著者
釘原 直樹 植村 善太郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

大事故や感染症などの災害が発生した場合、マスメディアは非難攻撃の対象を発見し、追及する。ある対象(スケープゴート)を攻撃する記事数は時間とともに変化し、対象自体が次々と変遷する。本研究ではそのような現象を説明するために、非難対象と量の時系列的変遷を説明する波紋モデルを構成した。JR福知山線脱線事故、0157やSARSなどの感染症、口蹄疫などに関する新聞や週刊誌の記事分析をした結果、非難対象が個人→集団→システム→国家→社会へと変遷する傾向があることが確認された。またこの現象には頻度知覚や記憶のバイアスもかかわっていることが実験によって見いだされた。
著者
釘原 直樹 Kugihara Naoki クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-15, 2014-03

スケープゴーティングとは、何らかのネカティブな事象が生起、あるいは生起が予見されている際に、事態発生や拡大・悪化に関する因果関係・責任主体が不明確な段階で、原因や責任をある対象に帰属したり、その対象を非難することが、一定の集合的広がりをもって行われることである。また因果関係の枠外にある対象に対する責任帰属や非難、そしてそのような認知や行為が共有化されていくプロセスもスケープゴーティングに含める。このスケープゴーティングにおいて、対象となるものをスケープゴートと呼ぶ。ここでは、スケープゴーテイングの発生プロセスに関するモデルを構成し、さらにスケープゴーティングを促進するマスメディアの報道特性やスケーフゴートの時間経過による変遷プロセス(波紋モデル)について述べる。The scapegoating was typical kinds of collective attribution of causes and responsibility and blaming a certain targets when people perceive that negative events occurred in past or will occur in the future. The targets of scapegoating may be selected on the basis of ambiguous or no causal relationship to the negative event. Here I proposed a total scapegoating model and discussed characteristics of mass media publicity. And finally, a scapegoat transition model (the ripple widening model) was presented.
著者
今村 夕貴 釘原 直樹 イマムラ ユキ クギハラ ナオキ Imamura Yuki kugihara naoki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.47-52, 2016-03

本研究は、Bem(2011)の予知的恐怖回避実験の結果を再検討することを目的とした。Bem(2011)の研究については、これまで多くの追試が行われている。しかしながら、一貫した結果は得られていない。Galak, Leboueuf,Nelson&Simmons(2012)は、Bem(2011)による実験の結果は参加者数の過多による帰無仮説の誤棄却であると主張している。したがって本研究では、実験参加者数を減らし、Bem(2011)の主張を再検討した。加えて、山羊・羊効果(Schmeidler,1945)から、超心理現象を信奉する程度が実験結果に影響すると考えられる。そのため、超自然現象信奉尺度(中島・佐藤・渡邊,1993)得点と参加者が予知能力の信奉する程度を分析に用い、Bem(2010)の主張を詳細に検討した。結果、実験条件間に有意な差は認められず、Bem(2011)の研究は再現されなかった。The purpose of the study was to reexamine the experiment of precognitive avoidance of negative stimuli (Bem,2011).Although, several researchers have attempted to replicate the results of Bem's study,they have had inconsistent results.Galak,Leboueuf,Nelson&Simmons(2012)criticized that the result of Bem's study was derived from large sample size and false rejection of null hypothesis. Therefore, we reexamined Bem's study by assembling adequate number of participants. In addition,because the degree of believing in psi is said to have effects on precognitive ability(sheep-goat effect(Schmeidler,1945)),we me asured the score of Paranormal Belief Scale(Nakajima,Sato&Watanabe,1993)and compared the performance of participants who have different level of believing in psi.Our results did not match those reported by Bem;thus,we were not able to replicate the 2011 precognitive ability study.
著者
釘原 直樹
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は野球や相撲のようなプロスポーツや緊急事態における抜きつ抜かれつの競争が集団成員の行動や動機づけに与える効果について検討した。従来、社会的促進に関する研究において、他者の存在は十分学習された容易な課題に関してはパフォーマンスを上昇せしめることが明らかにされてきた。しかしアメリカ大リ-グのワールドシリーズのデータの分析結果はこの知見と反するものであった。優勝がかかった第7試合では第1、2試合に比べて、優勝を期待するホームの観客の前でエラーの数が多くなり、また勝率も低下するhome choke現象が存在することが示された。本研究では日本のプロ野球でもこの様な現象が存在するか否かについて検討した。1951年から1997年までの日本シリーズのデータを分析対象とした。分析の結果、レギュラーシ-ズンとシリーズを通してホームアドバンテージの効果は日本より米国の方が大であることが明らかになった。シリーズの全ての試合で日本のホームチームの勝率が米国より高いのは第5戦のみである。このことは日本の場合はシリーズ全体がhome chokeの傾向があることが示唆された。エラーの発生率も第1,2戦より第7戦の方が多くなる傾向が伺えた。平成8年6月13日に発生したインドネシア・ガル-ダ航空機離陸失敗炎上事故について検討した。乗客260名のうち219名のデータが得られた。調査の結果次のことが明らかになった。1)発災直後の乗客の反応の特徴は動かない「凍結」状態である。2)次が混乱と狼狽の段階である。悲鳴と怒声が飛び交い、一時は非常口に沢山の人が殺到して身動きが出来ない状態になった。3)他者に同調する傾向が見られた。4)荷物や脱出口に対する固着傾向が強くなった。5)乗客の中から「大丈夫だ、落ち着け」等を複数の他者に向かって発言したリーダーが18名(16名が男性)ほど機体後部で集中して発生した。6)乗客間での助け合いや声の掛け合いがあった。特に損壊が激しい機体最後部では一人の男性乗客が5〜6名もの人の脱出の手助けをした。
著者
内田 遼介 釘原 直樹 手塚 洋介 國部 雅大 土屋 裕睦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.33-43, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
26

