著者
黒澤 大輔 村上 栄一
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1231-1235, 2012-11-01

仙腸関節後方靱帯領域へのブロックで確定診断を得た仙腸関節障害45例を対象に、腰椎疾患との鑑別に有用な圧痛点について検討した。各圧痛点に母指で約4Kgの圧迫力を加えて圧痛の有無を2回検査した。対照は手術治療を行った腰椎疾患80例とした。その結果、圧痛の出現頻度は上後腸骨棘(PSIS)、長後仙腸靱帯(LPSL)、仙結節靱帯(STL)、腸骨筋の圧痛点で有意差を認めた。仙腸関節障害では45例中41例(91.1%)は圧痛点4ヶ所のうち1ヶ所以上が陽性であり、腰椎疾患80例中42例(52.5%)は圧痛点4ヶ所が全て陰性で、圧痛点4ヶ所が全て陽性であったのは1例のみであった。以上より、鑑別に有用な圧痛点はPSIS、LPSL、STL、腸骨筋で、それぞれ特異度が高く、いずれかが陽性であれば仙腸関節障害を疑い、仙腸関節ブロックを用いて確定診断を行う必要があると考えられた。
著者
石井 圭史 川口 哲 渡邊 吾一 神谷 智昭 石川 一郎 山下 敏彦
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌整形外科 (ISSN:00305901)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-4, 2012-01-01

急性腰痛で受診した47例を対象に、MRI撮像により椎体骨折と診断した28例(男2例、女26例、平均76.8歳;椎体骨折群)とそれ以外の19例(男5例、女14例、平均76.2歳;非椎体骨折群)に分け、sit-up-lie-down(S-L)テストの有用性について検討した。S-Lテストは患者を診察台に寝かせ、起き上がり或いは寝そべりのいずれかで腰痛が誘発されれば陽性とした。その結果、椎体骨折群28例中26例が陽性で、椎体骨折に対する感度は92.9%、特異度52.6%であった。棘突起叩打痛が有ったのは64.3%であった。日整会腰痛評価質問票で感度80%を超えたのは腰椎機能障害6項目4項目、歩行機能障害5項目中2項目で、疼痛visual analogue scaleは両群間で有意差はなかった。座位・仰臥位X線では椎体骨折群28例中23例で椎体前壁高変化を認め、非椎体骨折群には変化がなく、感度82.1%、特異度100%であった。S-Lテストは椎体骨折の簡便な診断法として有用であることが示された。
著者
今井 教雄 宮坂 大 須田 健 伊藤 知之 遠藤 直人
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1225-1229, 2014-11-01

股関節インピンジメント41例(男23例、女18例、平均37.5歳;FAI群)と健常者77例(男26例、女51例、平均44.2歳)の骨盤形態・傾斜を比較した。FAI群は、股関節痛を有し、X線上center-edge(CE)角≧25°で臼蓋形成不全がなく、造影MRIで股関節唇損傷を認めた症例とした。臥位X線前後像におけるcross over sign(COS)はFAI群33例、健常群22例に認め、そのうち前骨盤平面(APP)を0°に補正した三次元CTにおけるCOS有りはそれぞれ10例、6例であった。臥位でCT台に対するAPPの前後傾はFAI群平均+7.6°、健常群+3.8°とFAI群が有意に前傾が強かった。APPに対する臼蓋前方・後方・外側CE角は有意差はなく、臼蓋前方開角はFAI群19.4°、健常群24.9°とFAI群で有意に小さかった。三次元CTを矢状面に投射した骨盤側面像におけるAPPと、前後臼蓋結節の中点および臼蓋中心を通る直線とのなす角は、FAI群16.7°、健常群20.6°と有意差を認めた。
著者
長谷川 正裕
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.422, 2020-05-01

金属アレルギー陽性例は2007~2008年の欧州でのサーベイランスでは,ニッケル(Ni)が12~27%で,コバルト(Co)が5~14%であった.わが国におけるジャパニーズスタンダードアレルゲンは2008年の集計において,Ni 12%,Co 6%,クロム(Cr)7%であり,欧州と同等であった.2012年はNi 16%,Co 9%,Cr 8%に増加している.Niアレルギーが一番多い.人工股関節全置換術(THA),人工膝関節全置換術(TKA)にはチタン合金,CoCr合金,ステンレス鋼が用いられているが,後二者は少量のNiを含んでいる.
著者
落合 俊輔 齋藤 彰 髙柳 聡 玉木 康信 名倉 誠朗 三原 政彦 平川 和男
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1201-1204, 2018-11-01

