著者
寺島 恒世
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.35-44, 2014-07-10 (Released:2019-07-20)

歌仙絵の文字表記は、時代とともに多様化する。後代に受け継がれる業兼本三十六歌仙絵の書式は、歌合を志向したもので、その系譜に左方の歌を左から書く形が登場する。俊忠本等の資料に基づけば、その左書きの由来は歌合の場における声への関心にあり、受け継がれる中世の扁額では神への奉納と関わっていた可能性も窺われる。後代定着する顔の向きに添う書字方向の規則など、対幅書画等先例との相関を含め、改めて問い直されてよい。
著者
松下 浩幸
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1-12, 2000

戦後日本の児童向け出版物の主流を占めたジャンルに偉人伝(伝記文学)がある。近代文学の作者たちがそのような<場>で偉人化されるのは無論、戦後のことだが、ここで文学者たちはどのようなイデオロギーを背負わされることになったのだろうか。偉人伝の物語内容と物語行為、さらにそれを取り巻く社会状況を視野に入れつつ、文学のカノン化が同時に読者への刷り込み作用と同義であることを、夏目漱石を主な例としながら考察した。
著者
沢野 邦子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.12, no.12, pp.904-913, 1963
著者
横手 一彦
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.51-60, 1995-09-10 (Released:2017-08-01)

『樹影』は、長崎の新地中華街を舞台とする。長崎の<街>と新地それぞれの歴史性や地理性、祭祀の相違などを援用しながらそれら異なる文化に属する個の関係性に関心を向けた。それは、偶然にも日本に生まれ日本国籍を持つ我々自身を扁平した個として認識することを意図した考察である。そこに、日本に在ることの優越性を隠蔽して社会的落差を固定化する意識の陥穽があると考える。
著者
相馬 知奈
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.15-25, 2009-02-10 (Released:2017-08-01)

平安朝物語に登場する「放出」は儀式が行われる際に臨時に設えられる空間であると考えられてきたが、未だ不明瞭な点が多い。本稿は儀式の場である「ニワ」との境界という視点から「放出」を論じた。「放出」は寝殿造から書院造へと建物構造の変化によって、邸内で場を変えているが、「ニワ」に隣接した境界空間としての側面を強く持っている。「ニワ」と隣接する「放出」は儀式性という「ニワ」の特性を強く反映していることを明らかにした。
著者
江藤 茂博
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.12-21, 1994-01-10 (Released:2017-08-01)

『羅生門』というテキスト空間の重層性は、旧記、登場人物「作者」の書いた先行するテキスト「羅生門」、そしてそれらを手にした「語り手」が、自らの語りのテキスト生成のありようを示すという構造であるとみて、示した。つぎに、その「語り手」の視線と下人の視線とを比較することで、これまで多くの読老が「語り手」の支配できない箇所に自らの物語を、しかも「語り手」とおなじ論理で、埋めていく構造を示した。そしてこの物語が近代的な自己同一性の物語として無批判に成立してきたのは、このテキスト空間の重層性と、そして本来的な無秩序性の存在によるものだということを指摘した。そして、このテキストの空間における下人の非決定的な在り方は、「語り手」と近代的な価値観によって隠蔽されてきた下人の姿であった。
著者
高橋 重美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.27-37, 1998

明治二十年代、習作期の樋口一葉は師である半井桃水から「女装文体」(関礼子)の習得を求められた。それは明確にジェンダーを反映した「虚構のコード」であり、一葉はそのコードによって<読まれる>ことを意識した上で、自らの言語表現を組み立てていかねばならなかった。一方明治末期から大正にかけて、平塚らいてうは『青鞜』誌上で、自身を<読む>主体と位置付け、あらかじめコードを共有する読者のみに語りかける言語表現を展開してゆく。その営みは新たなコードによる共同体を形成したが、同時に異なるコード=他者を不可避的に排除するものでもあった。本論では、この一葉とらいてうを繋ぐ言説変化を仮説として設定し、それを補助線に「煤煙」の朋子の発話及び手紙の言説を分析する。そこには<読まれる>ことに発する戦略と、<読む>主体性との錯綜した関係が凝縮されている。
著者
関 礼子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.34-44, 1997-01-10 (Released:2017-08-01)

有島武郎の『一房の葡萄』(「赤い鳥」大正9・8)、谷崎潤一郎の『小さな王国』(「中外」7・8)を中心にして教室空間のもつ政治的な意味について考察する。ここでいう「政治的」とは、男性教師と男性生徒の力関係、男性生徒と女性教師の力関係、さらには「再生産」という視点からみた家庭と学校の関係、また文学と教育の相互の拮抗関係などさまざまに構成される力のことである。
著者
和田 敦彦
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.51-62, 2011-01-10 (Released:2017-08-01)

本稿では、読み、書く能力の変化や、読書の形態、環境の歴史をとらえるための方法として「リテラシー史」(Literacy History)という概念を提示した。そしてそのリテラシー史を研究した具体的な実践事例や調査の取り組みを紹介する。また、過去のリテラシー調査の事例をもとに、こうしたアプローチ自体の有効性、可能性、あるいは危険性について考えることとした。
著者
澤井 啓一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.10, pp.1-10, 1990-10-10 (Released:2017-08-01)

荻生徂徠は唐詩をモデルとする「擬古」を提唱した。徂徠の唐詩モデル論の分析から、文字が人為の、音声が自然の表象であり、聖人によって制作された<古文辞>とは両者の調和的結合が達成された言語モデルであるという言説が取りだされる。徂徠は、この<古文辞>の分裂・崩壊過程という歴史=物語のなかで、<古文辞>による「擬古」を提唱した。徂徠における「擬古」は、不可視な現実世界を確かに把描するための認識-表現行為であった。