著者
岡田有司 大久保智生 半澤礼之 中井大介 水野君平 林田美咲 齊藤誠一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨 学校適応に関する研究は近年ますます活発になり,小学校・中学校・高校・大学と各学校段階における学校適応研究が蓄積されてきている。学校段階によって学校環境や児童・青年の発達の様相は異なるといえ,学校適応研究においても学校段階を意識することが重要だといえる。こうした問題意識から,企画者らは2017年度は小学校段階に焦点をあてて学校適応について検討を行った(大久保・半澤・岡田,2017)。本シンポジウムでは,中学校段階に注目し,主に友人関係の観点から学校適応にアプローチする。 先行研究では中学生の学校適応に影響を与える様々な要因について検討されてきたが,その中でも友人やクラスメイトとの関係は学校への適応に大きなインパクトがあることが示されてきた(岡田,2008;大久保,2005など)。 中学校段階は心理的離乳を背景に友人関係の重要度が増すとともに,同性で比較的少人数の親密な友人関係である,チャムグループを形成する時期であるとされる(保坂・岡村,1986)。そして,この時期の友人関係では,内面的な類似性が重視され,排他性や同調圧力が強くなるといった特徴のあることが指摘されている。このような友人関係を形成することは発達的に重要な意味がある一方で,中学校段階において顕在化しやすい学校適応上の諸問題と密接に関連していると考えられる。 以上の問題意識から,本シンポジウムでは友人という観点を含めながら中学生の学校適応について研究をされてきた登壇者の話題提供をもとに,この問題について理解を深めてゆきたい。中学生の「親密な友人関係」から捉える青年期の学校適応中井大介 近年,青年期の友人関係に関する研究では青年が親密な関係を求めつつも表面的で希薄な関係をとることや状況に応じた切替を行うといった複雑な様相が指摘されている(藤井,2001;大谷,2007)。その中で,依然として「親友」と呼ばれるような「親密な友人関係」が青年期の学校適応や精神的健康に影響することも指摘されている(岡田,2008;Wentzel, Barry, & Caldwell, 2004)。 一方で,このように重要とされている青年期の親密な友人関係であるが,そもそも青年にとって,このような親密な友人関係がどのようなものであるかを検討した研究は少ない(池田・葉山・高坂・佐藤,2013;水野,2004)。その中でこのような青年期の親密な友人関係をとらえる枠組みの一つとして,近年,青年期の友人に対する「信頼感」の重要性が指摘されている。 しかし,この青年期の友人に対する「信頼感」については,質的研究は行われているものの量的研究が少ないため未だ抽象的な概念である。この点を踏まえれば青年期の親密な友人関係について主体としての青年自身が信頼できる友人との関係をどのように捉えているのかを量的研究によって検討する必要があると考えられる。 加えて上記のように中学生にとって親密な友人関係が学校適応や精神的健康に影響を及ぼすことを踏まえれば,友人に対する信頼感と学校適応の関連を詳細に検討する必要性があると考えられる。しかし,これまで友人に対する信頼感が学校適応とどのような関連を示すかその詳細は検討されていない。そのため生徒の学年差や性差などによる相違についても検討する必要がある。 そこで本発表では中井(2016)の結果をもとに,第一に,「生徒の友人に対する信頼感尺度」の因子構造と学年別,性別の特徴を検討し,第二に,友人に対する信頼感と学校適応との関連を学年別,性別に検討する。これにより中学生の学校適応にとって「親密な友人関係」がどのような意味を持つかについて今後の研究課題も含め検討したい。スクールカーストと学校適応感の心理的メカニズムと学級間差水野君平 思春期の友人関係では,「グループ」と呼ばれるような同性で,凝集性の高いインフォーマルな小集団が形成されるだけでなく(e.g., 石田・小島, 2009),グループ間にはしばしば「スクールカースト」という階層関係が形成されることが指摘されている(鈴木, 2012)。