は じ め に 本邦において人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)後に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンを併用して内服した鎮痛方法の有用性を報告したものはない.THAの術後疼痛管理は,低侵襲手術や早期リハビリテーションの利点を最大限に活かすために重要な課題の一つである. 近年,術後疼痛管理の方法としては多様式鎮痛(multimodal analgesia)の概念が普及している1).多様式鎮痛は異なる作用機序の鎮痛方法,鎮痛薬などを組み合わせることにより,多角的に鎮痛を行い,さらにそれぞれの鎮痛方法や薬剤の副作用を低減する方法である. 多様式鎮痛で使われる薬剤のなかで,NSAIDsは消炎鎮痛効果があるため,術後鎮痛の基本的薬剤となっているが,消化性潰瘍のリスクがあるため最近ではCyclooxygenase-2(COX-2)選択的阻害薬のセレコキシブが多く用いられるようになっている.アセトアミノフェンはその作用機序は明確に解明されてはいないが,NSAIDsとは作用機序が異なりCOX阻害作用がないため,NSAIDsで懸念される消化性潰瘍や腎障害,抗血小板作用など副作用が少ないとされる2).このため多様式鎮痛では,ほかの薬剤と併用しやすい薬剤とされており,欧米での術後疼痛管理におけるガイドラインでは,禁忌でない限り,NSAIDsとアセトアミノフェンを併用することが推奨されている3,4). 以前にわれわれは,THAの術後鎮痛におけるアセトアミノフェン点滴製剤の有用性を報告した.しかし,現状,本邦ではアセトアミノフェン点滴製剤の保険適用は経口摂取困難な術後となっているため,経口摂取が可能になった後には内服に切り替える必要がある.これまで,THAの術後疼痛管理においてNSAIDsとアセトアミノフェンの内服を併用した報告はない.本研究の目的は,THAの術後鎮痛におけるCOX-2阻害薬(セレコキシブ)とアセトアミノフェンの内服を併用した鎮痛方法の有用性を明らかにすることである.
著者
植木 正明 深澤 高広 伊藤 達也 伊藤 淳 大内 聖士 佐藤 啓三
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.727-730, 2021-06-01

は じ め に Simunovicら1)は2010年に大腿骨近位部骨折の早期手術は肺炎や褥瘡発症が少なく,死亡率は低いと報告した.その後,欧米のガイドラインでは,大腿骨近位部骨折は整形老年病医が参加した集学的プログラム管理下に入院後36~48時間以内の早期手術が推奨されている2).しかし,大腿骨近位部骨折手術は早ければ早いほど予後がよいのかという問題がある.この問題に対して,国際多施設共同研究によるaccelerated surgery versus standard care in hip fracture(HIP ATTACK)trialの研究成果3)が報告された. 一方,わが国のガイドライン4)では,できる限り早期の手術が推奨されている.欧米とは違う医療体制のわが国でどこまで早く手術を行えばいいのかという問題に対して,本研究では,大腿骨近位部骨折患者の救急外来受診後,手術まで6時間未満の超早期手術と6時間以降24時間未満の早期手術後の30日死亡率,術後合併症および入院期間を比較・検討したので報告する.
著者
和泉 俊平 髙橋 さやか 大村 優太 高桑 昌幸
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.152-156, 2021-02-01

