著者
高井 良尋 山田 章吾
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

現在までに低線量全身(ないし体幹)照射(low dose total body(or trunk)irradiation:以下L-TBI)が行われた症例は89例となり、ある程度症例が集積されたためL-TBIの適応症例の検討が可能となった。89例の内訳は非ホジキンリンパ腫50例(うち32例は新鮮症例)、固形腫瘍などが39例である。L-TBI単独の抗腫瘍効果が評価できるL-TBI先行例(局所照射後でも転移巣などの評価可能病巣のある症例も含む)は非ホジキンリンパ腫新鮮症例13例、再燃症例13例、固形腫瘍など17例であった。奏効率はそれぞれ85%,23%,18%であり、非ホジキンリンパ腫新鮮例に対してはきわめて良好であったが、再燃例や、固形腫瘍などはL-TBI単独での効果は期待できない結果となっている。固形腫瘍などPR3例のうち2例はリンパ系腫瘍のホジキンリンパ腫2例であり、真の固形癌ではL-TBI単独ではほとんど抗腫瘍効果はないと思われる。非ホジキンリンパ腫再燃例では、以前に根治的な化学療法の行われていない、免疫機構の荒廃していない症例でのみL-TBI単独の効果が認められており、2,3次以上の再燃例で化学療法が何度も行われていた症例ではすべてNCかPDであり、L-TBI単独の効果は期待できない。非ホジキンリンパ腫の新鮮例に対しては極めて有効で、局所照射と化学療法の上にL-TBIをアジュバンドとして使用したI,II期患者の5年生存率は、histrical control群に比し有意に有効であった。固形癌では新鮮例の局所照射と併用することにより局所制御率向上と遠隔転移抑制に期待できるがこれに対する答えはこの3年間では出せない。今後の課題である。末梢血リンパ球サブセット分画の解析ではヘルパーT、ヘルパーインデューサーT細胞分画に有意な増加またサプレッサーT細胞の有意傾向のある減少を認めたことよりL-TBIの抗腫瘍効果の一つは細胞性免疫の賦活効果であることは間違いない。体幹部照射で鼻腔原発のリンパ腫がCRとなった症例を認めたことは特筆に値する。
著者
有賀 久哲 山田 章吾 高井 良尋 根本 建二 小川 芳弘 角藤 芳久 メヒア マルコ 西平 哲郎
出版者
Japanese Society for Therapeutic Radiology and Oncology
雑誌
The Journal of JASTRO (ISSN:10409564)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.347-355, 1996

目的: 食道癌に対する術後照射の有用性を検討する目的で, 術後照射例の治療成績を非照射例と比較してretrospectiveに解析した.対象と方法: 1981年から1990年までに当施設にて治療した根治切除食道癌278例を対象とした.術後照射併用183例 (RT (+) 群), 非併用95例 (RT (-) 群) であり, IV期症例, 術死症例は予め解析から除外した・術後照射は, 両鎖骨上窩と全縦隔を含めたT字形照射野を原則とし, 総線量30-60Gy (平均41.9Gy) であった.90例にpeplomycinまたはcisplatin, vindesine (CDDP併用療法) を用いた同時化学療法が併用された.RT (-) 群に対しても, 42例に強力化学療法が併用された.鎧塁: 各治療群の5年, 10年生存率は, RT (+) 群が47.2%, 30.4%, RT (-) 群が43.0%, 23.7%であったが, 統計学的肴意差はなかった.化学療法併用例に限ると5年生存率はRT (+) 群47.7%, RT (-) 群23.7%(P=0.684) であった.有意予後因子は, N因子 (p<0.0001), T因子 (p=0.0013), 年齢 (p=0.0091), CDDP併用療法 (p=0.0123) であった.再発様式では, T字形照射域の再発率がRT (+) 群18.6%, RT (-) 群37.6%であり, 前者が有意に低かった (p=0.0068).結語: 根治切除食道癌に対する術後照射は, 照射野内再発を有意に減少するが, 生存率の改善は得られなかった.化学療法の同時併用により, 生存率を改善する可能性が示唆された.
著者
古谷 真衣子 小野 哲也 小村 潤一郎 上原 芳彦 地元 佑輔 仲田 栄子 高井 良尋 大澤 郁朗
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.310, 2010 (Released:2010-12-01)

