著者
元屋 清一郎 Shapiro Stephen M.
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.420-429, 1985-06-05

温度の低下によって秩序相から無秩序相への転移と見られる現象がある種の磁性体において観測されている. この奇妙な現象の解明を通じて不規則系における相転移に関与しているメカニズムについて述べる.
著者
川崎 恭治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.769-774, 2008-10-05

モード結合理論(MCT)が成立した事情について筆者の個人的経験を中心に述べる.以下の記事は主として筆者の記憶に基づいている.したがって記憶違いということもあると思われるがその際はご容赦ねがいたい.
著者
木下 恭一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.248-255, 1993-04-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
20

地上に住む人類にとって微小重力環境は長い間無縁の存在であった.しかし,ロケット技術の発達によって,長時間継続しての微小重力環境利用が可能になった.こうして,微小重力環境を利用したライフサイエンス実験や材料実験の幕開けを迎えた.我国でも先頃行われた宇宙実験「ふわっと'92」を始め実験計画が目白押であり,将来は宇宙基地への参加も予定されている.ここでは微小重力環境がどのようなものであるかを説明し,その特徴について述べる.さらに,微小重力環境を利用した材料製造のメリット,デメリットについて,特に結晶成長に的を絞って,具体例をあげながら説明する.最後に日本の微小重力利用実験計画の現状と将来展望に触れる.
著者
寺嶋 容明 上田 正仁
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.420-423, 2006-06-05

スピンー重項状態の非局所相関は,量子論の奇妙な性質としてだけてはなく,現在では量子情報処理の重要なリソースとして考えられている.我々は,この非局所相関が,運動する観測者や重力場中の観測者からどのように見えるかということを,相対論に基づき考察した.その結果,相関が見かけ上減少することを示し,完全な相関を得るための方法を議論した.
著者
牧野 淳一郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.330-336, 2002

最近になってM82銀河の中心近くに太陽質量の1,000倍程度の「中間質量」ブラックホールが見つかった. これまでは太陽質量の100から100万倍の間のブラックホールは全く見つかっていなかった. M82での発見はブラックホール, 特に多くの銀河の中心にあると思われる太陽質量の100万倍を超える大質量ブラックホールの形成過程に対する我々の理解を大きく変えるものである. この解説では, 大質量ブラックホールの形成過程に対する, 上の発見をふまえた新しいシナリオを紹介する. 我々はこれがブラックホール形成シナリオの「決定版」になる可能性は十分にあると考えている.
著者
伊藤 伸泰
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.478-487, 2012
参考文献数
61

物理学が無限大の代名詞として扱ってきたアボガドロ数に,計算機の発達により手が届きはじめている.1秒間に1京演算以上を実行するという10PFLOPS以上の性能を持つ計算機によってである.こうした「アボガドロ級」計算機を活用すれば,ナノスケールからマクロスケールまでをこれまで以上にしっかりとつなぐことができると期待される.比較的簡単な分子模型を多数集めた系の計算機シミュレーションによる研究の結果,熱平衡状態および線形非平衡現象の実現と解析は軌道にのり,さらに1,000^3個程度の系を念頭に非線形非平衡現象へと進んでいる.非線形非平衡状態を解明し飼い慣らした次に期待されているのは,生物のような自律的に機能するシステムをナノスケールの計算で得られた知見に基づいて解明し自在に作り出す技術を確立することである.そのためにはアボガドロ級の計算機で実現する10,000^3個程度の系のシミュレーションが強力な手段となる.この可能性を検討する「アボガドロ数への挑戦」が,現在,進行中である.
著者
小坂 英男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.172-179, 2000-03-05
参考文献数
37
被引用文献数
1

「光を自在に操る」ことが可能であろうか.既存の結晶光学,回折光学,量子光学などの光学を大きく発展させる新しい物理はないであろうか.この難問に挑戦しているのが最近話題となっているフォトニック結晶である.「スーパープリズム現象」に続く一連の発見をきっかけに,その糸口が見えてきた.一見異常とも取れるそれらの光学現象は,フォトニックバンドを形成するブロッホフォトンの波数空間内での運動として理解できることがわかった.これにより,フォトンを自在に操る「フォトニックバンドエンジニアリング」の可能性が開けてきた.この「フォトニック結晶光学」とでも呼ぶべき新しい物理を紹介する.
著者
山田 道夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.434-440, 2005-06-05
参考文献数
13

