著者
酒井 啓子
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.189, pp.189_17-189_32, 2017-10-23 (Released:2018-12-19)
参考文献数
71

In order to analyse contemporary global crises, it is necessary for scholars of International Relations and Area Studies to overcome two limitations: Area Studies’ tendency to focus only on the substance of certain states or areas and the state-centric understanding of International Relations. Contemporary conflicts and faultlines that intermingle and interlock from the local level to the global level cannot be explained simply by unilineal causal relations among the existing actors but rather are complicated by their reciprocal interaction. In order to grasp the widespread networks of co-relationship among various actors, a new analytical framework should be introduced which frames current affairs as the product of a web of interconnections, and as a result of the transformation of those relationships, rather than on the actors’ essential qualities.As a case study of the above new framework, this paper analyses sectarian “faultlines” in post-war Iraq. Since 2003, violent clashes have occurred in Iraq, which Western media and policy-makers considered to be “sectarian conflicts.” As most of the Western policy-makers assume an essentialist understanding of sectarian relations in Iraq, they consider the sectarian factor as an explanatory and independent valuable. However, in order to propose an alternative approach to the perception of sectarian groups as cohesive actors, this paper avoids substantial “sectarian factors” for explanations of conflict in post-2003 Iraq, and focuses instead on the transformation of the various kinds of relationships that led to political and social strife. It sees how sectarian factors emerge as a result of mobilisation of rhetoric and legitimisation of fighting parties.This paper analyses media narratives in Iraq and surrounding states. It discloses that pro-government Iraqi media and Iranian media consider IS as inhuman terrorists while Arab and Turkish media as a reflection of anti-government ideology and sentiments in Iraqi society. In the regional power struggle between Iran, Saudi Arabia and Turkey, each media, domestic or regional, focuses on the victimhood of their side, and a sectarian narrative further legitimatises the appeal of the victims for their rights. For each side it is not “us” but “others” that discriminate us and exclude us from the Iraqi nation or from the religion of Islam; each side uses sectarian terms to demonise the others, with each insisting that it is “us” who pursue the unity of the community. This paper concludes that the conflicts in post-war Iraq are caused by the competition among the fighting actors over the right to claim the injustice of marginalisation, which often relies on sectarian legitimisation.
著者
三谷 博 深町 英夫 後藤 はる美 酒井 啓子 塩出 浩之 池田 嘉郎 平 正人
出版者
公益財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

この研究は近代に起きた6つの革命を公論と暴力の関係に着目しつつ比較する。取り上げるのはイギリス・フランス・日本・中国・ロシア・中東の革命で、日本と外国の専門家が互いに緊密な議論を行い、最後は英文論文集を刊行する。革命では公論と暴力が同時に誕生するが、暴力が蔓延する条件を探るのが第1の問題である。また、革命の終わりには暴力が排除されるが、その後、公論が維持されて自由な体制が生まれるのか、公論まで排除されて専制体制が生ずるのか、その分岐要因の解明が第2の課題である。さらに、諸革命がどんな連鎖関係に立っていたのか、アジアなど後発革命の側から先行革命の利用の様子を明らかにする。
著者
酒井 啓子
出版者
JAPAN ASSOCIATION OF INTERNATIONAL RELATIONS
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.149, pp.30-45,L7, 2007-11-28 (Released:2010-09-01)
参考文献数
39
被引用文献数
1

Women in Iraq have been always at the “periphery” of the multi-layered centre/periphery structures. They were located at the periphery of the traditional Muslim/Arab society in a Western/modernist sense. Iraq itself, on the other hand, is located at the periphery of the colonial and global economic system. Consequently, Iraqi women have found themselves in a double peripheral position, both at the international as well as the domestic level.The leftist political elites who became dominant in Iraq after 1958 understood the liberation of women as evidence of the progressiveness of modern society, as they opposed both feudalism and Western colonialism. The state under the Ba'thist regime in the 1970s controlled women's organizations and included them in the system of revolutionary mobilization. State control was strengthened during the war period in the 1980s as a means to mobilise women into the labour force.The leftist regimes in Iraq pursued this secular and de-Islamisation policy until after the Gulf war, but in the 1990s Saddam Hussein introduced a re-tribalisation and re-Islamisation policy as a means to compensate for the state's lack of ability to govern local society. This revival of traditional Muslim and tribal social systems drove women again to the periphery.The US invasion of Iraq and the removal of Saddam's regime has led to a change in the previous central/peripheral relationship. Iraq was placed at the periphery of the world political system under US/UK control. At the same time, the new Iraq regime, established following the general election in 2005, is led by Islamist political parties, which were in a peripheral/outlaw position in Iraq before 2003. Under this new situation, women have been divided into three categories. First, there is a group who utilise the US/Western support to “liberate/democratise” Iraq and demand the introduction of a Western legal and social system to protect women's rights. A second group accepts the newly introduced Western electoral system but not the Western-type equal political rights for women. The third are women members of Islamist political parties, who act as a part of the revolutionary forces pursuing the establishment of an Islamic state.Under both the leftist and Islamist regimes, revolutionaries have consistently pursued their own goal of “liberating” their nation from the rule of the “centre” of world politics, which is led by the Western system; sometimes they play up the nominal status of women to the state elites, but in other cases pursue their own aims at the expense of women's rights.
著者
酒井 啓子 松永 泰行 石戸 光 五十嵐 誠一 末近 浩太 山尾 大 高垣 美智子 落合 雄彦 鈴木 絢女 帯谷 知可
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