スクールカーストは,生徒の学校適応やいじめに関係することが指摘されている(森口, 2007;鈴木, 2012)。中学生を対象にした水野・太田(2017)では学級内での自身の所属グループの地位が高いと質問紙で回答した生徒ほど,集団支配志向性という集団間の格差関係を肯定する価値観(Ho et al., 2012;杉浦他, 2015)を通して学校適応感に関連することを明らかにした。このように,スクールカーストに関する心理学的・実証的な知見は未だに少ないことが指摘されているが(高坂, 2017),スクールカーストと学校適応の心理的プロセスが少しずつ示されてきている。 また,個人内の心理的プロセスだけでなく,学級レベルの視点を取り入れた研究も必要であると考えられる。なぜなら,学校適応とは「個人と環境のマッチング」(近藤, 1994;大久保・加藤, 2005)と言われるように,個人(児童や生徒)と環境(学級や学校)の相性や相互作用によって捉える議論も存在するからである。さらに,近年のマルチレベル分析を取り入れた研究から,学級レベルの要因が個人レベルの適応感を予測することや(利根川,2016),学級レベルの要因が学習方略に対する個人レベルの効果を調整すること(e.g., 大谷他,2012)のように,日本においても学級の役割が実証的に示されてきているからである。 本発表では中学生のスクールカーストと学校適応の関連について,スクールカーストと学校適応の関連にはどのような心理的メカニズムが働いているのか,またどのような学級ではスクールカーストと学校適応の関係が強まってしまう(反対に弱まってしまう)のかを質問紙調査に基づいた研究を紹介して議論をすすめたい。友人・教師関係および親子関係と学校適応感林田美咲 従来の学校適応感に関する多くの研究では,友人や教師との関係が良好であり,学業に積極的に取り組む生徒が最も学校に適応していると考えられてきた。しかし,学業が出来ていない生徒や教師との関係がうまくいっていない生徒が必ずしも不適応に陥っているとは限らない。そこで,今回は学校適応感を「学校環境の中でうまく生活しているという生徒の個人的かつ主観的な感覚(中井・庄司,2008)」として捉え,検討していく。 友人関係や教師との関係が学校適応感に及ぼす影響については,これまでも検討されてきている (例えば,大久保,2005;小林・仲田,1997)。さらに,家族関係も学校適応感と関連することが示されており,学校適応について検討する際には家族関係やクラス内にとどまらない友人関係も考慮するという視点が必要であると指摘されている (石本,2010)。人生の初期に形成される親子関係は,後の対人関係を形成する上での基盤となることが考えられる。そこで,親への愛着を家族関係の指標とし,友人関係,教師との関係と合わせて,学校適応感にどのような影響を及ぼすのかについて検討した(林田,2018)。 その結果,愛着と学校内の対人関係はそれぞれに学校適応感に影響を及ぼすだけでなく,組み合わせの効果があることが示唆された。親子関係が不安定なまま育ってきた生徒であっても,友人関係や教師との関係に満足していることが補償的に働き,学校適応感が高められることや,友人関係や教師との関係に満足できていない場合,親への愛着の良好さに関わらず,高い学校適応感が得られにくいことが示唆された。つまり,学校適応感を高めるためには,友人関係や教師との関係が満足できるものであることが特に重要であると考えられる。 本発表では,親への愛着や友人関係,教師との関係といった中学生を取り巻くさまざまな対人関係が学校適応感にどのような影響を及ぼしているのかについて,研究結果を紹介しながら考えていきたい。
著者
大久保 智生 堀江 良英 松浦 隆夫 松永 祐二 永冨 太一 時岡 晴美 江村 早紀
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.112-125, 2013 (Released:2017-06-02)

