著者
高橋 沙奈美
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.47-60, 2014 (Released:2017-07-19)

社会主義という独自の近代化を経験した、ロシアにおける宗教研究の発展についての考察は、宗教学という制度や宗教概念を脱構築するための重要な事例研究の一つである。ソヴィエト・ロシアでは、宗教の社会的役割を全否定し、宗教の克服を課題とする無神論が国是とされた。しかしそのようなイデオロギーのもとでも、宗教に対する学術研究は行われ、戦後社会においては「科学的無神論」として理論的に整備され、組織化されたのである。本稿では、宗教研究の組織的拠点として1932年に設立され、現在も活動を続ける「国立宗教史博物館」の活動を軸に、宗教・無神論研究の発展を論ずる。この博物館の設立過程、戦前の活動内容、戦後の宗教研究が置かれた文脈の変化と博物館の地位の低下、そして戦後の博物館におけるフィールドワークの成果の一端を分析することで、ソヴィエト・ロシアにおける宗教・無神論研究が近代の欧米宗教学を立脚点としながら、その実証主義的な側面だけを著しく発展させたことを指摘する。
著者
高橋 沙奈美
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、これまで調査してきたサンクト・ペテルブルグの聖クセーニヤについて、査読誌に論文を投稿し、掲載された。また、最後の皇帝ニコライ二世一家殺害事件に対するソ連国内での歴史認識を明らかにし、一家に対する崇敬について調査した。この結果について、国際学会で報告することができた。12月にはアメリカのシカゴ主教区とニューヨーク州の在外ロシア正教会聖シノド・アルヒーフ、およびジョルダンビリーの聖三位一体修道院の図書館で調査を行うことができた。シカゴでは、在外教会におけるニコライ二世一家列聖に関わった司祭の妻に話を聞くことができた。また、彼女自身が1970年代にツーリストとしてレニングラードの聖クセーニヤの墓を訪れた経験についても明らかになった。聖シノドおよび聖三位一体修道院での資料集では、クロンシュタットの聖イオアン神父、聖クセーニヤ、皇帝一家の崇敬と列聖に関する大量の一次資料および、新聞・雑誌記事を手に入れることができた。在外教会が列聖に踏み切るに至った経緯として、在外教会を本国のロシア教会に従属するものではなく、真のロシア教会と考えた府主教フィラレート(ボズネセンスキー)が指導者となったことが、重要な意味をもっていたことを明らかにした。また、イオアン神父やクセーニヤの列聖に向けては、一般信徒からなる兄弟会/姉妹会がイニシアティブを取って、奇跡譚を収集し、イオアンやクセーニヤの文化的表象の造形に大きく貢献していたことがわかってきた。一方の皇帝一家の列聖に関しては、歴史認識が大きな問題となった。皇帝一家の運命をどのように表象し、普及するかという問題が極めて重要であり、これに高位聖職者や知識人などのロシア人ディアスポラのエリートが大きく関わっていたことが、さまざまな資料から明らかになってきた。
著者
高橋 沙奈美
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.47-60, 2014

社会主義という独自の近代化を経験した、ロシアにおける宗教研究の発展についての考察は、宗教学という制度や宗教概念を脱構築するための重要な事例研究の一つである。ソヴィエト・ロシアでは、宗教の社会的役割を全否定し、宗教の克服を課題とする無神論が国是とされた。しかしそのようなイデオロギーのもとでも、宗教に対する学術研究は行われ、戦後社会においては「科学的無神論」として理論的に整備され、組織化されたのである。本稿では、宗教研究の組織的拠点として1932年に設立され、現在も活動を続ける「国立宗教史博物館」の活動を軸に、宗教・無神論研究の発展を論ずる。この博物館の設立過程、戦前の活動内容、戦後の宗教研究が置かれた文脈の変化と博物館の地位の低下、そして戦後の博物館におけるフィールドワークの成果の一端を分析することで、ソヴィエト・ロシアにおける宗教・無神論研究が近代の欧米宗教学を立脚点としながら、その実証主義的な側面だけを著しく発展させたことを指摘する。
著者
高橋 沙奈美 Sanami Takahashi
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.235-251, 2015