総括班はグローバル関係学を新学術領域として確立することを目的とし、分担者や公募研究者、領域外の若手研究者にグローバル関係学の視座を理解しその分析枠組みをもとに研究を展開するよう推進することに力点をおいて活動を行っている。H29年度には、領域代表の酒井、計画研究A01代表の松永、計画研究B02分担者の久保が全体研究会や国内の研究シンポジウムなどでそれぞれがグローバル関係学の試論を報告、各界からコメントを受けて学理のブラッシュアップに努めた。そこでは1)グローバル関係学が、関係/関係性に焦点を絞り、その関係/関係性の静態的・固定的特徴を見るのではなく、なんらかの出来事や変化、表出する現象をとりあげ、そこで交錯するさまざまな関係性を分析すること、2)グローバル関係学がとらえる関係が単なる主体と主体の間の単線的/一方方向的関係ではなく、さまざまな側面で複合的・複層的な関係性を分析すること、を共通合意とすることが確認された。それを踏まえて9月以降、領域内の分担者に対して、いかなる出来事を観察対象とするか、主体間の単線的ではない関係性をいかに解明するか、そしていかなる分析手法を用いてそれを行うかを課題として、個別の研究を進めるよう促した。多様な関係性が交錯する出来事にはさまざまな事例が考えられるが、その一つに難民問題がある。計画研究ごとに閉じられた研究ではなく領域として横断的研究を推進するため、計画研究横断プロジェクトとして移民難民研究プロジェクトを立ち上げた。また、総括班主導で確立したグローバル関係学の学理を国際的にも発信していくため、国際活動支援班と協働しながら、海外での国際会議を積極的に実施している。H29年度はシンガポール国立大学中東研究所と共催で同大学にて国際シンポGlobal Refugee Crisesを実施、グローバル関係学の骨子を提示して海外の研究者への発信とした。
著者
大串 和雄 月村 太郎 本名 純 SHANI Giorgiandr 狐崎 知己 千葉 眞 武内 進一 元田 結花 SHANI Giorgiandrea 酒井 啓子 竹中 千春
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、現代世界の武力紛争と犯罪について、グローバル化、アイデンティティ、デモクラシーという3つのテーマを軸にしてその実態を解明するとともに、実態に即した平和政策を検討した。武力紛争はアイデンティティとの絡みを中心に研究し、犯罪については東南アジアの人身取引をめぐる取り組みと、中央アメリカの暴力的犯罪を中心に取り上げた。平和政策では平和構築概念の軌跡、「多極共存型パワー・シェアリング」、移行期正義における加害者処罰の是非を中心に検討し、それぞれについて新たな知見を生み出した。
著者
長崎 暢子 篠田 隆 田辺 明生 石井 一也 油井 大三郎 酒井 啓子 清水 耕介 井坂 理穂
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近年再評価されつつあるガーンディーに関する文献購読、史資料調査、および現地調査(インドのアフメダーバード、ワルダー、イギリスの大英博物館、南アフリカのダーバンなど)を行い、ガーンディーの歴史的役割の重要な一端(非暴力的な紛争解決)の詳細とその影響を明らかにすることが出来た。具体的には、彼は、当時の南アフリカに存在した紛争(人種差別)を非暴力的に解決する「方法としての非暴力」をこの時代に編み出し、それによって有色人種(インド人 & 中国人)に対する白人の人種差別の一角を崩すことに成功したのである。のみならず、この方法は、北欧、中東(イラン)の紛争解決、米国の人種差別反対運動にも影響を与えた。