本研究の目的は、香川県内の事業所の店長と店員を対象に聞き取り調査を行い、万引きの実態と万引きへの対応と防止対策の効果について検討することであった。香川県内の店舗の店長90名と店員110名が聞き取り調査に参加した。店長を対象とした聞き取り調査の結果、業種によって万引きの実態も対応や防止対策も異なっていた。また、対応では学校への連絡が効果的であり、防止対策ではソフト面の整備が効果的であることが明らかとなった。店員を対象とした聞き取り調査の結果、アルバイト・パートは、万引きを見た経験がないことが多く、防犯意識が低かった。万引きの多い店舗では、万引きに関する規範意識が低かった。以上の結果から、店舗全体で万引き防止に対する意識を高めていくことの必要性が示唆された。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.34-44, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
8 4

本研究は, 学級の荒れと学級の雰囲気の関係を検討することを目的として行われた。公立中学校8校の37学級の中学生1~3年生 (男子544名, 女子587名, 計1, 131名) を対象に,(1) 向学校感情,(2) 問題行動の経験,(3) 学級の荒れ,(4) 不良少年のイメージをたずねる質問紙を実施した。(2) の問題行動の経験尺度から, 生徒を問題生徒, 一般生徒に分け,(3) の学級の荒れ尺度から, 学級を通常学級と困難学級に分けた。そして, 一般学級と困難学級において, 生徒がもつ問題行動や学校生活に対する意識=学級の雰囲気にどのような違いがあるのかを検討した。その結果, 全体として, 通常学級に比べ困難学級の生徒のほうが, 不良少年がやっていることをより肯定的に評価し, 彼らに対する否定感情および関係を回避する傾向が低く, 学校生活にもより否定的な感情を抱いていた。この結果から, 学級が荒れることには, 問題生徒だけでなく, 一般生徒の不良少年や学校生活に対する意識の違いが関係していると考えられた。したがって, 問題行動の防止・解決には, 問題行動をする生徒だけでなく, 問題行動をしない一般生徒に対しても関わる必要性があることが示唆された。
著者
大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.307-319, 2005-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
41
被引用文献数
23 28

本研究の目的は, 個人-環境の適合性の視点から適応状態を測定する青年用適応感尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検証すること (研究1), 作成された適応感尺度と学校生活の要因 (友人との関係, 教師との関係, 学業) との関連を検討すること (研究2) であった。研究1では中学生621名, 高校生786名, 大学生393名が, 研究2では中学生375名, 高校生572名が調査に参加した。作成された尺度の因子分析の結果から, 従来の適応感尺度の因子とは異なる「居心地の良さの感覚」,「課題・目的の存在」,「被信頼・受容感」,「劣等感の無さ」の4因子が抽出された。また尺度の信頼性と妥当性を検討したところ, 個人一環境の適合性の視点から作成された適応感尺度は, 十分な信頼性と妥当性を有していると考えられた。学校生活の要因と適応感との関連について重回帰分析を用いて学校ごとに検討した結果, どの学校においても「友人との関係」が適応感に強く影響を与えていた。一方,「教師との関係」,「学業」と適応感の関係の構造は学校ごとに異なっていた。以上の結果から, 青年の学校への適応感について, 各学校の特徴を踏まえた上で研究を進めていく必要性が示された。
著者
大久保 智生 鈴木 公啓 井筒 芽衣
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.113-120, 2011

<p>本研究では,他者のピアッシングに対する許容や,青年のピアッシングの実態,また,ピアッシングを行った動機,そしてそれらの関係性について,質問紙調査により検討した.その結果,耳とへそ以外へのピアッシングについては大多数の者が許容していないことが明らかとなった.ピアッシングの経験については,女性のほうが多く,開穴数については,1から3個が多かった.そして,ピアッシングを行った動機については,「ストレスからの回避」,「手軽な自己変容」,「ファッション性の追及」の3つが抽出され,開穴数と開穴方法と関連していることが示された.最後に,青年のピアッシングに関する研究の今後の方向性について論じた.</p>
著者
大久保 智生 西本 佳代
出版者
香川大学大学教育基盤センター
雑誌
香川大学教育研究 = Journal of higher education and research, Kagawa University (ISSN:13490001)
巻号頁・発行日
no.13, pp.41-53, 2016-03-01