マダム・ブラヴァツキーは幼少のうちから,ひとところに長く落ち着いて生活することのない「遊牧民的」生活を余儀なくされた。様々な民族と宗教が混在するロシア帝国の南方を転々と放浪する生活をしたこと,特にアストラハンで遊牧民のカルムィク人とそのチベット仏教に出会っていたことは,彼女のその後の人生に少なくない影響を及ぼしたと考えられている。母エレーナは,この放浪生活に耐えがたい疲弊を感じていたが,その一方で,西欧文明とは異なる生活の中にインスピレーションを見出し,「異郷」を舞台とした一連の小説を発表した。時に,1820–1830 年代のロシア文壇を風靡したロマン主義は,「カフカスもの」と称されるロシア南方を舞台とした小説を輩出していた。エレーナ・ガンの創作も,この潮流に棹差すものだったのであり,1838 年に彼女が発表した,カルムィクを舞台とする小説「ウトバーラ」もまた,ロシアのオリエンタリズムが生み出した作品の一つといえる。本稿はガンを育んだ人々や環境,彼女が抱き続けた理想や,彼女が生きた時代の歴史的・文化的背景を踏まえながら,ガンが見たカルムィクと仏教世界を小説「ウトバーラ」の中から読み解く試みである。Madame Blavatsky had no choice but to move from one place to anotherfrom the time she was in the cradle. Her family nomadically moved aroundthe southern part of the Russian Empire. Her encounter with the Kalmykpeople in Astrakhan affected her for the rest of her life to some extent. Hermother, Elena Gan, was also inspired by differences with the life in her"Europe," when exhausted from her non-cultural—sometimes even barbaric—nomadic life.She wrote several novels set in a strange land. Meanwhile, "Caucasiannovels," concerning the Southern Russian lands and peoples, played an importantrole in the history of the Russian romantic literature in the 1820's and1830's. Gan followed the mainstream. In 1838, she published "Utballa," set inKalmykia, which should be considered as one of the fruits of Russian orientalism.In this essay, I discuss the representations of the Kalmyk and their Buddhismin the novel, taking into account the author's background, her ideals,and the historical and cultural circumstances of her time.
著者
高橋 沙奈美 Sanami Takahashi
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.235-251, 2015-11-27

マダム・ブラヴァツキーは幼少のうちから,ひとところに長く落ち着いて生活することのない「遊牧民的」生活を余儀なくされた。様々な民族と宗教が混在するロシア帝国の南方を転々と放浪する生活をしたこと,特にアストラハンで遊牧民のカルムィク人とそのチベット仏教に出会っていたことは,彼女のその後の人生に少なくない影響を及ぼしたと考えられている。母エレーナは,この放浪生活に耐えがたい疲弊を感じていたが,その一方で,西欧文明とは異なる生活の中にインスピレーションを見出し,「異郷」を舞台とした一連の小説を発表した。時に,1820–1830 年代のロシア文壇を風靡したロマン主義は,「カフカスもの」と称されるロシア南方を舞台とした小説を輩出していた。エレーナ・ガンの創作も,この潮流に棹差すものだったのであり,1838 年に彼女が発表した,カルムィクを舞台とする小説「ウトバーラ」もまた,ロシアのオリエンタリズムが生み出した作品の一つといえる。本稿はガンを育んだ人々や環境,彼女が抱き続けた理想や,彼女が生きた時代の歴史的・文化的背景を踏まえながら,ガンが見たカルムィクと仏教世界を小説「ウトバーラ」の中から読み解く試みである。
著者
松里 公孝 長縄 宣博 赤尾 光春 藤原 潤子 井上 まどか 荒井 幸康 高橋 沙奈美
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ロシアの諸宗教を網羅的・多面的に研究した結果、宗教というプリズムを通じてロシア社会を観察することが可能であることが明らかになった。宗教の視点からは、ロシアはより広い地理的なまとまりの一部であり、キリスト教の「教会法上の領域」の観念、巡礼やディアスポラを含めて広域的な観点から分析する必要性が明らかになった。「脱世俗化」の傾向はロシアにも共通するが、その特殊な形態を明らかにする作業が行われた。