は じ め に 超高齢社会に伴い,骨粗鬆症のほか易転倒性などロコモティブシンドロームやフレイルが喫緊の問題になっている.このような現状のなか,理学療法が担う役割として,従来の治療的な取り組みだけではなく予防的な理学療法が必要である. 高齢者のロコモティブシンドロームやフレイル,円背姿勢は身体機能を低下させる.その結果,転倒リスクの増加を招き,脊椎椎体骨折など日常生活動作(ADL)障害が発生し,最終的には生活の質(QOL)の低下,健康寿命の短縮につながるとされている1).一方で体幹筋の筋力強化を図ることにより,脊柱骨盤帯が安定し,身体機能やバランス機能の改善につながるという報告があり2),高齢者が体幹筋の筋力強化を行うことは重要である.しかし,従来の体幹筋トレーニング方法では,高齢者にとって負荷が強く,また疼痛や脊椎変形によりトレーニングの実施,継続が困難となる背景がある3). われわれは,ロコモティブシンドロームに該当する高齢者5名を対象として,簡便に体幹筋力の測定が可能で,同時にトレーニングも可能な機器である体幹筋トレーニング装置(RECORE:日本シグマックス社,東京)を用いて2週間トレーニングを施行し,ロコモ度,動的バランス,Safety Walk Navi(デサントジャパン社,大阪)を用いた歩行平均加速度の変化について短期間の結果を検討し報告する.
著者
渡辺 航太 吉田 祐文 松村 崇史 相羽 整 八代 忍
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.31-34, 2004-01-01

19歳女.自転車運転中,乗用車に左側より衝突されて受傷した.多発肋骨骨折と血気胸,左上腕骨頸部骨折,左両下腿骨骨折,両肺挫傷と胸椎異常がみられ,更にTh8の脱臼骨折を認めた.受傷機転となった外力の加わった方向と椎体の転位方向に関して,全ての過去の報告の側方脱臼骨折例では脊柱変形の凸側に外力が加わっており,本例では凹側に加わっていた.ほかの全ては上位椎体は凹側に転位しているが本例では凸側に転位していた.本例では麻痺は伴っていなかったが,脊髄は脊柱管内に突出した骨片により圧迫されており,三つのcolumnが全て損傷している不安定骨折であったため,脊柱の安定性獲得と遅発性麻痺の予防のために手術を施行した.治療法決定には麻痺の程度や骨折型を十分に検討する必要があると考えられた
著者
鈴木 秀和
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.244, 2018-03-01

Spinopelvic harmonyとは,脊椎と骨盤において良好な矢状面アライメントの調和が得られている状態をいう.脊椎矢状面アライメント異常は腰痛や生活の質(QOL)の低下をきたす1).腰椎矢状面形態は骨盤形態によって規定されており,pelvic incidence(PI)は個人固有の骨盤形態を表す指標として重要である2).また代償の働いていない理想的アライメントは脊椎のみならず関節や軟部組織に対する最小負荷で立位姿勢を保持できると考えられ(cone of economy)3),脊柱変形に対する矯正手術においては理想的アライメントの獲得が目標とされる.Schwabら4)は無症候成人75例の検討で,PIによるlumbar lordosis(LL)の予測式としてPI=LL+9°を提唱,さらに成人脊柱変形術後患者125例の臨床成績を検討し5),sagittal vertical axis(SVA)>50mm,骨盤傾斜(pelvic tilt:PT)>20°とともにPI-LL>9°がoswestry disability index(ODI)約40以上となる指標となることを示し,“Harmony among spinopelvic parameters is of primary importance” と述べている.そして2012年,脊椎骨盤アライメントとhealth related quality of life(HRQOL)に基づく成人脊柱変形の指標として,Scoliosis Research Society(SRS)-Schwab分類が提唱された6).SRS-Schwab分類はSVA,PT,PI-LLをsagittal modefierとし,SVA>40mm,PT>20°,PI-LL>10°がsagittal deformityと定義され,これが現在の成人脊柱変形評価のスタンダードとなっている.しかし,腰椎前弯減少に対する体幹バランス不全の代償は骨盤後傾によってのみならず胸椎後弯減少や下肢関節屈曲によっても行われる.変形矯正手術により腰椎前弯を獲得してもreciprocal changeにより胸椎後弯が増強し矢状面体幹バランス不全が残存することもしばしば認められる.Roseら7)は矯正手術の指標として,胸椎カーブを含めたフォーミュラを提唱しており,Le Huecら8)はC7から膝屈曲による代償まで考慮したフォーミュラ[full balance integrated(FBI)technique]を提唱した.また,わが国においても,各年代のPTの予測式から理想的なPTを得るために必要なLLを算出する浜松フォーミュラ9)や,PI-LLの値がPIにより変化するという解析結果をもとに算出された獨協フォーミュラ10)など,さまざまな算出式が提唱され,いまだ議論されている.また,PTは頚椎矢状面アライメントにも相関があり,頚椎矢状面形態と姿勢異常の関連もあることから11),脊椎手術においては局所や隣接アライメントだけでなく,全脊椎アライメントあるいはバランスを考慮することの重要性が指摘されている.さらに近年は,立位のみならず,若年者や高齢者の坐位における脊椎アライメントの検討も行われ12,13),さまざまな生活動作や姿勢における脊椎アライメント変化も明らかになってきている.しかし,個々の脊椎アライメントは健常者においてもばらつきがあり,また高齢者のspinopelvic harmonyは若年者と同じなのかなど,明らかにすべき課題も多く,さらなる検討が必要である.
著者
佐藤 敦 古屋 貴之 高木 博 小原 賢司 星野 雄志 富田 一誠
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.211-213, 2020-03-01