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著者
酒井 啓子
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.18, no.7, pp.7_51, 2013-07-01 (Released:2013-11-01)
著者
山岸 智子 鎌田 繁 酒井 啓子 富田 健次 保坂 修司 飯塚 正人
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、これまでのステレオタイプ的なシーア派観はもとより、シーア派が「問題化」する構造を解明するために、構築主義的な観点を導入し、シーア派の哲学思想・宗教実践・社会集団化のコンテクストを分析することを課題とした。研究分担者・研究協力者が会合を持って、これまでの研究を振り返り、自らの研究の取り組みについて議論したのみならず、英国・イラン・アメリカ・アラブ首長国連邦・レバノンから一線級の研究者を招聘して意見交換をし、交流の道を開き、こちらからも10カ国以上に赴いて資料収集・現地調査・研究発表などを行った。こうして得た成果は多岐にわたるが、以下のようにまとめられるだろう。1.多様性:さまざまな例が示され、シーア派とはいっても、その集団としてのありようや位置づけが多様であることが、明らかになった。それは、立場の違い(サラフィーヤ主義者とシーア派信徒)や国・地域の違いのみならず、一つの地域・家族でも状況の変化によるシーア派アイデンティティに変化があることが分かった。2.新しい学問的アプローチ:思想研究に歴史的観点を導入する、「人」という観点から思想の展開や指導者の条件を見直す、思想の中のモチーフの見直し、などアプローチや観点を変えることで、新たな知見を得た。3.ローカルとグローバルのインターフェース:宗派として国民国家のなかに位置づけられる際にも、国際的な力学や国家を越えるネットワークが関連すること、宗派の絆のグローバルな経済活動への活用、信徒や学者の国を越えた移動の実際、などが明らかとなった。4.これまでの研究の空白を埋める:そしてシーア派としての制度・知の再生産にかかわるイスラーム法学者のありさまや教育の実態、宗教的慣行など、十分に解明されてこなかったピックも本研究で考察の対象となり、さまざまな発見があった。
著者
酒井 啓子
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.28, pp.145-172, 2013-01-05

2010〜11年、チュニジアに始まった、路上抗議運動の拡大から政権転覆に至る一連のアラブ諸国における政治変動は、個々の国の政治体制や社会経済的状況、対外関係などにおける固有の要因に基づいて、異なる経過と結果を生んだ。いかなる条件のもとでこうした大規模民衆運動が発生し、いかなる条件で政権交代に至るのかを分析するためには、個々の事例における体制内政治構造と社会運動、および国際関係を複合的に視野にいれることが肝要である。本論では体制政治エリート同盟のあり方と、路上抗議運動のあり方、および国外主体の役割に着目するが、それぞれが相互に影響を及ぼしあうことを前提とし、その影響度合いを「脆弱(敏感)性」と名付ける。その上で、体制エリート同盟と路上抗議運動との間の相互の脆弱(敏感)性、およびそれぞれの国外主体との間の脆弱(敏感)性に応じて、政変の経緯および政権交代後の体制再編のあり方が変化することを論ずる。チュニジア、エジプトの事例では体制エリート同盟および路上抗議運動ともに相互に脆弱であり、かついずれも国外主体(具体的には米政権および国際機関)の動向に敏感であったことで、暴力的衝突や政体の劇的な変質を伴うことなく政権転覆が実現した。そのため政権転覆後の支配的政治エリートにおいても、旧政権下でエリート同盟の辺境におかれた勢力が主流を占めることとなった。他方リビア、シリアの場合はそうした脆弱(敏感)性に基づく関係が体制エリート同盟と路上抗議運動の間に存在しなかったため、衝突は暴力的、長期的なものとなった。両者の事例で政変の成否を決定したのは路上抗議運動が強く脆弱性を持つ国外主体の対応であり、国内主体間に脆弱性が見られない場合には政変の展開に国外要因が重要な役割を果たすことがわかる。従来の政治学ではアラブ動乱を十分分析できたとは言い難く、体制論、社会運動論、国際関係論と細分化された諸分野を総合的に組み合わせて分析する枠組みの開発が必要である。本論はそのための一試論である
著者
酒井 啓子
出版者
東京大学大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センター
雑誌
アメリカ太平洋研究 (ISSN:13462989)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.28-35, 2008-03

特集1 : 反米 : その歴史と構造Special Topics I : Anti-Americanism : History and Structure
著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。
著者
西谷 修 中山 智香子 米谷 匡史 真島 一郎 酒井 啓子 石田 英敬 土佐 弘之 石田 英敬 土佐 弘之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

21世紀グローバル世界秩序の構造的要素である戦争・経済・メディアの不可分の様相を歴史的・思想的に解明し、前半部を「ドキュメント沖縄暴力論」(B5、171ページ)として、また後半部を「グローバル・クライシスと"経済"の再審」(B5、226ページ)としてまとめた。