今から40年前, 今井先生は流体力学を通じて数学を理解・研究することを「流体数学」として提唱された.その後の数値的技術の発展は, 数学だけでなく, 多くの諸分野と流体力学の関係に大きな影響を与えつつある.数値解析や新しい実験・観測によって, さまざまなマクロな物理現象において多様な流体運動が発見され続けており, その物理的機構には未解決なものが多い.それら多様な分野における流れに物理的理解を与えることは, 基礎科学としての流体力学/物理学の大きな課題となっている.
著者
高田 昌広
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.140-148, 2014-03-05

「宇宙は膨張している」という宇宙の観測結果は,今では小学生の理科辞典にも当たり前のように載っており,すでに広く認識されている.「膨張する宇宙」の宇宙論の歴史は,1920年代後半にエドウィン・ハッブルら天文学者が,遠方の銀河が我々から遠ざかっているというハッブルの法則を発見したことから始まった.これは,宇宙は不変で定常的であると考えられていた当時の宇宙観・宇宙像を覆す大発見であった.実は,ハッブルらの発見以前に,宇宙膨張を予言する理論的研究があった.アルバート・アインシュタインは1915年に重力の理論である一般相対性理論を提唱したが,他の研究者らが一般相対性理論を宇宙に適用したところ,膨張する宇宙の解が存在することを見つけたのである.あのアインシュタインでさえも,動的な宇宙像を受け入れることができず,重力を打ち消し合う,実質的に万有斥力を引き起こす「宇宙定数」を方程式に導入し,静的な宇宙解を得ようとしていた.後に,ハッブルらの宇宙膨張の発見を受け,アインシュタインはこの宇宙定数の導入を生涯で「最大の過ち」として後悔したエピソードは有名だろう.しかし,宇宙膨張の研究史はこれで決着ではなかった.1998年のほぼ同時期に2つの独立な研究グループが,多数の遠方銀河で起きたIa型超新星の測定から宇宙膨張を調べたところ,約70億年前から宇宙が加速膨張に転じた,つまり宇宙の膨張がどんどん速くなっているという驚きの観測結果を報告したのである.この宇宙の加速膨張の発見を受け,ソール・パールマッター,ブライアン・シュミット,アダム・リースの3氏が2011年のノーベル物理学賞の受賞という銀河天文学史上初の快挙を成し遂げた.アインシュタインの一般相対性理論によれば,宇宙の膨張の歴史を測定することは宇宙に存在する全エネルギーおよび物質を測定することと等価である.宇宙の加速膨張は,物質の重力を凌駕する,万有斥力を引き起こす謎のエネルギー,「ダークエネルギー」で現在の宇宙が満たされていることを意味する.正体不明という意味で「ダーク」と呼ばれているが,皮肉にも80年の年月を経て,現代の宇宙論ではアインシュタインの宇宙定数が復活したのである.ダークエネルギーの正体は何か?宇宙の膨張とともに無尽蔵に増え続けるダークエネルギーに宇宙は支配され,宇宙はこのまま加速膨張を続けるのか,あるいは宇宙は終焉を迎えるのか?これらの疑問は,21世紀の宇宙論が解決すべき難問である.ダークエネルギーの性質の探求には宇宙観測だけが唯一の手段であるので,これを目的とした宇宙探査計画が世界中で計画されている.この宇宙探査には,できるだけ夜空の広い領域にわたり,より遠方にある暗い銀河までくまなく観測するという,言わば宇宙の「国勢調査」が必要になる.この世界の潮流に先駆けて,日本が誇る口径8.2mのすばる望遠鏡に超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)が本格始動した.今年2014年から5年間の計画で,すばる史上最大の宇宙探査を行うことになっている.ハッブル宇宙望遠鏡では1000年以上もかかる壮大な計画である.
著者
阿部 修治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, 2013-11-05