先行研究では様々な情報源が集団全体の集合的効力感と関連することが明らかにされてきた。しかし,スポーツ集団内において成員1人1人がどのように集合的効力感を評価したのか,その基礎的な形成過程に関しては明らかではなかった。本研究の目的はスポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程について,特に課題遂行能力の異なる成員に着目して検討することであった。実験参加者は男子大学生23名であり,実験協力者2名とともに3名1組の集団に割り当てられた。実験課題はワイヤーロープを60秒間,あらかじめ定められた基準値以上の張力で維持し続ける張力維持課題であった。実験参加者はこの課題を実験協力者2名よりも課題遂行能力という点で劣っている劣位条件,優れている優位条件,そして参加者のみで行う単独条件の3条件で行った。その結果,特に劣位条件において他者の課題遂行能力を手がかりに集合的効力感を評価する傾向が認められた。そして,劣位条件では単独条件,優位条件よりも努力量が低下する社会的手抜きが生起した。最後に,これらの結果について他者に対する能力期待の観点から解釈した。
著者
曺 美庚 釘原 直樹
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.88.16322, (Released:2017-05-10)
参考文献数
34

心理学研究第88巻第3号掲載の曺 美庚・釘原 直樹著,「文化,性,パーソナリティがタッチ性向に及ぼす影響」論文は,著者により取下げられました。
著者
阿形 亜子 釘原 直樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.108-115, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
27

近年,好ましい人物であるとの評判を獲得できることが向社会的行動を引き出すという競争的利他主義(Van Vugt, Roberts, & Hardy, 2007)が,多くの研究で注目を集めている。そこで本研究では,個人の貢献にともない評判が形成されうる状況がパフォーマンスを促進するかどうかを検討した。発展途上国に寄付する物品を作成する場面を用いて,貢献量を他者に呈示できる個人条件と,自己の貢献量が提示できない集団条件を設定し,実験をおこなった。併せて,作業量に伴って参加者自身に金銭報酬が与えられる物質的報酬条件との比較をおこなった。その結果,寄付物品作成場面を用いた潜在的報酬条件において,集団条件よりも個人条件でパフォーマンスが高まり,評判が形成されうる状況が寄付行動を促進することが示された。一方,潜在的報酬条件と物質的報酬条件の間で,パフォーマンスに差はみられなかった。最後に,実験操作の問題点について考察し,向社会的行動の促進要因としての評判の効果について議論をおこなった。
著者
松本 友一郎 釘原 直樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.167-173, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
21

本研究は,看護師を対象に,上司との関係についてのスタッフの評価,そのスタッフによって推測された上司からの評価,上司との関係における対人ストレスコーピングの3つと部下の心理的ストレス反応の関連について検討した。上司との関係を公的な側面と私的な側面から検討した結果,特に公的な側面において,上司との関係に関するスタッフ自身の評価よりも,上司からの評価に対する推測の方が,そのスタッフの心理的ストレス反応と強く関連していることが見出された。この結果は,自己の抑制を必要とする感情労働としての特徴が,患者との関係と同様に,上司との関係においてもみられることを示唆している。私的な側面については,上司からの評価に対する推測が心理的ストレス反応と正の関連があった。さらに,本研究の対人ストレスコーピングに関する結果は,患者との関係における看護師の対人ストレスコーピングに関する先行研究の結果と概ね一致していた。よって,看護師における対人ストレスの特徴は,患者との関係だけでなく,上司との関係においてもみられるといえる。
著者
曺 美庚 釘原 直樹
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.281-287, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
34

心理学研究第88巻第3号掲載の曺 美庚・釘原 直樹著,「文化,性,パーソナリティがタッチ性向に及ぼす影響」論文は,著者より取下げられました。
著者
釘原 直樹 クギハラ ナオキ Kugihara Naoki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-15, 2014

