著者
高安 美佐子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.512-515, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)

インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,サイバーフィジカルなどの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。第5回は,サイバー空間における情報拡散の推移がテーマ。ある単語の出現数やその減衰を数理モデルで表し,科学的にシミュレーションすることから何がわかるのか。
著者
佐野 幸恵 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.458-463, 2022-07-05 (Released:2022-07-05)
参考文献数
16

ウェブサービスの一つであるSNSが国内外問わず広く普及している.SNSの代表例であるFacebookは,世界中で登録者数が28億人ともいわれている.SNSの中では,実社会と同様に地震情報などのニュース速報が瞬時に広まったり,誹謗中傷による告発があったりと,様々な現象が起きている.特に近年,SNSで問題視されているのが,多くの人に誤情報があたかも正情報として伝わり,社会的な混乱を引き起こす現象,デマの拡散である.SNSにおける情報伝播は,とらえどころがなく,研究対象として,ましてや物理の問題として扱うことができるのか議論が分かれるところであろう.実際に,SNSを構成する人間には個性があり,その間にやり取りされる情報も多種多様な文脈があり,統一的に扱うことは到底困難にも感じる.さらにSNSを運営するのは,特定の営利企業であり,その性質は自然現象とは大きく異なる.しかし,一歩引いて観察すると,SNSは構成している人をノード,その間を流れている情報をリンクとするネットワークとして表現することができる.しかも,そのやりとりは電子的に精緻に記録されているため,大規模に分析することができる.そのため,SNSに関する研究は特にコンピュータサイエンスや情報処理の分野において活発に行われている.一方で,情報が伝播していくネットワーク構造のみに着目した研究は,実はあまり多くはない.そこで,われわれは現象をなるべく単純化した形で,正誤情報が伝播していくネットワーク構造の違いを比較した.具体的には,日本でも広く使われているSNSの一つであるTwitterにおいて,アカウントをノード,その間をつなぐリツイートとよばれる情報の転送関係をリンクとしたネットワークを正情報と誤情報の両方で構築し比較した.そして,これらを比較した結果,誤情報の方が複雑なネットワーク構造をしている点に着目した.特に,正情報の場合,発信源を中心とした星型で伝播するのに対し,誤情報の場合,発信源は必ずしもネットワークの中心とはなっていない.誤情報では,目にした情報を,発信源まで遡ることなく,そのまま身近な人へと転送することがしばしば起こっていることを表している.このような伝播ネットワークの違いを数値化することにより,伝播している情報の文脈や,情報を発信・転送する人の属性などを考慮することなく,SNSで広まっている情報が正誤どちらに近いのかを評価できるようになる.さらに,数値化においては,ネットワークのローカルな情報である,リンク数の平均,および二乗平均だけを用いている点は,重要である.例えばノードの重要度を表す代表的な指標である媒介中心性を計算するには,ネットワーク中のすべてのノードペア間の最短経路を計算する必要がある.一方,リンク数の平均,および二乗平均であれば,注目するノードのローカルな情報のみで計算ができる.今後もSNSによる情報流通が増えていくと考えられる.透明性が高く,計算量も軽い指標で新たな「情報生態系」を捉え,明らかにし,さらに社会へも還元するような取り組みは,重要性を増していくのではないだろうか.
著者
高安 美佐子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.512-515, 2017

<p>インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,サイバーフィジカルなどの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。</p><p>第5回は,サイバー空間における情報拡散の推移がテーマ。ある単語の出現数やその減衰を数理モデルで表し,科学的にシミュレーションすることから何がわかるのか。</p>
著者
高安 美佐子
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:07272997)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.937-946, 2008-03-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。 サブゼミ この10年ほどの間に人間の経済活動の詳細なデータがコンピュータの中に蓄積されるようになりました。そして、その蓄積された膨大な量のデータを解析することで、通常の自然科学と同じような手法で経済現象を実証科学的に研究することができるようになってきています。そのような研究を中心的に推進しているのが経済物理学です。経済学における仮説をデータからどの程度成立しているのかを実証的に検証し、さらに、見逃していた効果があればそれを取り込むような形で、研究が発展し、既に実務に応用されているような研究成果も出ています。まだ解析のための道筋もできていないような高頻度の経済データは無尽蔵ともいえるほどありますから、物理学のセンスを活かした研究の発展が期待されています。
著者
高安 美佐子 尾崎 順一
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

