- 著者
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菊池 雄太
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.78, no.2, pp.197-221, 2012
近世ヨーロッパ商業史研究において,内陸ドイツ,ボヘミア,ポーランド,バルト海地方にまたがる広大な後背地をもつハンブルクの陸上貿易の重要性は,十分に認識されている。しかしその全体像を解明する本格的な試みは見られず,未決着の議論が多く残されている。本稿は,税台帳史料の調査により可能となった,先行研究に完全に欠落する数量分析を核に,ハンブルクから後背地へ向けた輸出貿易を検討することで,その動態変化を長期的に跡づけた。とくに注目すべきは,17世紀のリューベック,18世紀のベルリンとの取引である。これによりヨーロッパ海上貿易の展開と大陸内部との結びつきの新たな一側面が,具体的に把握可能となった。より立ち入って観察すると,貿易路と取引地は,治安,政策,需要,輸送費,輸送方法,季節等の商業条件に対応して弾力的に選択されていた。商品の流通先にも,そのような諸条件に応じた地域的特徴か認められた。また,ハンブルクの後背地としてバルト海地方が占める固有の位置が明らかになったことも,本稿の成果の1つである。