著者
勝田 和學
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.1-15, 1987-04-10 (Released:2017-08-01)

白秋・露風の二派対立と神秘主義をめぐって展開されていた詩壇論争の渦中で発表された『月に吠える』自序は、その詩の神秘性についての見解に絡んで、福士幸次郎や白鳥省吾らの意外な反応と批判を招いた。そこには誤解もあったが、朔太郎の内部矛盾を鋭く衝いてもいた。複雑な様相を呈する朔太郎の<神秘思想>の内実を特にウイリアム・ブレークとドストエフスキイ受容との関連において解明しながら、その意義について考察する。
著者
芳賀 繁子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.14-23, 1990-05-10 (Released:2017-08-01)

『竹取物語』の最終段にかかわる羽衣説話の話型の超克について考察した。具体的には作品内における、《不死の薬》とくかぐや姫の昇天》という二つの素材の表現のされ方を検討した。またその一方で、物語に関わりがあるとされる白楽天の詩句を、『竹取』周辺の作品にも手を拡げて検討することによってその受容を想定し、物語において最終的に嫦娥伝説の話型とその白詩が、どのように投影し、関係し合ったのかということを考察してみたのである。
著者
中村 龍一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.50-51, 2014-03-10 (Released:2019-03-20)
著者
鈴木 健
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.2-9, 2014-04-10 (Released:2019-05-03)

ベルリンの壁などの国境に代表される、社会における膜の存在理由を検討するときに、生命システムの起源である細胞から考えていく必要がある。生命の理論であるオートポイエーシスから膜による資源の取り込みを検討すると、細胞の進化プロセスの中でネットワーク(網)から膜や核が幾度となく生成されることをみてとることができる。人工物としての文学の意義は、多数の個体がもつコンフリクトを解消するための文脈を提供することであるが、情報技術によって異なる現実を生きる「パラレルワールド化した世界」の登場によって、文学の新たな可能性が試されることになるだろう。
著者
吉田 修作
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-10, 2011

天岩戸と天孫降臨神話に記述されたアメノウズメの所作である<神がかり>、<わざをき>に焦点を当てると、天岩戸でのウズメの所作は書紀の<神がかり>の表記やアマテラスとの問答などから、ことばによる<神がかり>が内包されており、天孫降臨のウズメの所作はサルタヒコの「神名顕し」を促し、天岩戸でのアマテラスの「神顕し」と対応する。ウズメの所作は天岩戸では一方で<わざをき>とも記されているが、<わざをき>は本質的には制度化されない混沌性を抱え込んでおり、それが<神がかり>と通じる点である。
著者
砂川 博
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.39-48, 1987-12-10 (Released:2017-08-01)

戒律振興・殺生禁断を主張する中世律僧が、旺盛な勧進活動を基礎として、非人救済・作道・架橋・造寺造塔・顕密寺院の再建に当ったことは周知の事実である。彼ら中世律僧は、聖霊回向・追善を事とする僧衆と、遺骸の埋葬に従う三昧聖としての八斎戒衆の二つの階層に分かれていた。一方、八斎戒衆は中世律宗寺院の勧進活動の担い手でもあった。勧進聖でもあった八斎戒衆が、一紙半銭の喜捨を衆庶に仰ぐ際、勧進にまつわる或る種の語りを行ったであろうことは容易く想像される。本稿は、『太平記』の成立基盤の一郭に、大和西大寺流の律僧、具体的には般若寺の八斎戒衆の語りの存したことを摘出するものである
著者
平野 美樹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.1-10, 1994

『蜻蛉日記』の上巻に見られる物語的な発想や表現方法は、道綱母の「日記」を書くという行為そのものに内在する物語の問題として再評価されるべきものであることを論じた。物語は道綱母の表現方法に深く関わっていたものであり、書く行為は物語的発想から出発している。『蜻蛉日記』の表現からは、経験を物語の枠によって再構成し、そのうえで現実と物語世界との落差を追認していく、過程としての書く行為を読み取ることが可能である。
著者
青木 三郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-73, 1982-02-10 (Released:2017-08-01)

The theme of this chronicle, as stated in the preface, is a comparison of the workings of Buddha's Law in the family history of the Minamoto's with that in the Jokyu Rebellion. The unfolding of the Law seems dubious in the case of the former, As the third generation approaches its end; how should it be assessed in the case of the latter, constituting a matchless page in the history of imperial insurrection? In the Jokyu Rebellion itself, ex-Emperor Gotoba, as a result of having neglected not only Buddha's Law but the gods and heaven as well, is defeated by his subjects and sent to exile. In other words, the law of cause and effect, Buddhism's most fundamental principle, is fulfilled. That this text recounts the history of this rebellion in this fashion shows that it viewed this outcome favorably. In contrast to other texts of this work, the Jiko-ji text demonstrates a sure grasp of history.
著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1-12, 1989-12-10 (Released:2017-08-01)

泉鏡花の『春昼』『春昼後刻』には、不可解なメッセージ○△□が二度にわたって出現するばかりでなく、両者ともきわめて重要な挿話を形成している。それだけに、従来からその読みをめぐって、さまざまな解釈が試みられている。本稿は、○△□は鏡花の謡曲体験から生まれたものではないか。しかもそれは、母の遺愛の、<付帳>と呼ばれる大鼓の楽譜の図像体験に媒介され、培われたものではないか、といった仮説を提起したものである。
著者
松本 真輔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-10, 2002-02-10 (Released:2017-08-01)

『日本書紀』『聖徳太子伝暦』には、太子存命中に数度の新羅侵攻が企てられたという記述がある。一度は侵攻に成功するが、最終的に派遣された将軍が筑紫で病没し、派兵は失敗に終わったとされている。ところが、中世太子伝において、これが大きく変容を遂げ、聖徳太子の実弟、来目皇子が、新羅侵攻成功の立て役者として大復活をとげる。本稿では、中世の物語的太子伝のうち、増補系太子伝を中心にして、その内容を紹介するとともに、新羅の脅威が喧伝され、日本の安全を守るため、侵攻がなされたとされている点、戦闘の様子が、神国思想を背景にした護国説話として描かれている点などを、その特徴として指摘した。