- 著者
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高柳 友彦
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.1, pp.3-25, 2007-05-25 (Released:2017-06-09)
- 被引用文献数
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本稿では,戦間期の熱海温泉を事例に,地域社会が自然条件の変化や利用客増加に対応して,再生可能な資源である源泉の維持管理をどのように行ってきたのか,規制主体である行政機構の温泉政策との関わりに着目しながら,その歴史的変化を明らかにした。財産区によって秩序づけられていた熱海温泉の源泉利用は,利用客の急増,源泉の枯渇といった事態から源泉統一が早急に必要とされ,町行政が共同管理の担い手となった。町行政が中心部の源泉を一手に管理し,加えて独占的に開発を行うことで湧出量を増加させ,同時に配給事業を行ったのである。この町有温泉の機能は主に3点あげられる。第1に源泉の無駄遣いを排し,効率的な源泉利用を可能としたこと,第2に利用上のリスクを回避することで,源泉利用の安定をもたらしたこと,第3に「開かれた源泉利用」を実現し,多くの住民が源泉を利用できるようになったことである。熱海温泉は,行政機構の政策,規則を背景に,町有温泉が地域社会の源泉利用を調整し,限られた資源を有効利用することで,その後の発展を可能にすることができた。