約100万人のスマホGPSデータを解析し都市圏の人流に関する基本的な特性を明らかにした。大都市圏での人流パターンを流域という視点に基づいてマクロ的に捉える新しいデータ解析手法を確立し、流域のサイズの分布や形状が都市に依存しない普遍的な特性を持ち、さらに、Covid-19の感染下でも基本特性が維持されていることを見出した。また、人流を電流とみなすアナロジーによって、都市圏の交通流を近似する電気回路モデルを構築し、新たなシミュレーション手法の基盤を構築した。さらに、基本的な感染症の数理モデルをGPSデータに基づく人口集中の効果を考慮するように改良し、感染者数の増減を予測可能とするモデルを開発した。
著者
高安 秀樹 水野 貴之 高安 美佐子
出版者
サイエンス社
雑誌
数理科学 (ISSN:03862240)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.78-83, 2002-03
被引用文献数
1
著者
金澤 輝代士 末重 拓己 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
自動制御連合講演会
雑誌
自動制御連合講演会講演論文集 第59回自動制御連合講演会
巻号頁・発行日
pp.239-241, 2016 (Released:2017-02-01)

外国為替市場に関する詳細なデータが近年利用可能になった.本講演では外国為替市場の実データをもとに,外国為替市場のトレーダーたちのミクロな取引戦略を解析する.さらに,その性質を取り入れた多体確率過程モデルを提案し,その近似解を解析的に議論する.最後に,以上の結果が実データと整合するか検証する.
著者
金澤 輝代士 末重 拓己 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
自動制御連合講演会
雑誌
自動制御連合講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.59, pp.239-241, 2016

<p>外国為替市場に関する詳細なデータが近年利用可能になった.本講演では外国為替市場の実データをもとに,外国為替市場のトレーダーたちのミクロな取引戦略を解析する.さらに,その性質を取り入れた多体確率過程モデルを提案し,その近似解を解析的に議論する.最後に,以上の結果が実データと整合するか検証する.</p>
著者
大西 立顕 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:18840930)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.1, pp.1-3, 2010-12-09

ページランクアルゴリズムを用いて,日本企業間の取引関係を 100 万ノード,400 万リンクの有向ネットワークとして分析した.ネットワークを最大強連結成分とその他の成分に分解し,最大強連結成分に属する企業についてページランクを計算した.各企業のページランクとリンク数は,売上高とは強く相関しているが,成長率との相関は弱いことが分かった.さらに,リンク数の大きい企業については,ページランクとリンク数の比が大きくなるにつれ,成長率も大きくなることが分かった.これらの結果は,企業の重要性がネットワーク構造から算出できることを示している.PageRank algorithm is applied to Japanese inter-firm network. The network is consisted of about one million nodes representing firms and four million directed links representing transactions between firms. We extract the largest strongly connected component, and calculate the PageRank of these nodes. While the PageRank and the number of links strongly correlate with sales, they weakly correlate with the growth rate of sales. For the firms with large number of links, we find that the growth rate increases with the ratio of PageRank to the number of links. This indicates that the importance of firms can be measured based on the network structure.
著者
高安 美佐子
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:07272997)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.937-946, 2008-03-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
松永 健太 山田 健太 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.365-375, 2012 (Released:2012-09-27)
参考文献数
27
被引用文献数
2

The dealer model is an agent based model that simulates the simplified dealer's behavior and satisfies various empirical laws of the foreign exchange markets by tuning major three parameters. In this study,we improve the dealer model to satisfy a newly established empirical law about widening of spread as a response to big market price changes. As a result when a big news occurs and the market becomes turbulent, this new model can reproduce broadening of distribution of price change.In a peculiar price change of official intervention in the foreign exchange market by Bank of Japan, this model can be used for estimation of strategies of intervention and responses of the market.