著者
谷 京
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.2-31, 2021-09-15 (Released:2021-09-28)
参考文献数
34

本稿は従来ほとんど学術的関心の対象とならなかった日朝貿易の展開過程を分析し,日韓国交正常化交渉のさなかの1960年代前半に,むしろ日朝貿易の制限緩和が進んだ要因を明らかにする。先行研究では,日本政府と経済界とのせめぎ合いのなかで,日朝貿易は漸進的・事後承認的に制度化されたといわれる。本稿はこれまで単一アクターとして仮定されてきた日本政府内の省庁間対立に注目し,通産省や大蔵省が日朝貿易の制度化に大きな役割を果たしたと主張する。すなわち,戦後日本の朝鮮半島政策には,同じ資本主義陣営の韓国を優先しようとする外務省の「冷戦の論理」だけでなく,北朝鮮との経済関係の拡大を模索する通産省,大蔵省,経済界の「経済の論理」が存在した。そして,日韓会談の停滞を直接の契機として,日本政府内では「冷戦の論理」よりも「経済の論理」が優勢となった。それゆえ,日朝貿易は東アジア冷戦下においても発展し続けた。
著者
鹿島 正裕
出版者
アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.18, no.8, pp.30-46, 1977-08-01

金沢大学人間社会研究域法学系
著者
山田 紀彦
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.47-84, 2013-12

近年の比較政治学では,議会,選挙,政党等の民主制度が権威主義体制の持続にどのような役割を果たしているのか,そのメカニズムの解明に関心が集まっている。権威主義体制下の民主制度は単なる飾りではなく,体制存続のための道具として機能しているのである。しかし先行研究の多くが,「複数政党制」や「競争」を前提としてきたため,閉鎖的権威主義である一党独裁体制はほとんど分析対象となってこなかった。本稿は一党独裁体制であるラオスを事例に,明示的/潜在的脅威がほとんど存在しないラオスにおいても,支配政党が国会と選挙を体制維持の一手段として活用していることを明らかするものである。人民革命党は国家や社会への強固な管理体制を確立しながらも,2000年代以降の経済・社会問題の多様化にともなって,国民の政治参加を拡大し,国民の声を国会に反映させることで支持獲得を図ってきた。そして党は国会がそのような機能を果たせるよう,選挙を戦略的に活用している。このような国会と選挙の連関は,過去5回の国会議員選挙を分析することで裏付けられる。党は国会の位置づけの変化にともない候補者の属性を変化させ,「ほぼ」意図通りの国会を形成しているのである。国会と選挙が体制維持に果たす役割は,これまでの権威主義体制研究が示してきた知見とは異なっているが,一党独裁体制でも「名目的民主制度」が体制維持にとって重要な役割を果たしていることには違いないのである。
著者
中村 正志
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.2-32, 2011-09

マレーシアでは,市民的自由の制限と競争性の高い選挙が併存する競争的権威主義が40年にわたり続いてきた。なぜ民主化が果たされないのか。あるいは逆に,より強い政治的権利の抑圧と露骨な選挙不正を伴う体制へと転じないのはなぜか。この問いに答えるには,自由の制限が,統治者が権力を維持するうえで必要にして十分な効果をあげる理由と条件を示す必要がある。本稿は,コミュニケーション研究の知見と投票の空間理論を援用して次のような仮説を提示する。マレーシアでは,民族問題だけが重要争点と認識される,あるいは民族問題の相対的重要性が非常に高いと認識されるなら与党連合が選挙で優位に立てる。メディアの報道は,争点の重要性に関する人々の認識に影響を与える。したがって政府統制下のメディアは,統治者に有利な争点の顕出性を高め,不利な争点の顕出性を抑えるという操作のための道具になりうる。2008年選挙では,インターネットの影響でメディア統制の効果が薄れ,それが野党躍進の一因になったと考えられる。州を単位とするパネルデータ分析でも,プロバイダー契約者数の増加に与党得票率を引き下げる効果があったことが認められた。
著者
竹村 和朗
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.32-51, 2020-12-15 (Released:2021-01-07)
参考文献数
11

本稿は,エジプトの最高憲法裁判所が2008年に言い渡した,1952年法律第180号の第3条に関する違憲判決を解題し,その全文翻訳を提示するものである。同法は,一般に「家族ワクフ」と呼ばれていた寄進財制度を廃止し,その財産を関係者に分配することを定めた。これは,相続の取り分に関わるため,広汎な社会層に争いを生み出し,そのうちのひとつが最高憲法裁判所にまで至ったのである。同法が制定されてから半世紀以上の時間が経過した後に,なぜこのような展開が生じたのだろうか。判決の影響力はどこまで及ぶのだろうか。本稿の解題部では,判決の資料的側面(第Ⅰ節),判決文から読み取られる家族ワクフをめぐる争いの実相(第Ⅱ節),そして違憲の判断を下した裁判官の論理(第Ⅲ節)を明らかにする。本稿の資料部では,同判決の内容を原形式のまま全訳し,解題部の議論が実際の判決文でどのように表現されているかを確認できるようにした。
著者
岩﨑 葉子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.2-26, 2019-12-15 (Released:2019-12-24)
参考文献数
32

イランの同業者組合制度は,行政府の側がばらばらに活動する国内の事業者を積極的に束ね,みずから組織化することを義務付けているという点で,競争法を通じて事業者団体による競争制限的な行為を禁止し,市場の公正性を担保しようとする今日の世界的趨勢においてきわめて例外的な事例である。こうした制度が敷かれている背景には,企業間関係が希薄であるがゆえに,相対的に大きな企業による寡占はおろか,事業者による集団的な競争制限行為も生まれにくいというイラン独自の産業組織のあり方が大きく関連している。この意味では同業者組合制度はむしろ,営業活動上における事業者間の非協調的傾向から生じる市場の非効率や混乱を改善する働きが期待できるものである。