は じ め に 変形性膝関節症(膝OA)に対する治療として,初期には食事療法,運動療法,薬物療法などの保存的治療が行われるが,それでもなお人工膝関節全置換術(TKA)に代表される手術的治療が必要となる症例も多く増加傾向である.近年,慢性疼痛に対する新規薬剤が導入され,その一つであるデュロキセチンの効果も報告されている.また,慢性疼痛を有する膝OAに対するデュロキセチンの有用性も確立されてきている.しかし,TKA周術期におけるデュロキセチンの効果に関する報告は少ない.そこでわれわれは,慢性疼痛を有する膝OA 11例に対しTKA周術期にデュロキセチンを使用し,その術後鎮痛効果を検討したので文献的考察を加え報告する.
著者
杉田 大輔 宮崎 剛 彌山 峰史 小久保 安朗 内田 研造 馬場 久敏
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1160-1163, 2011-10-01

過去10年間に観血的治療を施行したピロン骨折17症例(平均年齢49.4歳、男性14例、女性3例)の治療成績を検討した。受傷機転は転落・転倒が9例、交通事故4例、側方からの重量物による圧挫損傷が2例、スポーツ外傷が2例であった。術前の軟部組織の評価では、Tscherne分類のgrade 0~1が9例、grade 2が3例、grade 3が2例であった。手術はプレートあるいはスクリューを単独または併用した観血的骨接合術を施行し、平均経過観察期間は3.8年であった。OvadiaのX線学的評価ではgood11例、fair5例、poor1例、主観的評価ではexcellentもしくはgood11例、fair4例、poor2例、客観的評価ではexcellentもしくはgood10例、fair4例、poor3例であった。合併症は感染2例、骨癒合不全5例であった。
著者
大鶴 任彦 加藤 義治 森田 裕司
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌整形外科 (ISSN:00305901)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.1135-1139, 2012-10-01

単純性股関節炎(TS)は自然軽快する予後良好な疾患であるが、化膿性股関節炎(SA)との鑑別が困難な症例や再発例・遷延例またはPerthes病(PD)との関連が推測される症例報告もある。今回、TS50例(男児31例、女児19例)53股を対象に、臨床像、SAとの鑑別、歩行能力別の病態について検討した。その結果、1)発症年齢は2~13歳(平均6.7歳)で、先行病歴は感染性疾患が40%と最も多く、次いで転倒や激しい運動14%、アレルギー疾患9.0%の順であった。2)発症~初診の日数は平均3.1日(0~30日)、発症~症状消失の日数は7.4日(1~35日)であり、再発を1例に同側で認めた。また月別発症数は2月、3月、10月、11月に多かった。3)全例で初診から3ヵ月後まで経過観察したところ、49例52股は症状が自然軽快して関節内水腫は消失したが、1例1股では初診3ヵ月後に骨頭壊死を認め、PDに進展したと考えられた。4)TS群とSA群では体温:38.3℃、CRP:1.23mg/dl、赤沈:45.5mm/時を境界に鑑別が可能と考えられた。尚、TS群の歩行可能例では体温・CRP・赤沈・WBCは相互に正の相関を、年齢とWBCでは負の相関を認め、歩行不能例では相互の相関は認められなかった。