスとなるが、小型ケージに収納されて輸送されることは、少なくとも冷涼な気候下で30分間であればストレスとはならないことが示唆された。
著者
徐 章拓 竹田 努 青山 真人 杉田 昭栄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.289-296, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ハシブトガラスCorvus macrorhynchos とハシボソガラスC. coroneの2種類のカラスを用いて,腺胃および筋胃の組織形態を中心に比較形態学的検討を行った.ハシブトガラスの腺胃内表面の面積はハシボソガラスのそれより大きかった.腺胃壁の厚さについて,種差はなかったが,全体に占める腺胃腺層の厚さの割合(相対値)はハシブトガラスの方が大きく,一方,筋層の相対値はハシボソガラスの方が大きかった.ハシボソガラスの筋胃壁はハシブトガラスのそれより厚かった.さらに,ハシボソガラスの筋胃は筋層の厚さの相対値がハシブトガラスより大きかった.両種は共に雑食であるが,胃の形態・組織学的特徴に見られた相違点は,両種の食性の相違を反映しているように思われる.
著者
髙津戸 望 青山 真人 杉田 昭栄
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.85-97, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
28

ヒヨドリによる果樹食害の対策法を検討するために、各種光波長の発光ダイオード(LED)を果実に照射し、ヒヨドリの採食行動がどのような影響を受けるかを試験した。実験には、野生から捕獲したヒヨドリを供試した。赤(630nm)、黄(590nm)、緑(525nm)、青(470nm)の4種のLEDと、対照として一般的な蛍光灯を用い、各個体を単独飼育下で実験した。ヒヨドリ5羽に8段階の成熟度の異なるイチゴを同時に提示する選択実験を行なった結果、蛍光灯を照射した対照区でヒヨドリは成熟度が最も高い果実を優先的に選択したが、各色LEDの照射時には、成熟度の高いイチゴを選択する行動に有意差があった。特に青色LED照射時は、ヒヨドリがイチゴを選択するまでの時間が有意に長くなり、イチゴを1つも選択せずに終了した試行が3個体で4試行観察された。一方、ヒヨドリ4羽に7段階の成熟度の異なるブドウを同時に提示する選択実験を行なった結果、いずれのLED照射時においてもヒヨドリは成熟度の高い果実を選択し、その選択行動に相違はなく、青色LED照射時も含め、果実を選択するまでの時間にLEDによる差はなかった。これらの結果より、イチゴでは青色LEDを照射することで、ヒヨドリの採食行動を抑制することが期待できたが、ブドウのようにこの効果が期待できない果実もあることが分かった。LEDの照射によるヒヨドリの果実採食行動への影響は、本来の果実の色により異なることが示唆された。
著者
青山 真人 杉田 昭栄
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ヤギがトラック輸送により乗り物酔い(動揺病)になるか否かを検討した。ヒトに悪心(気分が悪いこと)や嘔吐を誘発する薬剤であるシスプラチンをヤギに投与したところ、顔を下に向け、動きが鈍くなった(これを「悪心様状態」とする)。また、ヤギをトラックで輸送すると、悪心様状態と類似の状態が誘発された。酔い止め薬として市販されている「ジフェンヒドラミン」を輸送前にヤギに投与すると、悪心様状態はかなり軽減された。これらのことより、ヤギは輸送により動揺病になるものと考えられた。
著者
青山 真人 駒崎 孝高 杉田 昭栄 楠瀬 良
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.241-250, 2003-05-25

ウマ同士の社会行動にともない顔や体に現れる特徴の意味の把握は,ウマがヒトに対しても同じ行動を取ることから,現場でのウマの取り扱いにおいて重要な情報になると考えられる.そこでわれわれは,日常的にウマに接している者(ウマ取扱者)およびウマに接する機会が少ない者(非取扱者)を対象に,互いに社会行動をしている2頭のウマの写真からその社会的関係を推察し,さらに判断の手がかりとして注目した部位を回答させるアンケート調査を行なった.ウマ取扱者189名の正解問題数の平均は6.01問(全11問 ; 正解率54.6%),非取扱者53名のそれは5.26問(正解率47.9%)であった.両群とも,無作為に回答した場合よりも有意に高い正解率であったが,ウマ取扱者のそれは非取扱者のそれよりも有意に高かった.ウマ取扱者が回答の際に注目した部位については,耳が38.0%でその頻度がもっとも高く,次いで体全体33.5%,顔全体 23.9%の順であった.非取扱者による注目部位は,高い順に耳29.6%,顔全体20.6%,目15.6%であった.一方,回答者を7問以上正解者(7以上群)と6問以下正解者(6以下群)に分けて比較すると,ウマ取扱者については耳(ただしP=0.091)および顔全体において,非取扱者では首の向き・角度および体全体において,7以上群の方が有意に高い頻度でこれを注目した.各問題の回答を解析すると,一方のウマがその耳や首をもう一方のウマに向けている状態(社会的に劣位のウマが耳を上位のウマに向けて気にしている様子など)が正解の手がかりとなった状況については,ウマ取扱者と非取扱者の正解率や観察の仕方は類似した.しかし,ウマの耳や首がもう一方のウマの位置と関係なく特異的な状態になる場合(耳を後方へ倒す威嚇の表情など)は,ウマ取扱者と非取扱者の観察の仕方は異なり,ウマ取扱者の正解率が高かった.ウマに接して来た経験をもとにウマの耳および首の向き・角度に注目することは,ウマの社会的な状況を推察するのに有効であると示された.