スケープゴーティングとは、何らかのネカティブな事象が生起、あるいは生起が予見されている際に、事態発生や拡大・悪化に関する因果関係・責任主体が不明確な段階で、原因や責任をある対象に帰属したり、その対象を非難することが、一定の集合的広がりをもって行われることである。また因果関係の枠外にある対象に対する責任帰属や非難、そしてそのような認知や行為が共有化されていくプロセスもスケープゴーティングに含める。このスケープゴーティングにおいて、対象となるものをスケープゴートと呼ぶ。ここでは、スケープゴーテイングの発生プロセスに関するモデルを構成し、さらにスケープゴーティングを促進するマスメディアの報道特性やスケーフゴートの時間経過による変遷プロセス(波紋モデル)について述べる。
著者
武藤 麻美 釘原 直樹 Muto Mami Kugihara Naoki ムトウ マミ クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.12, pp.173-181, 2012

本研究は、(1)異なる価値観を有する内・外集団ターゲットへの心理的距離の延伸と、印象評価の切り下げとが連関するか否かについての検証、(2)その連関は、認知者が保有するターゲットに対する期待値と、現実値との乖離が大きい場合に、顕著に出現することの検証、を目的とした。実験デザインは、2(戦争反対意見, 戦争賛成意見) × 2(内集団: 日本人, 外集団: 米国人)の参加者間計画とした。結果は次のとおりである。(1)戦争反対条件で、ターゲットに対する距離の短縮化と印象評価の上昇がみられた、(2)戦争賛成反対の両条件とも、外集団ターゲットよりも内集団ターゲットで、距離の延伸と印象評価の低下がみられた、(3)心理的距離と印象評価の変動は類似の傾向を示した。これらの結果について考察を行う。
著者
釘原 直樹 Kugihara Naoki クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-6, 2015

災害や緊急事態の人間行動に関する研究結果は人々の一般的イメージ(パニックや反社会的行動の発生)とは異なる。実証的研究データの多くが、人は緊急事態では人間関係や社会規範に基づいた順社会的行動をすることを示している。ここでは、実証的研究の結果に基づき危機事態の行動や意思決定について述べることにする
著者
正高 杜夫 釘原 直樹 Masataka Morio Kugihara Naoki マサタカ モリオ クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.95-99, 2015-03

本研究は、集団形成の過程の違いが、内集団バイアスに与える効果について吟味する。具体的には、実験室において形成された最小条件集団から、同様の手続きを用いてさらに集団を分割する事により、集団の形成過程を再現した。実験の結果、内集団バイアスにおける否定的認知傾向(外集団蔑視)が集団形成の過程で生起することは示されなかった。一方、集団形成の過程において、内集団への好意的行動傾向(内集団ひいき)が変化することが明らかになった。以上の結果より、集団間の境界の明確さが内集団ひいき行動に影響を与えることが示唆された。
著者
上原 依子 青柳 肇 釘原 直樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.60, pp.195-200, 2011-05-16
参考文献数
12

他者の援助が必要な困窮状態にあるとき,適切に援助を要請出来ないことは,不都合な結果を招きかねない.本研究では,援助要請を抑制する心理的要因の一つとして,対人感受性の高さ,および一般的信頼の低さに起因する,他者の行動に対しての評価判断の慎重化を扱った.とりわけ,低信頼者かつ対人感受性高群において,「他者の心的状態を察知する判断能力はあるものの,信頼出来るという決定的な判断や信頼行動に踏み切れない」という,従来の信頼研究では見過ごされてきたパターンの実証を試みた.本研究では大学生470名に対して質問紙調査を実施し,評価者の一般的信頼と対人感受性に関する尺度得点が,いじめの相談場面における教師への評価におよぼす影響を検討した.その結果,低信頼者は感受性が高く,高信頼者は感受性が低いときに,苦境場面におけるサポート者をより好意的に判断するという相補的な結果が得られた.よって,援助要請が必要となる苦境場面において,対人感受性の強さがサポート者に対しての印象評価にネガティブな影響をおよぼすという予測は高信頼者においてのみ実証され,低信頼者においては予測とは真逆の結果となった.
著者
内田 遼介 釘原 直樹 東 亜弓 土屋 裕睦
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.219-229, 2017-08-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2

Previous studies have revealed that past experience shared by the members of a group can uniformly increase or decrease the collective efficacy. However, it remains unknown how appraisal formation processes occur within an athletic team in which each member of varying ability appraises collective efficacy from the perspective of shared past experience. The purpose of this study was to examine the processes related to appraisal of collective efficacy in terms of the task-related abilities of individual members. The participants, 75 healthy males, were assigned to triads. The triads were instructed to cover a combined distance of 2,000 m as quickly as possible on a bicycle. The comparative task-related abilities of the participants were manipulated through false feedback before the task. The results revealed that participants with superior condition only appraised collective efficacy based on their own potential contribution, and that collective efficacy was associated with individual effort during the task. These results could be interpreted in the light of instrumentality, which is an element of the Collective Effort Model (Karau & Williams, 1993, 2001).