著者
青柳 肇 細田 一秋
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学人間科学研究 (ISSN:09160396)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.29-36, 1993-03-25

本研究は,失敗事態で努力要因に帰属することが無力感を生じさせないという従来の帰属理論に基づいた学習性無力感の概念とは異なる視点から,帰属理論を再検討すること,すなわち,失敗事態で「運」帰属することが無力感を生まない重要な要因であることを検証することを目的とした.大学生を被験者として,「運と努力の帰属傾向」を筆者らが独自に開発した投影法形式で測定し,無力感尺度と課題遂行との関係を検討した.「運と努力の帰属傾向尺度」は,成功を努力に帰属し,運に帰属しない場合と失敗を運に帰属し,努力に帰属しない場合,3点,そうでない場合1点とし,どちらでもない場合2点とした.したがって,高得点であることは無力感につながらないと仮定した.無力感尺度は,筆者らが以前に作成した尺度を用い,課題遂行は学習性無力感研究で以前に使用したことのある半数が解答不能な前処置課題(計算課題)および全開解答可能な後続課題での正答数で測定した.主な結果は,以下の通りである.無力感尺度と運と努力の帰属傾向尺度とは,大多数が無相関であり,一部有意な正相関しているものがあった.これらの結果は,無力感尺度の妥当性にやや問題があるためかもしれないと考えられた.課題遂行と「運と努力の帰属傾向尺度」とは,有意に正相関しているものがいくつかみられた.課題遂行でみる限り,「運と努力の帰属傾向尺度」は全面的ではないが,一定の妥当性が保証され,ほぼ仮説が支持されたといえよう.しかし,「運と努力の帰属傾向尺度」の下位尺度をみると問題がないわけではなかった.すなわち下位尺度の高低群間の差に関しては,尺度3では前処置課題で低群のほうが有意に高得点であることがみられた.これは,尺度3のように成功事態で努力帰属することは,大多数の被験者が賛成しているためであろうと考察された.また,尺度1(成功場面で運帰属)でも高低群間にまったく差がみられず,仮説が支持されなかった.これは,この逸話に反対することを高得点にするというように,否定型で反応することに対する適切性の問題が論じられた.
著者
青柳 肇 細田 一秋
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学人間科学研究 (ISSN:09160396)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.33-41, 1994-03-25

前処置とテスト課題の間に同種または異種の課題を挿入した際のテスト課題の成績および帰属の変化,コントロール感の変化,および随伴性の認識について検討する事を目的とした.実験は,3つのセッションからなっている.第1セッションでは,190名の大学生に前処置として50%しか解答できない数的処理課題を行わせた.その後第2セッションでは,被験者を4群に分け別々の課題を与える.LI群は,10個のアナグラムでそのうち半分は解答不能である.LS群は,10個の解答可能なアナグラムを与える.MI群は,10個の数的処理課題で,そのうち半分は解答不能である.MS群は,10個の解答可能な数的処理課題であった.その後第3セッションとして,全群に対してテスト課題として解答可能な数的処理課題10問与える.第1セッションと第2セッション,第2セッションと第3セッションの間に帰属スタイル尺度(ASQ)を実施し,実験終了後に随伴性の認識について聞いた.主な結果は,以下の通りである.(1)挿入課題で数的処理を行った群は,アナグラムを行った群より高得点である.とりわけ,解決可能な数的処理課題は,テスト課題での成績がよい.(2)挿入課題で解決可能なアナグラムを行うと課題全体の成績がよくなる.(3)解決不可能なアナグラム課題を与えられると帰属スタイルは,内的統制得点が低くなる.それ以外は大きな変化はない.(4)解決不可能なアナグラムと数的処理課題が与えられるとコントロール感が減少する.(5)随伴性の認識は,解決可能なアナグラム課題が与えられたとき最も強くなる.これらのことは,学習性無力感解消には,テスト課題と同種の解決可能課題を与えることだけが有効なのではなく,異種の解決可能な課題を与えることも有効であることを示唆するものである.
著者
依田 明 繁多 進 斉藤 浩子 青柳 肇 滝本 孝雄 鈴木 乙史 清水 弘司
巻号頁・発行日
1987-03

科学研究費補助金研究成果報告書, 課題番号60301013, 1985年度~1986年度, 総合研究(A)
著者
上原 依子 青柳 肇 釘原 直樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.60, pp.195-200, 2011-05-16
参考文献数
12

他者の援助が必要な困窮状態にあるとき,適切に援助を要請出来ないことは,不都合な結果を招きかねない.本研究では,援助要請を抑制する心理的要因の一つとして,対人感受性の高さ,および一般的信頼の低さに起因する,他者の行動に対しての評価判断の慎重化を扱った.とりわけ,低信頼者かつ対人感受性高群において,「他者の心的状態を察知する判断能力はあるものの,信頼出来るという決定的な判断や信頼行動に踏み切れない」という,従来の信頼研究では見過ごされてきたパターンの実証を試みた.本研究では大学生470名に対して質問紙調査を実施し,評価者の一般的信頼と対人感受性に関する尺度得点が,いじめの相談場面における教師への評価におよぼす影響を検討した.その結果,低信頼者は感受性が高く,高信頼者は感受性が低いときに,苦境場面におけるサポート者をより好意的に判断するという相補的な結果が得られた.よって,援助要請が必要となる苦境場面において,対人感受性の強さがサポート者に対しての印象評価にネガティブな影響をおよぼすという予測は高信頼者においてのみ実証され,低信頼者においては予測とは真逆の結果となった.
著者
杉森 伸吉 安藤 寿康 安藤 典明 青柳 肇 黒沢 香 木島 伸彦 松岡 陽子 小堀 修
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.90-105, 2004-03-24
被引用文献数
1

心理学における研究者倫理への関心が高まる中,日本パーソナリティ心理学会では研究倫理ガイドライン検討特別小委員会を設け,性格心理学研究者倫理の問題を検討した.その中で,目本パーソナリティ心理学会員および他の関連諸学会員の合計262名と心理学専攻の学部生59名を対象に研究倫理観に関するアンケート調査を行った.研究倫理観は基本的に相対的なものであるという認識にもとづき,心理学研究者と学部学生を対象に52項目の倫理的問題に関する許容度判断を求め,その意見分布を示した.全体のうち半数近くの項目で研究者と学生の間に許容度判断の有意差が見られ,いずれも研究者のほうが寛容という傾向であった.また,主たる専門や研究法による倫理判断の相違,性差,研究年数による相違,ならびに基本的倫理観と個別の倫理判断の関連性分析,52の倫理問題に関する許容度判断の主成分分析と主成分ごとの許容度判断などについて検討した.基本的には,各人が研究を行う上で必要な事柄に関しては倫理的判断が寛容になり,研究を行う上で必要性が低い事柄については厳格になる傾向が見られた.本研究の結果は,日本パーソナリティ心理学会員をふくむ心理学者一般について,個別の倫理判断をする上でのひとつの判断基準を提供するものと考える.