本研究の目的は、香川大学1年生の問題行動の実態を明らかにし、その結果をもとにコンプライアンス教育の在り方について考察することにある近年、大学は不祥事対策としてコンプライアンス教育を強化しなければならない状況に立たされている。例えば、学生が犯罪などの不祥事を起こしたのなら、大学はメディアを通して謝罪し、不祥事対策を講じ、それを発信しなければならない。抑止のしようがない問題の対策を講じることの是非はともかくとして、その一連の流れが「誠意ある対応」としてみなされていることは間違いないだろう。確かに、大学は公的な機関であるし、特に香川大学のような地方国立大学においては地域に対する説明責任が生じている。また、2008年に中央教育審議会が示した「学士力」の構成要素には「市民としての社会的責任」や「倫理観」が挙げられており、社会が大学に期待する教育の一環としてコンプライアンス教育が位置づけられているといっても過言ではない。加えて、不祥事に関わることのない大多数の在学生の心情を想像すれば、同じ大学から犯罪者を出さないための手段を講じることが大学の役割の一つのようにも思えるその一方、大学においてこの問題を論じるのであれば、こうした社会的要請がある種のモラルパニックの中で生じているということにも自覚的でなければならないだろう。モラルパニックとは、「社会一般に受容されている文化や規範に挑戦したり、逸脱したりする人々を、社会の秩序や公共の利益を脅かすものとしてやり玉にあげ、冷笑・避難・憎悪・激怒を一斉に浴びせる標的に仕立て上げてしまうヒステリックな大衆心理現象」(盛岡・塩原・本間編、1993、1427頁)のことを指す。罪を犯した学生やその学生が在籍する大学が危険視され、メディアの媒介によって社会不安となる。コンプライアンス教育はその社会不安を解消する「特効薬」として期待を集めるのであるしかし、簡単には「特効薬」は見つからない。そうなった時、行き場のない思いが罪を犯した者やその者が所属する集団の排斥を引き起こしかねない。ジョックヤングは、1960年代後半以降、欧米社会は「安定的で同質的な包摂型社会から、変動と分断を推し進める排除型社会へ」(11頁)移行したと指摘する。排除型社会では、存在論的不安を背景に他者を悪魔に仕立てあげ、社会問題の責任をなすりつける「他者の悪魔化」がおこなわれる。もちろんこれは欧米の話だが、非正規雇用の拡大や失業者の増加等日本にあてはまることが多く、日本もまた排除型社会だとされる。本研究にひきつけてみると、罪を犯した学生やその学生が在籍する大学が危険視され、その解消のために「特効薬」としてコンプライアンス教育が求められる。しかし、簡単には「特効薬」は見つからず、結果として、危険視される学生や大学は「悪魔」として排除される可能性がある。大学におけるコンプライアンス教育について論じるのであれば、こうした問題が付随していることを忘れてはならないし、間違っても「他者の悪魔化」を助長する方向に学生たちを導いてはならないだろう。先のストーリーを意識的にずらして、つまり、問題の原因を個人や一部の集団の異常性に見出し、それを排除するのではなく、社会的構造を含めた広い視野で問題の本質を見極めながら、大学ですべきこと、できることを取捨選択する必要がある。こうした問題意識に立ちながら、本研究は、香川大学1年生の問題行動の実態を明らかにする。エビデンスにのっとった検討を進め、排除型社会に寄与しないコンプライアンス教育の在り方を考える一助としたい。
著者
大久保 智生
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.307-319, 2005-09
被引用文献数
1

本研究の目的は, 個人-環境の適合性の視点から適応状態を測定する青年用適応感尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検証すること(研究1), 作成された適応感尺度と学校生活の要因(友人との関係, 教師との関係, 学業)との関連を検討すること(研究2)であった。研究1では中学生621名, 高校生786名, 大学生393名が, 研究2では中学生375名, 高校生572名が調査に参加した。作成された尺度の因子分析の結果から, 従来の適応感尺度の因子とは異なる「居心地の良さの感覚」, 「課題・目的の存在」, 「被信頼・受容感」, 「劣等感の無さ」の4因子が抽出された。また尺度の信頼性と妥当性を検討したところ, 個人-環境の適合性の視点から作成された適応感尺度は, 十分な信頼性と妥当性を有していると考えられた。学校生活の要因と適応感との関連について重回帰分析を用いて学校ごとに検討した結果, どの学校においても「友人との関係」が適応感に強く影響を与えていた。一方, 「教師との関係」, 「学業」と適応感の関係の構造は学校ごとに異なっていた。以上の結果から, 青年の学校への適応感について, 各学校の特徴を踏まえた上で研究を進めていく必要性が示された。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.466-477, 2009-12-30

本研究の目的は,学校の荒れが収束する過程で指導および生徒の意識にどのような変化が生じているのかを明らかにすることにある。そこで本研究では,調査期間中に荒れが問題化し収束に向かったB中学校の生徒(のべ1,055名)に対して,学校生活への感情,教師との関係,不良少年へのイメージおよび不公平な指導などをたずねる質問紙調査を3年間行い,その結果を荒れが問題化していない中学校7校の生徒(計738名)と比較した。またB中学校の管理職の教師に対し面接を行い,荒れの収束過程で指導にどのような変化があったのかを探った。その結果,生徒の意識に関しては荒れの収束に伴い不公平な指導の頻度が下がり,学校生活への感情や不良少年へのイメージ,教師との関係が改善していることが明らかになった。また生徒指導に関してはその指導が当該生徒に対してもつ意味だけでなく,他の生徒や保護者に対してもつ意味が考慮された間接的な関わりが多用されるようになっていた。以上のことをふまえ,実践的には指導を教師-当該生徒との関係の中だけで考えるのではなく,それを見ている第三者まで含めた三者関係の中で考える必要性があることを示唆した。