放射線はさまざまなラジカルを生成させるが、その中でも細胞障害の主な原因となるのは水の分解に伴うOHラジカルであることが知られ、しかもそれはSH剤によって捕獲されることが分かっている。他方、最近細胞内で生じるさまざまな活性酸素のうちOHラジカルだけが水素分子によって特異的に除去されることが示されている(Nature Med 13 (6) 688-694 (2007))。そこで我々はこの水素分子が放射線障害を軽減化する活性がないかどうかについて検討してみた。 [材料と方法] 8週齢のC57BL/6J、雌マウスを用いて2%の水素ガスを1時間吸わせた後同じ水素ガス存在下で8Gy及び12GyのX線全身照射を行い生存日数を調べた。X線は0.72Gy/minの線量率。また水素ガスに1時間曝露後普通の空気吸引にもどし、1時間あるいは6時間経た後で放射線を照射し、生存率を調べた。 [結果と考察] 水素ガス投与によって8Gy照射後の平均生存日数は10日から17日へと有意に増加し(p=0.0010)、12Gy照射でも増加傾向がみられた。これらは骨髄幹細胞や腸のクリプト幹細胞に対し水素ガスが防護効果を持つことを示している。さらに水素ガス吸引の効果は吸引を止めた後1時間及び6時間後では明白に減弱していることも分かった。 これらの結果は水素ガスが新しい放射線防護剤として有用であることを示唆すると同時に、水素分子がOHラジカルと反応し得ることも示唆するものである。 現在、水素ガスの効果が細胞レベル、DNAレベルでも観察されるものかどうかについて検討している。
著者
本間 経康 高井 良尋 吉澤 誠 成田 雄一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

放射線治療において,肺腫瘍などの位置・形状変動(動態)に応じた連続追尾照射により治療効果向上と副作用低減を汎用機を用いて短時間で実現するための必須要素技術である,腫瘍の3次元動態の画像計測法とその変動予測法の開発を行い,臨床上有用な性能を達成した。とくに,呼吸統制による呼吸変動予測性能を制御工学的に解析し,より患者負担が少なくかつ効果的な統制法に関する知見を得た。また,リアルタイム適応追尾照射法が実現された場合の効果について,治療計画システムを用いた線量解析を行った。その結果,従来の移動全領域照射法,同期(待伏せ)照射法などと比較し,提案追尾照射制御の有効性を明らかにした。
著者
坂本 澄彦 晴山 雅人 細川 真澄男 高井 良尋 大川 智彦 堀内 淳一
出版者
東北大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

基礎研究に於いては低線量全身照射とBRMとの併用によって免疫賦活効果が増強されるか否かの検討が行われた。先ずOK-432に就いてWHT/Htマウスの偏平上皮がんでは、照射2日前に投与した場合に、TD50アッセイによる実験結果は低線量全身照射による免疫賦活効果が増強される事が示された。又、C3H/Heマウスの繊維肉腫を使用し、腫瘍成長曲線を用いてOK-432と低線量全身照射の併用効果を検討した実験でも同しような結果が得られた。一方、放射線照射によるサイトカイン産生能に及ぼす影響を検討しているが、未だ予備実験の段階であるが、IL-2産生能は0.1Gy,1Gy,3Gyの全身照射で何れも強く抑制され、TNF産生能は3Gyで約2倍に増強されていると言う結果を得ている。次にがん細胞膜に於けるYH206矢CEAのような腫瘍関連抗原、主要組織適合抗原の1つであるMHC Class-I及び接着分子の最も代表的なICAM-Iが放射線照射によって高まる事が分かった。次に、臨床研究に於いては、I及びII期の非ホジキンリンパ腫94例の解析を行い、全身及び半身照射と局所照射の併用群と局所照射単独群との効果が比較検討された。その結果は全身または半身照射併用群では、未だ観察期間は十分ではないが、I期、II期共に明らかに良好な結果を予想させるものがある。組織型をintermediate gradeに限定すると併用群と非併用群との間に統計的有意差が認められている。次に、低線量全身または半身照射が行われた肺癌、子宮頚癌、食道癌、悪性リンパ腫などについて、その副作用を検討したが、全例で白血球、リンパ球、血小板の著明な減少とか、悪心、嘔吐などの副作用は認められない事、が明らかになった。次年度には悪性リンパ腫以外の腫瘍に対する全身照射と局所照射の結果が、出てくる予定である。
著者
仲田 栄子 有賀 久哲 半田 康延 小倉 隆英 関 和則 高井 良尋
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2009

今日のがん治療において、腫瘍内低酸素領域の克服が重要な課題となっている。そこで我々は電気刺激を用いることで腫瘍内低酸素領域を改善できるのではないかと考えた。C3H マウスの右大腿部に Squamous Cell Carcinoma-VII腫瘍(SCC-VII)を移植し、仙骨部後仙骨孔直上の皮膚表面に電気刺激を行った結果、刺激中に腫瘍表面の血流値で 22%の増加、電気刺激終了から約 50分後に腫瘍内部の酸素分圧で 28%の増加が確認された。低酸素マーカーであるピモニダゾールを使用した結果、電気刺激終了後 40 分で低酸素領域は 20%有意に減少した。X 線を腫瘍移植部に局所照射したところ、一回照射(総線量 5Gy)・分割照射(総線量 7.5Gy)のいずれにおいても放射線単独群より放射線+電気刺激併用群で腫瘍の成長に遅延が認められた。